スリープツーリズムは健康経営の一手|アスリートの睡眠術に学ぶ

スリープツーリズムと健康経営|アスリートの睡眠戦略に学ぶ人事担当者向けガイド スポーツウェルビーイング

「また今月も、あの部署の欠勤・遅刻が目立つ」。健康経営を担当する人事の目には、体調不良による生産性低下のサインが日々映ります。厚生労働省の調査でも、日本人の睡眠時間は先進国のなかで短い部類に入り、その影響は個人の体調だけでなく企業の生産性にも及んでいます。

そこで近年注目されているのが「スリープツーリズム」です。睡眠に特化した宿泊体験を、単なる旅行トレンドとしてではなく、健康経営の具体策として捉え直す動きが人事担当者の間で広がり始めています。本記事では、トップアスリートが実践する睡眠戦略の知見も交えながら、健康経営担当者が押さえておきたい導入の視点を整理します。

スポーツをビジネスに使うなら、どこから手をつけるべきか

「自社の場合どこから始めればいいか分からない」という段階のご相談を受け付けています。

当てはまる課題を4つから1つ選んでいただくと、最初に決めることよくある失敗をお送りします。

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日本の職場を蝕む睡眠不足|見えないコスト「プレゼンティーズム」

厚生労働省が2023年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人の睡眠時間について1日6〜8時間を目安とすることを示しています。一方で、実際に十分な睡眠を確保できている人は限られており、睡眠不足は体調不良のまま出社し生産性が落ちる「プレゼンティーズム」という形で企業活動に影響を及ぼします。

経済産業省の「健康投資管理会計ガイドライン」でも、企業の健康関連コストのうちプレゼンティーズムが占める割合は大きいとされ、健康経営の効果を測るうえで見過ごせない指標として位置づけられています。従業員の欠勤日数だけを見ていては、睡眠不足が生む生産性低下の実態はつかめません。

(参考)健康づくりのための睡眠ガイド2023 – 厚生労働省

(参考)健康投資管理会計ガイドライン – 経済産業省

トップアスリートが実践する睡眠戦略|リカバリーとしての睡眠

この課題を考えるうえでヒントになるのが、コンディショニングのプロであるトップアスリートの睡眠管理です。日本スポーツ振興センター(JSC)のハイパフォーマンススポーツセンターは、睡眠を「トレーニングや競技大会への準備・リカバリー手段として必要不可欠な生活習慣」と位置づけています。

同センターの解説によると、トップアスリートの平均睡眠時間は一般成人と大きくは変わらない一方、就寝・起床時刻を毎日そろえる、光と朝食で体内時計をリセットする、15〜30分の短い昼寝(パワーナップ)を活用するといった「睡眠の質を高める習慣」を徹底している点が特徴です。カフェインやアルコール、就寝前のブルーライトを避けることも、パフォーマンスを支える基本行動として挙げられています。

これらはアスリート個人の努力だけでなく、就寝環境そのものを整える発想でもあります。スリープツーリズムが提供する「眠ることに特化した空間」は、この発想を一般のビジネスパーソンにも応用する試みだと捉えることができます。

(参考)睡眠は、リカバリーの重要な手段の一つ – 日本スポーツ振興センター(Athlete Pathway アスリート育成パスウェイ)

スリープツーリズムとは|「眠るために泊まる」という新しい選択肢

スリープツーリズムとは、宿泊や休暇の目的そのものを「良質な睡眠をとること」に置いた宿泊スタイルを指します。近年は睡眠計測サービスや専門家監修のプログラムを備えた施設が増え、個人の旅行需要だけでなく、企業の福利厚生・研修の選択肢としても注目され始めています。

一般的な宿泊との違いは「測定」と「設計」にある

従来の温泉旅行やリゾート滞在との違いは、睡眠の状態を可視化し、環境やプログラムを個々に合わせて設計する点にあります。ベッドや枕の選択、入眠儀式の提案、翌朝の睡眠データのフィードバックまでを一体で提供する施設が増えており、単なる「よく眠れる宿」ではなく「睡眠改善の体験プログラム」として設計されているのが特徴です。定義や旅行トレンドとしての広がりについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

あわせて読みたいスリープツーリズムとは何か?睡眠改善とウェルビーイングから読み解く新しい旅行の形

4つの睡眠特化型宿泊プログラムを比較|企業の福利厚生導入で見るべき視点

実際にどのような施設・プログラムがあるのか、企業の福利厚生・研修活用という視点で4つの取り組みを比較しました。価格帯や特徴は各社の公式サイト・プレスリリース情報をもとにHuman Soarが独自に整理したものです(2026年8月時点、変更の可能性があります)。

施設・サービス名 特徴 価格帯目安 企業活用のポイント
ナインアワーズ 睡眠解析センサー付きカプセルホテル、都内6店舗 1泊数千円台 低コストで睡眠データ体験を導入しやすい
スーパーホテル「ぐっすり研究所」 大学と共同開発の枕・マットレス・照明で快眠環境を設計 1泊数千円台 出張の宿泊費内で健康投資を兼ねられる
リビエラ逗子マリーナ「SLEEP WELL STAY」 リカバリーウェアや睡眠学に基づく施術を組み合わせた滞在型プログラム 1泊2万円台〜 経営層・管理職向け合宿研修に適した上位プラン
ホテル1899東京 お茶の力を活用したリラクゼーションと睡眠特化客室 1泊1万円台〜 出張・研修と組み合わせやすい都心立地

各社公式サイト・プレスリリース情報をもとにHuman Soarが2026年8月時点で作成(価格帯は目安、変動の可能性があります)

ナインアワーズ|低コストで始める睡眠データ体験

カプセルホテルのナインアワーズは、ベッド内のセンサーで体動やいびきを測定し、宿泊者に睡眠レポートを届けるサービスを展開しています。赤坂や浜松町など都内6店舗で利用でき、1泊あたりの価格帯もビジネスホテルと大きく変わりません。福利厚生予算が限られる中小企業でも、まずは睡眠を可視化する体験として導入しやすいのが利点です。

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スーパーホテル「ぐっすり研究所」|出張と健康投資を両立

大学名誉教授との共同研究を背景に、8種類から選べる枕や体への負担が少ないマットレス、睡眠を意識した照明を客室に導入しています。出張時の宿泊先として選ぶだけで、追加コストなく睡眠環境への投資を兼ねられる点が、日常的な出張が多い企業には現実的な選択肢になります。

リビエラ逗子マリーナ「SLEEP WELL STAY」|経営層合宿向けの上位プラン

2026年2月から始まった同プランは、血行促進が期待できるウェアや睡眠学・人間工学に基づく施術を取り入れています。価格帯は他の選択肢より高めですが、その分プログラムとしての作り込みが厚く、経営層や管理職向けのオフサイト研修に「休養」というテーマを組み込みたい場合の候補になります。

ホテル1899東京|都心立地で出張・研修と両立しやすい

カフェインレスのお茶を使ったリラクゼーションプランと、睡眠環境に特化した客室を組み合わせています。都心にあるため、日中は研修やミーティングを行い、夜は睡眠改善プログラムを体験するといった、出張スケジュールに組み込みやすい構成が特徴です。

睡眠投資を人事施策に組み込む4つのステップ|健康投資管理会計との接続

スリープツーリズムのような施策は、単発の福利厚生イベントで終わらせると効果が可視化されません。健康投資管理会計ガイドラインの考え方を踏まえ、Human Soarでは次の4ステップで検討することをおすすめします。

1睡眠課題の可視化:ストレスチェックや勤怠データから実態を数値で把握する
2対象者・予算の設定:全社一律か特定部門か、予算規模と合わせて決める
3施策形態の選定:宿泊補助・研修組み込み・環境整備から自社に合う形を選ぶ
4効果測定と接続:健康投資管理会計の枠組みで費用対効果を数値化する

①自社の睡眠課題を可視化する

ストレスチェックや健康診断の問診項目に睡眠に関する設問を加える、勤怠データと欠勤・遅刻の傾向を突き合わせるなど、まずは自社にどの程度の睡眠課題があるかを数値で把握します。感覚的に「疲れていそう」で終わらせず、対象部署や職種の偏りまで確認することが、次のステップの精度を左右します。

②対象者と予算規模を設定する

全社一律の福利厚生として展開するのか、繁忙期明けの部署や出張が多い部門など特定層への施策とするのかを決めます。予算規模が限られる場合は、前述のナインアワーズのような低コストの選択肢からスモールスタートし、効果を見ながら拡大する進め方が現実的です。

③施策の形態を選ぶ|宿泊補助・研修組み込み・環境整備

個人利用への宿泊費補助、経営層・管理職向け研修への組み込み、あるいは自社オフィスへの休息スペース整備など、スリープツーリズムから得られる知見の生かし方は一つではありません。前述の4施設比較のように、コストと得られる体験の厚みはトレードオフの関係にあるため、目的に応じて使い分けます。

④効果を測定し健康投資管理会計に接続する

実施して終わりにせず、ストレスチェックの経年変化や欠勤率、従業員満足度調査のスコアなどを用いて効果を追跡します。経済産業省の健康投資管理会計ガイドラインが示す「内部管理」と「対話」の両方の観点から、施策の費用対効果を数値で語れる状態を作ることが、翌年度以降の予算確保にもつながります。

あわせて読みたい健康経営の効果測定とKPI設計|投資対効果の示し方

よくある質問

スリープツーリズムの費用は福利厚生費として認められますか?

一般的な社員旅行や研修と同様に、目的や対象者の範囲、実施内容によって福利厚生費として扱えるかどうかが変わります。個人の趣味的な旅行と区別できるよう、研修プログラムとしての位置づけや対象者の公平性を整理したうえで、税理士や社会保険労務士に個別に確認することをおすすめします。

小規模な企業でも導入できますか?

ナインアワーズのような低価格帯の施設を使えば、出張時の宿泊先を切り替えるだけで始められます。大がかりな制度設計をしなくても、まずは希望者向けの補助や体験の場から始め、反応を見ながら制度化するステップが現実的です。

効果はどのくらいの期間で見えてきますか?

個人の体調変化は数週間単位で感じられることもありますが、欠勤率や生産性指標といった組織全体の数値に表れるまでには、半年から1年程度の観察期間を見込んでおくのが現実的です。ストレスチェックなど既存の調査サイクルに合わせて効果測定のタイミングを設計すると、負担を抑えられます。

まとめ

  • 日本人の睡眠不足は、プレゼンティーズムという形で企業の生産性にも影響している
  • トップアスリートは睡眠の「量」だけでなく「質を高める習慣」を徹底している
  • スリープツーリズムは、価格帯・プログラムの厚みが異なる複数の選択肢から自社に合うものを選べる
  • 導入は「可視化→対象設定→施策選定→効果測定」の順で健康投資管理会計に接続すると継続しやすい
  • まずは低コストな選択肢からスモールスタートし、データを見ながら拡大するのが現実的

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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