会議で決めたはずのことが実行に移されない、期限が近づくまで優先順位が定まらない。人材育成・研修担当者であれば、社員のこうした「分かっているのに動けない」状態に頭を悩ませた経験があるはずです。
スポーツの世界でトップアスリートの強さを支える力として研究が進む「実行機能」を、企業研修に応用する動きが広がっています。この記事では、実行機能とビジネスパフォーマンスの関係、研修形態ごとの費用相場、そして人材育成担当者が実際に研修を設計する際の判断フローを解説します。
実行機能とは何か|ビジネスパフォーマンスとの関係
実行機能とは、目標に向かって計画を立て、注意をコントロールし、状況の変化に応じて行動を切り替える一連の認知能力のことです。スポーツ心理学の分野では、瞬時の判断が求められるアスリートの意思決定力を支える基盤として研究されてきました。
ビジネスの現場に置き換えると、複数のタスクを抱えながら優先順位を組み替える力、想定外のトラブルに直面したときに冷静に次の一手を選ぶ力が、実行機能に相当します。単なる知識研修では鍛えにくい領域であるため、体を動かしながら意思決定の練習を積む「コーポレートアスリート」的な研修設計が注目されています。
経済産業省は健康経営の推進において、従業員一人ひとりの心身の健康を組織の基盤と位置づけ、生産性向上につながる投資として捉える考え方を示しています。実行機能への投資も、この人的資本投資の一部として説明しやすいテーマです。
研修形態別の費用相場を比較|集合・eラーニング・オーダーメイド
実行機能を鍛える研修を導入する場合も、一般的な企業研修と同じく形態によって費用の水準が大きく異なります。予算感を持って検討できるよう、代表的な3形態の相場を整理しました。
| 研修形態 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 集合研修(1日6時間程度) | 15万〜30万円/回 | 体を動かすワークを含む実行機能トレーニングを一度に体験させたい場合 |
| eラーニング・月額SaaS型 | 月額2万〜20万円(利用人数により変動) | 全社員が継続的に少しずつ取り組める仕組みを作りたい場合 |
| オーダーメイド型カスタム研修 | 50万〜300万円以上/プログラム | 自社の役職別課題に合わせて設計を一から作り込みたい場合 |
Human Soar編集部が研修サービス比較サイトの公開情報(2026年時点)をもとに集計・作成。
集合研修|体験の質を優先したい場合
実行機能は座学だけでは鍛えにくく、体を動かしながら瞬時の判断を繰り返す実技的なワークが効果を出しやすい領域です。集合研修は講師のファシリテーションを直接受けられる分、1回あたりの単価は高めですが、参加者の反応を見ながらその場で難易度を調整できる利点があります。
eラーニング・SaaS型|継続性を優先したい場合
実行機能のトレーニングは一度きりの研修より、短時間の練習を継続する方が効果を実感しやすいという特徴があります。月額課金型のサービスであれば、対象人数を絞って小さく始め、効果を見ながら対象を広げるという段階的な導入がしやすくなります。
オーダーメイド型|自社課題への適合を優先したい場合
管理職の意思決定力強化、若手の優先順位づけ強化など、対象層によって求められる実行機能の要素は異なります。オーダーメイド型は費用こそ高くなりますが、自社の組織課題に直結したプログラムを設計できるため、対象を絞った投資として検討する価値があります。
コーポレートアスリート発想を取り入れた研修設計の判断フロー
実行機能研修を検討する際、いきなり形態を決めるのではなく、まず対象課題を特定してから設計に進むことが重要です。Human Soarでは以下の4ステップで整理しています。
特にステップ4を研修実施前に決めておかないと、「受講者の満足度は高かったが業務にどう活きたか説明できない」という状態に陥りがちです。人的資本投資として社内で説明責任を果たすためにも、効果測定の設計は形態選定と同じくらい重視してください。
人材育成担当者が導入前に検討すべき視点
実際に研修を組み立てる段階で、対象範囲の絞り方と効果測定の設計は特につまずきやすいポイントです。それぞれ具体的に見ていきます。
対象範囲の絞り方
全社員を対象にすると効果検証が曖昧になりやすいため、まずは離職率や生産性の課題が明確な部署・階層に絞って試験導入することをおすすめします。人的資本投資と離職率改善の関係を整理した記事も参考になります。
あわせて読みたいスポーツで離職率を改善する仕組み|データと事例で解説›
効果測定の設計
実行機能の変化を直接数値化するのは難しいため、業務上の代理指標(会議の意思決定にかかる時間、期限遵守率など)を先に決めておくと、研修後の振り返りがしやすくなります。人的資本投資全体の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
あわせて読みたい人的資本投資とは?スポーツを活かした事例と効果を出す戦略›
今週から始められる研修設計の3ステップ
- ステップ1:直近3か月の1on1や評価面談の記録から、実行機能に関する課題(優先順位づけ・切り替え・自己コントロール)を3つ書き出す
- ステップ2:課題が最も顕著な部署・階層を1つ選び、小規模なパイロット研修(集合またはeラーニング)を企画する
- ステップ3:業務上の代理指標を1つ決め、研修実施前と実施8週間後で比較する
いきなり全社展開を目指すのではなく、パイロット導入で効果測定の型を作ってから拡大する方が、経営層への説明もしやすくなります。
よくある質問
実行機能研修と一般的なリーダーシップ研修は何が違いますか
リーダーシップ研修が主に知識・フレームワークの習得を目的とするのに対し、実行機能研修は瞬時の判断や切り替えといった認知的な反応そのものを繰り返し練習する点が異なります。体を動かすワークを組み込むことが多いのも特徴です。
効果はどのくらいの期間で現れますか
個人差はありますが、継続的なトレーニングであれば8週間前後で業務上の代理指標に変化が見え始めるケースが多いとされています。単発の集合研修のみで終わらせず、eラーニングなどで継続の仕組みを作ることが効果の定着につながります。
まとめ
- 実行機能はスポーツ心理学由来の概念で、優先順位づけ・切り替え・自己コントロールを含む認知能力を指す
- 研修形態は集合15万〜30万円/回、eラーニング月額2万〜20万円、オーダーメイド50万〜300万円以上と費用差が大きい
- 研修設計は「課題の特定→対象範囲の設定→形態の選定→効果測定」の4ステップで進めると失敗しにくい
- 対象範囲を絞ったパイロット導入と、業務上の代理指標による効果測定が成果の可視化に直結する
- 単発研修で終わらせず、継続の仕組みを組み合わせることで実行機能の定着が期待できる
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