東京オリンピック女子体操種目別ゆか銅メダル、2017年世界選手権ゆか金メダル(日本女子63年ぶり)——村上茉愛はその輝かしいキャリアの中で、食事と向き合い方を根本から変えた経験を持つ。「食べたものの効果は2週間後に体に出る」という栄養士の言葉を胸に刻んだ村上が、インタビューで語った食事哲学を詳しく紹介する。
リオ五輪での「栄養の覚醒」:偏食からの脱却
村上茉愛が食事の重要性に本気で向き合ったのは、2016年リオデジャネイロ五輪のときだった。選手村で食事を摂っていると、監督からマンツーマンの栄養講習を受けるよう告げられた。「私が食べていたものが偏っていたから」と、自身も振り返る。
「1週間で食べたものを書き出す」衝撃の課題
栄養士から「この1週間で食べたものを書きなさい」「あなたが緑黄色野菜だと思うもの、タンパク質だと思うものをかき出して」という課題を与えられた。実際にやってみると、圧倒的に野菜が足りないことが明らかになった。「海外だと生ものはあまり摂らない方がいいと言われていて、火が通っている温野菜とかなら問題ないはずなのに、それもあまり摂取していなかった。そこから食事や栄養バランスとしっかり向き合うようになりました」と村上は語る。
食事改善が体重コントロールにも好影響
栄養バランスを整えたことで、体重管理にもプラスの変化が生まれた。村上は「体操選手にはベスト体重があると思います。私の場合は同じ数字をキープすることだけ考えていた」と言う。体操は瞬間的な動きが多く、他のスポーツに比べて消費カロリーが少ないため、「パワーのつく食事を摂って、練習で減らすという意識で取り組んでいた」。
(参考)プロアスリートを支える食事に迫る。第44回 体操競技・村上茉愛さんインタビュー – きのこらぼ
体操選手の基本食事設計:体型を維持しながら強くなる食べ方
体操競技は審美性と身体能力の両立が求められる。体重管理と競技パフォーマンスの両立は、全ての体操選手が直面する課題だ。村上の事例から、体操選手の食事設計の考え方を整理する。
「体のサインに従う」食事の考え方
「疲れていたら自然とご飯とかエネルギー源を多く摂りたくなりますし、体のサインに従って食事をしていた感じ」と村上は語る。過度なカロリー制限ではなく、体の声を聴きながら食事量を調整するアプローチは、長期にわたるパフォーマンス維持に適している。栄養制限による慢性的なエネルギー不足は、免疫力低下・疲労骨折リスク増加・月経不順(女性アスリートの三主徴)につながるため、適切な摂取量の確保が最優先だ。
「食べたものの効果は2週間後に出る」:計画的な食事管理
栄養士から言われた「食べたものの効果は2週間後に体に出る」という言葉が、村上の食事観を変えた。試合が2週間先にある場合は、今日食べるものが試合当日のコンディションに直結する。「試合がある場合は2週間前から調整していくことが大切。今となれば、自分のそういう知識をしっかり学んで、当時からやりたかったなと思います」と村上は振り返る。
練習終了後1時間以内の食事が回復の鍵
「現役時代は練習終了後1時間以内に食事をとることを意識していました」と村上は明かす。これは「ゴールデンアワー」と呼ばれる科学的に裏付けられた回復原則だ。運動後30〜60分はグリコーゲン再合成速度が最大化されており、この時間帯に炭水化物とタンパク質を摂取することで回復が加速する。
きのこが女性アスリートのコンディション管理に効く理由
村上が積極的に食生活に取り入れてきた食材が「きのこ」だ。「もともと便秘体質で、食物繊維を摂らないと腸内環境がすぐ悪くなりがち。そのストレスが体調面にマイナスの影響を及ぼすことも少なくない」と語り、きのこを意識して摂ることで腸内環境を整えてきた。
食物繊維が腸内環境と免疫力を支える
「最近、調子がよくないから、リセットしたいなと思う時には、きのこを食べるようにしていましたね」と村上。きのこに豊富なβ-グルカンや食物繊維は、腸内細菌のバランスを整え、免疫細胞の活性化を促す。集中的なトレーニング期間は免疫力が低下しやすいため、腸内環境の維持はパフォーマンス保護に直結する。
ビタミンB群が疲労回復と筋肉合成を加速する
きのこにはビタミンB1・B2・ナイアシンなどB群が豊富に含まれる。ビタミンB1は糖質からエネルギーを産生するために必須であり、不足すると疲労感が増す。特に筋肉を使う体操選手にとって、糖質・脂質・タンパク質代謝の補酵素となるB群の継続的な摂取は疲労を溜めない基盤となる。「きのこが入ったハンバーグは疲労回復にもなりますし、ヘルシーで食べ応えのある点も良いですね」と村上は話す。
筋肉量を落とさない減量食事法
体操選手が体重を落とす際に最も避けたいのが「筋肉量の低下」だ。筋肉が落ちると技の完成度が低下し、怪我のリスクも高まる。
タンパク質を最優先に確保する
減量期間中でも体重1kgあたり1.6〜2.2gのタンパク質確保が推奨される(60kgの選手なら96〜132g/日)。鶏胸肉・大豆・卵・白身魚など低脂質・高タンパクな食材を中心に献立を構成することで、筋肉を維持しながら体脂肪を落とせる。
緑黄色野菜でビタミン・ミネラルを補う
村上がリオ五輪で指摘された「緑黄色野菜の不足」は、アスリートに共通する盲点だ。ビタミンCは筋肉痛の原因となる活性酸素を除去し、ビタミンKは骨密度維持に、鉄は酸素運搬に不可欠だ。ほうれん草・ブロッコリー・パプリカなどを毎食取り入れることが、見えないパフォーマンス低下を防ぐ。
女性ホルモンと栄養の関係に気を配る
若い女性アスリートは、エネルギー不足が続くと月経不順や骨密度低下を引き起こす「女性アスリートの三主徴」に陥るリスクがある。カロリー制限より栄養密度(同じカロリーでも多くの栄養素を含む食品選択)を重視することで、体重管理とホルモンバランスの両立が可能になる。
まとめ:村上茉愛から学ぶ体操選手の栄養管理の本質
- リオ五輪での栄養指導が転機——「1週間の食事を書き出す」ことで偏食を可視化した
- 食べたものの効果は2週間後に出るため、試合2週間前から食事調整を開始する
- 練習後1時間以内の炭水化物+タンパク質摂取が回復速度を最大化する
- きのこのβ-グルカン・食物繊維・B群が腸内環境・免疫・エネルギー代謝を支える
- 減量中でもタンパク質と緑黄色野菜を最優先に確保し、筋肉量と女性ホルモンを守る
よくある質問(FAQ)
Q. 村上茉愛選手の主な競技実績を教えてください。
2017年世界選手権女子種目別ゆか金メダル(日本女子63年ぶり)、2021年東京オリンピック種目別ゆか銅メダル(日本女子初)が主な実績です。2021年引退後は後進の育成と体操普及活動に取り組んでいます。
Q. 村上茉愛選手はどんな食事を心がけていましたか?
①練習後1時間以内の食事摂取、②腸内環境維持のためのきのこ積極摂取(特にブナシメジ)、③体のサインに従ったエネルギー補給、④試合2週間前からの食事調整が主な実践内容です。リオ五輪以降、栄養バランスへの意識が大きく変わりました。
Q. 体操選手が体重を維持しながら筋肉を保つ食事法は?
①体重×1.6〜2.2gのタンパク質を毎日確保、②緑黄色野菜を毎食取り入れる、③練習後ゴールデンアワー(1時間以内)に炭水化物+タンパク質を補給、④エネルギー不足にならないよう適切なカロリーを確保する、の4点が基本です。
Q. きのこが体操選手のコンディションに良い理由は何ですか?
きのこには食物繊維(腸内環境・免疫)・β-グルカン(免疫活性化)・ビタミンB群(エネルギー代謝・疲労回復)が豊富に含まれています。特に競技期のストレスで免疫が低下しやすい時期に、腸内環境を整えることがコンディション維持に直結します。
Q. 女性アスリートが食事で特に気をつけるべき点は何ですか?
「女性アスリートの三主徴」(エネルギー不足→月経不順→骨密度低下)の予防が最重要です。体重管理のために極端な食事制限をするのではなく、栄養密度の高い食品(野菜・魚・豆類・きのこ)を選びながら適切なカロリーを確保する「質を高める」アプローチが長期的な健康と競技力維持につながります。
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