山口翔輝の調整法|レースを重ねて状態を上げる駅伝の発想

創価大学の山口翔輝選手のレースを軸にした調整法を解説する記事のアイキャッチ スポーツアスリート

大きな大会に向けて調子を合わせるとき、多くの選手は出場するレースを絞ります。レースは全力を出す場であり、出せばその分だけ消耗する。だから本番前は温存する、という考え方です。

ところが、まったく逆の方法で状態を上げている選手がいます。創価大学の山口翔輝選手です。試合が続いているときほど調子が上がり、試合が途切れると崩れる。本人がそう語っています。この記事では、山口選手の言葉と箱根駅伝での反省を手がかりに、レースを調整の手段として使うという発想を整理し、公的なコンディショニングの考え方と重ね合わせます。

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試合が途切れて体に狂いが出た|山口翔輝が箱根4区で直面したこと

山口翔輝選手は創価大学の長距離ランナーで、榎木和貴監督のもとで走っています。2026年1月の第102回箱根駅伝では4区を任されましたが、区間15位という結果に終わりました。

本人が挙げた直接の要因は喘息の症状です。呼吸がしづらい状態で出場することになり、力を出し切れませんでした。ただし本人の分析はそこで止まっていません。もう一つの要因として、それまで続いていた試合のサイクルが途切れたことを挙げています。全日本大学駅伝と世田谷246ハーフマラソンを連戦した時期は好調だったのに、箱根に向けて試合の間隔が空いたことで、体のリズムが崩れたという説明です。

試合が途切れ、体に狂いが出た。この言い方は、一般的なピーキングの発想とは順序が逆です。多くの選手にとって試合の間隔が空くことは調整のための時間ですが、山口選手にとっては状態が落ちる要因になっていました。

(参考)【動画】「試合が途切れ、体に狂いが…」創価大学・山口翔輝が語る箱根4区失敗の理由 – NumberPREMIER(文藝春秋)

レースを消耗と見るか調整の手段と見るか

この違いは好みの問題ではなく、調整という作業をどこで行うかという設計思想の違いです。両者を並べると輪郭がはっきりします。

レースを消耗と見る考え方と調整の手段と見る考え方を比較した図解

図:レースの位置づけをめぐる2つの考え方

多数派はレースで出し切るから試合数を絞る

一般的には、レースで100%を出すとコンディションが一度大きく落ちるため、狙った大会から逆算して出場試合数を絞る選手が圧倒的多数です。調整は練習の側で行い、レースは成果を確認する場という位置づけになります。

山口翔輝は試合が続くほど状態が上がると語る

山口選手は、自分の体調や状態が一番わかるのは試合だと言い切ります。全力で走ることで改善点が見え、次の練習を組み立てやすくなるという考え方です。そして高い水準を保ったまま試合を重ねていけば、自然とピーキングも取りやすくなる、と語ります。榎木監督も、ハーフを走った2日後、3日後にはもう次の目標に向かって練習を再開している、やりすぎるぐらいやる選手というのは山口が初めて、と証言しています。

箱根5区から4区へ|記録で見る2年間の推移

この調整法が実際にどう機能しているのかは、公式記録に表れています。直近の主要なレースを並べてみます。

大会 区間・種目 記録 結果
第101回箱根駅伝(2025年1月) 5区 1時間12分18秒 区間10位
第102回箱根駅伝(2026年1月) 4区 1時間2分44秒 区間15位
ハーフマラソン(2026年4月) ハーフ 1時間2分55秒 優勝

表:山口翔輝選手の直近の主要レースと結果

第101回箱根駅伝|山登りの5区で区間10位

2025年1月の第101回大会では、山登りの5区を1時間12分18秒で走り、区間10位でまとめています。学生ランナーにとって最も特殊な区間を任され、二桁順位ながら大きく崩れずに走り切りました。

第102回箱根駅伝|4区で区間15位に沈む

翌2026年1月の第102回大会は4区で1時間2分44秒、区間15位でした。前年より区間順位を落としており、本人が挙げた喘息と試合間隔の空白が結果に表れた形です。

(参考)東京箱根間往復大学駅伝競走 個人記録 – 関東学生陸上競技連盟

2026年4月のハーフマラソン|1時間2分55秒で優勝

そこから約3か月後、山口選手はハーフマラソンを1時間2分55秒で走り、2位に22秒差をつけて優勝しました。序盤はハイペースの先頭集団に7km過ぎまでついていく走りを見せています。箱根の不振から明確に立て直したレースです。なお本人は2026年2月に延岡西日本マラソンで初マラソンに挑戦しており、2026年8月の北海道マラソンでのMGC獲得を目標に掲げています(本記事は2026年8月時点の情報にもとづきます)。

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(参考)創価大学・山口翔輝がハーフマラソンで優勝 – JBpress(日本ビジネスプレス)

駅伝の調整記事10本のうちレースを調整手段と捉えたのは2本だった

この考え方がどれくらい共有されているのかを確かめるため、筆者は「箱根駅伝 選手 コンディション 調整」「駅伝 ピーキング 調整法」の検索上位から実際に本文を読めた10本を集め、6つの論点について言及の有無を数えました。

駅伝とピーキングに関する検索上位10本を論点別に集計した棒グラフ

図:「箱根駅伝 選手 コンディション 調整」「駅伝 ピーキング 調整法」の検索上位のうち本文を読めた10本を筆者が2026年8月に調査・分類

レースそのものを調整の手段として位置づける考え方に触れていたのは10本中2本でした。しかもその2本も扱いは限定的で、大学チームが記録会を目安に使うという観戦者向けの解説と、他のレースを調整の一環と認識するのもよいという一文だけです。

日本の公的機関の資料を引いた記事は0本だった

公的機関や研究を引いた記事は3本ありましたが、いずれも海外の査読論文でした。スポーツ庁や日本スポーツ振興センター、日本学生陸上競技連合といった国内の一次情報にあたった記事は1本もありません。

企業や組織の視点に接続した記事も0本だった

実践手順を示した記事は4本ありましたが、すべて市民ランナーかトレーナー向けでした。人材育成や組織運営の文脈にピーキングの考え方を接続した記事は見当たりません。

ピーキングの逆算スケジュールは6本が扱っている

一方で、本番から逆算して何週間前に何をするかという説明は10本中6本にありました。この部分の情報は充実しているので、読者が困っているのは逆算の方法ではなく、そもそもレースをどう位置づけるかという前提のほうだと考えられます。

状態は感覚ではなく測って把握するという公的な考え方

山口選手が試合を自分の状態を知る場として使っているのは、言い換えれば定期的に測定しているということです。同じ発想は、国の機関が公開している資料にも見られます。

独立行政法人日本スポーツ振興センターのハイパフォーマンススポーツセンターは「アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン」を公開しています。これはアスリートによるセルフコンディショニングをコンセプトに実践的な手技と知識を体系化したもので、ハイパフォーマンス領域のノウハウがライフパフォーマンス領域に応用・展開されることで、国民の健康保持・増進に寄与することを目指すと明記されています。トップの調整法を一般に橋渡しする意図が、国の側から示されているわけですね。

あわせて国立スポーツ科学センター(JISS)は「フィットネス・チェックマニュアル」として、実際に行っている体力測定の項目を公開しています。最大酸素摂取量や20mシャトルラン、等速性の膝伸展・屈曲筋力などが並び、調子を感覚ではなく数値で押さえるための手続きが具体的に示されています。山口選手にとってのレースは、この測定にあたる行為だと捉えると理解しやすくなります。

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(参考)アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン – 独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター

(参考)フィットネス・チェックマニュアル – 独立行政法人日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター(JISS)

レースを調整に使うために先に決める3つのこと

この方法は全員に向いているわけではありません。山口選手のように試合の連続で状態が上がる人もいれば、間隔が必要な人もいます。だからこそ、始める前に決めておく項目があります。

自分がどちらのタイプかを記録で確かめる

まず、試合が続いた時期と間隔が空いた時期の結果を、過去1年分だけ並べてみます。山口選手が自分の傾向を語れるのは、全日本と世田谷を連戦した時期と箱根前の空白期の違いを実感として持っているからです。感覚で決めず、実際の記録で確かめるのが出発点になります。

レース後に練習を再開する日をあらかじめ決めておく

榎木監督が語っていたように、山口選手はハーフを走った2日後、3日後には次に向けて動き出しています。この方法の要は、休むかどうかを毎回悩まないことです。レースの前に、終わった何日後から何を再開するかを決めておくと、調子や気分に判断が振り回されません。

体調が崩れたときに降りる基準を持っておく

試合を重ねる方法は、体調不良を抱えたまま走り続けるリスクと隣り合わせです。山口選手も呼吸がしづらい状態で箱根4区に出場しています。どの状態なら出場を見送るのか、その判断を誰がするのかを事前に決めておくことが、この調整法を続けるための条件になります。体調に関する判断は必ず医師や専門スタッフと相談してください。

この3点は、人材育成の設計にもそのまま置き換えられます。実践の機会を連続して与えたほうが伸びる人もいれば、振り返りの時間を挟まないと消耗する人もいます。企業の側がやるべきなのは、全員に同じ研修間隔を当てはめることではなく、どちらのタイプかを本人の実績で確かめ、次の機会までの間隔と、降りてよい基準をセットで用意しておくことでしょう。

よくある質問

山口翔輝選手の調整法について、検索されることの多い疑問をまとめました。

山口翔輝選手はどこの大学の選手ですか

創価大学の長距離ランナーで、榎木和貴監督のもとで走っています。早稲田大学の山口智規選手など、名前の似た選手が同時期に取り上げられることがあるため、所属とあわせて確認するのが確実です。

箱根駅伝ではどの区間を走りましたか

第101回大会(2025年1月)では5区を1時間12分18秒で走り区間10位、第102回大会(2026年1月)では4区を1時間2分44秒で走り区間15位でした。

レースを重ねる調整法は誰にでも合いますか

山口翔輝選手自身の実感にもとづく方法であり、榎木監督も、やりすぎるぐらいやる選手は山口が初めてだと語っています。一般的には試合数を絞る選手が多数派です。過去の記録を並べて自分の傾向を確かめてから判断してください。

市民ランナーが参考にできる部分はありますか

あります。レースを結果を出す場だけでなく、自分の状態を測る場としても使うという発想です。あわせて、レース後に練習を再開する日を事前に決めておくと、休養の判断が気分に左右されにくくなります。

まとめ

山口翔輝選手の調整法から読み取れることを整理します。

  • 箱根4区の不振の要因として、喘息の症状に加えて試合の間隔が空いたことを本人が挙げている
  • 自分の状態が一番わかるのは試合だと語り、レースを重ねることで状態を上げていく
  • 第101回箱根5区は区間10位、第102回4区は区間15位、その後2026年4月のハーフは1時間2分55秒で優勝
  • 検索上位10本のうち、レースを調整の手段と捉えた記事は2本、国内の公的資料を引いた記事は0本だった
  • 始める前に、自分のタイプを記録で確かめ、再開日を先に決め、降りる基準を持っておく

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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