レジリエンスを高める方法|論文で見る要因と企業のスポーツ活用

レジリエンスを高める方法|論文で見る要因と企業のスポーツ活用 スポーツウェルビーイング

大型案件を落とした翌週、メンバーの口数が減り、会議で新しい提案が出なくなる。失敗そのものより、そこから戻るまでの時間が長いことのほうが、チームには重くのしかかります。

レジリエンスを高める方法として論文で効果の大きさが報告されているのは、認知行動療法とマインドフルネスを組み合わせた研修と、8週間を超えて続ける運動です。どちらも1回で終わらせず、続ける設計にしたときに数字が出ています。

この記事では、レジリエンスを高める要因を整理した国内の論文、研修と運動のメタ分析(複数の研究結果を統合した分析)、厚生労働省の調査をもとに、企業が何から手を付けるかを順に見ていきます。

レジリエンスとは困難にうまく適応していく過程と結果のこと

レジリエンスは、困難な経験にうまく適応していく過程とその結果を指す心理学の用語です。アメリカ心理学会(APA)の心理学辞典は「困難な、あるいは試練となる人生経験に、とりわけ精神的・感情的・行動的な柔軟性と、外的・内的な要求への調整を通じて、うまく適応していく過程とその結果」と定義しています(2018年4月19日更新の項目。和訳は当メディア)。

同じ項目は、適応の良し悪しに関わる主な要因として、世界の見方と関わり方、社会的資源の有無と質、具体的な対処方略の3つを挙げています。そのうえで、より良い適応に結びつく資源やスキルは「育て、練習できる」と書いています。

つまりレジリエンスは、落ち込まない強さのことではありません。落ち込んだあとにどう戻るかという過程の話で、戻り方には練習できる部分があります。企業が研修や運動の機会を用意する意味は、この「練習できる部分」にあります。

(参考)APA Dictionary of Psychology「resilience」 – American Psychological Association

Q. レジリエンスとは何ですか?

困難な経験にうまく適応していく過程とその結果のことです。アメリカ心理学会(APA)の心理学辞典は、精神的・感情的・行動的な柔軟性と、外的・内的な要求への調整を通じた適応と定義しています。固定した性格ではなく、育てて練習できる資源やスキルを含む考え方です。

レジリエンスを高める要因は資質と獲得の2種類に分かれる

レジリエンスを高める要因の階層図。資質的要因4つの上に獲得的要因3つが重なりレジリエンスを支える

レジリエンスを高める要因には、後天的に身につけやすいものと、そうでないものがあります。この2つを分けて測れるようにしたのが、平野真理氏が2010年に「パーソナリティ研究」19巻2号で発表した論文「レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み」です。

この論文は大学生ら246名への調査から7つの因子を取り出し、さらに759名への調査で二次元の構造と妥当性を確かめています。作成された尺度は二次元レジリエンス要因尺度(BRS)と呼ばれます。企業の施策を考えるうえでは、7つのうちどれに働きかけるのかを先に決めておくと、研修の中身がぶれません。

資質的要因は楽観性・統御力・社交性・行動力の4つ

資質的レジリエンス要因として見出されたのは、楽観性、統御力、社交性、行動力の4因子です。論文は、気質と性格を分けて捉える理論(Cloningerの気質–性格理論)との関連から、これらを資質の側に分類しています。

資質の側は、短い研修で変えることを目標に置きにくい部分です。ここは変えようとするより、配置や役割の組み方で生かすほうが現実的だと当メディアは考えます。たとえば社交性の高い人を、落ち込んだメンバーに声をかける役に置く、といった使い方です。

獲得的要因は問題解決志向・自己理解・他者心理の理解の3つ

獲得的レジリエンス要因は、問題解決志向、自己理解、他者心理の理解の3因子です。論文の整理では、こちらが後天的に身につけやすい側にあたります。

研修や日々の振り返りで扱いやすいのはこの3つです。失敗の原因と次の一手を言葉にする(問題解決志向)、自分がどんな場面で崩れやすいかを知る(自己理解)、相手がいま何を感じているかを推し量る(他者心理の理解)。いずれも、試合のあとの振り返りでスポーツの現場が日常的に行っていることと重なります。スポーツの場面を研修に組み込む具体的な設計はスポーツ研修でレジリエンスを高める方法で扱っているので、この記事では要因と根拠の整理に絞ります。

(参考)レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み――二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成(パーソナリティ研究 19巻2号、2010年) – 日本パーソナリティ心理学会

Q. レジリエンスを高める要因は生まれつき決まっていますか?

すべてが生まれつき決まっているわけではありません。平野真理氏の2010年の論文は、要因を資質的要因4つと獲得的要因3つに分け、後天的に身につけやすいものとそうでないものがあると整理しています。企業の施策は、獲得的要因である問題解決志向・自己理解・他者心理の理解から始めるのが現実的です。

レジリエンスを高める4つの方法は論文で効果量が報告されている

レジリエンスを高める方法のうち、効果の大きさが数字で報告されているのは、研修3種類と運動の合わせて4つです。研修は2018年にBMJ Openに載ったJoyceらのメタ分析(437件の文献から17研究を選び、最終的に11本のランダム化比較試験を統合)、運動は2026年6月にBMC Psychologyに載ったLiuらのメタ分析(10研究)によります。

下の表の「SMD」は標準化平均差のことで、取り組んだ群と比較した群の差を、ばらつきで割って比べやすくした値です。Joyceらの研修全体の値は0.44(95%信頼区間0.23〜0.64)で、論文は中程度の効果と表現しています。

読むときの注意が2つあります。研修の効果は自己記入式のレジリエンス尺度の得点変化で測られていること、そして研修時間が2時間の1回から複数回で28時間までと幅が大きいことです。研修と運動は別々のメタ分析なので、表の数字で優劣を決めることはできません。

方法 SMD(95%信頼区間) 統合した研究 元の分析
認知行動療法とマインドフルネスの組み合わせ 0.51(0.12〜0.91) 5研究 Joyceら(2018)
認知行動療法ベースの研修 0.27(0.05〜0.50) 4研究 Joyceら(2018)
マインドフルネスベースの研修 0.46(0.10〜0.82) 2研究 Joyceら(2018)
8週間を超える運動 0.64 10研究のうち8週超の群 Liuら(2026)

出典:Joyce et al.(2018)BMJ Open、Liu et al.(2026)BMC Psychology の抄録・本文の数値を当メディアが一覧にしたもの。研修3種類は介入終了時の値。2つのメタ分析は対象も条件も異なり、横並びの比較はできない。

認知行動療法とマインドフルネスの組み合わせは0.51で中程度

研修3種類のなかで値が最も大きかったのは、認知行動療法とマインドフルネスを組み合わせた型です。認知行動療法は、出来事の受け止め方のくせと行動を見直す心理療法の技法で、マインドフルネスは、いま起きている体験に評価を加えず注意を向ける練習を指します。

Joyceらは抄録の結論で、この2つの技法を組み合わせた介入が個人のレジリエンスに良い影響を与えるようだ、とまとめています。受け止め方を見直す練習と、注意を戻す練習の両方を1つのプログラムに入れる、というのが研修を選ぶときの第一の目安になります。

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(参考)Road to resilience: a systematic review and meta-analysis of resilience training programmes and interventions(BMJ Open、2018年) – Joyce S. ほか

認知行動療法ベースの研修は0.27で小さいが正の効果

認知行動療法だけを土台にした研修は、SMD 0.27で小さな正の効果と報告されています。4研究を統合した値です。

値が小さいから意味が薄い、とは読めません。失敗のあとに浮かぶ「自分は向いていない」といった考えを書き出し、別の見方を並べる練習は、獲得的要因の自己理解と問題解決志向にそのまま対応します。1on1や振り返りの場に、この書き出しを組み込むところから始められます。

マインドフルネスベースの研修は0.46で6か月後も0.58

マインドフルネスを土台にした研修は、介入終了時がSMD 0.46、6か月後の追跡でも0.58(95%信頼区間0.27〜0.89)でした。論文は、終了直後と同じ程度の効果が保たれていたと述べています。

ただし統合されたのは2研究だけです。「1日何分で効果が出る」といった条件までは、この分析からは言えません。導入するなら、終了時と6か月後の2回、同じ尺度で測る計画を最初から入れておくと、自社で続ける価値があるかを判断できます。

運動は8週間を超えて続けたときに効果が大きい

運動による介入は、全体でSMD 0.49(95%信頼区間0.33〜0.65)と、心理的レジリエンスに有意な正の効果がありました。効果を左右していたのは期間で、8週間以下では0.30、8週間を超えると0.64です。

単発の運動会や1日のスポーツイベントでは、この「8週間超」の条件を満たせません。週1回でも2か月以上続く枠にすることが、運動をレジリエンスの施策として扱うときの最低条件になります。運動が気分に与える短期の効果はスポーツとメンタルヘルスの関係で整理しています。

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(参考)The effect of exercise interventions on enhancing psychological resilience: a systematic review and meta-analysis(BMC Psychology、2026年) – Liu ほか

Q. レジリエンスを高める方法に論文の裏付けはありますか?

あります。2018年のメタ分析(Joyceほか、11本のランダム化比較試験)は、レジリエンス研修全体で標準化平均差0.44の中程度の効果を報告しました。ただし効果は自己記入式の尺度で測られており、研修時間も2時間から28時間まで幅があります。

スポーツの経験は日常で使えるスキルに移すとレジリエンスにつながる

スポーツの経験は、競技の中で身につけたスキルを日常の場面で使えるようにしたときに、レジリエンスと結びつきます。運動さえしていれば自動的に高まる、という関係ではありません。高校生と子供を対象にした国内の研究が、この点を示しています。

高校の運動部では学校生活のスキルを介して精神的回復力と関連した

上野耕平氏と若原優二氏は、高校の運動部員110名(1年生58名、2年生52名)を調べ、運動部で身につけた心理的スキルが、学校生活での心理的スキルを介して精神的回復力と関連していたと報告しました。この関連は1年生より2年生で強く出ています。

1時点の調査なので、運動部に入れば回復力が上がるという因果までは言えません。それでも企業にとっての示唆ははっきりしています。社内のスポーツ活動を「体を動かして終わり」にせず、そこで起きたことを仕事の場面に置き換えて話す時間を足すことです。

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(参考)高校における運動部活動経験と精神的回復力の関係(スポーツ産業学研究 23巻2号、2013年) – 日本スポーツ産業学会

子供のレジリエンスは学校の教育活動と組み合わせて育てる

子供のレジリエンスについても、単発のプログラムよりふだんの活動との組み合わせが重視されています。小林朋子氏は「教育心理学年報」60巻(2021年)の総説で、学校でレジリエンスを育てるには、プログラムと学校の教育活動の「相互作用」が重要だと述べています。

大人の職場でも考え方は同じです。年に1度の研修を単独で置くより、朝会、1on1、プロジェクトの振り返りといった既にある場に、研修で扱った練習を少しずつ埋め込むほうが続きます。

(参考)学校教育を活かした子どものレジリエンスの育成 ―学校危機の予防と回復を支えるアプローチ―(教育心理学年報 60巻、2021年) – 日本教育心理学会

Q. 子供のレジリエンスを高めるために大人ができることは何ですか?

単発のプログラムより、ふだんの活動と組み合わせることです。教育心理学年報の2021年の総説は、プログラムと学校の教育活動の相互作用が重要だとしています。高校運動部員110名の調査でも、部活動で身につけた心理的スキルが学校生活のスキルを介して精神的回復力と関連していました。

強いストレスを感じる労働者は67.5%|対象は調査結果から決める

レジリエンスの施策は、全員に同じものを配るより、ストレスの中身を見て対象を決めるほうが的を外しません。厚生労働省の「令和7年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2026年8月7日公表、個人調査の有効回答8,393人)では、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者の割合は67.5%でした。前年の調査は68.3%です。

内容(主なもの3つ以内)は、「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がともに39.5%で最も多く、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」が32.9%で続きます。失敗と責任が上位にあるということは、失敗のあとの戻り方を扱うレジリエンスの施策が、多くの職場で実際の悩みに当たるということです。

相談先も見ておきます。ストレスを相談できる人がいる労働者は94.8%で、相談できる相手は「家族・友人」74.8%、「上司」63.8%でした。上司が相談先になっている職場では、管理職から先に研修を受けてもらうと、獲得的要因の「他者心理の理解」を現場に広げやすくなります。

重い結果も数字に出ています。令和7年度の精神障害に関する労災の請求件数は4,958件で前年度より1,178件増え、支給決定件数は1,082件でした(2026年7月15日公表。請求と支給決定は同じ年度の事案とは限りません)。レジリエンスの施策は、長時間労働やハラスメントへの対策の代わりにはなりません。50人未満の事業場にも広がるストレスチェックの義務化への対応と並べて、職場環境の改善と一緒に進めてください。

(参考)令和7年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況(個人調査) – 厚生労働省

(参考)令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表します – 厚生労働省

職場でレジリエンスを高める進め方は6か月で1周させる

職場でレジリエンスを高める進め方の時間軸。開始前の測定から8週間、8週間超、6か月後の再測定まで

職場での進め方は、開始前の測定、最初の8週間、8週間を超える継続、6か月後の再測定という4つの時期に分けると組み立てやすくなります。この区切りは、ここまで見てきた論文の条件(運動は8週間超、研修は6か月後の追跡)をもとにした本記事の整理です。

開始前には、ストレスチェックや社内アンケートで、失敗と責任、仕事の量、対人関係のどれが重いかを部署ごとに確かめます。同時に、レジリエンスの尺度を1つ決めて全員が回答しておきます。効果は同じ尺度の前後比較でしか分からないからです。

最初の8週間は、研修と運動を別々に走らせず、同じ週の予定に入れます。週1回の運動の枠と、月2回ほどの短い研修をそろえ、運動のあとに5分だけ「今日うまくいかなかった場面と、次にどうするか」を話します。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、労働者を対象にした研究から、身体活動量が多いほど抑うつなどの健康指標が良好であることが示唆されるとしています。

8週間を超えたら、参加率が落ちた部署から理由を聞き、時間帯と種目を入れ替えます。発言しやすい雰囲気が無いと振り返りは形だけになるので、心理的安全性をスポーツで高める職場づくりも合わせて確認してください。6か月後に同じ尺度で測り直し、続ける部署と設計を変える部署を分けます。施策全体を経営の言葉でどう位置づけるかはウェルビーイングの施策設計を参考にしてください。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 – 厚生労働省

まとめ|レジリエンスを高めるには続く設計と測り直しをセットにする

レジリエンスを高める方法は、1回の研修やイベントではなく、続ける設計と測り直しを組にしたときに根拠と一致します。要点は次のとおりです。

  • レジリエンスは困難にうまく適応していく過程と結果で、資源やスキルは育てて練習できる(APA)
  • 要因は資質的要因4つと獲得的要因3つに分かれ、企業が働きかけやすいのは問題解決志向・自己理解・他者心理の理解
  • 研修は認知行動療法とマインドフルネスの組み合わせがSMD 0.51、運動は8週間を超えるとSMD 0.64
  • 強いストレスを感じる労働者は67.5%で、内容は仕事の量と失敗・責任がともに39.5%
  • 開始前と6か月後に同じ尺度で測り、職場環境の改善と並べて進める

まずは次の四半期に、週1回・9週間以上の運動の枠を1部署で試し、開始前の測定だけ先に済ませてみてください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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