健康経営の担当者として、社員の残業データや有休取得率を眺めながら「頑張って働かせすぎているのでは」と感じたことはないでしょうか。実は、トップアスリートの世界では「頑張る量」だけでなく「回復させる設計」そのものが競技力を左右するという考え方が常識になっています。
この記事では、スポーツ科学の「ピリオダイゼーション(期分け)」という考え方をもとに、健康経営担当者・経営者が社員の働き方に応用できる回復設計の視点を整理しました。あわせて、経済産業省が公表している健康経営優良法人の認定数推移も独自に集計しています。
負荷をかけ続けるだけでは成果が頭打ちになる理由
スポーツ科学におけるピリオダイゼーションとは、1年間・1シーズンを通してトレーニングの負荷と回復のバランスを計画的に配分する考え方です。常に高負荷を与え続けると、体は適応する余裕を失い、けがや疲労の蓄積によってかえってパフォーマンスが落ちてしまいます。
ビジネスの現場でも同じ構造があります。繁忙期に高い負荷をかけ続け、回復の期間を意図的に設計しないままでいると、短期的な成果は出ても中長期的には離職やメンタル不調のリスクが高まります。回復は「サボり」ではなく、次の負荷に耐えるための投資だという発想の転換が必要です。
健康経営優良法人の認定数は3年で急増している
回復・健康管理を経営課題として位置づける動きは、実際の認定制度の数字にも表れています。経済産業省が発表している「健康経営優良法人」の認定数を、公表資料をもとに年度別に独自集計しました。
| 年度 | 大規模法人部門 | 中小規模法人部門 |
|---|---|---|
| 2023年度 | 2,676法人 | 14,012法人 |
| 2024年度 | 2,988法人 | 16,733法人 |
| 2025年度 | 3,400法人 | 19,796法人 |
経済産業省の年度別公表資料をもとにHuman Soarが集計(中小規模法人部門は2年間で約41%増加)
中小規模法人部門の伸びが示す現場の変化
特に伸びが大きいのは中小規模法人部門です。2023年度の14,012法人から2025年度には19,796法人まで増加しており、2年間で約41%の伸びとなっています。大企業だけでなく、人員に余裕の少ない中小企業ほど、社員一人ひとりの回復・健康管理を経営課題として扱う必要性に迫られていると読み取れます。
健康経営優良法人の認定基準には、健康診断の受診率だけでなく、休暇取得やメンタルヘルス対策への取り組みも含まれています。単に「病気にならない」ことではなく、日常的な回復を組織として設計できているかが問われている点は、スポーツ科学のピリオダイゼーションの発想と重なります。
ピリオダイゼーションの基本は3つのフェーズ配分
スポーツ科学では、年間の計画を大きく「準備期」「試合期」「回復期」の3フェーズに分け、それぞれで負荷のかけ方を変えます。この考え方を企業の年間サイクルに当てはめると、繁忙期の前後にどのような回復フェーズを設計するかが見えてきます。
準備期にあたるフェーズ|基礎体力ならぬ「基礎の働きやすさ」を整える
スポーツにおける準備期は、試合期の高負荷に耐えられる基礎体力を作る期間です。企業においては、繁忙期に入る前に業務プロセスの整理や人員体制の見直しを行い、負荷が集中しても対応できる土台を作る期間がこれにあたります。この期間を飛ばしていきなり繁忙期に突入すると、準備不足のまま高負荷がかかり、けが(離職・不調)のリスクが高まります。
試合期にあたるフェーズ|高負荷でも回復の兆候を見逃さない
試合期は最も高い負荷がかかる期間ですが、スポーツ科学ではこの期間も完全に休みなく追い込むのではなく、練習の合間に短い回復日を計画的に挟みます。企業の繁忙期でも、残業時間だけでなく「短時間でも回復できる仕組み」(有休の分散取得、業務量の平準化など)を組み込むことが、燃え尽きを防ぐ鍵になります。
回復期にあたるフェーズ|意図的に負荷を下げる期間を確保する
回復期は、意図的に負荷を下げ、心身を回復させる期間です。スポーツ選手はこの期間を「サボり」ではなく次のシーズンに向けた必要な投資と捉えています。企業でも、繁忙期の直後に意図的な閑散期・休暇取得の推奨期間を設けることで、次の負荷サイクルに耐えられる状態を作れます。
健康経営に落とし込むための診断フロー
自社がどのフェーズに近い状態かを把握しないまま施策を導入しても、効果は限定的です。Human Soarでは、健康経営担当者が自社の状態を診断できるフローを整理しました。
Q1 繁忙期の前に、業務体制を見直す準備期間を設けているか
Q2 繁忙期の最中に、短時間でも回復できる仕組み(休憩・分散休暇)があるか
Q3 繁忙期の直後に、意図的な閑散期・休暇取得推奨期間を確保しているか
3つすべてに「いいえ」がつく場合、回復設計が抜け落ちたまま負荷だけがかかり続けている状態です。まずはQ3の「繁忙期直後の回復期間」から着手すると、比較的コストをかけずに導入しやすくなります。
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睡眠という最もコストのかからない回復手段
回復施策というと大がかりな制度変更を想像しがちですが、最も基本的でコストのかからない回復手段は睡眠です。厚生労働省は2023年に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を策定し、睡眠による休養が十分に取れていない人の割合が増加していることを課題として挙げています。
健康経営の施策として、いきなり大規模な制度を導入する前に、まずは社内での睡眠に関する基礎知識の共有や、勤務間インターバルの確保といった小さな施策から着手することが現実的です。睡眠の質は、繁忙期の生産性そのものにも直結します。
(参考)健康づくりのための睡眠ガイド2023 – 厚生労働省
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よくある質問
ピリオダイゼーションは中小企業でも導入できますか
経済産業省のデータでも、健康経営優良法人の認定数は中小規模法人部門の方が伸び率が大きくなっています。大がかりな制度でなくても、繁忙期の前後に回復期間を意図的に設ける発想だけであれば、規模を問わず導入できます。
回復期間を設けると生産性が下がりませんか
スポーツ科学では、回復を挟まずに負荷をかけ続けるとかえってパフォーマンスが落ちるとされています。短期的な生産性より、離職・不調による中長期的な損失を防ぐ投資として捉えることが重要です。
健康経営優良法人の認定は取得すべきですか
認定取得自体が目的化しないよう注意は必要ですが、認定基準には休暇取得やメンタルヘルス対策が含まれており、自社の回復設計を見直す指標として活用する価値はあります。
まとめ
- スポーツ科学のピリオダイゼーションは、負荷と回復を計画的に配分する考え方
- 健康経営優良法人の認定数は2023〜2025年度で中小規模法人部門が約41%増加している
- 企業の年間サイクルも「準備期・試合期・回復期」の3フェーズで回復設計を考えられる
- 診断フローで自社の回復設計の抜け漏れを確認し、まずは繁忙期直後の回復期間から着手するのが現実的
- 睡眠は最もコストのかからない回復手段であり、厚労省の睡眠ガイドも活用できる
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