富士通陸上競技部の田中佑美は、100mハードルの日本代表として2026年世界選手権に出場した。日本選手権決勝当日の朝から右アキレス腱に痛みが出て、出場すら危ぶまれる状況だったが、大会1週間前にスパイクを履き直して出場を決断した。本稿ではFujitsu Sportsによる本人インタビューをもとに、田中が語った痛みとの向き合い方と体づくりを一次情報として紹介する。
アキレス腱の痛みを抱えながら挑んだ世界選手権
2026年の日本選手権決勝当日の朝、田中は突然アキレス腱に痛みを覚えた。「歩くだけで痛かった」ため、合宿地でも実際のトレーニングができず、バイクとウェイトトレーニングを中心に調整するしかなかったという。世界選手権への出場は試合の1週間前まで不透明な状態が続いた。
(参考)ちょっとでも“速く”を追求する自分らしさ 田中佑美(100mH) – 陸上競技部 Fujitsu Sports
アキレス腱の痛みが繰り返される理由
田中がアキレス腱の痛みを初めて経験したのは大学4年生の時だった。実業団入り後は痛みをコントロールしながら競技を続けてきたが、2023年のブダペスト世界選手権あたりから一度痛みが消え、2025年に再び戻ってきたという。「なぜ痛みが出たのか分からなかった」と本人も原因の特定に苦しんでいる。
アキレス腱炎はオーバーユースが基本的な原因
スポーツ医学の知見では、ランナーや陸上選手に頻発するアキレス腱の痛みは、運動によるアキレス腱への微細損傷、いわゆるオーバーユースが基本的な原因とされる。走りながら治すには、練習後に痛みが悪化しないこと、週単位で痛みが軽減傾向にあることを指標に、負荷を段階的に調整することが重要とされる。田中が語る「痛みを上手にコントロールしながら」競技を続けてきたという表現は、こうした段階的な負荷管理の実践と重なる。
(参考)アキレス腱が痛い!ランナーに頻発するアキレス腱痛のメカニズムと治療・リハビリ方法 – RUNNING CLINIC
走り方そのものを見直す取り組み
田中はアキレス腱の負荷を減らすため、つま先から突っ込むような着地から、膝や股関節など上半身に近い部分を使う走り方への転換に取り組んでいる。「膝が内側でつま先が外側になる歪みがあった」と自身の走りの癖を分析し、それをまっすぐに矯正するリハビリを続けているという。
股関節と広背筋の活用が今後の伸び代
「股関節の動かし方や、広背筋をちゃんと稼働させること」を今後の課題として挙げる田中は、ドクターやトレーナー、コーチ、他の選手からのアドバイスを受けながら課題を見つけているという。アキレス腱という一箇所の痛みへの対処が、結果として全身の動作連鎖を見直すきっかけになっている点は、怪我の予防と競技力向上が表裏一体であることを示している。
「気楽に楽しく乗り越える」というメンタルの持ち方
他の選手の記録を気にしすぎないことや、東京や国際大会といった舞台の大きさにとらわれすぎないことも、田中が競技を長く続けられている理由の一つだ。「今やめたらもうちょっと速く走れる可能性があるのにもったいない」という思いが、痛みと向き合いながらも競技を続けるモチベーションになっている。
記録だけにとらわれない競技との向き合い方
田中は「予定は常に未定です」と語り、年齢や周囲の選手の動向に流されず、自分がやりたいことがあり、まだ速くなれる手応えがある限り競技を続けるという姿勢を貫いている。世界選手権という大舞台であっても、その大きさに気負うのではなく、パリやブダペストの時と同じく「そのときにできる走り」を追求する一貫した姿勢が、痛みと向き合いながらも競技を続けられている理由の一つといえる。
周囲の専門家と連携した課題発見
股関節や広背筋の活用という新たな課題も、田中一人で見つけたものではない。ドクター、トレーナー、コーチ、そして他の選手との対話を重ねる中で見えてきたものだという。一つの視点に固執せず、複数の専門家の意見を取り入れながら自分の走りを客観的に分析する姿勢は、慢性的な痛みと付き合いながら競技を続ける上での重要な工夫といえる。2025年12月には31センチ以上に伸ばした髪をヘアドネーションに提供したことも明かしており、競技だけにとどまらない社会的な関心の広さも田中の人柄を表している。記録の追求と社会的な活動を両立させながら、目の前の課題に淡々と向き合い続ける姿勢が、田中の競技人生を支え続けている。陸上教室を通じて地方の子どもたちとトップアスリートが出会う機会をつくる活動も、自身が現役だからこそ果たせる役割だと田中は捉えている。
読者が今日から実践できること
田中の事例が示すのは、痛みの原因を一箇所だけに求めず、体全体の動作連鎖として捉える視点の大切さだ。アキレス腱という末端の症状から、股関節や広背筋といった上半身の使い方まで見直す発想は、競技者に限らず日常的にランニングや運動を行う人にとっても参考になる。痛みを我慢して押し切るのではなく、専門家の意見を聞きながら段階的に負荷を調整していく姿勢が、長く競技や運動を続けるための基本といえる。
また、記録や順位といった外的な評価基準に縛られすぎず、自分自身が納得できる走りを追求する田中の姿勢も見逃せない。故障を抱えながらも「悔しいと思えた」ことを前向きに捉えられる心の余裕は、結果が出ない時期を乗り越えるための重要な支えになる。焦らず、しかし歩みを止めずに、自分のペースで課題と向き合い続ける姿勢こそが、長期的なパフォーマンス向上につながっていく。オフには自ら陸上教室を開き、いろんな地域の子どもたちと交流を続けている姿勢からも、記録だけに縛られない競技との向き合い方がうかがえる。
まとめ
- 田中佑美は2026年世界選手権を右アキレス腱の痛みを抱えながら走り切った。
- アキレス腱の痛みは大学時代から繰り返しており、原因の特定と対処に継続的に取り組んでいる。
- アキレス腱の痛みの基本的な原因はオーバーユースとされ、段階的な負荷管理が回復の鍵となる。
- 着地や走り方そのものを見直し、股関節や広背筋を活用する走りへの転換に取り組んでいる。
- 他人と比較せず「気楽に楽しく乗り越える」というメンタルの持ち方が、競技継続の原動力になっている。
よくある質問
田中佑美選手はどんな怪我を抱えているのか
大学時代から断続的に右アキレス腱の痛みを抱えており、2026年シーズンも日本選手権直前から痛みが再発した。
アキレス腱の痛みはなぜ繰り返されるのか
アキレス腱の怪我は突発的な原因ではなく走り方や歩き方に起因することが多く、炎症が落ち着いても再発しやすい特性があるとされる。
アキレス腱の痛みへの対処で重要なことは何か
練習後に痛みが悪化しないことを指標に負荷を段階的に調整すること、そして着地や走り方そのものを見直すことが重要とされている。
田中選手が競技を長く続けられている理由は何か
他人と比較せず自分のペースで競技に向き合う姿勢と、「気楽に楽しく乗り越える」というメンタルの持ち方が挙げられる。
怪我と向き合いながら競技を続けるアスリートの物語はアスリート特集で、コンディショニングに関する記事は怪我からの復帰カテゴリーであわせて紹介している。
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