「スポーツマーケティング業界を目指したいけど、具体的にどんな会社があるのか分からない」。就職・転職活動でこの業種を調べ始めると、大手広告代理店の名前は出てくるものの、実際にどんな企業が、どんな仕事をしているのか意外と整理されていないことに気づきます。
この記事では、スポーツマーケティング業界の市場動向を整理したうえで、実際に活動している代表的な7社の事業内容を、公式サイトの情報をもとに比較します。業界研究や企業選びの土台として役立ててください。
スポーツマーケティング会社とは|スポーツ庁が描く成長産業の担い手
スポーツマーケティング会社とは、プロスポーツチームや競技団体、選手(アスリート)と、企業やブランドの間に立ち、スポンサーシップの仲介・ファンとの接点づくり・イベント運営・選手のマネジメントなどを手がける企業のことです。広告代理店の一事業部門として展開されるケースと、スポーツ領域に特化した専業会社として設立されるケースの両方が存在します。
この業種が伸びている背景には、国の政策があります。スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画のなかで、スポーツ市場規模5.5兆円を2025年までに15兆円に拡大することを目指すと明記しており、スタジアム・アリーナ改革やスポーツオープンイノベーションの推進といった具体策も並行して進めています。
つまりスポーツマーケティング会社は、この政策目標を民間の実務レベルで実現する担い手として位置づけられているわけですね。
(参考)スポーツの成長産業化(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
市場規模から見るスポーツマーケティング業界の伸びしろ
日本政策投資銀行(DBJ)が同志社大学と共同で発行した「日本版スポーツサテライトアカウント」の最新推計によると、2022年時点の日本のスポーツ産業の経済規模は約10.3兆円に達しています。スポーツ庁が掲げる2025年15兆円という目標には届いていないものの、2011年からの推計期間を通じて拡大基調にあることが示されています。
目標の達成時期についても、2026年に入ってからの整理では「遅くとも2030年までに後ろ倒し可能」という位置づけに変わってきています。裏を返せば、市場が政策目標のペースには届いていない一方で、企業側の投資余地はまだ大きく残っているとも読み取れます。
スポンサー企業側の動きも変化しています。従来型の看板広告・ユニフォームロゴ協賛だけでなく、チームとの共同コンテンツ制作やファン参加型キャンペーンなど、企業とチームが「共創」する形のマーケティングが増えているのが実務面での特徴です。この変化を仲介・実行するプレイヤーとして、次章で紹介する会社群が機能しています。
(参考)わが国スポーツ産業の経済規模推計 日本版スポーツサテライトアカウント2011~2022年推計 – 株式会社日本政策投資銀行
代表的なスポーツマーケティング会社7社の事業比較
ここでは、大手広告代理店系から地域密着型、アスリートマネジメント特化型まで、事業モデルの異なる7社を選び、各社の公式サイトで確認できる事業内容を比較します。
| 会社名 | 主な事業内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 博報堂スポーツマーケティング | スポンサーシップ、メディアライツ、イベントプロデュース | 博報堂DYグループのスポーツ事業を一手に担う専業会社 |
| 電通(電通スポーツネットワーク) | スポンサーシップ、IP創造・グロース、海外スポーツ事業 | 世界5拠点の海外子会社を統括するグローバル体制 |
| ジャパン・スポーツ・マーケティング | アスリート・文化人のエージェント、マネジメント | 選手個人の代理人業務を軸にしたマネジメント会社 |
| クロス・ビー | スポンサーシップ戦略、イベント企画、効果測定・分析 | 大手消費財・自動車メーカーとの取引実績が豊富 |
| ディナトス | プロクラブのパートナーセールス支援、集客プロモーション | Bリーグ・Jリーグクラブの営業代行に特化 |
| アイ・シー・オー | 教育広報、スポーツマーケティング、地域イベント支援 | 新潟・福島・東京を拠点とする地域密着型総合広告代理店 |
| ジオナ(Wapex) | スポーツ用品の企画・製造・販売、協業型スポンサーシップ | 企画から製造・販売までを自社で垂直統合 |
表:代表的なスポーツマーケティング会社7社の事業比較(各社公式サイトの情報をもとに作成)
博報堂スポーツマーケティング|博報堂DYグループのスポーツ専業カンパニー
博報堂スポーツマーケティングは、2026年6月に博報堂DYスポーツマーケティングから社名を変更した、博報堂DYグループのスポーツビジネスを一手に担う専業会社です。事業領域はスポンサーシップ、メディアライツ、イベントプロデュース、アスリートプロデュース、ファンマーケティング、コンサルティングと幅広く、海外領域も手がけています。
公式サイトでは、欧州王者ペルージャとSVリーグ王者のバレーボール国際クラブマッチのプロデュースや、日本スポーツクライミング協会(JMSCA)のマーケティングパートナーとしての取り組みなど、実際の事業事例が公開されています。大手代理店系ならではの、複数競技・複数領域を横断した総合力が強みといえます。
電通|電通スポーツネットワークで世界5拠点を統括
電通は「電通スポーツネットワーク」として、電通スポーツインターナショナルを事業持株会社に、電通スポーツアメリカ・電通スポーツヨーロッパ・電通スポーツアジア・電通スポーツベトナム・ヘイロースポーツの5つの海外子会社と、MKTGスポーツのグローバルネットワークを統括しています。国内事業では2025年8月、次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth」をスポーツビジネス領域にも展開し、ファンの意識・行動特性を多面的に捉える新サービス「SPORTS CLUSTER MARKETING」の提供を始めました。
北米・欧州・アジアという世界の主要スポーツ市場に自社拠点を持つ点は、他社にはない規模のグローバル対応力です。国内クライアントが海外のスポーツIPと組みたい場合や、逆に海外展開を見据える場合の窓口として機能しています。
ジャパン・スポーツ・マーケティング|選手個人に寄り添うエージェント業務
ジャパン・スポーツ・マーケティングは「日本スポーツビジネスのリーディングカンパニー」を掲げ、アスリートや文化人のマネジメント・エージェント業務を中心に事業を展開しています。サッカー・野球・ゴルフ・格闘技・バスケットボール・ウィンタースポーツなど幅広い競技の選手と契約し、メディア露出や広告出演、イベント・講演出演、肖像管理などをサポートしています。
東北楽天ゴールデンイーグルスの監督契約や複数のプロサッカー選手の契約実績が公式サイトで公開されており、チーム単位ではなく選手個人を軸にした事業モデルであることが分かります。企業がアスリートを起用した広告・イベントを企画する際の窓口の一つになっています。
クロス・ビー|大手消費財メーカーの取引実績が厚いスポンサーシップ専業
クロス・ビーは、スポーツスポンサーシップ戦略のサポート、スポーツイベントの企画・運営、スポーツビジネスに関する調査・報告の3つを事業の柱としています。公式サイトのクライアント一覧には、アシックス・味の素・サッポロビール・デサント・トヨタ自動車・日本生命・パナソニック・ミズノなど、業種の異なる大手企業が50音順で多数掲載されています。
「各種スポーツスポンサーシップの効果測定、データ化およびその分析結果報告」を明記している点も特徴です。スポンサー契約を結んで終わりではなく、その効果を可視化するところまでを事業範囲としています。
(参考)スポーツマーケティング事業 – 株式会社クロス・ビー
ディナトス|Bリーグ・Jリーグクラブの営業代行に特化
ディナトスは、プロスポーツクラブの集客を支援する広告企画・営業活動サポートを主軸とする会社です。公式サイトでは、Bリーグのシーホース三河・ファイティングイーグルス名古屋・横浜エクセレンス、J.LEAGUEの横浜FCなど、複数クラブとの「パートナーセールス支援」の実績が具体的な獲得社数つきで紹介されています。
クラブに代わって新規スポンサー企業を開拓する「セールス代行」と、地域住民の新規来場者を増やす「エリアプロモーション集客支援」を組み合わせている点が特徴です。クラブ側の人員が限られるなか、営業機能そのものを外部委託できる存在として位置づけられています。
アイ・シー・オー|新潟発、教育広報とスポーツマーケティングの二本柱
アイ・シー・オーは、新潟・福島・東京に拠点を置く総合広告代理店で、教育広報・スポーツマーケティング・祭りビジネス・eコマースの4領域を事業の柱としています。1987年設立、NSGグループの一員として、地方の教育機関や地域スポーツに関わる広報・集客・マーケティング活動を支援しています。
大手代理店やアスリートエージェント会社が東京中心の全国・海外案件を扱うのに対し、アイ・シー・オーは地方都市を拠点に、地域の学校・スポーツ団体・自治体と密接に関わる事業モデルを取っている点が対照的です。
ジオナ(Wapex)|企画・製造・販売を自社で担う垂直統合モデル
ジオナが展開するスポーツテーピングブランド「Wapex」は、鹿島アントラーズ・横浜FC・ジュビロ磐田などのJリーグクラブや、広島ドラゴンフライズなどのBリーグクラブと「協業型スポンサーシップ」を結んでいます。公式サイトによると、最大の強みは、通常はクラブ・代理店・メーカー・小売店に分かれる企画・製造・販売の工程をすべて自社で担う垂直統合型のビジネスモデルです。
この体制により、新商品をファンに届けるまでのリードタイムを短縮し、価格を抑えることも可能になっているとしています。スポンサーシップの対価を「広告露出」だけでなく「製品供給・共同開発」という形で提供している点が、他の代理店系の会社とは異なる特徴です。
(参考)契約&スポンサー企業一覧 – Wapex|株式会社ジオナ
スポーツマーケティング会社のポジショニング|4つの事業モデル
ここまで紹介した7社を見比べると、同じ「スポーツマーケティング会社」でも事業のつくり方は一様ではありません。誰と契約し、何を提供するかという軸で整理すると、次の4つの事業モデルに分類できます。
図:スポーツマーケティング会社の4つの事業モデル分類(本記事で調査した7社をもとに整理)
大手広告代理店系|複数競技・海外展開まで含む総合力
博報堂スポーツマーケティングと電通は、いずれも大手広告代理店グループのスポーツ専業カンパニーです。特定の1クラブ・1選手ではなく、複数競技・複数クライアントを横断的に扱い、海外拠点や国際的なスポーツIPとの連携まで手がけられる点が共通しています。予算規模の大きい全国区の企業案件に向いた事業モデルといえます。
地域密着型代理店|地方の学校・クラブとの近さが強み
ディナトスとアイ・シー・オーは、特定の地域やクラブに深く入り込む事業モデルです。ディナトスは複数のBリーグ・Jリーグクラブの営業機能そのものを担い、アイ・シー・オーは新潟を拠点に教育機関とスポーツ団体の両方を支援しています。全国規模の代理店では手が届きにくい、地域密着の営業・広報ニーズに応えている点が特徴です。
アスリートマネジメント特化型|選手個人を軸にした事業
ジャパン・スポーツ・マーケティングとクロス・ビーは、チームやクラブではなく選手個人・アスリートとの契約を軸にしています。企業が「特定の選手を広告に起用したい」「イベントに呼びたい」というニーズに対して、選手側の代理人・マネジメント会社として窓口になる事業モデルです。クロス・ビーはこれに加えてスポンサーシップの効果測定という調査機能も持っています。
用品×スポンサーシップ垂直統合型|モノづくりから協賛までを一気通貫
ジオナ(Wapex)は、スポーツ用品メーカーとしての企画・製造・販売機能を持ちながら、クラブとの協業型スポンサーシップも展開する点で、他の3モデルとは性格が異なります。広告や営業支援のノウハウだけでなく、実際にファンが手に取る商品そのものを提供できることが、この事業モデルの独自性です。
スポーツマーケティング会社を業界研究する際に見ておきたい3つの視点
業界研究や取引先選定でスポーツマーケティング会社を比較するときは、単に「大手か中小か」だけでなく、次の3つの視点で見ると各社の違いが整理しやすくなります。
①クライアント業界の幅|特定業種に強いか、横断的か
クロス・ビーのクライアント一覧のように、消費財・自動車・化粧品・金融など幅広い業種の企業と取引している会社もあれば、ディナトスのように取引先の大半がスポーツクラブ自身という会社もあります。就職・転職で「様々な業界の仕事に関わりたいのか」「スポーツ業界の中で専門性を深めたいのか」によって、向いている会社は変わってきます。
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②契約形態|代理・仲介型か、垂直統合型か
博報堂スポーツマーケティングや電通、ディナトスの多くは、企業とクラブ・選手の間に立つ「代理・仲介型」の契約形態です。一方でジオナ(Wapex)は、自社が商品の企画・製造・販売までを担う「垂直統合型」で、スポンサーシップの対価が広告露出だけでなく製品供給にも及びます。取引先としてどこまでの機能を求めるかで、選ぶべき契約形態は変わります。
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③データ活用の深さ|効果測定まで踏み込んでいるか
クロス・ビーが「スポンサーシップの効果測定、データ化」を明記しているように、契約を取るところまでで終わらず、その後の効果を数値で示せるかどうかも会社選びの重要な視点です。スポンサー予算の説明責任が企業側で強まるなか、ファンの行動データを分析し、投資対効果を可視化できる会社の価値は今後さらに高まっていくと考えられます。
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よくある質問
スポーツマーケティング会社と広告代理店の違いは?
博報堂スポーツマーケティングや電通のように、大手広告代理店グループの一員としてスポーツ領域に特化した専業会社を持つケースが多く、業務内容自体は広告代理店の延長線上にあります。違いは、スポンサーシップ交渉やアスリートマネジメントなど、スポーツ業界特有の商習慣・権利関係に精通している点です。
未経験でもスポーツマーケティング業界に転職できる?
本記事で紹介した7社は、大手代理店系から地域密着型、用品メーカー系まで事業モデルが多様なため、必要とされる経験・スキルも会社によって異なります。営業経験を活かせる会社(ディナトス等)もあれば、スポーツ業界での実務経験が重視される会社もあり、志望企業の事業内容を具体的に調べたうえで応募することが重要です。
中小企業もスポーツマーケティング会社に依頼できる?
依頼できます。アイ・シー・オーのような地域密着型の会社は、地方の中小企業や教育機関からの相談にも対応しており、必ずしも大手代理店でなければならないわけではありません。予算規模や目的(全国的な認知拡大か、地域での関係構築か)に応じて、適した会社の事業モデルを選ぶことが大切です。
まとめ
- スポーツ庁は「スポーツ市場規模5.5兆円を2025年までに15兆円に拡大する」という目標を掲げており、達成時期は2030年までに後ろ倒し可能とされている
- DBJの推計では2022年時点の日本のスポーツ産業の経済規模は約10.3兆円で、拡大基調が続いている
- スポーツマーケティング会社は、大手広告代理店系・地域密着型代理店・アスリートマネジメント特化型・用品×スポンサーシップ垂直統合型の4つの事業モデルに大別できる
- 業界研究や取引先選定では、クライアント業界の幅・契約形態・データ活用の深さの3つの視点で各社を比較すると違いが整理しやすい
- 予算規模や目的に応じて、大手代理店だけでなく地域密着型や専門特化型の会社も選択肢に入れる価値がある
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