ウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法

ウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法 スポーツウェルビーイング

「ウェルビーイング経営」という言葉自体は広く知られるようになりましたが、実際に施策を打っても手応えを感じられない、という声を人事担当者からよく聞きます。満足度調査のスコアは悪くないのに、離職や生産性の課題は変わらない、というケースも珍しくありません。福利厚生を増やしたのに定着率が変わらない、研修を実施したのにエンゲージメントが上がらない、といった相談も同様のパターンに当てはまります。

この記事では、ウェルビーイングの定義を整理したうえで、なぜ施策が成果につながりにくいのか、どう設計すれば行動と成果に結びつくのかを、企業事例と合わせて解説します。人事・経営企画の立場で「次のアクションに落とし込める形」を意識してまとめました。読み終える頃には、自社の施策のどこを見直せばよいかが具体的に見えてくるはずです。

スポーツをビジネスに使うなら、どこから手をつけるべきか

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ウェルビーイングとは何か|定義と企業での捉え方

ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を指す概念です。ただし、この定義をそのまま企業施策に持ち込もうとすると、「満たされた状態」をどう作るかが曖昧なまま止まってしまいがちです。

主観的な満足度だけでなく行動・成果を含む概念

ウェルビーイングは「気分が良い」という主観的な状態だけを指すわけではありません。仕事への向き合い方や行動の変化、そしてその結果としての成果まで含めて捉えることで、初めて施策の効果を測定できるようになります。心理学の研究領域でも、主観的な幸福感(Subjective Well-being)だけでなく、目的意識や自己実現といった多面的な要素を組み合わせて評価する考え方が広がっています。

個人の状態ではなく組織の設計問題として捉える

ウェルビーイングを「個人の心がけの問題」として扱うと、施策は研修や啓発にとどまりがちです。実際には、業務設計・評価制度・コミュニケーションの仕組みといった組織側の設計が、個人の状態に大きく影響します。例えば、評価制度が短期成果だけを見ている場合、どれだけ啓発研修を行っても、現場は「結局は数字がすべて」という感覚から抜け出せません。

なぜウェルビーイング施策は失敗するのか

多くの企業でウェルビーイング施策が期待した成果につながらない背景には、共通したつまずきのパターンがあります。順番に見ていきます。

満足度調査のスコアだけで判断してしまう

満足度調査は手軽に実施できる反面、「なぜその点数なのか」「何を変えれば動くのか」までは教えてくれません。スコアの上下だけを追いかけていると、施策の打ち手が場当たり的になりがちです。毎年同じ設問のアンケートを配って一喜一憂するだけでは、根本的な設計の見直しにはつながりにくいのが実情です。

状態を直接変えようとして行動設計を飛ばしてしまう

「モチベーションを上げる」「幸福度を高める」といった目標を掲げても、具体的な行動レベルの設計がなければ、現場は何をすればいいのか分からないまま終わってしまいます。状態は行動の結果として変化するものだからです。掲げたスローガンが浸透しない企業の多くは、この「行動への翻訳」の工程を飛ばしてしまっています。

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ウェルビーイングを成果につなげる3つの視点

施策を成果につなげるには、「主観」「行動」「成果」の3つの視点を分けて設計することが有効です。この3つを混同したまま議論すると、「何のための施策か」が曖昧になり、優先順位づけも難しくなります。

視点 設計のポイント
主観 満足度・エンゲージメントなどの自己申告データを、変化の”兆し”として捉える
行動 会議での発言頻度、休暇取得率、1on1の実施率など、観察可能な行動指標を設定する
成果 生産性・離職率・欠勤率など、経営指標として説明できる成果に接続する

表:ウェルビーイング施策の設計に使う3つの視点

主観の変化は”兆し”として捉える

満足度調査のスコアが動いたこと自体を成果とせず、その先の行動や成果にどうつながっているかを追うことで、施策の意味が明確になります。スコアが上がったのに離職率が改善しない場合、設問設計そのものを見直す必要があるかもしれません。

行動指標を具体的に定義する

「風通しの良い組織」を目指すのであれば、会議での発言頻度や1on1の実施率など、観察・記録できる行動指標に落とし込みます。行動から設計することで、施策の打ち手が具体的になります。抽象的なスローガンのままでは現場が動けないため、「誰が」「いつ」「何を」行うかまで決めておくことが定着の前提条件になります。

成果指標との接続を最初に決めておく

生産性や離職率など、経営会議で説明しやすい成果指標とあらかじめ紐づけておくことで、施策の継続可否を判断しやすくなります。逆に、成果指標との接続を後回しにすると、予算削減の局面で真っ先に打ち切られる施策になりやすい点にも注意が必要です。

ウェルビーイングの測定方法

測定方法は大きく「主観指標」と「客観指標」に分かれ、両方を組み合わせることで精度が上がります。どちらか一方だけに偏ると、実態とのズレに気づきにくくなる点に注意が必要です。

主観指標(アンケート・サーベイ)の使い方

満足度調査やエンゲージメントサーベイは、定点観測することで変化の傾向を把握しやすくなります。単発の実施ではなく、四半期など定期的なサイクルで実施することが重要です。設問数を絞ったパルスサーベイを短い間隔で行い、年1回の大規模調査と組み合わせる方法も広がっています。

客観指標(行動データ)との組み合わせ

勤怠データ、1on1の実施記録、休暇取得率などの客観データを組み合わせることで、主観指標だけでは見えない実態を補完できます。両者にギャップがある場合、そこに組織課題が隠れていることが多いです。例えば満足度は高いのに休暇取得率が低いチームは、「本音を言いづらい」状況が背景にある可能性があります。

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Google社の研究に見る心理的安全性の重要性

Googleが実施した「プロジェクト・アリストテレス」という社内研究では、生産性の高いチームに共通する要因を分析しました。

心理的安全性が最大の予測因子だった

この研究では、メンバーの能力や経験年数よりも、「このチームでは失敗や意見表明をしても安全だ」と感じられる心理的安全性が、チームの成果と最も強く関連していることが示されました。優秀な人材を集めるだけでは高パフォーマンスチームは作れず、関係性の質そのものが成果を左右するという点が、多くの企業に衝撃を与えました。

日本企業への示唆

日本の職場でも、役職や年次による発言のしづらさが心理的安全性を下げる要因になりやすい傾向があります。1on1やレビューの場で「反対意見を歓迎する」姿勢を明示することが、具体的な第一歩になります。上司が自らの失敗談を先に話す、部下の意見を否定せずいったん受け止めるなど、小さな行動の積み重ねが心理的安全性の土台を作ります。

健康経営・人的資本開示とウェルビーイングの接続

ウェルビーイング施策は単独の取り組みではなく、健康経営や人的資本開示といった既存の枠組みと接続させることで、経営指標としての説明力が高まります。独立した取り組みのままでは、予算や優先順位の議論において後回しにされやすい点にも留意が必要です。

健康経営指標との接続

プレゼンティーズムや休職率など、健康経営で使われる指標とウェルビーイング施策の成果を紐づけることで、投資対効果を説明しやすくなります。健康経営の枠組みは既に多くの企業で運用されているため、ゼロから新しい指標体系を作るより、既存の枠組みに乗せるほうが社内の合意形成もスムーズです。

人的資本開示との接続

人的資本開示の枠組みでは、従業員のエンゲージメントや well-being に関する指標を開示する企業が増えています。社内で追っている指標を開示にも使える形で整理しておくと、二重管理を避けられます。開示のために新たに調査を行うのではなく、日常的な運用の中で取得しているデータを流用できるよう、最初の設計段階から意識しておくことがポイントです。

(参考)これからの健康経営について(2025年4月) – 経済産業省

導入を進める3つのステップ

ウェルビーイング施策を成果につなげるには、以下の順序で進めるのが現実的です。

1現状の可視化:主観指標(サーベイ)と客観指標(行動データ)の両方で現状を把握する
2行動指標の設計:目指す状態を、観察・記録できる行動レベルに落とし込む
3成果指標との定点観測:生産性・離職率などの成果指標と定期的に突き合わせ、施策を調整する

現状の可視化

まずはサーベイと行動データの両方で、現状のギャップを可視化します。ここで実態と印象のズレを把握しておくことが、以降の設計精度を左右します。経営層が「うちの組織は風通しがいい」と思っていても、データを見ると特定の部署だけ発言率が極端に低い、といったギャップが見つかることも珍しくありません。

行動指標の設計

抽象的な目標を、会議での発言頻度や1on1の実施率など、具体的に観察できる行動指標へ翻訳します。現場が「何をすればいいか」を理解できる粒度まで落とし込むことがポイントです。

成果指標との定点観測

四半期ごとなど定期的なサイクルで、主観・行動・成果の3指標を突き合わせ、施策の効果を確認しながら調整を続けます。単発の打ち上げ花火にしないことが、成果につながる最大のポイントです。年度初めに大きく施策を打って終わりにするのではなく、小さな調整を継続する運用体制を最初から組み込んでおくことをおすすめします。

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ウェルビーイング施策が定着する組織・しない組織の違い

同じ施策を導入しても、定着する組織としない組織に分かれます。この差はツールや制度そのものよりも、運用の設計に起因することが多いです。導入時点では見えにくい違いなので、事前に押さえておく価値があります。

経営層が自ら行動指標を体現しているか

1on1の実施を現場に求めながら、経営層自身がその実践をしていない組織では、施策は「やらされ感」の強いものとして受け止められがちです。逆に、経営層が率先して行動指標を実践している組織では、現場への浸透が早い傾向があります。号令だけでなく、行動として見せることが定着の分かれ目になります。「まず自分たちがやってみせる」という姿勢は、現場からの信頼を得るうえでも欠かせない要素です。

小さな成功体験を早期に共有できているか

全社一斉に大きな施策を打つよりも、一部チームでの小さな成功体験(例:1on1の実施率が上がりチームの相談件数が増えた、など)を早い段階で共有できる組織のほうが、他部署への展開がスムーズに進みます。成果が見える化されることで、「自分たちのチームでもやってみよう」という自発的な広がりが生まれやすくなるからです。逆に成功事例が共有されないまま全社展開だけを急ぐと、「やらされている感」が先に立ち、形だけの運用になりがちです。

社内での言語化と共通認識づくり

ウェルビーイングという言葉は人によって解釈の幅が大きいため、施策を始める前に「自社では何を指すのか」を経営層・人事・現場マネージャーの間で言語化しておくことが土台になります。共通認識がないまま施策を走らせると、部署ごとに温度差が生まれ、全社的な取り組みとして根づきにくくなります。まずは経営会議やキックオフの場で、自社なりの定義とゴールをすり合わせるところから始めることをおすすめします。

まとめ|ウェルビーイングを成果に変えるために

ウェルビーイングを「気分の良さ」で終わらせず、組織の成果に接続するための要点を振り返ります。

  • ウェルビーイングは主観だけでなく行動・成果まで含めて設計する概念である
  • 施策が失敗する典型パターンは、満足度スコア偏重と行動設計の欠如
  • 主観・行動・成果の3つの視点で設計すると成果につながりやすい
  • 心理的安全性はチーム成果の最大の予測因子である(Google社研究)
  • 健康経営・人的資本開示と接続させることで経営指標としての説明力が高まる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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