2023年度から、一定規模以上の上場企業は有価証券報告書(有報)で人的資本に関する情報の開示が義務化されました。「何をどう書けばいいのか」と頭を悩ませている人事・IR担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、有報で評価される健康施策の書き方と、ウェルビーイング関連の取り組みを開示情報として活かすポイントを解説します。
人的資本開示とは?有価証券報告書で求められる内容
人的資本開示とは、従業員の採用・育成・定着・健康管理などに関する情報を投資家や社会に開示する取り組みです。2023年3月期以降、金融商品取引法に基づく有価証券報告書の「従業員の状況」欄において、人材育成方針・社内環境整備方針・関連する指標と目標の記載が義務化されています。
義務化の背景:非財務情報への投資家の関心
内閣官房の「非財務情報可視化研究会」が2022年8月に公表した「人的資本可視化指針」は、企業が人への投資を経営の中核と位置づけ、その取り組みと成果を社会に発信するための指針として策定されました。グローバル標準(ISO 30414)との整合性も意識されており、国内外の機関投資家が人的資本情報を投資判断に活用するようになっています。
開示が求められる主な項目
人的資本可視化指針では、採用・育成・流動性・ダイバーシティ・健康・安全・エンゲージメントの7領域が例示されています。このうち「健康・安全」の領域は、ウェルビーイング施策の実績を定量的に示す最も自然な場所です。単に施策の存在を記載するだけでなく、「施策前後で離職率が〇%低下した」「ストレスチェックの高ストレス者率が〇%改善した」など数値で効果を示すことが高評価につながります。
ウェルビーイング施策が人的資本開示で評価される3つの理由
ウェルビーイング施策は、単なる福利厚生ではなく、企業の競争力や将来の収益性と連動するものとして投資家に評価されています。以下の3つの観点から、その理由を整理します。
| 評価される理由 | 投資家・ステークホルダーへの訴求ポイント |
|---|---|
| ①投資対効果の可視化 | 健康施策コストと生産性改善・離職率低下の効果を数値化できる |
| ②エンゲージメント向上 | 施策実施後のエンゲージメントスコア改善が企業業績との連動を示す |
| ③外部認定による客観性 | スポーツエールカンパニーや健康経営優良法人の認定が客観的な証拠になる |
表:ウェルビーイング施策が人的資本開示で評価される理由
①投資対効果の可視化:コストではなく「投資」として示す
経済産業省の「健康投資管理会計ガイドライン」では、健康への投資を財務的に可視化する方法が整理されています。スポーツ施策や健康プログラムにかかった費用と、欠勤率の低下・プレゼンティーズム改善・医療費削減などの効果額を対比させることで、投資としてのリターンを示せます。これが有報の記載で最も説得力を持つアプローチです。
②エンゲージメント向上:数字で組織の活力を証明する
従業員エンゲージメントは、人的資本開示の文脈で最も注目される指標のひとつです。スポーツ施策・ウェルビーイングプログラムを実施した前後のエンゲージメントスコア(例:パルスサーベイの結果)を比較し、改善が見られる場合は有報にその数値を記載できます。エンゲージメントが高い組織は離職率が低く生産性が高い傾向があると多くの調査が示しており、投資家が重視する「人材の定着力」を裏付ける根拠になります。
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③外部認定による客観性:第三者のお墨付きを活用する
スポーツエールカンパニー(スポーツ庁)や健康経営優良法人(経済産業省)などの外部認定は、自社の健康施策が一定の基準を満たしていることを第三者が証明するものです。有報にこれらの認定名称・取得年度を記載することで、開示情報の信頼性と客観性が高まります。認定取得のプロセス自体が施策の整備・記録を促すため、開示情報の質向上にも直結します。
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有報で評価される健康施策の書き方のポイント
人的資本開示の記載において、「施策を実施しました」という事実の羅列では投資家の評価は得られません。「なぜ実施したか」「どう効果を測るか」「次にどうするか」の流れで記述することが重要です。
KPIを事前に設定して数値で示す
施策の効果を開示するためには、実施前にKPI(重要業績評価指標)を設定しておく必要があります。例えば「社内スポーツイベントへの参加率50%以上」「ストレスチェック高ストレス者率を5%以下に低減」のように、測定可能な目標と実績のセットで記載します。KPIがない場合は「施策を行った」という事実のみになり、投資家への訴求力は大幅に下がります。
施策の設計・実施・評価・改善のサイクルを見せる
単年度の結果ではなく、複数年にわたる改善の推移を示すことができると、人的資本への継続的な投資姿勢が伝わります。「前年比でエンゲージメントスコアが3ポイント向上」「健康診断の受診率が95%→98%に改善」のような数値の変化が、企業の本気度を示します。初年度から全項目の数値を揃える必要はなく、開示できるところから始め、翌年度以降に拡充する姿勢を示すことも評価されます。
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まとめ
人的資本開示は、健康施策を「コスト」から「投資」として捉え直す絶好の機会です。ウェルビーイング施策を数値化し、外部認定を活用することで、投資家・求職者・取引先など多様なステークホルダーに訴求できる開示情報が作れます。
- 2023年度から有価証券報告書での人的資本開示が義務化(健康・エンゲージメント・育成等が対象)
- 健康投資管理会計ガイドラインを使えば、施策の費用対効果を財務的に可視化できる
- スポーツエールカンパニー等の外部認定は、開示情報の客観性を高める有効な手段
- KPIの事前設定と複数年にわたる改善推移の記載が、投資家の信頼獲得につながる
- 初年度から完璧を目指さず、開示可能な範囲から始めて拡充する姿勢を示せばよい
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