杉山愛が25歳の引退危機を乗り越えて掴んだ心を整える思考モデル

杉山愛 テニス メンタル アスリート

15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位、17歳でプロ転向、オリンピック4回出場、グランドスラム女子ダブルスで3度の優勝。輝かしい経歴を持つ杉山愛にも、テニスを辞めたくなるほどのスランプがあった。25歳のとき、シングルスで結果が出せなくなり、「飛んでくるボールが怖く、打ち方も分からない」という状態にまで落ち込んだという。そこから現役を続け、引退後もコメンテーターや監督として活躍し続けている杉山の心の整え方とは何か。本人インタビューから、競技を超えて応用できる思考モデルを読み解く。

  1. 「もう辞めたい」という気持ちを変えた母の一言
  2. なぜ「フィーリング重視」から「テクニック重視」へ転換したのか
  3. 年間280日の海外生活を支えた3つのメンタル安定術の構造
    1. 丹田を意識した朝晩の呼吸法
    2. ネガティブなイメージを「上塗り」するイメージトレーニング
    3. 「1日単位」ではなく一定期間で帳尻を合わせる考え方
  4. 他のアスリート・ビジネスパーソンとの比較
  5. 健康経営という視点から見る杉山の思考
  6. セカンドキャリアで見つけた「期待しすぎない」というマインド
  7. 一般人のキャリア・人生設計への応用
    1. 「辞めたい」気持ちの奥にある「やり切れていない」感覚を確認する
    2. 1日単位ではなく1週間単位で目標を管理する
    3. 新しい役割には期待しすぎず、役割の捉え方を柔軟に変える
  8. ChatGPTで自分専用の「呼吸法とイメージ上塗り」を設計する3ステップ
    1. ステップ1:緊張しやすい場面と今の対処法を伝える
    2. ステップ2:自分に合う呼吸のリズムとイメージを一緒に作る
    3. ステップ3:1週間単位の「ゆとりのある目標」に落とし込む
  9. 杉山愛の思考が示す強さの本質
    1. 杉山愛が25歳の頃に経験したスランプとはどのようなものですか?
    2. 3つのメンタル安定術とは何ですか?
    3. 引退後のキャリアではどのような考え方の変化がありましたか?
    4. 一般の仕事にも応用できる考え方はありますか?
    5. ChatGPTを使った実践はどんな場面で役立ちますか?

「もう辞めたい」という気持ちを変えた母の一言

杉山は25歳の頃、結果が出ない負のスパイラルに陥り、プロとして続けていけないのではという恐怖から「辞めたい」という気持ちが日増しに強くなっていたと振り返る。転機になったのは、幼い頃からサポートしてきた母への相談だった。

幼い頃からずっとサポートしてくれていた母に、「テニスをもう辞めようと思う」と報告したんです。そうしたら母が「でもここでテニス辞めちゃったら、他のことをスタートしてもうまくいかないんじゃない? 自分のやるべきことをすべてやりきれたの?」と聞かれて、ハッとしました。

杉山愛インタビュー/kentaku-eyes(大東建託)

(参考)杉山愛さんに学ぶ3つのメンタル安定術。健やかな毎日を送る秘訣とは? – kentaku-eyes

この問いかけによって杉山は「プロを名乗っている以上、自分のやれることをすべてやりきってテニス人生を全うしよう」とゼロからの再スタートを決意した。逃げ出したい気持ちの奥にあったのは、やり切れていないという後ろめたさだったことに、母の質問が気づかせてくれたと言える。

なぜ「フィーリング重視」から「テクニック重視」へ転換したのか

再スタートを切った杉山が選んだのは、それまでの感覚を頼りにしたプレースタイルから、心技体を総合的に向上させる基礎重視のトレーニングへの転換だった。「打ち方が分からないからこそ基礎に立ち返ることができる」と前向きに捉え、コーチを務めていた母と二人三脚で地道な試行錯誤を重ねたという。結果が出始めたのは1〜2年後だった。すぐに結果が出なかったにもかかわらず継続できたのは、目的が「勝つこと」から「自分と向き合うこと」に一度置き換わっていたからだと考えられる。

年間280日の海外生活を支えた3つのメンタル安定術の構造

現役時代、年間280日以上を海外で過ごしていた杉山は、平常心を保つために3つの方法を実践していた。それぞれの方法には、心理学的にも説明できる共通の構造がある。

丹田を意識した朝晩の呼吸法

「へそ下5cmぐらいの所にある丹田を意識しながら、新鮮な空気を送り込むイメージで息を吸います。丹田に空気をギュッと入れ込んだら、下腹に力を入れてお尻を締めます。体の不調や緊張といったネガティブなものがあるときは、それらを吐き出すイメージで息を吐きましょう」と杉山は説明する。呼吸のリズムを意識的にコントロールすることは、自律神経の働きに作用し、緊張状態から回復するための代表的な手法として知られている。朝晩30分ずつという継続的な実践が、一時的な対処ではなく日常的な土台として機能していた点が重要だ。鼻から吸って鼻から吐くか、口から吐くか、息を吸い込む秒数をどうするかといった細部は本人の心地よさを優先しており、型を厳密に守ることよりも自分に合った感覚を優先する柔軟さも特徴的だ。

ネガティブなイメージを「上塗り」するイメージトレーニング

「うまくいかないんじゃないか」というネガティブなイメージが頭から離れない時は、それをいいイメージで上塗りするよう意識していたという。現役時代は躍動感のある動きでボールを捉えたり、ガッツポーズをするイメージを思い浮かべていた。不安を消そうとするのではなく、良いイメージを重ねて上書きするというアプローチは、無理に感情を抑え込むよりも実践しやすい方法だと言える。

「1日単位」ではなく一定期間で帳尻を合わせる考え方

栄養バランスの取れた食事を例に、杉山は「3日間や1週間など、一定期間の中でなんとなくバランスが取れていればOKと、ゆとりを持った目標を設定する」ことを勧めている。1日ごとの完璧を求めると挫折しやすくなるが、期間全体で帳尻を合わせるという発想に切り替えることで、無理なく目標を継続できるようになる。

杉山はこうした3つの方法について「私自身が自分を見つめ直していろいろと試す中で、特に相性がいいと感じたものです。ただ、自分なりの緊張や不安との向き合い方は本当に人それぞれなので、ぜひ自分が落ち着くもの、テンションが上がると感じるものを探してみてください」とも語っている。方法そのものを鵜呑みにするのではなく、自分に合うかどうかを試行錯誤しながら見つけていくという姿勢は、25歳のスランプを乗り越えた時の「基礎に立ち返る」試行錯誤の経験とも重なる。

他のアスリート・ビジネスパーソンとの比較

多くのアスリートが緊張対策として何らかのルーティンを持つ中、杉山の方法の特徴は、いずれも特別な道具や環境を必要とせず、日常生活の中でそのまま応用できる汎用性の高さにある。呼吸法は場所を選ばず、イメージトレーニングは頭の中だけで完結し、期間単位の目標設定は食事に限らずあらゆる習慣づくりに転用できる。杉山自身、大東建託の社員向けトークセッションで「日常を生きる中で抱えているストレスにどのように対処していくのかという問題は、アスリートにも会社員の方にも共通しているんですよね」と語っており、競技者と会社員の境界を越えた汎用性を本人も意識している。

健康経営という視点から見る杉山の思考

杉山は大東建託の「健康・Well-being経営」への協力を通じて、企業の働き方にも言及している。「ハードワークをすれば必ずしも成果が上がるわけではなく、かえってパフォーマンスが落ちてしまうことも。心身が健康であれば、やはりいいパフォーマンスもできるでしょうから、自分を大事にしつつ、仕事や会社にも貢献していく。このバランスを取ることが重要なのではないでしょうか」と語る。長時間の努力量そのものよりも、心身の状態を整えることがパフォーマンスの土台になるという考え方は、現役時代に培った経験から導かれたものだ。

セカンドキャリアで見つけた「期待しすぎない」というマインド

引退後のキャリアでも、杉山の思考には一貫性がある。コメンテーターとして活動を始めた当初は自分の言いたいことがうまく言葉にできなかったが、「自分にあまり期待しないことが功を奏した」と振り返る。「元々コメントのプロではないんだから、テレビの前にいる視聴者の代弁をするつもりで話せばいいのかもしれない」と役割を捉え直したことで、気負わずに取り組めるようになったという。

日本代表監督としての交渉でも、「ベストな結果にならないときはセカンドベストを目指そう」と気持ちを切り替えていると語る。自分でコントロールできないことに不安を抱えすぎず、コントロールできる部分に意識を戻すという姿勢は、25歳のスランプを乗り越えた時の「やれることをやりきる」という考え方と根底でつながっている。

杉山は現在、監督業に加えて「Square Plus」という若手選手支援団体の代表理事も務め、母親としての役割もこなしている。複数の役割を抱える中で杉山が語るのは、「その時々のプライオリティを都度判断して、時に無理しない選択肢を持つ」という考え方だ。すべてを完璧にこなそうとするのではなく、優先順位を都度見直し、頑張り過ぎたら休むという判断を自分に許すことが、複数の役割を長く続けるための鍵になっている。

一般人のキャリア・人生設計への応用

「辞めたい」気持ちの奥にある「やり切れていない」感覚を確認する

仕事を辞めたいと感じた時、それが本当に環境が合わないからなのか、それとも自分のやれることをやり切れていない後ろめたさからくるものなのかを、一度立ち止まって確認する価値がある。

1日単位ではなく1週間単位で目標を管理する

食事やトレーニング、仕事のタスク管理など、日々完璧を求めると挫折しやすい目標は、1週間単位などの期間で帳尻を合わせる発想に切り替えることで継続しやすくなる。

新しい役割には期待しすぎず、役割の捉え方を柔軟に変える

不慣れな仕事や役割に就いた時、最初からうまくやろうと気負うのではなく、「自分はこの役割で何を果たせばいいか」を捉え直すことで、プレッシャーを減らしながら取り組めるようになる。

ChatGPTで自分専用の「呼吸法とイメージ上塗り」を設計する3ステップ

杉山の3つのメンタル安定術は、どれもシンプルだが日々の実践には自分に合った形への調整が欠かせない。ここでは対話型AIのChatGPTを使い、自分の生活リズムに合わせた実践プランを作る方法を紹介する。

ステップ1:緊張しやすい場面と今の対処法を伝える

ChatGPTに「緊張しやすい場面(例:プレゼン前、大事な商談前)と、今の自分がしている対処法を教えるので、改善点を一緒に考えてほしい」と伝え、現状を整理する。

ステップ2:自分に合う呼吸のリズムとイメージを一緒に作る

「丹田を意識した呼吸法を参考に、自分の生活の中で無理なく続けられる呼吸の型を提案してください。また、緊張する場面でうまくいっている自分をイメージするための具体的なシーンも一緒に考えてください」と依頼する。杉山が独自のリズムで呼吸法を実践していたように、型は参考にしつつ自分に合わせて調整する。

ステップ3:1週間単位の「ゆとりのある目標」に落とし込む

「この習慣を1日単位ではなく1週間単位で続けられる目標として設計してください」と依頼し、完璧を求めすぎない実践計画としてまとめてもらう。

杉山愛の思考が示す強さの本質

杉山愛の強さは、圧倒的な実力そのものよりも、危機に陥った時に自分の考え方の枠組みを柔軟に組み替えられる力にある。「フィーリング」から「テクニック」へ、「勝つこと」から「やり切ること」へ、「完璧な結果」から「セカンドベスト」へ。それぞれの場面で杉山は、うまくいかない状況を否定するのではなく、向き合い方そのものを見直すことで前に進んできた。呼吸法もイメージトレーニングも期間単位の目標設定も、特別な才能を必要としない、誰でも今日から始められる思考の技術である点に、杉山の言葉が持つ実践的な価値がある。25歳で一度は辞めたいと思ったテニスを、母の一言をきっかけにやり切ると決めた選択が、その後の4回のオリンピック出場と3度のグランドスラム優勝、そして引退後の多方面での活躍につながっている。

杉山愛が25歳の頃に経験したスランプとはどのようなものですか?

シングルスで結果が出せなくなり、自信を失って負のスパイラルに陥り、飛んでくるボールが怖く打ち方も分からない状態にまで落ち込むという、引退を考えるほどのスランプでした。

3つのメンタル安定術とは何ですか?

丹田を意識した朝晩の呼吸法、ネガティブなイメージを良いイメージで上塗りするイメージトレーニング、1日単位ではなく一定期間で帳尻を合わせる考え方の3つです。

引退後のキャリアではどのような考え方の変化がありましたか?

「自分にあまり期待しないこと」が功を奏したと語っており、新しい役割の捉え方を柔軟に変えることで気負わずに取り組めるようになったといいます。

一般の仕事にも応用できる考え方はありますか?

1日単位ではなく1週間単位で目標を管理すること、新しい役割に期待しすぎず捉え方を柔軟に変えること、辞めたい気持ちの奥にある感覚を確認することの3点が応用できます。

ChatGPTを使った実践はどんな場面で役立ちますか?

緊張しやすい場面での呼吸法やイメージトレーニングを自分の生活に合わせて設計したい時、また継続しやすい期間単位の目標に落とし込みたい時に役立ちます。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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