ワークエンゲージメントを高めるスポーツ施策|3つの効果

ワークエンゲージメント スポーツ施策を実践するオフィスワーカー スポーツウェルビーイング

「離職率は低いのに、なんとなくチームが活気に欠ける」「目標はこなすけれど、もっと自発的に動いてほしい」──多くのマネジャーが感じるこの課題の裏側にあるのが、ワークエンゲージメントの低下です。この記事では、スポーツ・運動習慣がワークエンゲージメントをどのように高めるか、科学的メカニズムと職場への具体的な応用方法を解説します。

ワークエンゲージメントとは何か──バーンアウトとの違い

ワークエンゲージメントとは、仕事に対して「活力(vigor)」「熱意(dedication)」「没頭(absorption)」を持って取り組んでいる状態を指します。オランダのシャウフェリら(Schaufeli et al., 2002)が提唱した概念で、単なる「仕事への満足」とも異なります。

バーンアウト(燃え尽き症候群)が「枯渇」「シニシズム」「無力感」で定義されるのに対し、ワークエンゲージメントはその対極です。重要なのは、エンゲージメントは「ポジティブな活力」であり、消耗を回復することとは別の概念だということです。

測定には国際標準の「UWES(Utrecht Work Engagement Scale)」が広く使われており、17項目または9項目の短縮版で数値化できます。厚生労働省のストレスチェック制度の追加設問としても活用されています。

(参考)ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策 – 厚生労働省

スポーツ・身体活動がエンゲージメントを高める3つのメカニズム

運動とワークエンゲージメントの関係は、複数の研究で支持されています。具体的には以下の3つのメカニズムが働いています。

メカニズム 働き エンゲージメントへの影響
神経生理学的効果 BDNF分泌・ドーパミン増加・セロトニン安定化 集中力・活力・ポジティブ感情の向上
心理的回復効果 仕事からの「切り離し(detachment)」を促進 翌日の活力リセット・熱意の持続
社会的結合効果 チームスポーツによる信頼・コミュニティ形成 職場への帰属感・仲間意識の強化

表:スポーツ・身体活動がワークエンゲージメントを高める3つのメカニズム

①神経生理学的効果:脳と活力を直接底上げする

有酸素運動を行うと、脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌が促され、神経の新生と記憶力・集中力の向上が起きます。またドーパミンとセロトニンのバランスが整うことで、ポジティブ感情が安定し、モチベーションの持続につながります。週3回以上の有酸素運動(早歩き・ジョギング・水泳など)でこの効果が得られることが複数の研究で示されています。

具体的には、朝の出勤前に30分ウォーキングを習慣化した社員が、そうでない社員と比べてUWESスコアが高いというデータが国内外の企業研究でも報告されています。

②心理的回復効果:仕事を「リセット」する時間

スポーツや運動は、仕事から精神的に距離を置く「デタッチメント(切り離し)」の時間として機能します。心理的な切り離しが十分できている従業員ほど、翌朝の活力が高く、仕事への没頭度も高いことが欧州の職場研究で繰り返し確認されています。「残業してでも仕事を片付ける」より「定時に退社して運動する」ほうが、翌日のパフォーマンスが高い可能性があります。これは直感に反しますが、休息と回復を戦略的に設計することの重要性を示しています。

③社会的結合効果:チームスポーツが帰属感を生む

個人の運動に加え、職場のチームスポーツや部活動は「社会的結合」を生み出します。共に汗をかく経験は、業務上の上下関係を超えた信頼関係を生み、職場への帰属感を高めます。帰属感(belonging)はエンゲージメントの根幹のひとつであり、社内スポーツイベントや部活動は「仕事だけでは作れない絆」を生む場として機能します。

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厚生労働省は「令和元年版 労働経済の分析」のなかで、ワーク・エンゲイジメントを「仕事から活力を得ていきいきとしている」「仕事に誇りとやりがいを感じている」「仕事に熱心に取り組んでいる」の3要素で捉え、働きがいと様々な労働アウトカムとの関係性を分析しています。

(参考)令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について- – 厚生労働省

Q. ワークエンゲージメントとバーンアウトの違いは何ですか?

ワークエンゲージメントは仕事に対する活力・熱意・没頭が高い状態を指し、バーンアウトはその対極にある疲弊・シニシズムの状態です。両者は同じ仕事への態度の軸の両端に位置するため、エンゲージメントを高める施策はバーンアウトの予防にも直結します。

Q. スポーツ施策はどのメカニズムから始めるのが効果的ですか?

コストと即効性のバランスを考えると、①神経生理学的効果(運動による脳・活力の底上げ)を狙った低コスト施策(朝のウォーキング等)から着手するのが現実的です。効果を確認しながら②③のチーム施策へ広げる進め方が定着しやすいとされます。

職場スポーツ施策でエンゲージメントを高めた実践事例

実際の企業での取り組みを3つのパターンに整理します。スタートラインとなる施策選びの参考にしてください。

パターン 投資規模 効果発現までの目安 想定される効果
①朝のウォーキング習慣化 低コスト 数週間 個人の活力・集中力の底上げ
②社内スポーツ部活動の活性化 中コスト 1〜3か月 チーム内の帰属感・社会的結合の強化
③スポーツ研修とエンゲージメント向上の統合 高コスト 3〜6か月 組織全体のエンゲージメントスコア改善

※Human Soarが本記事内で整理した投資規模別の分類(独自作成)

パターン①:朝のウォーキング習慣化(低コスト)

ある製造業の企業では、始業前10分の職場周辺ウォーキングを全社的に推奨したところ、3か月後のエンゲージメントサーベイでスコアが有意に向上しました。コストはほぼゼロで、管理職が率先して参加することが定着のカギでした。参加率を上げるために、スマートフォンの万歩計アプリで部署対抗チャレンジを実施したところ、参加率が30%から75%に伸びたという事例もあります。

低コストで始めたい場合は、オフィスフィットネス導入|人事が押さえる費用と効果も具体的な導入コストの参考になります。

パターン②:社内スポーツ部活動の活性化(中コスト)

IT企業の事例では、フットサル部・ランニング部・バドミントン部など複数の社内スポーツ部活動に年間予算を配布(1部あたり月2〜5万円程度)し、活動を正式な社内コミュニティとして認定しました。その結果、部活動参加者と非参加者のエンゲージメントスコアを比較すると、参加者のほうが平均15〜20ポイント高いという結果が得られています。

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チームの帰属感を高める心理面のアプローチは、チームフロー状態の作り方|管理職が高める組織の集中力でも詳しく解説しています。

パターン③:スポーツ研修とエンゲージメント向上の統合(高コスト)

研修会社との連携で「スポーツを通じたチームビルディング研修」を四半期に1回実施する企業も増えています。アスリートや元プロ選手を講師として招き、スポーツの「チームで目標を達成する体験」をビジネスに転換するプログラムです。実施後のエンゲージメントサーベイでは熱意・活力スコアが短期的に上昇し、その効果が3か月後も持続するという事例報告があります。

チームスポーツによる社会的結合効果をさらに体系立てて確認したい場合は、スポーツ体験も使えるチームビルディング効果測定法も参考になります。

Q. 社内スポーツ部活動は何人規模から始められますか?

明確な下限はありませんが、5〜10名程度の有志から始め、月1〜2回の活動実績を作ってから全社募集に広げる進め方が定着しやすいとされています。小規模から検証し拡大するアプローチがリスクを抑えられます。

エンゲージメント向上施策を定着させる4つのポイント

スポーツ施策を導入しても、継続しなければ効果は薄れます。定着のための4つのポイントをご紹介します。

第一に、経営層・管理職の率先垂範です。「管理職は参加しなくていい」という姿勢では、従業員は「強制されている」と感じてしまいます。第二に、参加を強制しないことです。強制した瞬間に「義務」になり、スポーツの持つポジティブな心理効果が半減します。第三に、小さな成功体験を見える化することです。スコア向上・記録更新・部署対抗結果などを社内掲示板で共有し、達成感を循環させます。第四に、定期的な効果測定でPDCAを回すことです。

Q. エンゲージメント向上施策の効果はどのくらいで表れますか?

個人の活力向上は数週間単位で実感されやすい一方、組織全体のエンゲージメントスコアの改善は四半期〜半年単位の継続実施で確認されるのが一般的です。短期の離脱率だけで判断せず、継続前提で設計することが重要です。

まとめ

  • ワークエンゲージメントは「活力・熱意・没頭」で測られ、UWESで定量評価できる
  • スポーツは神経生理学・心理的回復・社会的結合の3メカニズムでエンゲージメントを高める
  • 朝のウォーキング・社内部活動・スポーツ研修など、コスト帯別に施策を選べる
  • 施策の強制ではなく「自発的参加の仕組み」と「経営層の率先垂範」が定着のカギ
  • UWESやエンゲージメントサーベイで定期測定し、効果を可視化して継続改善する

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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