中心市街地の空洞化、試合日以外は閑散とするスタジアム周辺、限られた予算での再開発。自治体・地域振興担当者であれば、こうした課題を前に「スタジアムを核にしたまちづくり」という言葉を一度は検討したことがあるのではないでしょうか。
この記事では、国内で先行するスタジアム複合開発の事例を比較しながら、地域活性化にどうつながっているのか、そして自治体担当者が検討を進める際の判断フローを解説します。
なぜ今「スタジアム複合開発」が地域活性化の切り札とされるのか
スポーツ庁は「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」を策定し、まちづくりや地域活性化の核となるスタジアム・アリーナを全国に整備する取り組みを進めています。スタジアム単体の集客ではなく、飲食・宿泊・観光といった周辺産業への経済波及効果を含めて地域全体の価値を高める発想が特徴です。
従来のスタジアムは試合開催日のみ人が集まる「単機能施設」でしたが、複合開発型は商業施設・オフィス・公園などを併設し、365日にぎわいが生まれる仕組みを目指します。自治体にとっては、単独の公共投資では実現しにくい民間資金の呼び込みが可能になる点も大きな魅力です。
(参考)スタジアム・アリーナ改革ガイドブック<第3版> – スポーツ庁・経済産業省
国内の複合開発事例3件を比較|開業年・規模・特徴
実際にどのような施設がどの程度の規模で複合開発を進めているのか、代表的な3事例を比較しました。
| 施設名 | 開業・所在地 | 複合開発の特徴 |
|---|---|---|
| エスコンフィールドHOKKAIDO(Fビレッジ) | 2023年3月・北海道北広島市 | 収容約3.5万人。JR新駅と球場を結ぶ複合施設を2028年春開業予定、職・住・学・遊の融合を目指す |
| エディオンピースウイング広島 | 2024年2月・広島市中央公園 | 収容約2.9万人。国内初の“まちなかスタジアム”として公園と一体整備し、試合日以外もにぎわいを創出 |
| サンガスタジアム by KYOCERA | 2020年1月・京都府亀岡市 | 収容約2.2万人。亀岡駅北側徒歩3分という好立地を活かした“まちなかスタジアム”の先行事例 |
Human Soar編集部が各施設の公式発表・報道情報(2026年時点)をもとに集計・作成。
エスコンフィールドHOKKAIDO|広域から人を呼び込む郊外型モデル
北広島市は市の最上位計画の基本構想にFビレッジを位置づけ、北海道内の他地域との連携協議会まで組織しています。郊外に立地しながらも新駅整備と連動させることで、広域から人を呼び込む「拠点開発型」の複合開発モデルといえます。
エディオンピースウイング広島|街なか型で日常利用を狙うモデル
市中心部の公園と一体整備することで、試合開催日以外の日常的な利用を狙う「街なか型」の代表例です。原爆ドームなど既存の観光資源とも徒歩圏でつながっており、既存のまちの資産を活かす発想が特徴です。
サンガスタジアム by KYOCERA|駅近立地を活かす先行モデル
2020年開業と3施設の中では最も早く、駅近立地を活かした“まちなかスタジアム”の先行事例として後続の計画にも影響を与えています。人口規模が大きくない自治体でも、立地選定次第で複合開発が成立し得ることを示した事例です。
自治体が検討を進める際の判断フロー
複合開発の検討は、施設規模から入るのではなく、まず立地とまちづくりの位置づけを固めることが重要です。Human Soarでは以下の4ステップで整理しています。

立地選定
複合開発の第一歩は、駅近立地か郊外拠点かの選択です。駅近立地は来街のハードルが低く日常的な回遊を生みやすい一方、郊外拠点は広い用地を確保しやすく、駐車場や大型商業施設との併設に向いています。ここで重要なのは、用地条件だけで判断せず、既存の都市計画マスタープランや将来のまちづくり方針とどう整合させるかを合わせて検討することです。立地選定の段階で都市計画・スポーツ振興・産業振興など庁内の関係部署と方向性をすり合わせておくと、後工程での手戻りを防げます。
まちづくり計画への位置づけ
立地の方向性が固まったら、次はそれを単発の施設整備ではなく、総合計画や都市計画マスタープランの中に明記する段階に進みます。複合開発をまちづくり計画に位置づけることで、庁内の予算配分や許認可のプロセスにおいて「なぜこの場所にこの規模の施設が必要か」を説明しやすくなります。位置づけが曖昧なまま計画が進むと、財政部門や議会説明の場で合意形成に時間がかかり、結果としてスケジュール全体が遅れる原因になります。
民間資金の活用検討
複合開発は建設費・運営費ともに大きくなりやすいため、この段階で公共負担だけに頼らない資金調達の方針を仮決めしておく必要があります。手法の選定を後回しにすると事業スキーム全体を設計し直すことになりかねないため、立地・位置づけと並行して早い段階から検討を始めることが望ましいです。具体的な選択肢や進め方は、後述の「民間資金活用のポイント」で解説します。
波及効果の測定設計
複合開発の成果を来場者数だけで評価すると、施設単体の集客力しか見えず、まちづくりとしての効果を正しく検証できません。開業前の水準と比較できるよう、評価に使う指標を事業計画の初期段階のうちに設計しておくことが重要です。どの指標を組み合わせるべきかは、後述の「波及効果の測定」で具体的に解説します。
先行事例に共通するのは、施設単体の集客ではなく、まちづくり計画全体の中にスタジアムを位置づけている点です。ステップ2を飛ばして施設計画から着手すると、庁内外の合意形成で後戻りが生じやすくなります。
自治体・地域振興担当者が押さえておきたい視点
実際の検討段階でつまずきやすいのが、民間資金の活用方法と効果測定の設計です。それぞれ具体的に見ていきます。
民間資金活用のポイント
内閣府はスタジアム・アリーナに関するコンセッション事業活用ガイドラインを公表しており、公共施設としての性格を保ちながら民間の運営ノウハウを取り入れる手法が整理されています。自治体単独での財政負担を避けたい場合、早い段階から民間事業者との対話(サウンディング調査)を行うことが有効です。
波及効果の測定
来場者数や施設稼働率だけでなく、周辺の飲食・宿泊事業者の売上、地価の変化、雇用創出数など複数の指標を組み合わせて評価することで、投資対効果を庁内外に説明しやすくなります。スポーツ市場全体の成長性を把握しておくことも、事業計画の説得力を高めます。
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今週から始められる検討の3ステップ
- ステップ1:既存の総合計画・都市計画マスタープランを確認し、スタジアム複合開発と整合する記載があるかを洗い出す
- ステップ2:先行3事例(エスコンフィールド・広島・京都)のうち、自地域の人口規模や立地に近いモデルを1つ選び、担当部署内で共有する
- ステップ3:民間事業者向けのサウンディング調査を実施し、投資意向のある事業者の有無を確認する
スポーツを起点とした地域の運動習慣づくりも、複合開発の波及効果を高める要素の一つです。あわせて検討しておくと、施設の日常利用率を高める企画につなげやすくなります。
よくある質問
人口規模が小さい自治体でも複合開発は可能ですか
サンガスタジアム by KYOCERAのように、人口規模が突出して大きいわけではない自治体でも、駅近立地を活かすことで複合開発が成立した事例があります。規模の大小より、立地選定とまちづくり計画との整合性が成否を分けます。
検討から開業までどのくらいの期間を見込むべきですか
先行事例では構想から開業まで数年から十年規模の期間を要しています。民間資金の活用検討や庁内合意形成に時間がかかるため、早期の段階的な情報公開と関係者調整が重要になります。
まとめ
- スタジアム複合開発は施設単体の集客ではなく、周辺産業への経済波及効果を含めた地域活性化策として位置づけられている
- エスコンフィールドHOKKAIDO・エディオンピースウイング広島・サンガスタジアム by KYOCERAは、それぞれ郊外拠点型・街なか型・駅近先行型という異なるモデルを示している
- 検討は「立地選定→まちづくり計画への位置づけ→民間資金の活用検討→波及効果の測定設計」の4ステップで進めると合意形成がしやすい
- 民間資金活用にはコンセッション方式などのガイドラインが整備されており、早期のサウンディング調査が有効
- 波及効果は来場者数だけでなく、飲食・宿泊・地価・雇用など複数指標で測定することが投資判断の説得力を高める
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