バレーボール男子日本代表のエース高橋藍選手は、イタリアのセリエA(現スーパーリーガ)に渡ってから急速にフィジカルを強化し、わずか4カ月で体重が6kg増加したことで知られる。188cmという体格は欧州の選手と比べて決して恵まれているとは言えないが、高橋選手はその限界を「フィジカルの再設計」によって突破した。
本記事では、高橋選手が欧州で行ったトレーニングの特徴を分析し、バレーボール選手に必要な筋力とその科学的背景、そして一般人が取り入れられる考え方を紹介する。
高橋藍がイタリアで体感した「フィジカルの変化」
高橋選手はNumberPREMIERのインタビューで、イタリアのセリエAにおけるトレーニングの質の高さについて率直に語っている。「日本もイタリアも試合期でもウェイトトレーニングをするのは同じです。でも、頻度とかかる負荷は全然違う。日本では試合の2日前は調整で、軽く身体を動かしてボールの感覚を確かめるほうが多いですが、イタリアは2日前でもめちゃくちゃウェイトトレーニングをして、普通に追い込む」という言葉は、日本と欧州のアスリート文化の本質的な違いを浮き彫りにしている。
「最初はきつかったですけど、続けるうちにパフォーマンスは確実に変わったし、筋肉量も増えた。目に見えて大きくなったと思うし、身体を守る頑丈な”鎧”がある。そういう感覚を強く持つようになりました」という言葉は、単なる体重増加ではなく、競技中の安全性と自信の変化を物語っている。
(参考)高橋藍がイタリアで感じた”変化” – NumberPREMIER
試合2日前でも追い込む理由
日本のスポーツ文化では、試合前のウェイトトレーニングは禁忌とされてきた。しかし欧州のプロリーグでは、試合2日前のハードなウェイトトレーニングが一般的だ。この差はどこから来るのか。その答えはトレーニング適応の概念にある。高い負荷を定期的にかけ続けることで、筋肉は恒常的にその負荷に対応できる状態を維持する。試合前に負荷を落とせば短期的な回復には役立つが、長いシーズンを通じた筋肉量の維持という観点では逆効果になり得る。欧州のリーグは週2〜3試合が続く過密日程であるため、試合前に一度落とした筋肉を取り戻す時間がない。だからこそ、試合期でも高い負荷を維持する。
「食べて増やす」というアプローチ
高橋選手は「試合が続くとすぐ体重が落ちる」という自身の体質を自覚した上で、とにかくよく食べ、日々鍛えるというアプローチを継続した。バレーボールのような高強度スポーツは、1試合あたりのエネルギー消費が非常に多い。消費カロリーを補えない場合、体は筋肉をエネルギー源として分解し始める(カタボリック状態)。高橋選手が体重を落とさないために食事量を意識的に増やしたのは、筋肉量の維持・増加にとって合理的な戦略だ。
バレーボール選手に必要なフィジカルの構造
バレーボールのアウトサイドヒッターというポジションは、守備・攻撃・レシーブと全方位の動作が求められる。高橋選手がフィジカル強化で変わったのは、単に「力が強くなった」ということではない。
鎧としての筋肉:衝撃吸収と怪我防止
高橋選手が語った「身体を守る頑丈な”鎧”がある感覚」は、スポーツ医学の観点から非常に重要な表現だ。筋肉量の増加は、関節や骨への衝撃を分散させる緩衝材として機能する。バレーボールにおけるジャンプの繰り返しは、着地時に体重の数倍の衝撃を膝・足首に与える。これを受け止めるための下肢の筋力、特に大腿四頭筋・ハムストリングス・臀筋の強化が、怪我予防において決定的な役割を果たす。体重6kg増加の多くが筋肉によるものであれば、それは競技寿命を延ばすための投資でもある。
スパイクのための全身連動力
高橋選手の鋭いスパイクを生むのは腕力だけではない。地面を強く蹴る脚力→体幹での力の伝達→肩甲骨・肩関節の可動域→手首のスナップという全身の連動が不可欠だ。この連動を可能にするのが体幹の安定性だ。体幹が安定していないと、下半身で生まれた力が上半身に伝わる前に分散してしまう。イタリアでのウェイトトレーニングは、こうした全身連動の基盤となる体の使い方を身につける場にもなっていると考えられる。
他選手・他競技との比較
欧州サッカーリーグでも同様のフィジカル文化がある。プレミアリーグのトップクラブでは、週3試合のスケジュールでも試合前日の筋力トレーニングが組まれることが多い。バスケットボールNBAでも、シーズン中82試合をこなすために通年でのウェイトトレーニングが必須とされている。共通するのは「試合はフィジカルを使う場所ではなく、発揮する場所」という発想だ。高橋選手がイタリアで体験したカルチャーショックは、世界標準の競技観との接触でもあった。日本のアスリートが「試合前は休む」から「試合前でも積み上げる」に意識を変えることが、グローバルな水準に追いつくための一歩になる。
体重6kgの意味:高橋選手が得た競争優位
4カ月で6kgの筋肉増加は、一般的なウェイトトレーニングの成果と比べても非常に顕著だ。自重が増えることで反発力が上がり、ジャンプの滞空時間が伸びた可能性もある。欧州の長身選手に対してもブロックで競り合えるようになったのは、単に技術だけでなくフィジカルベースが変わったからだ。高橋選手自身が「見た目にわかるくらい大きくなった」と語るように、この変化はデータではなく感覚として確認できるレベルのものだった。
ビジネスパーソンへの応用
高橋選手のトレーニング哲学から学べることは「試合(本番)前でも積み上げる」という発想だ。仕事でも「プロジェクト前は準備しない」という人はいないが、「体のコンディションは本番前に崩れても仕方ない」と考える人は多い。しかし、フィジカルベースを高く維持することで、本番のパフォーマンスも安定する。
週2〜3回の筋力トレーニングを「常時維持」する発想
高橋選手のように、シーズン全体を通じて高い負荷をかけ続けるためには「特別なものではなく日常として組み込む」意識が必要だ。ビジネスパーソンでも、週2〜3回の筋力トレーニングを仕事の繁忙期に関係なく継続することが、長期的な認知機能とエネルギーレベルの維持につながる。「忙しいときこそ運動する時間がない」ではなく、「忙しいときこそ筋肉が必要」という発想の転換が、高橋選手のトレーニング哲学の本質だ。
FAQ
Q1. 高橋藍選手はどんなトレーニングをしていますか?
イタリアのセリエAで、試合2日前でも高強度のウェイトトレーニングを継続しています。試合期も含めた通年の筋力維持が特徴で、4カ月で体重6kgの増加を実現しました。
Q2. 試合前のウェイトトレーニングは効果があるの?
欧州のプロリーグでは標準的な手法です。過密日程の中で筋肉量を維持するには、試合前でも一定の負荷をかけ続けることが必要です。急に負荷を落とすと、長期的に筋肉が落ちやすくなります。
Q3. バレーボール選手の体幹トレーニングで重要な点は?
スパイク時の全身連動を支える「力の伝達路」を安定させることです。下半身から上半身への力の伝達が体幹でスムーズに行われることで、スパイクの威力と制度が上がります。
Q4. 体重を増やすためにどうすればいい?
エネルギー消費に対して十分な食事量(特にタンパク質と炭水化物)を確保しながら、ウェイトトレーニングを継続することが基本です。高橋選手のように「よく食べ、日々鍛える」という原則は普遍的です。
Q5. 一般人でも筋肉量を増やすには何から始める?
週2〜3回のスクワット・デッドリフト・プッシュアップなど複合動作を含む筋力トレーニングから始めることを推奨します。タンパク質を1日体重1kg当たり1.5〜2g摂取することも重要です。
まとめ:高橋藍のトレーニングが示す「強さの積み上げ方」
高橋選手がイタリアで得た最大の変化は、体重や筋肉量の数値ではなく「フィジカルへの向き合い方」だ。試合前でも追い込む、シーズン中でも積み上げ続ける、食べてから鍛えるという一連のアプローチは、スポーツ科学の観点から見ても正しい方向性を示している。
「身体を守る頑丈な”鎧”がある感覚」という表現が示すように、フィジカルの強化は攻撃力の向上だけでなく、選手として長く競技を続けるための防護壁にもなる。この考え方は、バレーボール選手に限らず、高いパフォーマンスを長期間維持したいすべての人に共通する原則だ。
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