スポーツDXとは|団体の7割が着手、企業が組む4つの形

スポーツDXとは|団体の7割が着手、企業が組む4つの形 スポーツDX

スポーツDXとは、デジタル技術でデータの活用を広げ、お金の流れも含めてスポーツの活動を変えていく取り組みです。スポーツ庁の委託調査(2023年11月〜2024年1月)では、DXに取り組んでいるスポーツ団体が全体の約7割に達した一方、全社のDX戦略を持つ団体は2割程度で、最大の課題は人材不足でした。

人も予算も足りない団体が多いからこそ、IT・通信・決済・データの企業や協賛企業が入る余地があります。ここでは国が定める意味と3つの階層、団体の取り組みの現状を押さえたうえで、企業がクラブ・リーグ・施設のDXに関わる4つの形と、守るべきルール、参加までの進め方をまとめます。

  1. スポーツDXとは|国の定義と「する・みる・ささえる」の目標
    1. 第3期スポーツ基本計画が掲げる政策目標
    2. スポーツ庁と経済産業省が進める主な事業
  2. スポーツDXの3階層|土台のインフラ改革から新しいデジタルサービスへ
    1. 1層目|顧客・選手情報の基盤と社内の仕組みを整える
    2. 2層目|観戦体験・競技力・チケット収入を高める
    3. 3層目|NFTやメタバースなど新しい収入源をつくる
  3. スポーツ団体のDXの現状|約7割が着手し土台づくりが先行
    1. 国内の事例は選手管理と配信に集中|AIとファンデータの活用は海外を下回る
    2. 最大の壁は人材不足|全社のDX戦略を持つ団体は2割程度
  4. 企業がスポーツDXに関わる4つの形|システム提供から合弁まで
    1. システム・サービスを納める|団体は川下の工程ほど外部に任せたい
    2. 協賛・親会社として技術を出す|実証の場と社内システムを提供する
    3. 共創プログラムで新事業をつくる|SOIPと地域のピッチ
    4. 出資・合弁で事業を担う|映像やファン向けの事業を一緒に運営する
  5. スポーツDXで企業が確かめるルール|データの権利・賭博・NFT
    1. スポーツデータの権利と使える範囲を契約で決める
    2. 賭けにつながるサービスとデータの提供先を確かめる
    3. NFTは業界団体のガイドラインで型を確かめる
  6. スポーツDXに企業が参加する進め方|課題を聞き国の共創事業を使う
    1. 地元のクラブやリーグの課題を聞く
    2. スポーツ庁の共創事業にパートナー企業として加わる
    3. 小さく試して数字で成果を残す
  7. スポーツDXのまとめ

スポーツDXとは|国の定義と「する・みる・ささえる」の目標

スポーツDXは、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」で、デジタル技術を用いてデータ利活用を拡大し、資金循環の仕組みの強化も含めてスポーツ活動の変革を進めることと位置づけられています。スポーツ庁と経済産業省が2023年7月にまとめた「第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告」も、この定義を引いています。

中間報告によると、DXは放送・配信、ファンエンゲージメント(ファンとの関係づくり)、競技力の強化、選手の管理、審判・判定など多くの分野で使われ、トップスポーツだけでなくアマチュアや学生のスポーツにも広がっています。スポーツ業界全体が抱える課題とDXの位置づけは日本スポーツ業界の8つの課題でも整理しています。

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

第3期スポーツ基本計画が掲げる政策目標

国の5年間の計画である第3期スポーツ基本計画(令和4年3月25日策定)は、今後5年間に取り組む12の施策の1つに「スポーツ界におけるDXの推進」を置いています。政策目標は、DXによってスポーツに関する知見や機会を国民・社会に広く届け、スポーツを「する」「みる」「ささえる」の実効性を高めることです。

具体的な柱は2つです。1つは、VRやARなどの技術やデータを使って、外出が難しい人も含めてスポーツをする機会を広げること。もう1つは、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの創出です。計画は、DXによる新しいビジネスモデルへの期待は高まっているものの「いまだ大きな進展は見られない」とも書いています。

(参考)スポーツ界におけるDXの推進(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁

(参考)第3期スポーツ基本計画本文抜粋(スポーツ界におけるDXの推進) – スポーツ庁

スポーツ庁と経済産業省が進める主な事業

計画を受けて、スポーツ庁は令和4年度に予算1億8,000万円の「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」を新たに始め、先進事例づくりの支援や、投球データ・試合映像などスポーツデータの扱い方のルール検討を進めてきました。スポーツ庁と経済産業省は2022年12月に、スポーツコンテンツやデータを使ったビジネスの現状、海外の先進事例、法的課題をまとめた「スポーツDXレポート」も発表しています。

企業から見ると、こうした国の事業は、スポーツ団体と組む入り口にもなります。

(参考)スポーツ×テクノロジー活用推進事業(令和4年度予算) – スポーツ庁

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

(参考)スポーツのDX化推進 – スポーツ庁

Q. スポーツDXとは簡単に言うと何ですか?

デジタル技術でデータの活用を広げ、お金の流れも含めてスポーツの活動そのものを変えていく取り組みです。国は第3期スポーツ基本計画で、DXによってスポーツを「する」「みる」「ささえる」の実効性を高めることを政策目標にしています。紙の作業をシステムに置き換えるだけでなく、ファンや選手のデータを使って新しいサービスや収入を生むところまでを含みます。

スポーツDXの3階層|土台のインフラ改革から新しいデジタルサービスへ

スポーツDXの3階層(1層目のインフラ改革・働き方改革、2層目の事業改革、3層目のビジネスモデル改革)を示したピラミッド図

スポーツ団体のDXは、土台となるインフラ改革・働き方改革、既存の事業を高度にする事業改革、新しいデジタルサービスをつくるビジネスモデル改革の3階層に分けられます。スポーツ庁の委託調査(株式会社野村総合研究所、2024年3月)が示した整理で、DXに未着手の団体は、まず1層目を整えてから2層目・3層目へ広げることが望ましいとしています。

各階層は一方通行ではなく、互いに支え合う関係にあります。たとえば3層目の新しいサービスを動かすには、1層目のデータ基盤が欠かせません。

1層目|顧客・選手情報の基盤と社内の仕組みを整える

1層目は、顧客・選手の情報基盤、放映・配信の基盤、セキュリティといったインフラと、社内イントラ、決済・会計システム、RPA(定型作業の自動化)といった働き方の仕組みです。従来のICTに近く、DXの土台にあたります。

国内の代表例がJリーグIDです。2023年7月公表の中間報告の時点で、JリーグIDの登録は200万人を超えており、QRチケットでの発券に使われるほか、チケットの購入履歴や来場履歴を生かしてリピート率の向上や新しいビジネス機会の拡大を狙っています。その後の登録数(2025年10月末時点)はスポーツDX事例12件で紹介しています。

ファンのデータを管理する仕組みの選び方はスポーツファンエンゲージメント企業の比較で紹介しています。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

2層目|観戦体験・競技力・チケット収入を高める

2層目は、すでにある事業をテクノロジーで高度にする段階です。顧客体験価値の向上(会場での観戦、配信での観戦、SNSやアプリなどのチャネル拡充)、競技力の向上、大会運営の高度化(デジタル審判、会場運営)、収益性の向上(チケッティング、バーチャル広告、デジタルマーケティング)が入ります。

中間報告は、Bリーグの川崎ブレイブサンダースがYouTube・TikTok・LINEを使い分けてファンを広げた例を紹介しています。YouTubeのチャンネル登録者数は15万人(2023年6月時点)で、初めてチケットを買った人への調査ではYouTubeを来場のきっかけに挙げる回答が5割を超え、2021-2022シーズンの平均来場者数はB1で最大になりました。選手のデータを使った競技力の向上はスポーツデータサイエンスの集計で取り上げています。

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(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

3層目|NFTやメタバースなど新しい収入源をつくる

3層目は、ファンタジーゲーム・ベッティング、NFT・スポーツトークン、バーチャルスポーツ・メタバース、データ販売など、これまでにない事業を生む段階です。中間報告は、多くのプロサッカーチームがeスポーツチームを持ち、スポンサー獲得などの新しい収益源や新しいファンの獲得がねらいと言われていることにも触れています。

ただし国内では、選手の移籍や引退のときの収益還元ルールがないことなどから、2023年6月時点で二次流通市場を併設したNFTサービスは提供されていませんでした。仮想空間での観戦を手がける企業はメタバース・XR観戦の企業一覧で、eスポーツの市場はeスポーツ市場規模の推移で紹介しています。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

スポーツ団体のDXの現状|約7割が着手し土台づくりが先行

スポーツ団体の約7割がDXに取り組んでいますが、進んでいるのは1層目の決済・会計やデータ基盤で、3層目の新しいデジタルサービスはどの施策も取り組む割合が1割未満です。スポーツ庁の委託調査(2023年11月〜2024年1月、リーグ・クラブ・競技団体を対象にしたウェブアンケート、117の回答)で、現在取り組んでいるDX施策の割合は次のとおりでした。

階層・分類 DX施策 取り組んでいる割合
1層目 働き方改革 決済・会計システム 67.5%
1層目 インフラ改革 データ管理・分析基盤 49.4%
1層目 インフラ改革 顧客・選手情報管理基盤 45.8%
1層目 働き方改革 社内イントラ 43.4%
1層目 インフラ改革 セキュリティシステム 15.7%
2層目 競技力向上 パフォーマンス管理分析システム 43.4%
2層目 顧客体験価値向上 チャネル拡充(SNS・アプリ・HP) 34.9%
2層目 収益化向上 チケッティング 34.9%
2層目 顧客体験価値向上 間接観戦体験の価値向上(VR・AR観戦など) 33.7%
2層目 収益化向上 デジタルマーケティング 32.5%
2層目 顧客体験価値向上 会場での観戦体験の価値向上(QR決済・顔認証ゲートなど) 31.3%
2層目 大会運営高度化 会場運営システム 15.7%
2層目 競技力向上 デジタルトレーニング 13.3%
2層目 収益化向上 バーチャル広告 12.0%
2層目 大会運営高度化 デジタル審判 7.2%
3層目 新しいデジタルサービス NFT・スポーツトークン 8.4%
3層目 新しいデジタルサービス バーチャルスポーツ・メタバース 4.8%
3層目 新しいデジタルサービス ファンタジーゲーム・ベッティング 2.4%

出典:スポーツ庁「令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版」(2024年3月、株式会社野村総合研究所)をもとに Human Soar 作成。階層は同報告書の3階層の整理による

最も多いのは決済・会計システムの67.5%で、データ管理・分析基盤が49.4%、顧客・選手情報管理基盤が45.8%と続きます。お金やデータの管理を効率化するところから手が付いている一方、ファンタジーゲーム・ベッティングは2.4%にとどまります。同じ調査では、今後力を入れたい施策として、会場での観戦体験の価値向上を挙げる割合が最も高くなっていました。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

国内の事例は選手管理と配信に集中|AIとファンデータの活用は海外を下回る

令和4年度の委託調査は、国内109件・海外209件、計318件のテクノロジー活用事例を集めました。最も多い分野は「放映・配信」と「選手管理」の各79件で、放映・配信は海外53件・国内26件でした。活用技術を比べると、海外では活用技術全体の約1割をAI(56件)とファンデータ(53件)が占めたのに対し、国内はAIが16件、ファンデータが9件にとどまっています。

報告書は、国内はクラブが個別に導入する例が多く、海外はリーグが窓口になって大手IT企業と組む例が多いと分析しています。データを集めて新しいサービスにつなげる海外の流れは、国内でも参考になるとしています。データを分析する側の企業はスポーツデータ分析の主要10社で紹介しています。

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(参考)令和4年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業 委託事業成果報告書(令和5年3月) – スポーツ庁

最大の壁は人材不足|全社のDX戦略を持つ団体は2割程度

同じ調査では、DXを進めるうえで最も大きな課題は人材不足で、予算不足とデジタル戦略の欠如が続きました。DX人材が不足していると答えた割合は約9割で、全社のDX戦略を持つ団体と、組織を横断してDXを進める部署を持つ団体は、いずれも2割程度です。

規模の差も大きく、大規模な団体は全社戦略に沿ってDXに取り組めている一方、中小規模の団体は戦略がないまま取り組んでいる傾向がありました。人とお金が足りない分は、外部の企業が補える余地でもあります。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

Q. スポーツDXの課題は何ですか?

最も大きな課題は人材不足です。スポーツ庁の委託調査では、DXを進めるうえでの課題の1位が人材不足で、次いで予算不足とデジタル戦略の欠如が挙がりました。DX人材が不足していると答えた団体は約9割で、全社のDX戦略を持つ団体は2割程度にとどまります。

企業がスポーツDXに関わる4つの形|システム提供から合弁まで

企業がスポーツDXに関わる形は、システム・サービスを納める、協賛・親会社として技術を出す、共創プログラムで新事業をつくる、出資・合弁で事業を担う、の4つに分けられます。スポーツ庁の委託調査や中間報告に載っている団体側の事情と、公表された例を並べると次のようになります。

関わり方 企業がすること スポーツ団体側の事情 公表された例
システム・サービスを納める 会員管理、チケット、映像解析などの仕組みを提供し、運用を支える 戦略→事業開発→基盤の企画→構築・運用保守と川下の工程ほど、外部に任せたい意向が強い DX人材の確保は中途採用と外部活用(コンサル・ITベンダー等)が主流
協賛・親会社として技術を出す スポンサー契約や親会社の立場で、社内システムや新技術の実証の場を提供する クラブは人と資金が限られ、自前でDXを進めるハードルが高い 海外リーグは大手IT企業と中長期のパートナーシップを結び、データ基盤を整えている
共創プログラムで新事業をつくる クラブやリーグの資源と自社の技術を組み合わせ、新しいサービスを実証する 新規事業の専任体制がない、推進できる人材が不在になりがち 名古屋グランパス×スタートアップピッチ(2018年〜)、スポーツ庁のSOIP
出資・合弁で事業を担う 映像、ファン向けサービス、ビジネス全般を合弁会社などで担う 資源が強化に優先して回り、事業に回しにくい ソニーと日本ラグビーフットボール協会・ジャパンラグビーリーグワンによる「ジャパンラグビーマーケティング株式会社」

出典:スポーツ庁「令和5年度 スポーツDX人材活用促進事業 成果報告書 概要版」「令和4年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業 委託事業成果報告書」「スポーツを起点とした共創・新規事業創出の実態と成功要因分析」、スポーツ庁・経済産業省「第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告」をもとに Human Soar 作成

下に行くほど企業と団体のかかわりは深くなります。令和4年度の委託調査も、外部企業とスポーツ団体の双方のコミットメントが高いのが理想としつつ、そのぶん団体の負荷も増すため、団体の資源や戦略に合わせて方針を決めることが大事だとしています。4つの形は関わりの深さによる分け方です。自社の通信・決済・映像解析などの技術や協賛予算のどれを出すかから具体的な事例を選ぶ方法は、スポーツDX事例12件の判断表で整理しています。

(参考)令和4年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業 委託事業成果報告書(令和5年3月) – スポーツ庁

システム・サービスを納める|団体は川下の工程ほど外部に任せたい

最も入りやすいのは、会員管理、チケット、映像解析、データ分析などの仕組みを納める形です。スポーツ庁の委託調査では、戦略、ビジネス開発、基盤の企画、基盤の構築・運用保守と工程が川下になるほど、自前で持たずに外部へ任せたい意向が強くなっていました。DX人材の確保の方法も、中途採用と、コンサルやITベンダーなどの外部活用が主流です。

予算が限られる団体には、まず手軽なクラウドサービスから試せる形で提案する方法もあります。クラブ向けの運営ツールはスポーツチーム管理SaaSの比較で、施設向けは予約・会員管理システムの比較で、試合映像の解析は映像解析・トラッキングの主要10社で紹介しています。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

協賛・親会社として技術を出す|実証の場と社内システムを提供する

スポンサー企業や親会社の立場で、クラブに足りない人や仕組みを補う形もあります。スポーツ庁の委託調査は、親会社との連携では社内システムやセキュリティシステムの利用、事業部の新技術の実証実験など、クラブ側にもメリットの大きい連携ができるとしています。

海外では、リーグが大手IT企業と中長期のパートナーシップを結び、データ基盤を整えている例が多く見られます。一方で国内の団体からは、事業や露出の規模が小さく、企業に提携のメリットを示しにくいという声も出ていました。協賛を検討する企業は、露出の量だけでなく、自社の技術を試せる場として価値を測ると判断しやすくなります。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

(参考)令和4年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業 委託事業成果報告書(令和5年3月) – スポーツ庁

共創プログラムで新事業をつくる|SOIPと地域のピッチ

クラブやリーグの持つファン・施設・データと、企業の技術を組み合わせて新しいサービスをつくる形です。スポーツ庁は2019年に「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」を構築し、新規事業の創出支援、優良事例の表彰、交流の場を柱に取り組んできました。SOIPの過年度の支援案件を分析した報告では、テーマ別の集計(主・副テーマの延べ数)で「デジタルイノベーション」が51件と最も多くなっています。

地域でも同じ動きがあります。名古屋グランパスは中部ニュービジネス協議会・名古屋商工会議所と2018年から「名古屋グランパス×スタートアップピッチ」を開き、鹿島アントラーズは2021年に「Pitch&Match」を開きました。同じ報告は、スポーツ団体の側で新規事業の専任体制や推進できる人材が不足しがちだとも指摘しています。

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

(参考)スポーツを起点とした共創・新規事業創出の実態と成功要因分析(令和7年度 スポーツオープンイノベーション推進事業) – スポーツ庁(作成:株式会社eiicon)

出資・合弁で事業を担う|映像やファン向けの事業を一緒に運営する

最も深い形は、スポーツ団体と企業が出資し合い、映像やファン向けサービス、ビジネス全般を合弁会社で担う形です。令和4年度の委託調査は、試合の開催や強化は団体が担い、ビジネス面を合弁会社が担う例が多いとしています。

国内では、ソニーと日本ラグビーフットボール協会・ジャパンラグビーリーグワンが、代表チームとリーグワンの観戦やグッズ、デジタルコンテンツ配信などを担う「ジャパンラグビーマーケティング株式会社」をつくる例が紹介されています。海外では、国際バレーボール連盟が投資会社と合弁会社を設け、1億ドルを受け取った例も載っています。

(参考)令和4年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業 委託事業成果報告書(令和5年3月) – スポーツ庁

Q. 企業はスポーツDXにどう関われますか?

システムやサービスを納める、協賛や親会社の立場で技術を出す、共創プログラムで新しい事業をつくる、出資や合弁で事業を担う、という4つの形があります。後ろの形ほど関わりは深くなり、そのぶん団体の負荷も増えます。まずは地元のクラブやリーグが抱える課題を聞き、どの形が合うかを決めます。

スポーツDXで企業が確かめるルール|データの権利・賭博・NFT

データやデジタル技術を使うサービスでは、データの権利、賭博に当たるおそれ、NFTの扱いの3点を企画の段階で確かめます。中間報告は、こうしたルールの整備がスポーツDXによる事業の多角化に欠かせないとしています。

スポーツデータの権利と使える範囲を契約で決める

中間報告によると、成績データ、選手の身体データ、打球の軌道などのトラッキングデータ、1球ごとの試合経過データは、権利が必ずしも明らかになっていない場合があります。企業が団体のデータを使うときは、誰の許諾で、どの範囲まで、いつまで使えるかを契約で決めておきます。

選手やファンの個人情報も扱います。第3期スポーツ基本計画も、スポーツに係るデータの集約・解析を進める際には個人情報の保護に十分留意するとしています。セキュリティシステムに取り組む団体は15.7%にとどまるため、企業側から管理の方法を提案できると安心につながります。

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

(参考)第3期スポーツ基本計画本文抜粋(スポーツ界におけるDXの推進) – スポーツ庁

賭けにつながるサービスとデータの提供先を確かめる

中間報告は、参加費から賞金を出すファンタジースポーツを国内で提供すると賭博罪に当たるおそれがあり、事業者がためらっていると指摘しています。また、日本国内から賭けられる形でサービスを提供している海外のベッティング事業者へデータを提供することは、賭博幇助に当たる可能性があるとしています。

データを販売する企業や、選手を広告に起用する企業は、提供先と使われ方を確かめます。国内での扱いはファンタジースポーツの日本での扱いとスポーツベッティングと企業の協賛で解説しています。

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

NFTは業界団体のガイドラインで型を確かめる

NFTのパッケージ販売と二次流通市場を一緒に提供するサービスは、賭博に当たる懸念が示されてきました。これを受けて、スポーツエコシステム推進協議会が2022年9月に、国内で展開できると考えられるビジネスの型を示すガイドラインをつくっています。

NFTを企画するときは、ガイドラインの型に当てはまるかを確かめ、選手の肖像の扱いと、移籍や引退のときの収益の分け方を団体と先に決めておきます。

(参考)第二期スポーツ未来開拓会議 中間報告(2023年7月) – スポーツ庁・経済産業省

スポーツDXに企業が参加する進め方|課題を聞き国の共創事業を使う

企業がスポーツDXに参加する進め方を、課題を聞く・組む・試すの3段階とそれぞれでやることに分けた図

企業がスポーツDXに加わるときは、相手の課題を聞く、国の共創事業などで組む、小さく試して成果を残す、の順で進めると無理がありません。上の図は、それぞれの段階で最初にやることを並べたものです。

地元のクラブやリーグの課題を聞く

最初に、相手の団体がどの階層でつまずいているかを聞きます。1層目の基盤が整っていない団体に3層目の新サービスを持ちかけても、動かす土台がありません。スポーツ庁の委託調査は、リーグは競技全体の基盤づくりや大会運営、収益性の向上を、クラブはリーグの基盤を使いながら観戦体験と競技力の向上を優先することが多いとしています。

スタジアムやアリーナの整備計画がある地域では、施設の段階から入る方法もあります。国が選んだ拠点と相談窓口はスタジアム・アリーナ改革の解説でまとめています。

(参考)令和5年度 スポーツ×テクノロジー活用推進事業(スポーツDX人材活用促進事業)成果報告書 概要版 – スポーツ庁(委託先:株式会社野村総合研究所)

スポーツ庁の共創事業にパートナー企業として加わる

令和8年度の「テクノロジー等を活用した地方創生・スポーツ収益拡大事業」(SOIP推進事業)では、スポーツ団体を10団体以上公募し、1団体あたり最大200万円の範囲で、共創パートナー探しや外部有識者のメンタリング、実証の資金パートナー探しなどを伴走します。応募するのはスポーツ団体で、すでに共創に取り組んでいる団体とパートナー企業の組み合わせでも応募できます。

応募の要件には、他の企業と組みたい事業テーマがあること、自社の技術や顧客網、施設などを活用できること、令和8年度末時点で進み具合を発信できることが含まれます。企業は、組みたいクラブやリーグに声をかけ、テーマを一緒に決めるところから関われます。

(参考)令和8年度「テクノロジー等を活用した地方創生・スポーツ収益拡大事業」(SOIP推進事業)公募のお知らせ – スポーツ庁

(参考)スポーツオープンイノベーションの推進 – スポーツ庁

小さく試して数字で成果を残す

いきなり大きなシステムを入れるより、1試合のデジタルチケットや来場者アンケートのデジタル化など、範囲を区切って試すほうが団体の負担は小さくなります。試す前に、来場者数や再来場の割合など、何の数字で成果を見るかを団体と決めておきます。

SOIPの成功要因の分析も、実施した事例や成果を積極的に発信することが、団体内外の信頼と次の事業機会につながるとしています。結果を団体と一緒に発信すれば、次の契約や他のクラブへの展開の材料になります。

(参考)スポーツを起点とした共創・新規事業創出の実態と成功要因分析(令和7年度 スポーツオープンイノベーション推進事業) – スポーツ庁(作成:株式会社eiicon)

Q. スポーツ庁はスポーツDXをどう支援していますか?

スポーツ団体と他産業の企業をつなぐ「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」で、新事業づくりの伴走や表彰、交流の場を設けています。令和8年度の事業ではスポーツ団体を10団体以上公募し、1団体あたり最大200万円の範囲で共創パートナー探しやメンタリングを支援します。応募するのはスポーツ団体で、パートナー企業と組んで応募することもできます。

スポーツDXのまとめ

スポーツDXに企業が関わるときの要点は次のとおりです。

  • スポーツDXは、デジタル技術でデータの活用を広げ、資金の流れも含めてスポーツの活動を変える取り組みで、国は「する・みる・ささえる」の実効性を高めることを目標にしています
  • DXはインフラ改革・働き方改革、事業改革、新しいデジタルサービスの3階層に分かれ、まず土台の1層目から整えるのが基本です
  • DXに取り組む団体は約7割ですが、全社のDX戦略を持つのは2割程度で、最大の課題は人材不足です
  • 企業の関わり方は、システム提供、協賛・親会社としての技術提供、共創プログラム、出資・合弁の4つで、後ろほど関わりが深くなります
  • データの権利、賭博に当たるおそれ、NFTの型を企画の段階で確かめ、相手の課題を聞いてから小さく試します

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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