社内のダイバーシティ研修は年1回の座学で終わり、翌週にはもう誰も話題にしていない。そんな手詰まりを感じているなら、スポーツ界の動きが参考になります。
スポーツのダイバーシティとは、性別や障害の有無、性的指向・性自認などの違いにかかわらず、誰もがスポーツに関われる状態を目指す考え方です。日本では国が目標と実績を数字で公表していて、たとえばスポーツ団体の女性理事の割合は目標40%に対して32.1%(令和6年度)なんですよね。
目標を置き、毎年の数字を出し、足りない分を公表する。このやり方は、企業のダイバーシティ推進にもそのまま持ち込めます。ここからは、4つの数字で現在地を確かめたうえで、公表されている企業の実例を3つの入口に整理していきます。
スポーツのダイバーシティとは|違いを前提に誰もが関われる状態

スポーツのダイバーシティは、性別・障害・性的指向や性自認・団体の役員構成という4つの領域に分けると見通しがよくなります。国の計画や競技団体向けの指針を読み比べると、数値目標や指針が置かれているのはこの4領域でした。
よりどころになっているのは、スポーツ庁が令和4年3月25日に策定した第3期スポーツ基本計画(対象は令和4年度から令和8年度)です。この計画は「ダイバーシティ」という言葉を使わず、「スポーツを通じた共生社会の実現」を政策目標に掲げています。誰もが「する」「みる」「ささえる」スポーツの価値を享受し、さまざまな立場の人と「ともに」楽しめる環境をつくる、という内容ですね。
背景には東京2020大会があります。大会は3つの基本コンセプトの1つに「多様性と調和」を置き、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩」と位置づけました。
企業の言葉に置き換えると、経済産業省が「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義するダイバーシティ経営と、向いている方向は同じです。従業員の健康や働きがいまで含めて考えるなら、ウェルビーイング施策の設計とあわせて検討すると整理しやすくなります。
(参考)スポーツを通じた共生社会の実現(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
(参考)大会ビジョン(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 東京都ポータルサイト) – 東京都
Q. スポーツのダイバーシティとは何ですか?
性別、障害の有無、性的指向・性自認などの違いにかかわらず、誰もがスポーツを「する」「みる」「ささえる」立場で関われる状態を目指す考え方です。スポーツ庁の第3期スポーツ基本計画は、これを「スポーツを通じた共生社会の実現」という政策目標として掲げています。
スポーツのダイバーシティの現在地がわかる4つの数字
日本のスポーツ界のダイバーシティは、国が目標値と最新の実績を公表している4つの数字で確かめられます。どの数字も改善の途中にあり、目標には届いていません。
| 領域 | 指標 | 国の目標 | 最新の実績 |
|---|---|---|---|
| 性別 | 週1日以上のスポーツ実施率(20歳以上の女性) | 数値目標なし(向上させる) | 48.8%(令和7年度) |
| 障害 | 週1日以上のスポーツ実施率(20歳以上の障害者) | 40%程度 | 35.0%(令和7年度) |
| 団体の役員構成 | スポーツ団体の女性理事の割合 | 40% | 32.1%(令和6年度) |
| 障害 | 障害者スポーツを体験したことのある人の割合 | 20%程度 | 7.5%(令和6年度) |
出典:スポーツ庁「第3期スポーツ基本計画」、令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」、令和7年度「障害児・者のスポーツライフに関する調査研究」、「第3期スポーツ基本計画期間前半の進捗状況と課題」をもとにHuman Soarが作成
女性のスポーツ実施率は48.8%|男性との差は過去最大
スポーツ庁が令和8年3月11日に公表した令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、20歳以上の週1日以上のスポーツ実施率は全体で51.7%でした。男女別では男性55.0%、女性48.8%で、男女差は過去最大になっています。
とくに差が大きいのは働く世代です。同調査は、20代から50代の女性の運動・スポーツ実施時間が1週間あたり30~40分程度と短く、同世代の男性の半分程度にとどまると報告しています。
仕事と家庭の時間に追われる世代ほど、体を動かす時間が削られているわけです。女性活躍とスポーツの関係を考えるときは、この「時間の差」を出発点にすると施策がぶれません。
(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します – スポーツ庁
障害者の実施率は35.0%|目標40%程度まであと5ポイント
20歳以上の障害者の週1日以上のスポーツ実施率は、令和7年度の調査で35.0%でした(7~19歳は38.3%)。前年度の32.8%からは上がりましたが、第3期スポーツ基本計画が掲げる40%程度には5ポイント届いていません。
気になるのは、まったく運動していない人の内訳です。この1年間に1日も運動・スポーツをしていない20歳以上の障害者のうち、「関心はない」が73.6%、「行いたいと思うができない」が24.7%でした。
場所や用具を用意するだけでは足りず、関心を持つきっかけと、やりたい人が参加できる条件の両方が必要だと読めます。企業が体験の場を提供する意味はここにあります。
(参考)令和7年度「障害児・者のスポーツライフに関する調査研究」の調査結果について – スポーツ庁
スポーツ団体の女性理事は32.1%|目標は40%
スポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」は、外部理事25%以上、女性理事40%以上の目標割合を設定し、達成に向けた具体的な方策を講じるよう求めています。この項目の見出しは「組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること」です。
実績はどうでしょうか。同コードによると、中央競技団体の女性理事の割合は、策定前の平成30年度の平均15.6%から令和4年度に26.5%へ上がりました。第3期スポーツ基本計画の中間評価では、スポーツ団体の女性理事の割合は令和6年度に32.1%と報告されています。
6年ほどでおよそ2倍になった計算ですが、目標の40%にはまだ届きません。数値目標を置き、団体ごとに説明と公表を求める仕組みが、数字を動かしてきたといえます。競技団体の統治そのものに関心があれば、スポーツ団体のガバナンス対応もあわせて確認してみてください。
(参考)スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け> – スポーツ庁
障害者スポーツの体験者は7.5%|目標は20%程度
第3期スポーツ基本計画は、障害者スポーツを体験したことのある人の割合を20%程度にする目標も置いています。中間評価で示された令和6年度の現状は7.5%でした。
4つの数字のなかで、目標との開きがいちばん大きいのがこの指標です。裏を返すと、ボッチャや車いすバスケットボールを一度も体験したことがない人が9割を超えているということですね。
社内イベントで体験の機会を1回つくるだけでも、参加した社員はこの「7.5%」の側に入ります。国の目標に直接つながる、取り組みやすい領域だと思います。
Q. 日本のスポーツ界でダイバーシティはどこまで進んでいますか?
数字は改善していますが、国の目標にはまだ届いていません。スポーツ団体の女性理事の割合は目標40%に対して令和6年度が32.1%、20歳以上の障害者の週1日以上のスポーツ実施率は目標40%程度に対して令和7年度が35.0%です。
国際大会とスポーツ指導の現場で進むダイバーシティ対応
国際大会では男女の参加割合と混合種目、指導の現場では性的指向・性自認への配慮が、この数年で具体的に動きました。ここでは東京2020大会の報告と、日本スポーツ協会の取り組みを確認します。
東京2020大会は女子選手の割合が約48%
東京2020大会の「多様性と調和」におけるジェンダー平等報告書(概要版)によると、女子選手の参加割合はオリンピックが約48%、パラリンピックが約42%で、いずれも大会史上最高でした。男女混合種目は、前回大会に比べてオリンピックが9種目から18種目に、パラリンピックが38種目から40種目に増えています。
運営側でも、組織委員会は理事に占める女性の割合を42%に引き上げました。選手の構成だけでなく、決める側の構成を変えた点は、企業の役員・管理職登用と重なる論点です。
こうした流れは、スポンサーとして関わる企業の判断にも影響しています。女子スポーツへのブランド投資が広がっている背景としても押さえておきたいところです。
(参考)多様性と調和(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 東京都ポータルサイト) – 東京都
性的指向・性自認への配慮は日本スポーツ協会がガイドライン化
性的指向・性自認(SOGI)については、公益財団法人日本スポーツ協会が『体育・スポーツにおける多様な性のあり方ガイドライン ~性的指向・性自認(SOGI)に関する理解を深めるために~』を2020年2月に初版として発行し、改訂を重ねています。
同協会は、東京2020大会に公表されたものとしては初めてトランスジェンダー女性選手が参加したこと、2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が施行されたことを、取り組みの背景に挙げています。
なお、スポーツ庁が性的マイノリティに特化して出している指針は、公表された情報では確認できませんでした。社内のスポーツイベントで更衣室やチーム分けを考えるときは、日本スポーツ協会のガイドラインが実務の手がかりになります。
企業の数字と並べて見るスポーツのダイバーシティ

スポーツ界の数字は、企業の数字と並べると自社の立ち位置を測る物差しになります。女性の登用と障害者雇用の2つで比べてみます。
上の図は、スポーツ団体の女性理事の割合と、企業の役員・管理職に占める女性の割合を並べたものです。調査の対象も役職の定義も異なるため単純な優劣はつけられませんが、目標を公表している領域のほうが数字は高く出ています。
女性の登用はスポーツ団体32.1%と企業の課長相当職以上13.8%
厚生労働省が令和8年7月31日に公表した「令和7年度雇用均等基本調査」によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は13.8%でした(令和7年10月1日現在、常用労働者10人以上の企業が対象)。前回の13.1%から0.7ポイントの上昇です。役員に占める女性の割合は21.0%でした。
一方、スポーツ団体の女性理事は令和6年度で32.1%です。理事と管理職は役割が違うので横並びの比較はできませんが、スポーツ団体には「40%」という数値目標と、毎年の自己説明・公表の仕組みがあります。
自社に置き換えるなら、女性管理職比率の目標値を決めているか、その進み具合を毎年社内外に出しているか、の2点を確認してみてください。目標のない数字は、なかなか動きません。
障害者雇用は実雇用率2.41%|法定雇用率は2.7%に引き上げ
厚生労働省の「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」(令和7年6月1日現在)によると、民間企業の雇用障害者数は70万4,610.0人、実雇用率は2.41%で、法定雇用率を達成した企業の割合は46.0%でした。この時点の法定雇用率は2.5%です。
その法定雇用率は、令和8年7月1日から2.7%に引き上げられました。達成企業が半数に満たない状態で基準が上がったことになり、採用だけでなく、入社後に力を発揮してもらう職場づくりが問われています。
スポーツ界の数字が教えてくれるのは、ここでも「関心」と「参加できる条件」の両方が要るという点です。パラスポーツに触れる機会は、障害のある同僚と働くことを具体的に想像する入口になります。
あわせて読みたいパラアスリート雇用企業事例|採用担当が押さえる定着策›
(参考)障害者の法定雇用率引き上げのお知らせ(令和8年7月以降) – 厚生労働省 福岡労働局
企業がスポーツのダイバーシティを自社に生かす3つの入口
公表されている企業の実例を整理すると、入口は「支援と体験」「雇用」「認定」の3つに分かれます。負担の軽いものから順に見ていきます。
パラスポーツの支援と体験会に社員が参加する
スポーツ庁の事例紹介によると、あいおいニッセイ同和損害保険は2014年4月、本社経営企画部にスポーツチームを組成し、スポーツ支援を本格的に始めました。きっかけは車いすバスケットボール日本代表選手らへのヒアリングで、約60%の選手が自動車事故により車いす生活になったと分かったことだそうです。
三菱商事も2014年に、パラスポーツの裾野を広げ、理解度・認知度を高めるプロジェクト「DREAM AS ONE.」を始めています。どちらも本業や自社の課題とつながる理由を持っている点が共通していますね。
自社でまず試すなら、大会の応援や体験会に社員が参加する形が現実的です。開催日が決まっている大会に合わせる場合は、日程が過ぎたあとも続けられるよう、社内の体験会を年間計画に入れておくと単発で終わりません。
(参考)障害者スポーツ推進事業|障害者スポーツ支援企業の事例紹介 – スポーツ庁
アスリートを社員として迎える
日本オリンピック委員会(JOC)の「アスナビ」は、企業と現役トップアスリートをマッチングする就職支援制度です。JOCの発表では、就職実績(内定者含む)は延べ256社/団体467名(2026年10月1日時点)にのぼります。
パラアスリートの雇用を公表している企業もあります。東京都が認定した令和7年度の東京都スポーツ推進企業の一覧には、オープンハウスグループ(パラアスリートの雇用)、コロプラ(パラアスリートの雇用と支援)、エフピコ(ユニバーサルスポーツであるフロアホッケー活動をグループ企業あげて推進)といった取り組みが載っています。
雇用は体験会より準備が要ります。勤務時間と競技時間の配分、遠征時の扱い、引退後の配置までを事前に決めておくと、受け入れる職場も本人も迷いません。
(参考)トップアスリート就職支援ナビゲーション「アスナビ」による選手の就職決定・内定について – 日本オリンピック委員会
(参考)令和7年度東京都スポーツ推進企業の認定を行い、推進企業が656社になりました! – 東京都
認定制度で取り組みを社外に示す
続けるための仕掛けとして使えるのが認定制度です。スポーツ庁は、従業員のスポーツ活動の促進に積極的に取り組む団体を「スポーツエールカンパニー」として認定しており、2026年は過去最多の1,635団体が認定されました(認定期間は2026年1月30日から2026年12月31日)。
東京都も、従業員のスポーツ活動の促進や、スポーツ分野での支援に取り組む企業を「東京都スポーツ推進企業」として毎年度認定しています。令和7年度は656社で、パラスポーツ体験の開催やパラアスリートの雇用も認定理由に含まれていました。
どちらも年度ごとの認定なので、募集期間は年によって変わります。期間を過ぎていた場合は、次の募集までに社員のスポーツ実施状況を記録しておくと、申請のときに慌てずに済みます。
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁
Q. 企業がスポーツのダイバーシティに取り組むとき、何から始めればよいですか?
公表されている企業の実例で多いのは、パラスポーツの支援や体験会に社員が参加する形です。その先の選択肢として、アスリートを社員として迎える方法と、スポーツ庁の「スポーツエールカンパニー」などの認定制度に申請する方法があります。
まとめ|スポーツのダイバーシティは目標と実績の数字から学ぶ
スポーツのダイバーシティは、理念だけでなく目標値と実績が公表されている点に学ぶ価値があります。要点を振り返ります。
- スポーツのダイバーシティは、国の計画では「スポーツを通じた共生社会の実現」として掲げられている
- 女性の実施率48.8%、障害者の実施率35.0%、スポーツ団体の女性理事32.1%、障害者スポーツの体験者7.5%が現在地
- 企業の課長相当職以上に占める女性は13.8%、障害者の実雇用率は2.41%で、法定雇用率は令和8年7月1日から2.7%
- 企業の入口は、パラスポーツの支援と体験、アスリートの雇用、認定制度の3つ
- 目標を置いて毎年公表する仕組みが、数字を動かしている
まずは自社の数字を1つ選び、目標値と公表の時期を決めるところから始めてみてください。
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