メンタルパフォーマンスをウェアラブルで可視化する時代

メンタルパフォーマンスをウェアラブルで可視化するイメージ スポーツ心理学

大事なプレゼンテーションの直前、手のひらに汗がにじみ心拍が上がる。その状態を「緊張している」と自覚できる人は多いが、実際にどれくらい心拍が上がっているのか、平常時と比べてどう違うのかを数値で把握している人はほとんどいない。

トップアスリートの世界では、この「見えない緊張」を心拍変動などのウェアラブルデータで可視化する取り組みが広がっている。「メンタルの状態を数値で捉える技術を、自社の健康経営に活かせないか」という関心が高まっている。本記事では、ウェアラブルによるメンタルパフォーマンスの可視化技術と、企業活用のヒントを解説する。

メンタルパフォーマンスを可視化する仕組み

ウェアラブル端末は、心拍変動(HRV)や皮膚電気活動といった生体信号から、自律神経の状態を推定する。これにより、本人も自覚しづらいストレスや緊張の度合いを、客観的な数値として捉えられるようになった。

心拍変動(HRV)で自律神経のバランスを見る

心拍の間隔のわずかなゆらぎを解析することで、交感神経と副交感神経のバランスを推定できる。HRVが低下している状態は、ストレスや疲労が蓄積しているサインとされる。

睡眠データとの組み合わせで回復状態を把握する

日中の心拍データだけでなく、睡眠中の深さや中途覚醒の回数を組み合わせることで、心身の回復がどれだけ進んでいるかを総合的に把握できる。

アスリートの現場で培われた活用知見

アスリートの世界では、メンタルパフォーマンスの可視化がすでに実践的な指導ツールとして定着しつつある。

試合前の緊張度を客観視し過緊張を防ぐ

大事な試合前に心拍変動が過度に乱れている選手に対し、指導者が呼吸法などの介入を行うことで、過緊張によるパフォーマンス低下を防ぐ取り組みが行われている。

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回復不足のサインを早期に察知する

睡眠データと心拍変動を継続的にモニタリングすることで、口頭では「大丈夫」と答える選手の回復不足のサインを早期に察知し、練習強度を調整する判断材料にしている。

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職場のメンタルヘルス対策の実態

厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策として「ストレスチェックの実施」と回答した事業所は65.3%(前年65.0%)と最も多かった。一方、事業所規模による差は大きく、労働者数30~49人の事業所では40.0%にとどまる。

事業所規模 ストレスチェック実施率
1,000人以上 100%
50人以上 84.7%
30~49人 40.0%

表:事業所規模別のストレスチェック実施率(厚生労働省 令和6年労働安全衛生調査より作成)

中小規模の事業所ほどメンタルヘルス対策が手薄になりやすいという実態が見える。ウェアラブルによる可視化技術は、専任の産業保健スタッフを置きにくい中小企業にとって、比較的低コストで導入できる代替策になり得る。

(参考)令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省

企業活用のヒント

アスリートの知見を企業に応用する際は、個人のプライバシーへの配慮を前提に、段階的に取り入れることが望ましい。

希望者から始め評価目的に使わない

データが人事評価に使われるという懸念があると、正確な計測への協力が得られにくくなる。あくまで本人の体調管理支援を目的とすることを明確にし、希望者から導入するのが現実的だ。

異常値ではなく変化の傾向を見る

単発の数値だけで判断するのではなく、本人の平常時と比較した変化の傾向を見ることで、より実態に近いストレス状態を把握できる。

実際の運用では、月に一度データを本人にフィードバックし、体調の波と業務負荷の関係を一緒に振り返る面談をセットにしている企業もある。数値を渡すだけで終わらせず、対話の材料として使うことで、施策への納得感が高まりやすい。

よくある質問

Q. ウェアラブルでのメンタル可視化はどの職種にも有効ですか

特にストレス負荷の変動が大きい職種で有効性が高いとされるが、基本的にはどの職種でも体調管理の一助として活用できる。

Q. データの取り扱いで気をつけることはありますか

生体データは機微性が高いため、取得目的と利用範囲を事前に明示し、本人の同意のもとで運用することが不可欠だ。

Q. 中小企業でも導入しやすい方法はありますか

市販のスマートウォッチと連携するアプリから始めるなど、専用システムを新規構築せずに低コストで試験導入する方法がある。

まとめ

  • ウェアラブルは心拍変動や睡眠データからメンタルパフォーマンスを可視化する
  • アスリートの現場では過緊張の予防や回復不足の早期察知に活用されている
  • ストレスチェック実施率は事業所規模により大きな差があり、中小企業ほど手薄になりやすい
  • 希望者からの導入と評価目的での不使用が、社内展開を成功させる鍵になる
  • 単発の数値ではなく変化の傾向を見ることで、より実態に近い状態把握ができる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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