デュアルキャリア選手の燃え尽きを防ぐ企業支援ガイド

デュアルキャリア選手の燃え尽きを防ぐ企業支援策 スポーツ人材

練習を終えて帰る道すがら、選手の頭の中には二つの仕事のToDoが同時に浮かんでいる。午前は取引先への提案資料づくり、夕方からはフォーム修正のドリル。どちらも手を抜けないのに、どちらも「もっと時間があれば」と思いながら中途半端に終わる。そんな日が数週間続いたある朝、いつもは楽しみだったはずの朝練に、体が動かなくなる。

これは特別な選手だけに起きることではありません。競技と仕事を両立するデュアルキャリア選手にとって、燃え尽き(バーンアウト)は「頑張りすぎた人」に静かに忍び寄るリスクです。本記事では、なぜこのリスクが見過ごされやすいのかを実際の検索結果から確認したうえで、企業・団体が使える支援サービスと、人事担当者が明日から取り組める具体策を整理します。

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デュアルキャリア選手に忍び寄る気づかれない燃え尽き

燃え尽き症候群は、高い意欲を持って物事に取り組んでいた人が、ある時点でやる気を失い無気力になってしまう状態を指す心理学の概念です。世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)では、慢性的な職場ストレスにうまく対処できなかった結果として生じる「職業現象」として位置づけられており、単なる疲労とは区別されています。

典型的な症状は、競技や仕事への情熱が失われる情緒的消耗感、周囲に対して攻撃的・無関心になる脱人格化、そして試合や仕事で得られていた達成感が消える個人的達成感の低下の3つです。デュアルキャリア選手の場合、この3つの症状が「競技」と「仕事」の両方に同時ににじみ出すため、本人も周囲も「どちらが原因か」を切り分けられず、対応が遅れがちになります。

検索上位記事が書いていないデュアルキャリア支援の空白地帯

「デュアルキャリア アスリート 燃え尽き」というキーワードで検索し、実際にアクセスできた6本の記事・公式ページ(スポーツ庁、東京都、アスリートのミカタ、スポナビアスリート、CAREER DESIGN PROJECT、スポーツ系メディアのコラム)を1本ずつ読み、下記4つの論点に言及があるかを確認しました。

確認した論点 言及していた記事数
現役中のバーンアウトの定義・兆候 6本中1本
デュアルキャリア特有の要因(時間圧迫・評価の二重性・孤立) 6本中0本
企業が使える支援サービスの具体名 6本中3本
国・自治体の政策との接続 6本中2本

※「デュアルキャリア アスリート 燃え尽き」の検索結果からHuman Soarが2026年8月に6記事・公式ページを調査・分類

情熱はあるのに数字だけが伸びない情緒的消耗のサイン

調査した6本のうち、燃え尽き症候群そのものの定義や兆候にきちんと触れていたのは1本だけでした。多くのページはキャリア支援サービスの紹介にとどまり、「なぜ支援が必要になるほど選手が消耗するのか」という前提部分が説明されていません。

情緒的消耗が進んだ選手は、練習メニューをこなす量は変わらないのに、そこから得ていた手応えだけが薄れていきます。人事担当者や指導者が「サボっている」と誤解しやすいのはこのためで、実際には意欲の低下ではなく消耗のサインであるケースが少なくありません。

二重の評価にさらされる|本業でも半人前と言われる苦しさ

調査した記事の中に、デュアルキャリア特有の要因を明確に整理したものはありませんでした。デュアルキャリア選手は、競技成績と仕事の成果という2つの物差しで評価される立場にあります。どちらも「本業ではないから仕方ない」という前提つきの評価になりやすく、努力が正当に報われている実感を持ちにくいのが実情です。

この二重評価の構造そのものに向き合った解説記事が見当たらなかったことは、企業側が支援策を考えるうえでの盲点になり得ます。

誰にも相談できない孤立|チームにも会社にも本音を言えない

競技チームには「仕事の弱音」を、会社には「競技の不調」を話しにくいというのは、デュアルキャリア選手からよく聞かれる悩みです。両方の環境で「片方の顔」しか見せられない状態が続くと、本人はストレスを溜め込んでいる自覚すら持てないまま孤立が進みます。

調査した記事の多くは支援サービスの機能紹介が中心で、この孤立構造そのものへの言及はほとんどありませんでした。

空白地帯が生まれる理由|引退後支援の記事に偏る現状

今回読んだ6本のうち、現役中の活動支援に触れていたのは1本のみで、残りは引退後のセカンドキャリア・転職支援を主題にしていました。「デュアルキャリア」という言葉自体が引退後の文脈で使われることが多く、現役中に燃え尽きを防ぐという視点の記事が手薄になっているのが現状です。次の章では、この現役中の支援に実際に対応しているサービスを紹介します。

国内で使えるデュアルキャリア支援サービス4選

選手個人でも企業でも利用できる、国内の主なデュアルキャリア支援サービスを比較します。運営主体や対象年齢、費用構造は異なるため、自社の状況に合わせて選ぶことが重要です。

サービス名 運営 主な支援内容
JOCアスナビ 日本オリンピック委員会 企業とアスリートの雇用マッチング
スポナビアスリート 株式会社スポーツフィールド(東証グロース上場) デュアルキャリア支援・ビジネス研修・コミュニティ運営
アスリートのミカタ ブラッシュアップ・ジャパン株式会社 20代特化のキャリアカウンセリング・企業紹介
CAREER DESIGN PROJECT 賛同企業ネットワーク 選手と企業の橋渡し・セミナー実施

各サービスの公式サイトの公開情報をもとにHuman Soarが2026年8月に作成

①JOCアスナビ|国が後押しする所属先マッチング

JOCアスナビは、スポーツ庁の委託事業「スポーツキャリアサポート戦略」の一環として日本オリンピック委員会が運営する、企業とトップアスリートの雇用マッチング事業です。企業側は採用を通じてアスリート雇用に取り組む姿勢を示せる一方、選手側は競技を続けながら安定した所属先を得られます。国の後押しがある分、初めてアスリート支援に取り組む企業でも相談しやすい窓口です。

②スポナビアスリート|上場企業運営の無料キャリア支援

スポナビアスリートは、東京証券取引所グロース市場に上場する株式会社スポーツフィールドが運営するサービスで、デュアルキャリア・セカンドキャリアの両方を無料でサポートします。特徴は、ビジネスマナーやプレゼンテーションといった実務研修を定期的に開催している点で、競技と両立しながら仕事のスキルを底上げできる仕組みが整っています。

あわせて読みたいデュアルキャリアとは|アスリートの競技と仕事の両立支援

③アスリートのミカタ|20代特化の伴走型転職支援

アスリートのミカタは、20代のアスリートに特化したキャリア構築支援サービスです。競技状況や練習時間を考慮したうえで働き方を提案する点、そしてアスリート経験者自身が支援に関わっている点が特徴で、現役時代から引退後まで一貫して伴走します。累計25万人以上の登録実績を持つ母体(20代の転職相談所)が運営しているため、紹介先企業の選択肢も豊富です。

④CAREER DESIGN PROJECT|企業とチームをつなぐ橋渡し

CAREER DESIGN PROJECTは、賛同企業とスポーツチーム・選手を直接つなぐプラットフォームです。選手の相談窓口の設置や交流会の開催を通じて、企業側が選手を「知って理解する」プロセスを重視しているのが特徴で、単発の採用よりも中長期的な関係構築を目指す企業に向いています。

あわせて読みたいアスリートのアイデンティティ形成とキャリア計画の関係

企業ができる具体的なサポート施策

外部サービスの活用と並行して、企業自身が取り組める施策もあります。特別な予算をかけなくても始められる3つの実践策を紹介します。

柔軟な勤務体系の設計|試合期とオフシーズンで働き方を変える

年間を通じて業務量を一定にするのではなく、試合期は業務量を抑え、オフシーズンに集中して成果を出してもらうといった変動型の勤務設計が有効です。あらかじめ選手本人と年間スケジュールをすり合わせておくことで、「今の時期は競技を優先してよい」という安心感が生まれ、二重評価によるストレスを和らげられます。

メンタルヘルス相談窓口の設置|社外資源も選択肢に

社内に相談窓口を新設するハードルが高い場合は、外部のカウンセリングサービスや、スポナビアスリートのような支援団体が実施する相談窓口を案内する方法もあります。重要なのは「相談してよい」というメッセージを会社側から明確に発信することで、本人が自覚しないまま孤立するリスクを減らせます。

定期面談によるモニタリング|燃え尽きの兆候を早期に拾う

月1回程度の短い面談を設定し、業務の進捗だけでなく競技の状況や体調についても聞く時間を作ることが有効です。情緒的消耗は本人が自覚する前に周囲が気づくケースが多いため、変化に気づける関係性を日頃から作っておくことが、深刻化を防ぐ最も現実的な対策になります。

国・自治体の後押し|スポーツ庁と東京都の動き

スポーツ庁は「スポーツキャリアサポート戦略」として、日本スポーツ振興センターや日本オリンピック委員会などに事業を委託し、アスリートが現役時代からキャリアを準備できるよう支援しています。企業とのマッチング支援もこの枠組みの一部として実施されてきました。

東京都も平成27年度から令和3年度にかけて「アスリート・キャリアサポート事業」を実施し、現役アスリート向けのスキルアップセミナーや、企業向けのアスリート雇用説明会を継続的に開催していました。同事業は令和3年度で終了していますが、その後継的な取り組みとしてJOCアスナビの説明会などが東京都との共催で行われています。制度は入れ替わりながらも、国・自治体レベルでの後押しは継続している点は、企業が支援策を検討する際の追い風になります。

(参考)スポーツキャリアサポート戦略 – スポーツ庁

(参考)アスリート・キャリアサポート事業(平成27年度〜令和3年度) – 東京都スポーツ推進本部

よくある質問

デュアルキャリア中の選手は具体的に何にストレスを感じますか

時間の制約、競技と仕事という2つの物差しでの評価、そしてどちらの環境にも本音を話しにくい孤立感の3つが主な要因です。いずれも本人が自覚しにくいまま蓄積していく点が特徴です。

企業が支援サービスを使うのに費用はかかりますか

JOCアスナビやスポナビアスリート、アスリートのミカタは選手側・企業側とも無料で利用できるケースが多く、まずは相談から始められます。有料の職業紹介手数料が発生するのは、CAREER DESIGN PROJECTのように成約時に手数料が発生する仕組みを採る一部のサービスに限られます。

小規模な企業でもデュアルキャリア選手を支援できますか

可能です。柔軟な勤務体系の設計や月1回の面談といった施策は追加コストがほとんどかからず、企業規模を問わず導入できます。外部の支援団体を窓口として案内するだけでも、選手にとっては相談先が増える大きな支援になります。

まとめ

  • デュアルキャリア選手の燃え尽きは、競技と仕事の両方ににじみ出るため周囲が気づきにくい
  • 時間の制約・評価の二重構造・孤立の3つが主な要因になっている
  • JOCアスナビ、スポナビアスリートなど、現役中から使える支援サービスが複数存在する
  • 企業側は勤務体系の柔軟化、相談窓口の案内、定期面談だけでも支援を始められる
  • 国・自治体の後押しも継続しており、企業が動き出す環境は整いつつある

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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