「エース候補の若手が、大事な試合でだけ結果を出せない」。プロ野球やアマチュアスポーツの現場だけでなく、人材育成担当者として似た悩みを抱えたことはないでしょうか。実力はあるのに本番で崩れる選手・社員に対して、根性論ではなく専門的なメンタルサポートを付ける発想は、MLB(メジャーリーグベースボール)ではすでに当たり前になっています。
この記事では、MLB球団のメンタルコーチ導入の実態と、日本オリンピック委員会(JOC)が公表する強化スタッフ数データを独自に集計した結果をもとに、組織にメンタルサポートを導入すべきかを判断する視点を整理しました。
MLBでは「1球団に1人」が当たり前になっている
MLBでは、多くの球団がメンタルスキルコーチ(Mental Skills Coach)やスポーツ心理コンサルタントを専属で置き、選手のメンタル面のコンディショニングを技術・体力トレーニングと同列に扱っています。日本ではまだ「一部の球団が試験的に導入する」段階にとどまっている一方、MLBでは球団職員として恒常的に配置される役職になっている点が大きな違いです。
日本国内でも、NPBのオリックス・バファローズが2021年に球界で初めて専門資格を持たない「素人」のメンタルコーチを導入し、話題になりました。専門資格の有無にこだわらず、選手との信頼関係を築ける人材を起用するという発想自体が、日本のスポーツ界にとって新しい挑戦だったといえます。
JOC公表データで見る「医・科学スタッフ」の競技別比率
メンタルコーチやスポーツ心理士は、JOCの強化スタッフ区分では「医・科学スタッフ」に含まれています。日本オリンピック委員会が公表する「令和8年度 強化スタッフ数」(45競技・実人数2,814人)から、主要競技の医・科学スタッフ比率をHuman Soarが独自に算出しました。
| 競技 | 強化スタッフ実人数 | 医・科学スタッフ比率 |
|---|---|---|
| テニス | 90人 | 46.7%(42人) |
| サッカー | 78人 | 42.3%(33人) |
| 柔道 | 112人 | 36.6%(41人) |
| 水泳 | 183人 | 32.2%(59人) |
| 野球 | 128人 | 28.1%(36人) |
| 体操 | 57人 | 21.1%(12人) |
JOC「令和8年度 強化スタッフ数」(令和8年7月1日付)をもとにHuman Soarが競技別の医・科学スタッフ比率を算出。医・科学スタッフにはトレーナー・ドクター・栄養士等も含まれ、メンタル専門職のみの数値ではない点に留意
テニス・サッカーの比率が高い背景
個人競技であるテニスは、選手1人あたりに手厚い医・科学スタッフを配置しやすい構造があります。サッカーも比率が高く、国際大会での結果が直接的に競技の露出・スポンサー獲得に直結するため、医・科学面への投資が進んでいると考えられます。いずれも「個の状態管理」が結果に直結しやすい競技特性が背景にあります。
野球・体操の比率が相対的に低い背景
野球は強化スタッフの実人数自体は多いものの、コーチングスタッフの比重が大きく、医・科学スタッフの比率は相対的に低くなっています。体操も同様の傾向があります。これは体制の巧拙というより、競技特性上コーチングスタッフの人数が多く必要とされる構造による部分もあり、単純に「投資が少ない」と断定はできない点に注意が必要です。
(参考)強化スタッフ数(令和8年度) – 日本オリンピック委員会
組織にメンタルサポートを導入すべきかの診断フロー
MLBやJOCのデータを見て「うちの組織にも専門家を置くべきか」と考える人材育成担当者向けに、Human Soarでは導入判断のためのフローを整理しました。
Q1 「実力はあるのに本番だけ結果が出ない」人材が組織内に複数いるか
Q2 個人の成果が組織全体の評価・業績に直結する業務が多いか(営業・スポーツ選手・登壇者など)
Q3 既存の1on1・研修だけでは、本番でのメンタル面の課題が改善していないと感じるか
3つすべてに当てはまる場合は、外部専門家によるメンタルサポートの導入を検討する優先度が高いと言えます。1〜2個の場合は、まず社内でメンタルトレーニングの基礎技法を研修として展開し、効果を見ながら段階的に専門家の起用を検討するのが現実的です。
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専門家に頼る前に組織でできる3つの準備
いきなり外部の専門家を起用する前に、組織内で準備しておくと導入効果が高まる取り組みがあります。オリックスの事例のように、専門資格の有無より現場との信頼関係が重視される背景には、こうした土台づくりの重要性があります。
①「メンタルの課題」を個人の性格の問題にしない文化を作る
本番に弱いことを「気合が足りない」「メンタルが弱い」という個人の性格の問題として片づけてしまうと、専門家を導入しても本人が相談しづらい空気が残ります。まずは組織として「メンタル面も技術と同じように鍛えられるスキル」という前提を共有することが土台になります。
②本番前後の振り返りを記録する仕組みを作る
専門家に相談する際、「いつ・どんな場面で崩れたか」という具体的な記録があると、的確なサポートを受けやすくなります。営業の商談後や、プレゼン後に簡単な振り返りメモを残す習慣を、専門家導入前から始めておくと効果的です。
③小さな規模から試験導入し、効果を検証する
いきなり全社員・全選手に専門家を付けるのではなく、オリックスのように特定のチーム・部署で試験的に導入し、効果を検証してから拡大するアプローチが現実的です。専門家の起用にはコストがかかるため、小さく始めて成果を可視化することが、社内での予算獲得にもつながります。
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よくある質問
メンタルコーチには必ず資格が必要ですか
オリックスの事例のように、専門資格を持たない人材が起用されるケースもあります。重要なのは資格の有無より、選手・社員との信頼関係を築ける人材かどうかです。ただし医療的な判断が必要な場面では、臨床心理士など有資格者との連携も検討すべきです。
中小企業でもメンタルサポートを導入する価値はありますか
JOCのデータでも、個人の成果が結果に直結する競技ほど医・科学スタッフの比率が高い傾向があります。営業職など個人の成果が業績に直結する部署がある企業であれば、規模を問わず検討する価値はあります。
導入効果はどのように測定すればよいですか
本番前後の振り返り記録を導入前から蓄積しておき、導入後にその内容がどう変化したかを比較するのが現実的です。フォーム定量的な指標だけでなく、本人の自己評価の変化も参考にできます。
まとめ
- MLBでは多くの球団がメンタルコーチを専属で配置し、日本のNPBでも試験的な導入が始まっている
- JOC公表データを独自集計すると、テニス・サッカーは医・科学スタッフ比率が高く、野球・体操は相対的に低い
- 導入判断は「本番で崩れる人材の有無」「個人成果の業績への直結度」「既存施策の限界」の3点で診断できる
- 専門家起用の前に、メンタル課題を性格の問題にしない文化づくりと振り返りの記録習慣を整えることが土台になる
- 小規模な試験導入から始め、効果を可視化してから拡大するアプローチが現実的
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