競技に打ち込んできた学生アスリートほど、引退後や卒業後の進路をうまく描けずに悩むケースが少なくありません。「競技でしか自分を証明できない」という思い込みは、進路選択の幅を狭めてしまうことがあります。この背景にあるとされるのが「自己効力感」、つまり自分にはやればできるという感覚が、競技という一つの領域に偏っているかどうかという問題です。
この記事では、スポーツ庁の実態調査をもとに、学生アスリートの自己効力感が将来設計にどう影響するのか、そして教育・キャリア支援担当者や企業が取り組める支援策を整理します。
自己効力感が将来設計に与える影響
自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で「自分はこの課題を達成できる」という主観的な確信を指します。競技の場で高い自己効力感を培ってきた学生アスリートは、目標設定と達成を繰り返す経験そのものは豊富に持っています。
しかし、その自己効力感が「競技における自分」にのみ結びついている場合、引退や卒業を機に競技という土台を失うと、将来設計に対する自信そのものが揺らいでしまうことがあります。スポーツ庁が進める「スポーツキャリアサポート戦略」でも、平成21年頃から「人」としての人生と「競技者」としての人生を同時に歩む「デュアルキャリア」の考え方の重要性が指摘されてきました。
支援の実践例
自己効力感を競技以外の領域にも広げていくための支援は、教育機関や競技団体でいくつかの形で実践されています。
競技と両立した学業・資格取得の支援
競技活動と並行して学業や資格取得に取り組めるよう、授業日程の柔軟化やオンライン学習の活用を進める学校・大学が増えています。競技以外の分野でも「やればできた」という成功体験を積み重ねることが、自己効力感を競技外に広げる第一歩になります。
キャリア形成支援プログラム
平成29年に創設された「スポーツキャリアサポートコンソーシアム事業」のように、競技団体や大学が連携してアスリートのキャリア形成を支援する枠組みも整備されてきています。企業でのインターンシップや先輩アスリートとの対話の場を設けることで、競技以外のフィールドでも通用する自分の強みに気づく機会をつくっています。
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企業ができる支援
学生アスリートの自己効力感を将来設計につなげる取り組みは、教育機関だけでなく企業側にもできることがあります。
インターンシップでの役割の明確化
学生アスリートを受け入れる企業は、単に「体力がある人材」として扱うのではなく、目標設定・達成の経験や、チーム内での役割遂行力といった競技で培った強みを、業務のどの場面で発揮できるかを具体的に伝えることが重要です。抽象的な期待ではなく、役割を明確にすることで新しい環境でも自己効力感を持ちやすくなります。
先輩アスリートとのメンタリング
競技引退後にビジネスの世界で活躍する先輩アスリートとの接点を企業側が用意することも、有効な支援です。同じ背景を持つ先輩の存在は、競技以外の領域でも自分は通用するという感覚を持つための具体的なロールモデルになります。
認知度の低さが支援の届きにくさを生んでいる
スポーツ庁の調査によれば、デュアルキャリアという考え方自体の認知は、ビジネスパーソンの間でまだ広く浸透しているとはいえない状況にあります。競技団体側の関係者と比べて、大学や企業側の理解度に差があることも指摘されており、これは支援の枠組みが整っていても、それを必要とする学生アスリート本人や受け入れ側の企業に情報が届いていない可能性を示しています。
つまり、自己効力感の課題は学生アスリート個人の心理面だけの問題ではなく、周囲の大学・企業がデュアルキャリアという考え方をどれだけ理解し、具体的な支援策として提示できるかという「情報の非対称性」の問題でもあると捉え直すことができます。企業が採用や研修の場でこの考え方を明示的に伝えるだけでも、支援の実効性は変わってくると考えられます。
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よくある質問
自己効力感が低いとどんな進路の悩みが起きやすいですか
競技以外の場面での成功体験が少ないと、就職活動や進学の場面で自分の強みを言語化できず、選択肢を狭めてしまう傾向があります。競技経験を他分野に置き換えて語る練習が有効です。
指導者は何に気をつければよいですか
結果だけでなく、目標を立てて工夫し達成したプロセスを言葉にして評価することが、競技以外の場面でも通用する自己効力感を育てることにつながります。
まとめ
- 自己効力感が競技のみに結びついていると、引退・卒業後の将来設計に対する自信が揺らぎやすい
- 学業との両立支援やキャリア形成プログラムは、競技外での成功体験を積む機会になる
- 企業はインターンでの役割明確化や先輩アスリートとのメンタリングで支援できる
- デュアルキャリアの認知度不足という情報の非対称性が、支援を届きにくくしている一因
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