経営会議で「ウェルビーイング経営を進めよう」と決まり、他社の事例を集めてほしいと頼まれた。検索して出てくるのは「A社では欠勤率が下がった」のような社名の書かれていない話ばかりで、どの数字が本当なのか確かめようがない。そんなところで手が止まっている担当者も多いのではないでしょうか。
ウェルビーイングの企業事例は、各社の公式サイトと行政の事例集で、施策の中身と数値を確かめられるものから集めるのが確実です。公式ページで施策と数値を確認できた9社を見ると、7社が歩数や運動の機会といった運動・スポーツの施策を入り口にしていました。この記事では、9社の事例の一覧と共通点、行政の事例集の探し方、自社で事例をつくるときの進め方を順に整理します。
ウェルビーイングの企業事例9社の一覧|施策の入り口と公表している数値
公式サイトやニュースリリースで施策の中身と数値を確認できた国内企業9社を、施策の入り口と公表している数値で一覧にしました。選んだ条件は「各社の公式ページで、施策の名前・中身・年度のついた数値の3つを確かめられること」です。この条件を満たす企業は、今回の調査では9社でした。
| 企業 | 業種 | 施策の入り口 | 公表している数値の例 |
|---|---|---|---|
| 丸井グループ | 小売 | 職場の文化(CWO・コラボヘルス) | 健康経営銘柄 9年連続(2026年) |
| 花王 | 化学 | 歩く(歩行計・ウォーキング) | 歩行計の保有者8,665人(2024年12月) |
| ゴールドウイン | 繊維製品 | 運動の場(施設補助・クラブ活動) | アブセンティーイズム1.45日→0.6日(2020→2024年度) |
| SCSK | 情報・通信 | 歩く(健康わくわくマイレージ) | 1日平均8,042歩(2025年度) |
| ロート製薬 | 医薬品 | 歩く(とこチャレ・12の指標) | 週2回以上運動する人38.3%→43.1%(2022→2024年度) |
| タニタ | 中小規模法人部門 | 測る(活動量計・体組成計) | 健康施策への投資 約8百万円(2024年度) |
| 伊藤忠商事 | 卸売 | 働き方(朝型勤務・睡眠) | 20時以降の退館者 約30%→約7%(2013年度試行) |
| アシックス | その他製品 | 運動の場(社内スポーツ大会) | 運動実施率51.9%→78.8%(2023→2025年) |
| 東急 | 陸運 | 測る(保健指導の選択制) | 健康経営銘柄 通算8回目(2026年) |
出典:各社の公式サイト・ニュースリリース(2026年10月19日に確認)をもとに作成。業種は健康経営銘柄の区分、タニタは健康経営優良法人の部門
9社のうち7社が、歩く・測る・運動の場をつくるといった運動・スポーツの施策を入り口にしています。運動以外では、丸井グループが職場の文化から、伊藤忠商事が働き方と睡眠から取り組んでいます。
丸井グループ|ウェルビーイングを経営の目的そのものに置く
丸井グループは「Well-being経営」を掲げ、産業医が務めるCWO(Chief Well-being Officer)を置いています。ウェルビーイング推進部・健康保険組合・人事部・労働組合が月1回集まるコラボヘルスで施策を決め、性別や年齢にかかわらず健康課題について互いにサポートし合える職場づくりに取り組んでいます。
健康経営銘柄には2026年で9年連続で選ばれました。厚生労働省の「こころの耳」の事例紹介でも、ストレスチェックを「攻めのストレスチェック」と位置付ける取り組みが紹介されています。
(参考)健康経営|サステナビリティ – 株式会社丸井グループ
花王|歩数を寄付につなげるウォーキングの対抗戦
花王は社員に歩行計「ホコタッチ」を配り、保有者は8,665人(2024年12月時点、国内グループ)です。2024年4月7日〜6月15日の「Waku Waku Walk!チャレンジ」には1,871人が参加し、歩数に応じて社員が選んだ団体へ合計100万円を寄付しました。
寄付先ごとに平均歩数を競う仕組みで、自分の健康だけでなく誰かのために歩く動機をつくっています。スポーツ庁のスポーツエールカンパニーには7年連続で認定されています(2025年時点)。
(参考)スポーツ庁の「スポーツエールカンパニー」に7年連続で認定 – 花王
ゴールドウイン|休みを増やしてから運動の機会を用意する
ゴールドウインは2022年度から、全国のスポーツ施設の利用料の半額(上限3,000円・年4回)を補助しています。約30のクラブ活動には2024年度に延べ470名が参加し、社内運動会も開いています。
同社が公表するアブセンティーイズム(病気などで休んだ日数)は、2020年度の1.45日から2024年度は0.6日に下がりました。健康経営銘柄2026の評価では、労働時間の適正化や有給休暇の消化に続けて、スポーツの実践機会が増えたことが挙げられています。運動の施策の前に、時間をつくっている点が特徴です。
(参考)「健康経営銘柄2026」および「健康経営優良法人2026(大規模法人部門ホワイト500)」に選定 – 株式会社ゴールドウイン
SCSK|健康行動をポイントにしてインセンティブを支払う
SCSKは2015年から「健康わくわくマイレージ」を続けています。健康的な行動習慣と健診結果をポイントにし、基準を達成した社員にインセンティブを支払う仕組みで、2025年度の達成率は95%(8,325名)、支給総額は約1.4億円でした。
一方で、1日あたりの平均歩数は2019年度の9,675歩から2025年度は8,042歩で、コロナ前の水準には戻っていません。施策を続けても数字が一直線に伸びるとは限らないことを示す事例です。
ロート製薬|下がった指標も含めて12の指標を公開する
ロート製薬は2025年6月に、2030年に向けた「心身ともにウェルビーイングを目指す12の指標」を設定しました。30分の運動を週2回以上する人は2022年度の38.3%から2024年度は43.1%に増えた一方、「1日8,000歩+速歩き20分」を実践する人は16.5%から11.7%に下がっています。
目標に届いていない数値まで公表している点は、事例を集める側にとって参考になります。成果だけでなく、どこでつまずいているかが分かるからです。
(参考)健康経営における2030年に向けた新指標を設定 – ロート製薬
タニタ|活動量計と体組成計で社員の状態を測る
タニタは2009年から「タニタ健康プログラム」を続け、社員証を兼ねた活動量計を配り、社内の体組成計で定期的に測っています。部署対抗の歩数イベントも開いています。
健康施策への投資額は2024年度で約8百万円と公表しており、中小規模法人部門の企業が取り組む規模感の目安になります。運動習慣がある人の割合は2024年で21.0%(目標30%)です。
伊藤忠商事|朝型勤務で働き方から変える
伊藤忠商事は2013年10月に朝型勤務を試行し、20時以降の勤務を原則禁止にしました。試行期間には、20時以降に退館した人が退館者全体の約30%から約7%に減っています。
運動の施策から入るのではなく、働き方を変えて休む時間をつくる入り口です。2023年度からは睡眠改善のプログラムにも取り組んでいます。
(参考)より効率的な働き方の実現に向けた取組について~朝型勤務の正式導入~ – 伊藤忠商事
アシックス|健康白書で運動実施率の推移を毎年公開する
アシックスは2018年から毎年「アシックス健康白書」を発行しています。社内調査での週1回以上の運動実施率は、2023年の51.9%から2025年は78.8%に上がりました。2026年10月6日に公開した健康白書2026では、ヘルスリテラシーが高い従業員ほど仕事のパフォーマンス発揮率が高い傾向を確認したとしています。
ただし、数値は社内調査の自己申告で、回答率も年によって変わっています。比べるときは調査の条件までそろえて見る必要があります。
(参考)「アシックス健康白書2026」を公開 – 株式会社アシックス
東急|調査で見つけた痛みや悩みに合わせて施策を選ぶ
東急と東急電鉄は、2026年3月に通算8回目の健康経営銘柄に選ばれました。特定保健指導を運動・食事などのコースから選べる選択制にし、健康への「最初の一歩」を前向きに踏み出すための取り組みとしています。
調査で腰痛などの痛みやメンタル面の悩みが多いと分かり、腰痛の改善・予防のセミナーなどにつなげています。測って課題を見つけ、それに合う施策を選ぶ流れの実例です。
(参考)通算8回目の「健康経営銘柄」選定について – 東急株式会社
ウェルビーイングの事例に共通する入り口は運動・働き方・職場の文化

9社の事例を施策の入り口で分けると、歩く・測る・運動の場をつくるという運動系が7社、働き方が1社、職場の文化が1社でした(本記事の整理)。最初から全部をそろえている企業はなく、どれか一つの入り口から始めて広げています。
運動の施策が多いのは数値で測りやすいから
歩数や運動の実施率は、活動量計やアンケートで毎年同じ方法で測れます。花王・SCSK・ロート製薬・アシックスはいずれも、運動に関する数値を年度ごとに公表しています。成果を社内外に説明しやすいことが、運動の施策が選ばれやすい理由の一つと考えられます。
運動の施策が個人の体だけでなく、職場でのつながりにも関わる点は、スポーツウェルネスの考え方とも重なります。
あわせて読みたいスポーツウェルビーイングとは?データから読み解く企業・個人の実践設計›
下がった数値も公表している企業がある
事例は成功した話ばかりではありません。ロート製薬の「8,000歩+速歩き20分」の実践率、SCSKの平均歩数、タニタの運動習慣者の割合は、いずれも下がった年があり、各社はその数値も公表しています。
他社の事例を集めるときは、上がった数値だけでなく、続けるなかで何が起きたかまで見ると、自社で始めたときのつまずきを先回りできます。ウェルビーイングの施策が失敗する理由はウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法で詳しく扱っています。
Q. ウェルビーイングの事例で運動・スポーツの施策は多いですか?
多いと言えます。本記事で取り上げた9社のうち7社が運動・スポーツに関わる施策を公表しており、スポーツエールカンパニー2026の申請時アンケートでも、取り組んでいる種目はウォーキング(1,125件)と体操(769件)が上位でした。歩数や運動習慣は数値で測りやすく、成果を公表しやすいことも理由の一つと考えられます。
ウェルビーイングの事例集は行政の公表資料で探す
ウェルビーイングの事例集を探すなら、スポーツ庁・経済産業省・厚生労働省が公表している資料が出発点になります。企業の自己申告だけでなく、認定や選定の審査を通った企業が載っている点が強みです。
スポーツ庁「スポーツエールカンパニー2026 認定団体事例集」
スポーツ庁は2026年1月に、過去最多の1,635団体をスポーツエールカンパニーに認定し、48ページの認定団体事例集を公開しました。健康経営と連動している事例、健康保険組合と連携している事例など、分類ごとに取り組みが紹介されています。
申請時のアンケートでは、対外的な目的として「ブランディング」が38.7%、「人材確保」が20.1%でした。取り組んでいる種目はウォーキングが1,125件、体操が769件で、特別な設備を使わない運動が中心です。
(参考)スポーツエールカンパニー2026 認定団体事例集 – スポーツ庁
経済産業省「健康経営銘柄」の選定企業紹介レポートと中小企業の事例集
経済産業省は2026年3月9日に「健康経営銘柄2026」として44社を選び、選定企業紹介レポートを毎年公開しています。健康経営優良法人の制度ページには、中小規模法人部門の認定法人の取り組み事例集(2023年版など)も掲載されています。
健康経営優良法人2026には、大規模法人部門3,765法人、中小規模法人部門23,085法人が認定されました。同じ業種・規模の企業を探すときに使えます。
あわせて読みたい健康経営とは|認定要件・申請手順とスポーツ施策の入れ方›
(参考)「健康経営銘柄2026」に44社を選定しました – 経済産業省
厚生労働省「こころの耳」の取組事例
心の面のウェルビーイングの事例は、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」の事例紹介で探せます。職場のメンタルヘルス対策の取り組みが企業ごとに紹介されており、丸井グループの事例も掲載されています。
運動の事例と組み合わせて読むと、体と心の両面からウェルビーイングを高める施策の全体像が見えてきます。
Q. ウェルビーイングの企業事例はどこで探せますか?
行政が公表している事例集と、各社の公式サイトの2つから探せます。スポーツ庁は「スポーツエールカンパニー2026 認定団体事例集」を、経済産業省は健康経営銘柄の選定企業紹介レポートや中小規模法人部門の取り組み事例集を公開しています。気になる企業が見つかったら、統合報告書やサステナビリティのページで数値と年度を確かめると、自社と比べやすくなります。
自社のウェルビーイングの事例をつくる進め方|測る・選ぶ・公表する

自社の事例をつくるには、今の状態を測り、入り口となる施策を1つ選び、数値の変化を公表するという流れで進めます。9社の事例はいずれも、測った数値を年度ごとに示しています(本記事の整理)。
まず従業員の運動の状態を測る
スポーツ庁の令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、勤務先に運動・スポーツの取り組みがある就業者の週1日以上の実施率は71.1%、ない就業者は45.2%でした。取り組みがある勤務先は21.3%にとどまる一方、取り組んでほしいという希望は32.1%あります。
この差は取り組みが運動を増やしたことまで示すものではありません。だからこそ、自社で始める前に実施率を測っておき、前後で比べることが欠かせません。健康診断の問診を使う方法は健康診断の運動習慣の質問を施策に生かす方法で解説しています。
あわせて読みたいスポーツ実施率とは|年齢別の最新値と企業が職場でできること›
(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します – スポーツ庁
入り口の施策を1つ選んで小さく始める
スポーツエールカンパニー2026の認定団体では、実施している取り組みの数は「3件」が884団体で最も多く、「1件」が402団体でした。多くの企業が、少数の施策から始めています。
歩く施策なら花王やSCSK、運動の場ならゴールドウインのクラブ活動やランニングクルーのような集まりが参考になります。中小企業なら、タニタの投資額(約8百万円)が規模感の目安になります。
(参考)スポーツエールカンパニー2026 認定団体事例集 – スポーツ庁
数値を年度ごとに公表して事例にする
2023年1月31日の内閣府令の改正で、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」が新設され、人材育成方針や社内環境整備方針とその指標の記載が求められるようになりました。ウェルビーイングの指標を、その一部として示すこともできます。
公表するときは、ロート製薬のように下がった指標も含めて出すと、数字の信頼性が高まります。毎年同じ方法で測った数値が積み重なれば、それが自社の事例になります。
(参考)「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について – 金融庁
Q. 中小企業でもウェルビーイングの施策はできますか?
できます。中小規模法人部門で健康経営に取り組むタニタは、健康施策への投資額を2024年度で約8百万円と公表しています。スポーツエールカンパニー2026の認定団体でも、実施している取り組みの数は「3件」が884団体で最も多く、少数の施策から始めている企業が多いことが分かります。
Q. ウェルビーイングの施策の成果はどう公表すればよいですか?
施策の前後で同じ指標を測り、年度ごとの数値を並べて公表します。ロート製薬は2030年に向けた12の指標の実績を、下がった項目も含めて公開しています。有価証券報告書では、人材育成方針や社内環境整備方針とその指標の記載が求められているため、ウェルビーイングの指標をその一部として示す方法もあります。
まとめ|ウェルビーイングの事例は公表された数値で比べる
ウェルビーイングの事例は、社名と数値と年度がそろったものを集めると、自社の施策を考える材料になります。この記事の要点を振り返ります。
- 公式ページで施策と数値を確認できた9社のうち、7社が運動・スポーツの施策を入り口にしている
- 運動以外では、働き方(伊藤忠商事)や職場の文化(丸井グループ)から入る企業もある
- ロート製薬・SCSK・タニタのように、下がった数値も公表している企業がある
- 事例集はスポーツ庁・経済産業省・厚生労働省の公表資料で探せる
- 自社の事例は、測る・入り口を1つ選ぶ・数値を公表する、の順でつくれる
まずはスポーツエールカンパニー2026の認定団体事例集から、自社と同じ業種・規模の企業を1社探してみてください。
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