世界大会に出場した経験を持つ選手が、引退後の就職活動で「競技実績以外に何をアピールすればいいか分からない」と悩むケースは珍しくありません。輝かしい実績があっても、それをビジネスの言葉に翻訳できず、選考でうまく伝えられないことがあるのです。
この課題は選手個人の努力だけでは解決しにくく、受け入れる企業側の理解とサポートが欠かせません。
この記事では、海外の大手企業が実施してきたアスリート向け就職支援プログラムの考え方を参考に、日本企業が引退後のアスリート採用に取り組む際のポイントを整理します。人事・採用担当者の方に向けた内容です。
海外に見るアスリート就職支援プログラムの考え方
EYをはじめとする一部の大手グローバル企業では、現役・引退後のアスリートを対象に、ビジネススキルの研修や就業機会を提供するプログラムを展開してきました。競技で培った能力を、面接や職務で伝わる言葉に「翻訳」する支援を行う点が特徴です。
こうした取り組みは、企業側にとっても採用ブランディングや従業員のエンゲージメント向上につながる副次的な効果があるとされ、単なる社会貢献活動を超えた人事戦略として位置づけられています。
「翻訳」の支援が果たす役割
競技経験者は「毎日休まず練習した」「大会で結果を出した」という事実は語れても、それが職務にどう活きるかを言語化するのは意外と難しいものです。プログラムでは、面接での自己PRの組み立て方や、履歴書の書き方といった実践的な支援を行うことで、この翻訳のハードルを下げています。専門のキャリアアドバイザーが個別に伴走する形式をとる場合もあり、選手一人ひとりの競技特性に合わせた支援が行われています。
日本企業が取り入れる際のポイント
日本国内でも、アスリートの就業支援に取り組む土壌は整いつつあります。スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画のなかで、アスリートが競技引退後もキャリアを築けるよう、企業・競技団体・行政が連携した支援体制の構築を政策目標として掲げています。
行政の後押しがあることで、企業単独では踏み出しにくかった取り組みも、業界横断の連携として進めやすくなります。競技団体との窓口づくりから着手する企業も増えています。
| 支援内容 | 目的 | 導入のしやすさ |
|---|---|---|
| 自己PR・履歴書支援 | 競技経験の言語化 | 比較的取り入れやすい |
| 短期インターン | 職務への適性確認 | 部署単位から着手可能 |
| メンター制度 | 入社後の定着支援 | 既存の新人メンター制度を応用 |
アスリート向け就職支援の内容と導入のしやすさ
自己PR・履歴書支援|競技経験の言語化
採用担当者が競技経験を職務スキルに変換する質問例をあらかじめ用意しておくと、選手自身も自分の強みに気づきやすくなります。「大会本番までにどう準備したか」「チームでどんな役割を担ったか」といった問いが有効です。選手自身が気づいていない強みを、対話を通じて言語化していくプロセスそのものが支援の中心になります。
短期インターン|職務への適性確認
いきなり正社員採用にこだわらず、まずは1〜2週間のインターンから始めると、双方にとってミスマッチのリスクを減らせます。営業・広報・人事など、複数の部署を経験してもらうのも一案です。実際に働く様子を見ることで、選手自身も入社後のイメージを具体的に持てるようになります。
メンター制度|入社後の定着支援
競技生活と会社生活では時間の使い方や評価のされ方が大きく異なります。既存の新人メンター制度を応用し、入社後しばらくは相談できる先輩をつけることで、定着率を高められます。特に「結果がすぐには数字に表れない」業務特性への戸惑いに寄り添えるメンターの存在は、離職防止に大きく貢献します。
日本国内の公的な就職支援制度|アスナビの実例
海外企業のプログラムだけでなく、日本国内にもすでに実績のある公的な就職支援の仕組みがあります。代表的なのが、日本オリンピック委員会(JOC)が運営する「アスナビ」です。
アスナビ|JOCによる現役アスリート就職支援
アスナビは、企業と現役トップアスリートをマッチングするJOCの無料職業紹介事業(厚生労働大臣許可番号 13-ム-300090)です。2024年3月時点で、約230社の企業が約400名近くのアスリートを採用してきた実績があり、単発の取り組みではなく継続的な仕組みとして定着しています。登録できるのは、JOCや各競技団体が強化指定選手として認定・推薦した選手が中心で、企業側はアスナビ経由で「企業人としての資質を備えた人材」として紹介を受けられる点が特徴です。
(参考)アスナビ──現役アスリートの就職支援 – 日本オリンピック委員会(JOC)
地方自治体による支援の広がり|東京都の事例から
国・JOCだけでなく、地方自治体もアスリートの就業支援に関わってきました。東京都は平成27年度から令和3年度にかけて「アスリート・キャリアサポート事業」を実施し、履歴書の書き方や面接対策を学ぶセミナー、企業向けの説明会、産業交流展への出展などを通じて、アスリートと企業双方の理解促進に取り組みました。現在は事業期間を終えていますが、こうした自治体レベルの取り組みが、アスナビのような全国規模の仕組みを後押しする土壌になってきたと言えます。
(参考)アスリート・キャリアサポート事業 – 東京都スポーツ推進本部
今週から検討できる3つのアクション
大がかりなプログラムを新設しなくても、既存の採用活動に小さな工夫を加えることから始められます。まずは自社に合った規模で試し、手応えを見ながら広げていくのが現実的です。
企業がこうした取り組みを始める際は、人事部門だけでなく、実際に配属される現場部門の理解も欠かせません。事前に受け入れ部署へ競技経験者の特性を共有しておくことで、配属後のギャップを減らせます。
まとめ
- 海外企業のプログラムは、競技経験を職務スキルへ「翻訳」する支援に重点を置く
- 日本もスポーツ庁の政策として、引退後のキャリア支援体制構築を掲げている
- 自己PR支援・短期インターン・メンター制度の3施策から着手しやすい
- いきなり正社員採用にこだわらず、インターンから関係を築くのも有効
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