25歳、現役のサッカー選手のまま起業に踏み出した大津祐樹氏。「セカンドキャリア」という言葉に違和感を抱き続けてきた元日本代表選手は、なぜ現役中から複数の事業を並行して経営できたのか。その根底にあるのは、成功を最大値まで「取り切らない」という独自の判断基準だ。筆者は大津氏の発言をもとに、この思考モデルの構造とビジネスへの応用可能性を分析する。
25歳現役のままサッカースクールを立ち上げた決断
大津祐樹氏が最初にサッカースクールを立ち上げたのは2015年、25歳のときだった。まだ現役選手として第一線に立ちながらの決断である。きっかけはビジネス的な計算ではなく「自分がやってもらえなかったことをやってみたい」という素朴な思いだったという。
子どもの頃、現役のプロ選手と一緒にプレーしたいと願っていたが、当時のサッカースクールの指導者は引退後の選手が中心だった。今まさに活躍している現役選手から教わる体験がどれほどの価値を持つか、大津氏はずっと考え続けていたという。この違和感を放置せず、酒井宏樹選手とともに現役中にスクールを立ち上げた行動力が、後のキャリアの起点になっている。
大津祐樹が語る行動と継続への強いこだわり
大津氏がインタビューで繰り返し語るのは「行動」と「継続」という二つのキーワードだ。世の中で実際に行動する人は全体の1割、その中でさらに継続できる人はまた1割にすぎないという感覚を持っている。つまり行動して継続できる人はごくわずかであり、この二つを実践できるだけで圧倒的な強みになるという考え方である。
この発想を支えているのが、歯科検診の例え話だ。歯が大切だと誰もが答えるのに、痛みが出るまで検診に行かない人がほとんどで、定期的に通い続けられる少数の人だけが虫歯を予防できる。アスリートの継続力にも同じ構造があると大津氏は指摘する。
失敗を恐れず行動する理由
大津氏は、失敗をしていないなら挑戦していないということだと語る。今できることだけをやっていれば失敗はしないが、成長も止まる。シミュレーションを尽くした上で、多少の失敗可能性があっても成功の芽が見えるなら行動すべきだという姿勢が、複数事業を同時に立ち上げる原動力になっている。
セカンドキャリアという言葉への違和感が起業の原点
大津氏が2020年に立ち上げた株式会社ASSISTは、サッカースクール運営に加えアスリートのキャリア支援を行う。その原点にあるのは「アスリートの価値をもっと高めたい」という問題意識だ。特に引退後の選手に対する世間の評価の低さに、現役時代から違和感を抱いていたという。
「サッカー辞めた後、次はどうするの」と現役時代に何度も聞かれてきた経験から、なぜアスリートのキャリアはファーストとセカンドに分けられてしまうのかという疑問が芽生えた。一般の人がビジネスに全力を注ぐのと同じように、選手も競技に全力を注ぎ強みを磨いている。その強みを正しく生かせば、ビジネスで成功しないわけがないというのが大津氏の結論である。
取り切らないという判断基準がもたらす持続的成長の仕組み
大津氏が事業運営で最も重視しているのが「需要と供給のバランス」であり、そのなかでも「取り切らない」という考え方だ。成功している人や企業は、人から求められていることに価値を提供して結果を出している。しかし利益や成功を最大値まで独占せず、周囲に還元する余地を残すことが持続的な成功につながるという。
この発想は現役時代の経験に基づく。自分の成績を高めることだけに全力を注ぎ「取り切ること」を極めようとした時期があったが、ひとりの力で超えられる量には限界があった。全員で底上げした方が大きな成果を出せるし、スピードも速いという結論に至ったという。心理学の観点から見ても、短期的な独占欲の追求は周囲の協力を失わせ、長期的な資源の枯渇を招くことが知られている。個人の成果を最大化する発想から、関係性の持続可能性を優先する発想への転換は、行動経済学でいう「互恵性」の重視とも重なる構造だ。
他のアスリート経営者や一般的な起業家との判断基準の違い
引退後にビジネスへ転身するアスリートは少なくないが、多くは自身の実績や知名度を最大限に活用し、短期的な収益化を優先する傾向がある。これに対し大津氏は、現役中から「取り切らない」姿勢で複数の事業を並行させ、周囲との協業を軸に据えている点で異なる。
一般的な起業家の間でも、初期段階では利益の最大化を優先しがちだが、大津氏は「どれだけ得をするか」ではなく「どれだけ周りを生かして皆で成長するか」を判断基準に置く。この違いは、短期的な結果と長期的な信頼構築のどちらを優先するかという価値観の差として整理できる。
キャリア設計に取り切らない発想を取り入れる方法
この思考モデルは、アスリートに限らず一般のキャリア形成にも応用できる。転職や独立の場面で目先の条件を最大限に引き出そうとするのではなく、関係者全体にとって持続可能な選択かどうかを判断基準に加えることで、長期的な信頼関係を築きやすくなる。
具体的には、意思決定の際に「この選択は自分だけが得をする形になっていないか」を自問する習慣を持つことが第一歩になる。大津氏がクラブ運営で目指す「みんなでクラブを作る」という発想も、個人の成果ではなく関係者全体の成長を軸に置く判断基準の応用例といえる。
判断軸を言葉にするAI活用という選択肢
「取り切らない」という抽象的な判断基準を日々の意思決定に落とし込むには、自分の考えを言語化し、選択肢を整理する作業が欠かせない。ここでAIチャットツールを使い、迷っている選択肢を箇条書きで入力し「この中で関係者全体の持続可能性が高い選択肢はどれか」と問いかけることで、思考の偏りに気づきやすくなる。
大津氏のように多くの人に会って考え方を学ぶ機会が限られる場合でも、AIとの対話を通じて自分の判断基準を言語化し、後から振り返れる形で記録しておくことは、キャリアの節目での意思決定を助ける実践的な方法だ。
よくある質問
大津祐樹はなぜ現役中に起業したのですか
「自分がやってもらえなかったことをやってみたい」という思いがきっかけで、25歳のときに酒井宏樹選手とともにサッカースクールを立ち上げた。ビジネス優先ではなく、現役選手から指導を受ける体験の価値を提供したいという動機が原点にある。
取り切らないとはどのような考え方ですか
成功や利益を最大値まで独占せず、周囲に還元する余地を残す考え方を指す。大津氏は現役時代の経験から、ひとりの力で超えられる量には限界があり、全員で成長した方が大きな成果を出せると結論づけている。
この思考モデルは一般の会社員にも応用できますか
応用できる。意思決定の際に自分だけが得をする選択になっていないかを確認する習慣を持つことで、長期的な信頼関係を築きやすくなる。転職や独立の判断基準としても活用できる考え方だ。
まとめ
大津祐樹氏の思考モデルの核心は、成功を最大値まで取り切らず、周囲との関係性を優先することにある。25歳での起業という早い決断も、行動と継続へのこだわりも、すべてはこの一つの判断基準に貫かれている。キャリアの岐路に立つとき、目先の利益ではなく関係者全体の持続可能性を問う視点は、アスリートに限らず誰にとっても有効な指針になるはずだ。
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