練習の後半、選手の走るフォームがわずかに崩れ始める瞬間があります。本人は「まだいつも通り動けている」つもりでも、実際には足の運びが少しずつ重くなり、着地の衝撃を吸収しきれなくなっていることがあります。こうした変化は、指導者が目で追っているだけでは気づきにくいものです。
「トレーニング負荷を測る」とは、こうした主観では捉えきれない練習の強度・量・回復状態を、GPSセンサーや心拍計、加速度センサーなどのデバイスを使って数値化する取り組みです。走行距離やスプリント回数、心拍データといった情報を継続的に記録することで、「今日はどれだけ体に負担がかかったか」を客観的に把握できるようになります。
この考え方の背景には、国の政策的な後押しもあります。文部科学省・スポーツ庁が2018年3月に策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、公益財団法人日本体育協会(現・日本スポーツ協会)の研究を踏まえ、休養日を少なくとも1週間に1〜2日設けること、週当たりの活動時間の上限は16時間未満とすることが望ましいという基準が示されています。ただしこの基準は活動時間の上限であり、実際の練習強度や個々の選手の疲労度までは示していません。だからこそ、時間だけでなく「どれだけ体を追い込んだか」を数値で補う仕組みが、現場で求められるようになっています。
(参考)運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(平成30年3月) – スポーツ庁
現場で使われている4つのトレーニング負荷計測ツール
プロチームから学生スポーツまで、実際に導入が進んでいる代表的な4つのツールを調べ、提供元・機能・対応シーンを一覧にしました。いずれも各社の公式サイトで確認できる情報にもとづいています。
| 製品名 | 提供元 | 主な機能・特徴 | 主な対応シーン |
|---|---|---|---|
| Catapult(Vector Pro/Core) | Catapult(オーストラリア発) | GPS・加速度センサーで走行距離やスプリント数を計測し、機械学習で負傷リスクを分析 | プロ〜高校生まで、40以上の競技・100カ国以上で導入 |
| STATSports Apex | STATSports(アイルランド) | 18Hz GPSと952Hz加速度センサーを搭載し、260種類以上の指標を端末上で計算 | FIFA承認済み。サッカーなど屋外の試合・練習 |
| Polar Team Pro | Polar Electro(フィンランド) | GPSと心拍センサーを組み合わせ、走行データと心拍データを同時取得 | 屋内外の複数競技。500以上のNCAAチーム、200以上のプロサッカーチームで採用 |
| ONE TAP SPORTS | 株式会社ユーフォリア(日本) | 練習内容とその強度(主観的運動強度)、コンディション、けがの状態を一元記録 | 日本代表クラスから部活動まで、国内250以上のチームで導入 |
各社公式サイトの公開情報をもとにHuman Soarが作成(2026年8月時点)。
Catapult|100カ国以上で使われる高精度GPSトラッキング
Catapultは、GPSと加速度センサーを組み合わせた「Vector」シリーズを中心に、プロチームから学生スポーツまで幅広く提供しているオーストラリア発のブランドです。公式サイトによれば、40以上の競技・100カ国以上、数千チームで導入されており、外部の検証機関によるデータ精度の第三者評価も100件以上公開されています。
センサーが取得したデータは機械学習を使ったアルゴリズムで分析され、練習・試合を通じた負荷の推移をチームで一元管理できます。高校生など若年層向けには、簡易版の「Catapult One」も用意されています。
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(参考)Athlete Monitoring System – Catapult
STATSports Apex|FIFA承認の18Hz GPSで260以上の指標を計測
STATSports Apexは、アイルランド発のGPSトラッカーで、公式サイトによると18Hzの高頻度GPSと952Hzの加速度センサー・ジャイロセンサーを搭載しています。FIFAの承認基準を満たしており、総距離・スプリント距離・最大心拍数など260種類以上の指標を端末上で計算できる点が特徴です。
専用のライブアプリを使えば、練習中や試合中の負荷をリアルタイムでベンチ側から確認できるため、選手交代や運動量の調整をその場で判断する材料として使われています。
(参考)Apex Pro Series – STATSports
Polar Team Pro|GPSと心拍を組み合わせた欧州発の負荷管理
Polar Team Proは、フィンランドのPolar Electroが提供するチーム向けトラッキングシステムです。公式サイトによれば、GPSによる走行データに加えて心拍センサーを組み合わせ、心拍数・トレーニング負荷・カロリー・速度と距離をまとめて可視化できます。500以上のNCAAチーム、200以上のプロサッカーチーム、16のNHLチームなどで採用されている実績が紹介されています。
取得したデータはAPI経由で他の選手管理システムと連携できるため、心拍と運動量の両面から回復状況を把握したいチームに向いています。
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(参考)High performance player tracking for teams – Polar
ONE TAP SPORTS|日本代表も使う国産コンディション管理プラットフォーム
ONE TAP SPORTSは、スポーツテック企業の株式会社ユーフォリアが開発した国産のコンディション管理プラットフォームです。公式の発表によると、練習内容とその強度、コンディション、けがの状態を選手・スタッフが記録し、日本代表クラスの競技団体を含む国内250以上のチームで導入されています。
GPSセンサーのような専用機器がなくても、選手自身のスマートフォン入力で運動負荷を記録できる点が特徴で、海外製のウェアラブル機器を導入しにくい学生スポーツの現場でも使われています。
(参考)事業内容(ONE TAP SPORTS) – 株式会社ユーフォリア
目的別に見る3つのタイプ|精度重視・手軽さ重視・組織運用重視
4製品を並べてみると、「何を最優先にするか」で選び方が分かれることが見えてきます。ここでは、各製品の公式情報から読み取れる特徴をもとに、3つのタイプに整理しました。
Human Soarが4製品の公式情報をもとに整理した分類軸(2026年8月時点)。
精度重視型|数字の細かさで判断したいチーム向け
STATSports ApexやCatapultのように、18Hz級のGPSや900Hz超の加速度センサーを積んだ製品は、スプリント回数や瞬間的な加減速まで細かく拾えます。プロチームや、けがのリスクを早期に見つけたい競技レベルの高いチームに向いています。
手軽さ重視型|専用機器を揃えにくい現場向け
ONE TAP SPORTSのように、選手のスマートフォン入力を中心にしたサービスは、GPSベストなどの専用機器を全員分揃える予算がない部活動や少人数チームでも始めやすいのが利点です。数値の精度よりも、まず「記録を続ける習慣」をつくりたい場合に向いています。
組織運用重視型|他システムと連携させたいチーム向け
Polar Team Proのように、API連携が用意されている製品は、既存の選手管理システムや医療・栄養データと組み合わせて一元管理したい大規模組織に向いています。導入時にIT担当者を交えて連携設計を検討できるかどうかが選定のポイントになります。
導入前に確認しておきたい2つのポイント
どのツールを選ぶ場合でも、機器を導入して終わりにせず、運用面を事前に決めておくことで数値が活きてきます。
データの見方を選手と共有する運用ルールをつくる
負荷の数値は、指導者だけが把握していても選手の行動は変わりません。「今週はどのくらい追い込んだか」「翌日はどの程度回復しているか」を選手自身が確認できる仕組みにしておくと、練習強度の自己管理にもつながります。前述のスポーツ庁ガイドラインが示す休養日の考え方(週1〜2日)と数値をあわせて確認する運用にすると、休養のタイミングを感覚ではなく数字で判断しやすくなります。
生体データの保存・共有範囲を事前に決めておく
心拍や位置情報などのデータは、選手個人の生体情報にあたります。誰がどこまで閲覧できるのか、卒業・退団後のデータ保存期間はどうするのかを、導入前に取り決めておくことが望ましいといえます。未成年の選手を含むチームでは、保護者への説明も欠かせません。
よくある質問
個人でもトレーニング負荷計測は始められますか
ONE TAP SPORTSのようにスマートフォン入力を中心にしたサービスであれば、専用のGPSベストがなくても個人単位で始められます。市販のGPSスポーツウォッチで走行距離や心拍数を記録し、練習ノートと組み合わせる方法も、簡易的な負荷管理の第一歩になります。
中学・高校の部活動でも導入できますか
Catapultの「Catapult One」のように、学校・ジュニア向けに簡易化されたプランを用意しているブランドもあります。ただし予算面のハードルが高い場合は、まずONE TAP SPORTSのようなアプリ型のサービスで運動強度の記録を習慣化するところから始めるチームも見られます。
数値が改善しない場合はどう見直せばいいですか
負荷の数値だけを追いかけて練習量を増減させるのではなく、休養日の設定や練習メニューの内容まで含めて見直すことが大切です。数値はあくまで判断材料であり、スポーツ庁のガイドラインが示すような休養日の基準とあわせて、練習計画全体を点検する視点を持つことをおすすめします。
まとめ
- トレーニング負荷計測は、練習の強度・量・回復状態を主観に頼らず数値で把握するための取り組み
- Catapult・STATSports Apex・Polar Team Pro・ONE TAP SPORTSは、それぞれ精度・手軽さ・組織運用のいずれかに強みを持つ
- 選び方は「精度重視型」「手軽さ重視型」「組織運用重視型」の3タイプで整理できる
- 導入時は、選手とのデータ共有ルールと生体データの保存・共有範囲を事前に決めておくことが重要
- 数値はあくまで判断材料であり、休養日の設定など練習計画全体とあわせて活用することが望ましい
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