中小企業のメンタルヘルス対策は、2028年4月1日から「やったほうがよいこと」ではなく法律上の義務になります。ストレスチェックの対象が、従業員50人未満の事業場まで広がるためです。
ただ、専任の担当者も産業医もいない会社で、何から手を付ければよいのかは見えにくいですよね。総務の担当者が通常業務の合間に検索して、制度の説明ばかりが並ぶページを閉じる。そんな場面は珍しくありません。
この記事では、義務の範囲、規模別のデータが示す課題、無料で使える公的支援と助成金の現状、そしてスポーツ・運動を予防に組み込む方法までを、公的な一次情報だけで整理します。
中小企業のメンタルヘルス対策は2028年4月から全事業場の義務になる

中小企業が負うメンタルヘルスの義務は2層あります。1つはストレスチェックの実施義務で、これは2028年4月1日から50人未満の事業場にも広がります。もう1つは安全配慮義務で、こちらは会社の規模に関係なく今もかかっています。
「うちは小さいからまだ関係ない」と考えていると、準備の時間を失います。それぞれの中身を順に見ていきます。
ストレスチェックは50人未満の事業場も2028年4月から義務
ストレスチェックは2015年に始まった制度で、これまで実施が義務だったのは常時50人以上の労働者を使う事業場だけでした。50人未満の事業場は「当分の間、努力義務」という扱いだったんですよね。
この扱いが変わります。2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法で、事業場の規模にかかわらず実施が義務とされました。厚生労働省は施行日を2028年(令和10年)4月1日と案内しています。
施行までに、実施体制を決めて委託先を選ぶ時間が要ります。実務の段取りは、スケジュールとあわせて確認しておくと動きやすくなります。
あわせて読みたいストレスチェック義務化で何が変わる?50人未満企業の実務対応と導入手順【法改正対応】›
(参考)ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策 – 厚生労働省
安全配慮義務は会社の規模を問わず今もかかっている
ストレスチェックの義務化を待たなくても、会社には従業員の心身の安全に配慮する義務があります。労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。
この条文には従業員数による区切りがありません。10人の会社でも、長時間労働や職場の人間関係で不調のサインが出ている従業員を放置すれば、責任を問われる余地があります。
つまり2028年4月は「義務が始まる日」ではなく、「義務の中身が1つ増える日」と捉えるのが正確です。
(参考)労働契約法(平成十九年法律第百二十八号) – e-Gov法令検索
Q. 中小企業のメンタルヘルス対策は義務ですか?
義務です。労働契約法第5条の安全配慮義務は会社の規模を問わずかかっています。加えて、ストレスチェックの実施は2028年4月1日から従業員50人未満の事業場でも義務になります。
規模別データで見る中小企業のメンタルヘルスの課題
中小企業の課題は「取り組む事業所の少なさ」と「不調に気づく仕組みの薄さ」の2点に集約されます。厚生労働省の令和7年(2025年)労働安全衛生調査から、事業所の規模で差が出ている数字を3つ抜き出しました。
| 指標 | 全体 | 50人以上 | 30〜49人 | 10〜29人 |
|---|---|---|---|---|
| メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所 | 63.0% | 93.7% | 72.0% | 54.6% |
| ストレスチェックを実施している事業所(対策に取り組む事業所のうち) | 64.0% | 89.8% | 58.4% | 55.9% |
| 強いストレスを感じる事柄がある労働者 | 67.5% | — | — | — |
事業所調査は常用労働者10人以上の事業所が対象。数値は令和7年(2025年)調査。出典:令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況(厚生労働省)
10〜29人の事業所は対策に取り組む割合が54.6%にとどまる
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は全体で63.0%です。規模別に見ると、50人以上が93.7%、30〜49人が72.0%、10〜29人が54.6%と、小さい事業所ほど下がっていきます。
50人以上と10〜29人の差は39.1ポイントあります。10〜29人の事業所では、ほぼ2社に1社がまだ何も始めていない計算です。
裏を返せば、この規模で1つでも取り組みを始めれば、同規模の会社の半分より前に出られるということでもあります。
(参考)令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
ストレスチェックの実施は50人を境に30ポイント以上下がる
対策に取り組んでいる事業所に絞っても、ストレスチェックの実施割合には段差があります。50人以上が89.8%なのに対し、30〜49人は58.4%、10〜29人は55.9%です。
この数字は「対策に取り組んでいる事業所」を分母にしている点に注意してください。そもそも取り組んでいない事業所を含めると、小さい事業所での実施はさらに少なくなります。
義務の線引きがそのまま実施率の段差になっているわけで、2028年4月までにこの段差を埋めることが中小企業に共通する宿題になります。
(参考)令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
強いストレスを感じる労働者は67.5%にのぼる
働く側の数字も見ておきます。現在の仕事や職業生活で、強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者の割合は67.5%でした(令和6年調査は68.3%)。
同じ調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者、または退職した労働者がいた事業所が13.5%あります。
従業員の3人に2人が強いストレスを抱えている前提に立つと、対策は「不調者が出てから考える」では間に合いません。少人数の職場ほど、1人の休業が業務全体に響きます。
(参考)令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
中小企業が無料で使える公的支援と助成金の現在地
費用をかけずに始められる公的な支援は3つあり、助成金は個別の会社が直接申請する形ではなくなっています。いま使えるものと、次の年度に向けて確認するものを分けて把握しておくのが近道です。
| 支援 | 費用 | 使える内容 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 地域産業保健センター(地産保) | 無料 | 50人未満の事業場向けの医師の面接指導、健康診断結果の意見聴取など | 最寄りの地産保(全国350か所) |
| こころの耳の相談窓口 | 無料 | 電話・SNS・メールでの相談 | 厚生労働省のポータルサイト |
| 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル | 無料 | 実施体制の決め方、委託先の選び方、規程の例 | 厚生労働省のウェブサイト |
| 団体経由産業保健活動推進助成金 | 費用の90%を助成(上限500万円) | 事業主団体が傘下の中小企業に提供する産業保健サービス | 所属する事業主団体 |
各資料の記載をもとに本記事で整理(2026年10月時点)。出典:小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル、団体経由産業保健活動推進助成金のご案内(いずれも厚生労働省)
地域産業保健センターは医師の面接指導を無料で引き受ける
産業医のいない会社がまず押さえたいのが、地域産業保健センター(地産保)です。厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構が運営する支援機関で、全国350か所、おおむね労働基準監督署の単位で置かれています。
厚生労働省のマニュアルによると、50人未満の事業場は、高ストレス者への医師の面接指導を地産保に依頼して無料で受けられます。定期健康診断の結果について医師の意見を聴くことも対象です。
気をつけたいのは、地産保はストレスチェックそのものを実施していない点です。検査の実施は外部機関に委託し、その後の面接指導を地産保に頼む、という組み合わせになります。
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
(参考)労働者数50人未満の小規模事業者の方 – 厚生労働省
こころの耳は従業員が自分で使える相談先になる
社内に相談窓口を置けない会社は、厚生労働省が運営する「こころの耳」を従業員に案内できます。電話、SNS、メールでの相談に無料で対応していて、高ストレスと判定された人に限らず誰でも使えます。
少人数の職場では「相談した相手が上司とつながっている」こと自体が相談のハードルになります。社外の公的な窓口を1つ知らせておくだけで、この壁は下がります。
入社時の書類や社内の掲示にURLを載せておく。やることはそれだけなので、今日のうちに済ませられます。
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
50人未満向けの実施マニュアルで体制づくりの手間を減らす
厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しました。50人未満の事業場が義務化に備えるための手引きで、実施体制の決め方から委託先を選ぶときの確認点、社内規程の例までが載っています。
マニュアルは、50人未満の事業場では従業員のプライバシーを守る観点から、ストレスチェックの実施を外部機関に委託することを推奨しています。見積もりを取るときは、実施者の人件費やデータ保管が基本料金に入っているかを確かめるよう書かれています。
ゼロから社内ルールを考える必要はありません。規程の例を自社の体制に合わせて書き換えるところから始めれば十分です。
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
助成金は所属団体を通じて次年度の実施を確かめる
メンタルヘルス対策に関係する助成金として現在あるのは「団体経由産業保健活動推進助成金」です。事業主団体などが傘下の中小企業に産業保健サービスを提供する費用の90%(上限500万円、一定の要件を満たす団体は1,000万円)を助成する仕組みで、ストレスチェック後の職場環境改善の支援も対象に含まれます。
申請できるのは事業主団体などで、個別の会社は直接申請できません。また令和8年度分は、2026年7月10日に交付申請の受け付けを終了しています。
そのため取るべき行動は、自社が加入している商工会議所や業界団体に「来年度この助成金を使った産業保健サービスを予定しているか」を問い合わせることです。受け付けは原則先着順なので、年度が替わる前に聞いておくと出遅れません。
(参考)団体経由産業保健活動推進助成金のご案内(令和8年度版) – 厚生労働省
Q. 中小企業がメンタルヘルス対策に使える助成金はありますか?
団体経由産業保健活動推進助成金があります。ただし申請できるのは事業主団体などで、個別の会社は直接申請できません。令和8年度分は2026年7月10日に受け付けを終了しているため、所属する団体に次年度の予定を確認してください。
従業員数で変わる中小企業のメンタルヘルス対策の進め方

進め方は、事業場の従業員数が50人以上か未満かで分かれます。義務の時期と、労働基準監督署への報告の要否が違うからです。ここでいう人数は会社全体ではなく、事業場(支店や工場など場所の単位)ごとに数えます。
50人未満は外部委託と地産保の組み合わせで始める
50人未満の事業場は、2028年4月までに次の形を整えるのが基本線です。検査の実施は外部機関に委託し、高ストレス者の面接指導は地産保に依頼する。この組み合わせなら、面接指導に費用はかかりません。
実施結果を労働基準監督署へ報告する義務は、50人未満の事業場にはありません。部署ごとの集団分析と職場環境の改善は、規模にかかわらず努力義務とされています。
社内では、委託先との契約や連絡調整を受け持つ実務担当者を1人指名しておきます。マニュアルにも、事業場で実務担当者を指名する手順が示されています。
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
50人以上は集団分析を職場の改善と研修につなげる
50人以上の事業場はすでに実施と報告が義務になっています。課題は「毎年やっているが、結果が職場の改善につながっていない」という形骸化のほうです。
集団分析の結果は、残業の偏りや上司との関係など、部署単位の傾向を示します。数字を見て終わりにせず、管理職向けの研修やチームでの活動といった具体策に結びつけると、翌年の結果で変化を確かめられます。
研修の設計では、座学だけでなく体を動かすプログラムを組み合わせる方法もあります。
あわせて読みたいメンタルヘルス研修|スポーツ活用4類型と企業の導入手順›
Q. 50人未満の会社はストレスチェックの結果を労働基準監督署に報告する必要がありますか?
報告は不要です。実施結果の報告が義務付けられているのは従業員50人以上の事業場で、50人未満の事業場は対象外とされています。
スポーツと運動をメンタルヘルスの予防策に組み込む
ストレスチェックは不調に「気づく」ための仕組みで、不調を「防ぐ」取り組みは別に要ります。お金をかけずに始めやすい予防策が、職場での運動やスポーツの機会づくりです。ウェルビーイング施策の設計でも、体を動かす機会は土台の1つに位置づけられます。
身体活動量が多い労働者ほど抑うつの指標が良い
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、働く人について、身体活動量が多いほど抑うつなどの健康指標が良好であることが、これまでの研究結果から示唆されるとまとめています。
同ガイドは、世界保健機関(WHO)のガイドラインを引き、身体活動によってうつや不安の症状が軽減されるとも紹介しています。成人の目安は、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)です。
ただし、これは運動すれば不調が起きないという意味ではありません。運動は治療の代わりではなく、不調を抱えた従業員には医師や相談窓口につなぐ対応が先になります。運動とストレスの関係を詳しく知りたい場合は、運動でストレス解消できる科学的根拠やスポーツがメンタルヘルスに与える効果の解説が役に立ちます。
(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(令和6年1月) – 厚生労働省
スポーツエールカンパニーの認定を社内の旗印にする
運動の機会づくりを続けるには、社内に「会社として取り組んでいる」と示す旗印があると動きやすくなります。その1つが、従業員のスポーツ実施に積極的な企業をスポーツ庁が認定する「スポーツエールカンパニー」です。
スポーツ庁の発表によると、スポーツエールカンパニー2026には過去最多の1,635団体が認定されました(2026年1月30日公表)。認定の基準や申請の流れは、下の解説記事で確認できます。
朝礼の5分を体操にあてる、昼休みに歩く時間をつくる。まずはこの程度から始めて、続いた実績を認定の申請につなげる流れが現実的です。
あわせて読みたいスポーツエールカンパニーとは?認定基準・申請方法・取得メリットを解説›
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁
まとめ|中小企業のメンタルヘルス対策は無料の支援から着手する
中小企業のメンタルヘルス対策は、義務の範囲を正しく知り、無料の公的支援を使うところから始められます。要点を振り返ります。
- ストレスチェックは2028年4月1日から50人未満の事業場でも義務になる。安全配慮義務は規模を問わず今もかかっている
- 対策に取り組む事業所は全体で63.0%、10〜29人の事業所では54.6%にとどまる(令和7年労働安全衛生調査)
- 50人未満の事業場は、検査を外部機関に委託し、面接指導を地域産業保健センターに無料で依頼する形が基本になる
- 助成金は事業主団体を通じた仕組みのため、所属する団体に次年度の予定を確認する
- 予防策として、職場で体を動かす機会を小さく始める
最初の一歩としておすすめなのは、最寄りの地域産業保健センターの連絡先を調べ、こころの耳のURLを社内に掲示することです。どちらも費用はかからず、今週中に終えられます。
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