テレワーク下の運動不足対策は、単発イベントではなく「日常業務に組み込む仕組み」を作れるかどうかで定着率が変わります。本記事では健康経営担当者向けに、経済産業省・厚生労働省の一次情報をもとに、企業が取るべき運動支援施策と導入ステップ、KPI設計、健康経営優良法人の評価基準までを解説します。
テレワークで進む「隠れ運動不足」の実態|歩数と座位時間の変化
オフィス勤務では自然と発生していた「通勤」「社内移動」「会議室への歩行」といった身体活動が、テレワークでは一切なくなります。自覚症状がないまま進行するため「隠れた運動不足」と呼ばれ、放置すると企業全体の健康コストが静かに膨らんでいきます。
| 比較項目 | オフィス勤務 | テレワーク |
|---|---|---|
| 1日の歩数目安 | 約6,000〜8,000歩 | 約2,000〜3,000歩 |
| 通勤による活動量 | 20〜40分/日 | ほぼゼロ |
| 座位時間 | 約7〜9時間 | 約10〜12時間 |
| 運動不足の自覚 | 比較的しやすい | 感じにくい(隠れやすい) |
表:オフィス勤務とテレワークにおける身体活動量の比較
この変化に気づきにくいのは、体調の悪化が「疲れやすさ」「肩こり」といった曖昧な自覚症状として現れ、原因を運動不足だと特定しにくいためです。健康経営担当者が最初に取り組むべきは、この変化を数値で可視化し、社員自身に自覚してもらうことです。歩数計測アプリやウェアラブル端末を使い、部署単位で平均歩数を可視化するだけでも、社員の意識づけとしては十分な効果が期待できます。
在宅勤務で歩数はどれだけ減るのか
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人が1日60分の身体活動(歩行等)を目安とすることが推奨されています(対象:成人/2023年10月公表)。しかしテレワーク環境では通勤がなくなることで、この推奨量を達成する機会が大幅に失われます。意識的に運動の時間を確保しない限り、座位時間が10時間を超えることも珍しくありません。
座位時間の増加が招く健康リスク
座りっぱなしの時間が長くなるほど、生活習慣病リスクや筋肉量の低下が進むとされています。運動不足は体型の問題に留まらず、生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症)のリスクを高め、メンタルヘルス不調とも関係しています。
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(参考)身体活動・運動の推進(身体活動・運動ガイド2023) – 厚生労働省
Q. テレワークになると歩数はどのくらい減りますか?
オフィス勤務時の1日約6,000〜8,000歩に対し、テレワーク時は約2,000〜3,000歩まで減少する傾向があります。通勤(20〜40分/日)がなくなることに加え、座位時間が約10〜12時間まで延びるため、意識的に運動の機会を作らない限り身体活動量は大きく落ち込みます。
運動不足が企業に与える経営インパクト|見えないコストの正体
運動不足による健康リスクは、欠勤日数の増加・プレゼンティーズム(出勤していても生産性が低い状態)・医療費補助の増大という形で企業の業績に影響します。健康経営の観点では、これらは「見えないコスト」として扱われます。
プレゼンティーズムと欠勤という見えないコスト
プレゼンティーズムは、体調不良を抱えたまま出勤し、本来のパフォーマンスを発揮できない状態を指します。運動不足による肩こり・腰痛・集中力低下は代表的な要因であり、欠勤(アブセンティーズム)よりも数値化されにくいために見過ごされがちです。
プレゼンティーズムは欠勤のように休業日数として記録されないため、経営層への説明が難しいという課題があります。だからこそ、後述するKPI設計によって「見える化」する工程が欠かせません。
健康経営の観点で見た投資対効果
経済産業省は「これからの健康経営について」(2025年4月公表)のなかで、健康経営を単なる福利厚生ではなく経営課題として位置づけています。運動支援施策への投資は、中長期的な医療費抑制と生産性向上の両面でリターンが見込める投資として整理されています。
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(参考)これからの健康経営について(2025年4月) – 経済産業省
Q. 運動不足は企業にどのような経営コストをもたらしますか?
欠勤日数の増加とプレゼンティーズムによる生産性低下、そして医療費補助の増大という3つの経営コストにつながります。特にプレゼンティーズムは数値化されにくく、対策が後回しにされやすい領域です。
すぐに始められるテレワーク運動支援策|3つの現場施策
テレワーク下の運動支援は、追加費用をかけずに今日から始められる施策から着手するのが定着への近道です。ここでは現場ですぐに導入できる3つの施策を紹介します。
①ウォーキングミーティングで歩数を増やす
昼休みに30分のウォーキングを推奨し、その時間を業務連絡不可のルールにする施策です。「歩いて話す」1on1ミーティングをマネジャー層から率先して実施すると、文化として定着しやすくなります。追加費用がかからず、すぐに始められるのが最大のメリットです。
②社内運動チャレンジでつながりを作る
チーム対抗の歩数コンテストや、社内チャットでの運動報告チャンネル開設など、社員同士のつながりを活かした施策です。テレワーク下でのコミュニケーション促進にもなるため、エンゲージメント向上との相乗効果が期待できます。
③オンラインスポーツ体験会で継続的な関与を生む
月1回のオンラインスポーツ体験会(ヨガ、ピラティス等)を組み合わせると、単発施策で終わらせず継続的な関与を促せます。開催時間を就業時間内に固定し、参加を業務の一部として位置づけることが継続率を左右します。任意参加のまま告知するだけでは参加率が伸びにくいため、部署単位での参加目標を設けるなど、参加のハードルを下げる工夫も有効です。
Q. テレワークの運動支援策で最初に着手すべきものは何ですか?
追加費用がかからないウォーキングミーティングが最も着手しやすい施策です。マネジャー層が率先して実施することで、特別なイベントではなく日常業務の一部として定着しやすくなります。
施策を定着させる健康経営の設計フロー|KPIと継続の仕組み化
単発の施策を打つだけでは継続率が上がらず、費用対効果が出にくいのが現実です。テレワーク下の運動支援を健康経営の柱として機能させるには、次の3ステップで設計することが重要になります。
歩数・参加率・運動習慣保有率をKPIに設定する
経済産業省の健康投資管理会計ガイドラインでは、健康への投資対効果を定量的に把握する枠組みが示されています。KPIを明確にすることで施策の改善サイクルが回りやすくなり、経営層への報告もしやすくなります。
忘れても続く仕組みをシステムに組み込む
運動支援施策が続かない最大の理由は「忘れてしまう」「面倒になる」の2点です。これを防ぐには、業務スケジュールに自動的に組み込まれる仕掛けが必要です。たとえば、カレンダーに毎朝10分の体操を自動リマインドする、業務システムに歩数入力を統合するといった工夫が挙げられます。「意識しなくても続く」設計を最初から入れることで、継続率と投資対効果が自然と上がっていきます。
Q. 運動支援施策を継続させるコツは何ですか?
「忘れても自動的に続く仕組み」を最初から業務フローに組み込むことです。カレンダーへの自動リマインドや歩数入力の業務システムへの統合など、社員の意志力に頼らない設計にすることで継続率が高まります。
健康経営優良法人の認定基準に見る運動支援策の位置づけ
健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)では、「運動機会の増進に向けた取り組み」が選択評価項目の一つとして位置づけられています。自社の施策がどの水準にあるかを確認する際の参考基準になります。
| 評価項目 | 具体的な取り組み内容 |
|---|---|
| 公的認定の取得 | スポーツ庁「スポーツエールカンパニー」の認定を取得している |
| オフィス設備の整備 | 立ち会議スペース・昇降式デスク等、勤務を通して運動量が上がる設備を設置している |
| 通勤手段への支援 | 徒歩通勤・自転車通勤のための支援や働きかけを行っている |
| 同好会・サークル支援 | 運動機会の増進を目的とした同好会・サークル等の設置・金銭支援や場所提供を行っている |
表:健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)における「運動機会の増進に向けた取り組み」評価項目
テレワーク中心の企業では「オフィスに来ないから運動施策が評価されにくいのでは」と考えがちですが、認定基準はオフィス設備だけでなく通勤支援・同好会支援など複数の切り口を用意しているため、テレワーク環境でも該当する取り組みを設計しやすくなっています。
①公的認定の取得で運動施策を可視化する
スポーツ庁「スポーツエールカンパニー」の認定取得は、社内の運動施策を対外的に可視化する手段になります。認定取得の過程で自社の取り組みを棚卸しできる点も実務上のメリットです。採用活動における企業アピールの材料としても活用しやすく、健康経営を重視する求職者への訴求にもつながります。
②オフィス設備で日常的な運動量を底上げする
立ち会議スペースや昇降式デスクなど、意識せずに運動量が上がる設備投資も評価対象です。テレワーク環境では自宅の作業環境整備支援(昇降デスクの貸与等)に置き換えて検討する余地があります。
③通勤手段への支援で活動量を取り戻す
徒歩通勤・自転車通勤への支援や働きかけも評価項目に含まれます。出社が発生するハイブリッド勤務の社員に対しては、この視点での支援策が歩数回復に直結します。自転車通勤手当の新設や、駅から遠回りするウォーキングコースの案内など、小さな工夫の積み重ねが効果を生みます。
④同好会・サークル支援でつながりを制度化する
運動機会の増進を目的とした同好会・サークルへの金銭支援や場所提供も評価項目の一つです。前述の社内運動チャレンジを、単発の施策ではなく制度として位置づける際の土台になります。「健康経営優良法人|申請準備の3段階診断フレーム」もあわせてご覧ください。
(参考)健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)認定要件 – 健康経営優良法人認定事務局
Q. 健康経営優良法人の認定で運動施策はどう評価されますか?
中小規模法人部門では「運動機会の増進に向けた取り組み」が選択評価項目の一つで、スポーツエールカンパニー認定・オフィス設備・通勤支援・同好会支援など4項目から一定数の実施が求められます。自社の施策の棚卸しにそのまま使える基準です。
まとめ
テレワーク時代の健康経営における運動支援策を整理すると、次のようになります。
- テレワークでは歩数が約1/3、座位時間が2〜3時間増加し「隠れ運動不足」が進行する
- 運動不足は欠勤・プレゼンティーズム・医療費という形で経営コストに直結する
- ウォーキングミーティング等、追加費用のかからない施策から着手するのが定着への近道
- KPI設定と「忘れても続く仕組み化」が継続率を左右する
- 健康経営優良法人の評価項目は自社施策の水準を確認する参考基準になる
テレワークの運動不足対策は、一度導入して終わりではなく、KPIを通じて定期的に見直す前提で設計することが定着の分かれ目になります。
まずは自社の歩数データや施策参加率を把握するところから始め、ウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法もあわせて確認しながら、無理なく続けられる設計を組み立てていきましょう。
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