松田力也の前十字靭帯断裂|復帰までの時系列と再発予防

松田力也の前十字靭帯断裂からの復帰と再発予防を解説する記事のアイキャッチ スポーツアスリート

大怪我をした選手の記事を読むと、いつ怪我をして、いつ試合に戻ったかは書いてあります。ところが、その間に何をしていたのか、そして戻ったあとに何を変えたのかは、ほとんど書かれていません。読み手が本当に知りたいのはそこなのに、です。

ラグビー日本代表のスタンドオフ、松田力也選手は2022年5月に左膝の前十字靭帯を断裂しました。この記事では、本人が語った受傷から復帰までの経過を時系列で追ったうえで、公的機関がまとめたラグビーの外傷統計と重ね合わせ、部活動や社会人スポーツの現場で使える予防の考え方まで整理します。

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2022年5月の左膝前十字靭帯断裂と手術を選んだ理由

松田選手が左膝の前十字靭帯を断裂したのは、2022年5月、リーグワンのリーグ戦最終戦でのことでした。ラグビーワールドカップ2023を1年半後に控えたタイミングです。この年の日本代表の活動には一切参加できず、国際試合の出場はゼロで終わりました。

前十字靭帯の損傷には、手術をせずに保存療法で対応する選択肢もあります。松田選手は迷った末に手術を選びました。本人は当時の判断を、手術をしてもっと強くなって帰ってこよう、という趣旨で振り返っています。ワールドカップまでの残り時間から逆算した決断でした。

のちに本人は、ケガがあって成長できたところもある、とも語っています。ケガはしないほうがいいと前置きしたうえで、体の使い方など、この期間に得たものがあるという意味の発言です。復帰までの時間を、単に元に戻すための時間としてではなく作り直す時間として使っていたことがうかがえます。

(参考)松田力也が明かす手術の決断とW杯までの道のり – Number Web(文藝春秋)

受傷から復帰までに何が起きたか|松田力也の時系列を追う

松田選手には性質の異なる2つの大怪我があります。前十字靭帯の断裂と、その3年後に起きた骨盤と股関節の骨折です。混同されやすいので、時系列で分けて確認します。

松田力也の2つの大怪我と復帰までを示した時系列の図解

図:松田力也選手の2つの大怪我と復帰までの時系列

2022-23シーズン|復帰初年度に16試合中15試合で先発

手術を経て、松田選手は2022-23シーズンの開幕戦で復帰します。復帰初年度でありながら、リーグ戦16試合のうち15試合でスタンドオフとして先発し、当時所属していた埼玉パナソニックワイルドナイツをディビジョン1史上初のリーグ戦全勝通過に導きました。復帰してすぐに主力の負荷を背負い直した形です。

(参考)[移籍の真相]松田力也 – ジャパンラグビー リーグワン公式サイト

2023年のワールドカップ|キック20本中19本を成功させた

ワールドカップ2023では全4試合にスタンドオフとして先発し、キックは20本中19本を成功させました。成功率は95%です。本人は直前までキックが入らなかったと明かしたうえで、本番では決めることができたと振り返っています。数字だけを見れば順調な復帰に見えますが、当事者の実感はもっと不安定だったことがわかります。

2025年の骨盤と股関節の骨折|入院50日からの再起

2024年にトヨタヴェルブリッツへ移籍した松田選手は、2025年2月22日のリーグワン第9節、コベルコ神戸スティーラーズ戦の前半15分にボールを持って接触した際、右股関節を負傷します。診断は骨盤と股関節の骨折でした。入院は50日、うち2週間は完全にベッドの上で、全治1年と想定される状態だったと伝えられています。それでも松田選手は2025年12月の開幕戦で10番を背負って先発復帰しました。本人は、もう恐怖心はないがフラッシュバックはある、と語っています。

(参考)松田力也 大怪我からの復帰インタビュー – ジャパンラグビー リーグワン公式サイト

ラグビーの膝の靱帯損傷は大学生年代に集中している

松田選手のケースは特別なものに見えますが、ラグビーという競技の外傷傾向のなかに位置づけると、決して例外ではないことがわかります。公的機関がまとめた統計を見てみます。

スポーツ安全協会と日本体育協会(現・日本スポーツ協会)がまとめた「スポーツ外傷・障害予防ガイドブック」によると、ラグビーの外傷の年間発生件数は3,657件で、他競技と比べて多くはありません。ところが発生頻度は10万人当たり5,480件に達し、これは全体傾向の2.5倍にあたります。とくに男子の大学生は22,258件/10万人で、同年代の全体傾向の約6.5倍という数字が出ています。なお、これらは平成24年度のスポーツ安全保険支払実績にもとづくデータです。

部位別に見ると、手・指の骨折が約12%で最も多く、足関節捻挫が約6%、膝関節の靱帯損傷・断裂と胸腰部の骨折が各約5%となっています。そして16〜29歳の年代では下肢の外傷が多く、主に膝関節の靱帯損傷や足関節捻挫が見られると記されています。同ガイドブックは、これらの外傷はタックル動作に起因すると考えられます、という書き方をしています。断定ではなく、機序の推定として示されている点が重要です。

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(参考)スポーツ外傷・障害予防ガイドブック – 公益財団法人スポーツ安全協会/公益財団法人日本体育協会

前十字靭帯の記事12本のうち現場で使える手順を書いたのは3本だった

この分野の情報がネット上でどう提供されているのかを確かめるため、筆者は「松田力也 怪我」「ラグビー 前十字靭帯 リハビリ」の検索上位から実際に本文を読めた12本を集め、6つの論点について言及の有無を数えました。

前十字靭帯のリハビリに関する検索上位12本を論点別に集計した棒グラフ

図:「松田力也 怪我」「ラグビー 前十字靭帯 リハビリ」の検索上位のうち本文を読めた12本を筆者が2026年8月に調査・分類

公的機関や学会の資料を引いていた記事は12本中4本あり、この論点については他の分野より整備されている印象を受けました。差が出たのは、その手前と先の部分です。

期間と時系列は12本中11本が書いている

いつ受傷して何か月で戻ったか、という情報はほぼすべての記事に載っています。検索した人がまず知りたい部分なので当然ですが、逆に言えばここだけで差はつきません。

リハビリの段階を説明したのは12本中6本

術後にどの順番で何ができるようになっていくのか、という段階の説明があったのは半数でした。しかもその多くは医療機関が書いた一般論で、実際の選手の経過と結びつけたものはほとんど見当たりません。

読者の現場に落とした手順は12本中3本にとどまる

最も空いていたのがここです。部活動の指導者や社会人チーム、企業のスポーツ活動担当者が明日から何をすればいいのか、という水準まで書いた記事は3本しかありませんでした。松田選手に関する記事に限ると、この論点に触れたものは1本もありません。

復帰の目安を期間ではなく機能で判断する

松田選手が前十字靭帯の手術から比較的短い期間で戦列に戻ったことは事実です。ただし、この期間をそのまま一般化するのは危険だと考えます。理由を整理しておきます。

医療機関の解説を見ると、前十字靭帯再建術後の競技復帰の目安は術後8〜12か月程度と幅を持って示されているのが一般的です。トップ選手の復帰は、専門の医療スタッフとリハビリ環境が常時そろっているという前提の上に成り立っています。同じ月数を目標に置くと、準備が整う前に戻ってしまう可能性があります。

近年は、経過した月数ではなく、片脚での跳躍テストの左右差や筋力の健側比といった機能の指標で復帰を判断する考え方が広がっています。予防に関しても、公的なガイドブックは「予防できる」とは書かず、必要な筋力を強化しムリ・ムダのない身体の使い方を身につけることで怪我の発生を最小限に抑えることができる、という表現を用いています。この温度感で受け取るのが誠実だと思います。

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(参考)スポーツの事故防止について – スポーツ庁

再受傷を減らすために現場で決める3つのこと

ここまでの内容を、指導者やチーム運営の立場で使える形にまとめます。個人の頑張りではなく、チームとして事前に決めておける項目に絞りました。

誰が復帰の可否を判断するかを先に決めておく

怪我人が出てから話し合うと、試合の重要度や本人の希望に判断が引っ張られます。シーズンが始まる前に、復帰の可否を最終的に誰が判断するのか、その人は何を見て判断するのかを文書にしておくと、現場が迷わずに済みます。松田選手のように手術と保存療法の選択が生じる場面でも、判断の基準が先にあるほど本人が落ち着いて選べます。

受傷しやすい年代と場面をチームの共通認識にする

先ほどの統計が示すとおり、ラグビーでは16〜29歳の年代で膝関節の靱帯損傷が多く、大学生年代の発生頻度が突出しています。そして機序としてタックル動作が挙げられています。この2点をチーム全員が知っているだけでも、練習中の声かけや強度設定の判断が変わってきます。

復帰後の続きを予定に書き込んでおく

試合に戻った時点で、予防の取り組みが止まってしまう例は少なくありません。フラッシュバックはあると松田選手が語っていたように、復帰は終わりではなく継続の始まりです。復帰後の数か月間についても、動作の確認やウォームアップの内容を練習計画のなかに固定して書き込んでおくとよいでしょう。

この3つは、企業の休職と復職の設計にもそのまま置き換えられます。誰が復職可否を判断するのか、どの部署やどの時期に負荷が集中しやすいのか、復職後のフォローを予定表に残しているか。人事や現場のマネージャーが事前に決めておくほど、復帰する本人の負担は軽くなります。

よくある質問

松田力也選手の怪我と復帰について、検索されることの多い疑問をまとめました。

松田力也選手が前十字靭帯を断裂したのはいつですか

2022年5月、リーグワンのリーグ戦最終戦で左膝の前十字靭帯を断裂しました。その後手術を選択し、2022-23シーズンの開幕戦で復帰しています。

2025年に負った怪我も前十字靭帯ですか

違います。2025年2月の負傷は右股関節で、診断は骨盤と股関節の骨折でした。前十字靭帯の断裂は2022年の左膝であり、2つは別の怪我として区別する必要があります。

前十字靭帯の手術から何か月で競技に戻れますか

医療機関の解説では術後8〜12か月程度と幅を持って示されるのが一般的です。近年は経過月数だけでなく、片脚跳躍テストの左右差や筋力の健側比といった機能の指標で判断する考え方が広がっています。実際の判断は必ず主治医と相談してください。

ラグビーの怪我は予防できるのですか

公的なガイドブックは予防できると断定していません。必要な筋力を強化し、ムリ・ムダのない身体の使い方を身につけることで、怪我の発生を最小限に抑えることができる、という表現を用いています。

まとめ

松田力也選手の経過と公的統計から読み取れることを整理します。

  • 2022年5月に左膝前十字靭帯を断裂し、ワールドカップから逆算して手術を選んだ
  • 復帰初年度にリーグ戦16試合中15試合で先発し、2023年のW杯では全4試合先発でキック成功率95%を記録した
  • 2025年2月の骨盤と股関節の骨折は前十字靭帯とは別の怪我で、入院50日を経て同年12月に先発復帰した
  • ラグビーの外傷発生頻度は10万人当たり5,480件で全体傾向の2.5倍、男子大学生では22,258件/10万人に達する(平成24年度データ)
  • 現場で決めるべきは、復帰可否の判断者、受傷しやすい年代と場面の共有、復帰後のフォローを予定に書き込むことの3点

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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