オフィスの窓際でノートPCを開いていた社員が、気づけば汗だくになっている。本人は「いつも通り」のつもりでも、体温はじわじわと上がり続けていて、集中力も判断力も落ちている。そんな場面は、真夏のオフィスや屋外の現場で珍しくありません。
体温の変化は、本人が自覚するよりも先に身体の中で起きています。深部体温や皮膚温を数値として可視化できれば、休憩が必要なタイミングを感覚ではなくデータで捉えられるようになります。
この記事では、深部体温・皮膚温を計測できる製品の中から、公式サイトで機能を確認できた3製品を取り上げ、特徴と選び方を整理します。
会社や現場で体温データが必要とされる理由
体温を測る動きが広がっている背景には、法律面の変化があります。2025年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が義務化されました。対象になるのは、暑さ指数(WBGT)が28度以上、または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上作業する現場です。
厚生労働省は「職場における熱中症予防基準対策要綱」の中で、暑さ指数(WBGT)を活用した作業環境の評価を求めています。管理者は労働者の心拍数や体温、尿の回数・色といった身体状況を頻繁に確認することが望ましいとされており、ウェアラブルデバイスなどのIoT機器による健康管理も有効な手段として位置づけられています。
つまり、体温データの計測は一部の先進企業だけの取り組みではなく、暑熱環境で働くすべての現場に関わってくるテーマになりつつあります。スポーツの現場でも、練習中の熱中症リスクを避けながら追い込むために、同じ発想で体温データが使われています。
(参考)暑さ指数について|職場における熱中症予防情報 – 厚生労働省
深部体温・皮膚温を測る3製品を比較する
深部体温を直接推定するタイプと、皮膚表面の温度変化を捉えるタイプでは、得意なシーンが異なります。まずは公式サイトで機能を確認できた3製品を、提供元や主な計測項目、対応プラットフォームの観点で一覧にしました。
| 製品名 | 提供元 | 主な計測項目 | 対応プラットフォーム |
|---|---|---|---|
| CORE | greenteg AG(スイス) | 深部体温(caleragtセンサー) | Bluetooth Low Energy・ANT+対応のスポーツウォッチ/バイクコンピュータ/専用アプリ |
| Oura Ring | Oura Health Oy | 皮膚温(就寝中の平均体温のベースラインからの変化) | Ouraリング+専用スマートフォンアプリ |
| Apple Watch | Apple Inc. | 手首皮膚温(就寝中、背面と画面下の2センサー) | Apple Watch Series 8以降・Ultra・SE 3+iPhoneヘルスケアアプリ |
各製品の公式サイト・公式サポートページの記載をもとにHuman Soarが作成(2026年8月時点)
CORE|運動中の深部体温をリアルタイムに追う
COREは、スイスのセンサーメーカーgreentegが開発した非侵襲型の体温センサーです。caleragtという独自のセンサー技術を使い、胸部などに装着したデバイスから深部体温を推定します。10件以上の臨床試験を経て開発された技術で、サイクリストやトライアスリートなど、持久系アスリートの間で広く使われています。
暑熱順化トレーニングのように、あえて熱ストレスをかけながら追い込むトレーニングでは、オーバーヒートのリスクを見ながら強度を調整する必要があります。COREはBluetooth Low EnergyやANT+でスポーツウォッチや専用アプリにデータを飛ばせるため、トレーニング中のリアルタイムなモニタリングに向いています。
(参考)Core body temperature sensor – greenteg
Oura Ring|就寝中の皮膚温変化から回復度を読む
Oura Ringは指輪型のウェアラブルで、NTC温度センサーによって皮膚から直接体温を測定します。0.1度単位の変化を検知できるとされ、日中の活動による外乱を避けるため、就寝中の平均皮膚温をベースラインとの差分として表示する設計です。
Oura自身、この数値は基礎体温や深部体温とは異なる指標であると説明しており、あくまで皮膚温の変化からコンディションの傾向を読み取るためのものです。体温が普段よりも高い状態が続くときは、体調の変化や月経周期の影響を疑うきっかけになります。
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(参考)Body Temperature – Oura Member Care
Apple Watch|手首から夜間の体温トレンドを記録する
Apple Watch Series 8以降とApple Watch Ultra全モデル、Apple Watch SE 3は、背面クリスタル付近とディスプレイ下の2箇所に温度センサーを備えています。就寝中に5秒ごとに温度をサンプリングし、外部環境によるノイズを抑えながら、約5晩かけてベースラインとなる手首温度を確定させる仕組みです。
Apple自身が公式サポートページで明記している通り、この機能は医療機器ではなく、診断や治療を目的としたものではありません。あくまで夜間の体温の相対的な変化を把握し、月経周期トラッキングの排卵予測などに活用する位置づけです。
(参考)Track your nightly wrist temperature changes with Apple Watch – Apple Support
測定部位と目的で製品の立ち位置を整理する
3製品を並べてみると「どこで測るか」と「何のために使うか」という2つの軸で立ち位置が分かれていることが分かります。この記事では、次の2軸で製品を整理しました。

縦軸に主な目的、横軸に測定部位を置くと、COREは深部体温を直接推定しながらパフォーマンス最適化に振り切った位置づけになります。一方でOura RingとApple Watchは、皮膚温という間接的な指標から、健康管理や生活リズムの把握という目的に寄っていることが見えてきます。
現場で導入するときは、まず自分たちが「パフォーマンスを追い込みたいのか」それとも「体調変化に気づきたいのか」を決めてから、この図を見て製品を絞り込むと選びやすくなります。
CORE・Oura Ring・Apple Watchを導入する3ステップ
体温データは、測っただけでは意味を持ちません。ベースラインを作り、日常的に確認し、異常があれば動くという3つのステップを踏んで、初めて体調管理に活かせるようになります。

①ベースラインの体温を把握する
Apple Watchは約5晩、Oura Ringも装着開始から数日から数週間かけて、個人ごとの平常時の体温を学習します。この期間は「データが安定していない」状態なので、数値の良し悪しを急いで判断しないことが大切です。COREも同様に、安静時や軽い運動時のデータを何度か取ってから、負荷をかけた際の変化を比較する使い方が向いています。
②日常のモニタリングを習慣化する
ベースラインができたら、就寝中や運動中に継続して装着し、アプリ側で日々の変化を確認する習慣をつけます。単発の高い数値に一喜一憂するのではなく、数日から数週間単位のトレンドとして見ることがポイントです。
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③異常な変化が出たときに動く
ベースラインから外れた体温の変化が続く場合は、体調不良や環境要因のサインである可能性があります。職場であれば休憩や作業内容の見直し、スポーツの現場であれば練習強度の調整といった具体的な対応につなげることが、データを取る本来の目的です。
製品を選ぶときに確認したい視点
まず確認したいのは、深部体温そのものを追いたいのか、皮膚温の変化で十分なのかという点です。持久系スポーツで暑熱下のパフォーマンスを管理したい場合はCOREのような専用センサーが向きますが、日常の体調変化を把握したいだけであれば、普段から身につけているOura RingやApple Watchで十分なケースも多いはずです。
次に、生活への組み込みやすさも重要な判断材料になります。指輪型のOura Ringや、時計として普段使いできるApple Watchは、追加で装着する手間が少ない一方、COREのような専用デバイスは運動時にだけ装着するスタイルになりやすい製品です。
データの連携先も見ておきたいポイントです。COREはBluetooth Low EnergyやANT+で複数のスポーツウォッチ・アプリと連携できる設計になっており、既に使っているトレーニング環境に組み込みやすくなっています。Oura RingとApple Watchは、それぞれ専用アプリとヘルスケアアプリの中で完結する設計です。
価格帯や購入方法は各社の公式サイトに掲載されている情報が最新のため、導入を検討する際は必ず公式サイトの記載時点の情報を確認することをおすすめします。
職場のコンディション管理に取り入れるときの注意点
体温データを組織で活用する場合、個人の健康情報を扱うことになるため、製品選びとは別に押さえておきたい注意点があります。
熱中症対策の義務化とウェアラブル活用の関係
2025年6月の法改正で、暑熱環境での作業には熱中症対策が義務づけられました。ウェアラブルデバイスによる体温や心拍数のモニタリングは、この対応を後押しする手段の一つとして位置づけられていますが、デバイスの導入だけで法令上の義務を満たせるわけではありません。休憩場所の整備や水分・塩分補給の徹底など、既存の対策と組み合わせて運用することが前提になります。
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医療機器ではない点とデータの扱い方
ここで紹介した3製品は、いずれも医療機器としての体温測定・診断を目的とした製品ではありません。Apple自身も公式サポートページで、温度センシング機能は医療機器ではなく診断や治療を目的としていないと明記しています。体調に強い異変を感じた場合は、デバイスの数値だけで判断せず、医療機関に相談することが前提になります。
また、体温データは月経周期や健康状態と関わる機微な情報でもあります。企業で導入する場合は、誰がどこまでのデータを閲覧できるのかを事前に決めておき、本人の同意なくデータを共有しない運用にすることが欠かせません。
よくある質問
深部体温・皮膚温を測る製品について、よく聞かれる質問をまとめました。
Q. 深部体温と皮膚温はどう違うのですか
深部体温は体の内部の温度で、COREのようなセンサーが体表からの熱の伝わり方を計算して推定します。一方、皮膚温は文字通り肌の表面の温度で、Oura RingやApple Watchが直接測っているのはこちらです。皮膚温は深部体温よりも外気温や血流の影響を受けやすいため、同じ「体温」という言葉でも意味合いが異なります。
Q. これらのデバイスだけで熱中症を予防できますか
デバイス単体で熱中症を防げるわけではありません。厚生労働省が示す通り、暑さ指数(WBGT)に基づく作業環境の管理や、休憩・水分補給といった対策と組み合わせて初めて効果を発揮します。デバイスの役割は、体調の変化に早く気づくための一つの手段と考えるのが実態に近い使い方です。
Q. 企業が導入する場合はまず何から始めればよいですか
いきなり全従業員に配布するのではなく、まずは対象を絞ってベースラインのデータを集める期間を設けることをおすすめします。数週間分のデータが揃ってから、休憩のタイミングや作業内容の見直しにどう活かすかを現場の管理者と一緒に設計すると、無理なく運用に乗せやすくなります。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 2025年6月の法改正で、暑熱環境における熱中症対策が義務化され、体温データの活用が現実的な選択肢になっている
- COREは深部体温を直接推定し、パフォーマンス最適化に向いたセンサー
- Oura RingとApple Watchは皮膚温の変化から、就寝中の体調傾向を把握できる
- 測定部位と目的という2つの軸で整理すると、自分たちに合う製品を選びやすくなる
- いずれも医療機器ではないため、異変を感じたときは数値だけに頼らず医療機関に相談することが前提
体温という一見シンプルな指標も、測る部位や目的によって使い分けが必要です。まずは公式サイトの情報を確認しながら、自分たちの現場に合う製品から試してみてください。
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