タデイ・ポガチャルは2024年のツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアを制し、グランツールを同年に二冠した唯一の選手だ。1日に5〜8時間自転車を漕ぎ続け、3週間・200km超のレースを走り切るために、彼の食事術は極限まで緻密に設計されている。この記事では、UAE Team Emiratesの栄養士Gorka Prietoが語ったポガチャルの栄養戦略を中心に、世界最速のサイクリストを支える食事の科学を解説する。
レース前の炭水化物ローディングの設計
グランツールを走るプロサイクリストにとって、エネルギーの主役は炭水化物だ。UAE Team Emiratesの栄養士Gorka Prietoは「炭水化物の摂取に集中することが基本で、レース約1ヶ月前から徐々にローディングを開始する」と説明している。カーボローディングとは、筋肉と肝臓にグリコーゲン(エネルギーの貯蓄)を最大限に蓄えるための食事戦略だ。
ポガチャルの朝食メニューとその意味
ジロ・デ・イタリアでのポガチャルの朝食は、多様な炭水化物源で構成されていた。オートミール・米・ジャム・シロップ・フルーツジュース・パンケーキ・ワッフルなど、選手が飽きないよう豊富な選択肢が用意されている。「選手たちには多様な食事と選択肢がある」とPrietoは語る。
オートミールはゆっくりと消化される複合炭水化物でレース前の安定したエネルギー供給に最適だ。白米は素早く消化されグリコーゲン補充に優れる。フルーツジュースは果糖とブドウ糖を素早く吸収でき、スタート直前の補給に適している。これらを組み合わせることで、エネルギーの供給タイミングを分散させている。
体重管理とエネルギー摂取のバランス
プロサイクリストは体重が軽いほど登坂で有利になる。しかし体重を減らしすぎるとエネルギー不足でパフォーマンスが落ちる。このバランスを取るために、栄養士はレースの難度・ステージ特性・選手のコンディションを総合的に判断してカロリーを調整する。ポガチャルの場合、山岳ステージでは1日7000〜8000kcalを消費することもある。
出典:Cycling Up To Date「Tadej Pogacar’s diet at the Giro d’Italia in detail」
レース中の補給食戦略
ツール・ド・フランスのような200kmを超えるステージを走る間、選手は持続的にエネルギーを補給し続けなければならない。ポガチャルの補給戦略は、量よりもタイミングと消化のしやすさを重視している。
補給食の種類と摂取タイミング
レース中の補給食には、エナジージェル・ライスケーク(米のおにぎり風)・バナナ・エナジーバー・スポーツドリンクなどが使われる。現代のプロサイクリングでは「1時間あたり90〜120gの炭水化物」を摂取することが推奨されており、これは一般的な運動能力の限界値を大きく上回る。腸の慣らし練習(トレーニング中から意図的に多くの炭水化物を摂取する)によって消化吸収能力を高める取り組みも進んでいる。
チームカーとの連携による補給システム
プロサイクリングのレースでは、チームカーから「ムゼット」(補給袋)を受け取りながら走る。ポガチャルのようなエース選手は山岳区間での追い込みを考慮し、消化に優れた液体系の補給を多く取る傾向がある。補給のタイミングと量は、その日のコースプロファイルに合わせてレース前に計画される。
出典:高木菜那の食事術|スピードスケート選手の持久力を支える栄養戦略
レース後の回復を促す食事設計
3週間にわたるグランツールでは、毎日の回復が翌日のパフォーマンスを左右する。UAE Team EmiratesのGorka Prietoは「ステージ後の炭水化物・タンパク質・脂質の回復プロトコルが確立されている。ステージ直後に小さなスナックで失ったグリコーゲンを補い、夕食は個人に合わせて調整する」と説明している。
ステージ後30分以内の回復スナック
ステージ終了直後の30分以内に、炭水化物とタンパク質を含む回復スナックを摂取することが最優先だ。グリコーゲン再合成速度はこの時間帯が最も高く、翌日の走りに向けたエネルギー貯蓄がここで決まる。ライスケーク・バナナ・リカバリードリンクなどが典型的な回復スナックだ。
夕食でのカスタマイズとチーム料理人の役割
UAE Team Emiratesにはチーム専属の料理人がいる。「ハンバーガーやピザを食べる場合でも、専属シェフが量を管理して作る」とPrietoは語っており、外食や市販品ではなくチームが管理した食事を摂ることで栄養の精度を保っている。グランツール最終日の夜には、勝利を祝うピザが用意されるという。
出典:村瀬心椛のリカバリー術|ミラノ五輪金メダリストの回復戦略
よくある質問(FAQ)
Q. ポガチャルは1日何カロリー消費するのですか?
A. 山岳ステージでは1日7000〜8000kcalを消費することもあります。レースのない日は3000〜4000kcal程度です。
Q. 自転車競技のパフォーマンスを上げる食事の最重要ポイントは?
A. 炭水化物の摂取量と摂取タイミングの管理です。レース中は1時間あたり90〜120gの炭水化物が推奨されます。
Q. ポガチャルのような食事法は一般人に参考になりますか?
A. 「回復食を素早く摂る」「朝食で多様な炭水化物を取る」「チームで食事を管理する」という考え方は、一般のスポーツ愛好家にも応用できます。
Q. カーボローディングはいつから始めるのが効果的ですか?
A. 一般的に重要なレースや運動の3〜7日前から始め、炭水化物の割合を増やしつつ運動量を減らすことが推奨されています。
まとめ
ポガチャルの食事術は「レース前の炭水化物ローディング・レース中の継続的補給・レース後の即時回復」という3段階で設計されている。UAE Team Emiratesの栄養士が個人ごとに緻密に設計した食事プロトコルが、3週間のグランツールを最速で走り切る身体を支えている。日常のスポーツ・仕事・生活においても、「エネルギーの入れ方とタイミング」を意識することで、パフォーマンスの波を小さく保ち、高い成果を継続できる。
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