スポーツGM人材の育成プログラム設計|3能力と実践手順

スポーツGM人材の育成プログラムに必要な3つの能力を示す画像 スポーツ人材

Bリーグのあるクラブでは、強化担当と事業担当が別々に意思決定を進めた結果、補強の予算枠と事業計画の収益見込みが噛み合わず、シーズン途中で予算の組み直しに追われたという事例がありました。競技運営と経営の両方を見渡し、意思決定をつなぐ役割を担うはずのGM(ゼネラルマネージャー)が、実際には強化担当の延長として置かれているだけで、経営視点での育成がされていなかったことが背景にあります。

人事担当者にとって、GM人材の採用・育成は「競技経験があれば務まる」という単純な話ではありません。この記事では、スポーツ庁が2017年度から段階的に進めてきたスポーツ経営人材育成事業の変遷をもとに、GM人材に求められる3つの能力と、社内で育成プログラムを設計する実践的な手順を解説します。

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日本のスポーツ組織でGM人材が不足している背景

B.LEAGUEが開催した「クラブ組織デザイン勉強会」では、クラブの未来を創るGMに求められる役割が議論されるなど、GMを専門職として位置づけ直す動きが進んでいます。これまで日本のスポーツ組織では、GMの役職名がついていても、実際には競技側の強化責任者が事業側の判断まで兼務しているケースが多く、経営人材としての育成が体系的に行われてこなかった経緯があります。

結果として、競技実績のある人物をGMに登用しても、予算管理やスポンサー折衝といった経営領域のスキルが不足し、意思決定の質にばらつきが出やすい状態が続いています。この課題に対して、国も段階的に育成事業を進めてきました。次のセクションで、その変遷を整理します。

スポーツ庁が進めてきたスポーツ経営人材育成事業の変遷

スポーツ庁は2017年度以降、スポーツ経営人材の育成・活用に関する事業を毎年度実施し、その内容は「人材要件の定義」から「採用・定着」、そして「実践的な育成カリキュラム」へと段階的に進化してきました。

年度 事業名 主な内容
2017年度 スポーツ経営人材育成・活用事業 スポーツ経営人材に求められる要件の調査
2019年度 スポーツ団体経営力強化推進事業 外部人材の流入促進、採用・定着のポイント整理
2020年度 スポーツ経営人材育成・活用推進事業 実践的な育成カリキュラム・ケース教材の開発

スポーツ庁「スポーツ経営人材の育成・活用」の公表事業一覧をもとにHuman Soarが年度別に整理

2017年度|まず「求められる要件」を言語化するところから始まった

最初の事業では、スポーツ経営人材にどのようなスキルが求められるのかという要件そのものが調査対象でした。裏を返せば、それまで日本のスポーツ界には経営人材の要件を体系的に定義した基準がなかったということです。社内でGM人材の育成プログラムを作る際も、まず自社にとっての「GMに求められる要件」を言語化する工程を省略しないことが重要です。

2019年度|採用だけでなく「定着」に焦点が移った

次の段階では、外部人材の流入促進とあわせて、採用した人材をどう定着させるかにも焦点が当たりました。競技団体特有の意思決定文化に外部から来た経営人材がなじめず、早期に離職してしまう課題が浮き彫りになったためです。GM人材の育成プログラムも、採用後のオンボーディング設計まで含めて考える必要があります。

2020年度|座学ではなく「実践的なケース教材」へ進化した

最新の段階では、実際のクラブ経営の意思決定場面を題材にしたケース教材が開発されました。座学だけでは経営判断力は育たず、実際の予算配分や補強判断のジレンマを疑似体験させる実践的な教材が必要だという認識が背景にあります。社内プログラムを設計する際も、講義形式だけでなく、自社の過去の意思決定を題材にしたケース討議を組み込むことが有効です。

(参考)スポーツ経営人材の育成・活用 – スポーツ庁

GM人材に求められる3つの能力

スポーツ庁の事業変遷からも分かる通り、GM人材には競技経験だけでなく複数領域の能力が必要です。Human Soarでは、人事担当者が育成計画を立てやすいように、必要な能力を次の3つに整理しています。

競技運営理解補強・編成が競技成績に与える影響を判断できる力
事業経営視点予算・収益計画と競技投資を結びつけて考える力
人材マネジメント選手・スタッフ双方の利害を調整して意思決定する力

競技運営理解|補強判断が経営に与える影響を読み解く力

GMは補強や編成の判断を、単に「強くなるかどうか」だけでなく、その判断が翌年以降の予算やスポンサー評価にどう影響するかまで含めて考える必要があります。競技経験があるだけでは、この「競技判断と経営判断をつなげる視点」は自然には身につきません。育成プログラムでは、過去の補強判断とその後の収益への影響を振り返るケース討議が有効です。

事業経営視点|予算配分を競技投資として説明できる力

冒頭の事例のように、強化予算と事業計画が噛み合わない事態を避けるには、GM自身が予算配分の理由を事業側の言葉で説明できる必要があります。決算書やスポンサー収益の構造を読み解く基礎知識を、育成プログラムの初期段階で組み込むことが欠かせません。

人材マネジメント|選手とスタッフ双方の利害を調整する力

GMは選手の契約交渉から現場スタッフの人員配置まで、立場の異なる関係者の利害を調整する場面が多い役割です。一方の意見だけを聞いて判断すると、現場の信頼を損ないやすくなります。育成プログラムでは、実際に対立が起きた過去の事例をもとに、双方の言い分を整理してから意思決定する訓練を組み込みます。

社内でGM人材を育成するプログラムの設計手順

上記3つの能力を踏まえ、社内で育成プログラムを設計する際は、次の3ステップで進めます。

1自社版の要件定義を作る:3つの能力を自組織の意思決定プロセスに合わせて具体化する
2過去の意思決定をケース教材化する:自社の補強判断・予算配分の事例を討議形式の教材にする
3実際の意思決定に段階的に関与させる:小さな予算枠から実務の意思決定を任せ、経験を積ませる

ステップ1|自社版の要件定義を作る

スポーツ庁の事業が最初に要件調査から始めたように、社内プログラムも「自社のGMに何を求めるか」を具体的な行動レベルまで言語化することから始めます。抽象的な「経営視点を持つ」ではなく、「四半期ごとに予算と競技成績の関係を説明できる」といった具体的な到達基準に落とし込みます。

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ステップ2|過去の意思決定をケース教材化する

2020年度のスポーツ庁事業が実践的なケース教材の開発に踏み込んだように、社内でも過去の補強判断や予算配分の事例を、結果まで含めて討議形式の教材にします。成功事例だけでなく、うまくいかなかった判断こそ、次のGM候補にとって学びの多い教材になります。

ステップ3|実際の意思決定に段階的に関与させる

最終的には、小さな予算枠や限定的な補強判断から、実際の意思決定に候補者を関与させます。座学とケース討議だけでは、実務での時間的プレッシャーやスポンサーとの利害調整までは経験できません。責任の大きさを段階的に引き上げながら、実務経験を積ませることが育成の最終仕上げになります。

よくある質問

競技未経験者をGM候補として育成することはできますか

可能です。スポーツ庁の事業変遷が示す通り、GMに求められる能力の多くは経営・人材マネジメントの領域であり、競技経験がなくても事業経営視点と人材マネジメントの能力は育成できます。ただし競技運営理解については、現場責任者との連携体制を別途設計する必要があります。

育成プログラムにはどのくらいの期間が必要ですか

要件定義とケース教材化の準備に数か月、実際の意思決定への段階的な関与には1〜2シーズン程度を見込むのが現実的です。スポーツ庁の育成事業も年度をまたいで段階的に進化してきたように、単年度で完成させようとせず、複数シーズンにわたる計画として設計することが望ましいです。

まとめ

  • 日本のスポーツ組織ではGMが専門職として体系的に育成されてこなかった経緯がある
  • スポーツ庁の事業は「要件定義」→「採用・定着」→「実践的カリキュラム」の順に進化してきた
  • GM人材には競技運営理解・事業経営視点・人材マネジメントの3つの能力が必要
  • 社内育成は要件定義→ケース教材化→実務への段階的関与の3ステップで設計する
  • 競技未経験者でも、経営・人材マネジメント領域から育成することは可能

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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