「健康経営優良法人を取るべきかどうか」を社内で議論するとき、根拠になる数字を持たないまま「他社もやっているから」で話が進んでしまうことがあります。実際には、業種によって取得の進み具合はまったく違い、平均的な話をしても自社の状況には当てはまりません。
この記事では、健康経営優良法人2026の公式データを業種別に独自集計し、「同業の何%がすでに取得しているか」を可視化しました。人事・総務担当者が自社の位置づけを把握し、経営層への説明に使える形で整理しています。
健康経営優良法人2026の全体像|認定法人は3年で1.38倍に増えた
健康経営優良法人は、経済産業省が主導する従業員の健康投資を「見える化」する認定制度です。中小規模法人部門と大規模法人部門があり、毎年3月に認定、5月頃に業種別・都道府県別の内訳が公式データとして公開されます。
中小規模法人部門は23,077社、前年比+16.4%
ACTION!健康経営ポータルの公式データ(2026年5月12日時点)によると、中小規模法人部門の認定法人数は23,077社でした。2025年の19,828社から+16.4%、2024年の16,717社からは2年間で+38.0%と、制度の普及は明確に加速しています。健康投資は一部の先進企業だけの取り組みから、業界標準へ移行しつつある段階です。
到達度はまだ0.686%|市場としては開拓の初期段階
一方で、中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数」(令和3年経済センサス‐活動調査、2021年6月時点)による国内中小企業336万社を分母にすると、認定率は0.686%、146社に1社にとどまります。伸びは加速していても、取得している企業はまだ少数派だというのが実態です。
(参考)認定法人一覧(業種別認定数) – ACTION!健康経営ポータルサイト
業種別認定率ランキング|「数」ではなく「率」で見る
健康経営優良法人の業種別データは、認定数の多い順で紹介されることが多くあります。しかし認定数がそのまま業界の積極性を表すわけではありません。認定数1位の建設業(5,562社)も、業種内の中小企業数(424,976社)で割ると1.31%にとどまります。業界の企業数を揃えて初めて、自社の業界が同業の中でどの位置にあるかが分かります。
| 業種 | 認定数 | 中小企業数 | 認定率 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 186 | 5,273 | 3.527% | +23.2% |
| 金融業・保険業 | 919 | 28,647 | 3.208% | +0.7% |
| 運輸業・郵便業 | 1,649 | 64,886 | 2.541% | +13.1% |
| 情報通信業 | 945 | 55,174 | 1.713% | +18.4% |
| 製造業 | 5,238 | 335,552 | 1.561% | — |
| 建設業 | 5,562 | 424,976 | 1.309% | — |
| 卸売業 | 1,875 | 202,432 | 0.926% | — |
| 学術研究・専門・技術サービス業 | 985 | 202,747 | 0.486% | — |
| 医療・福祉 | 465 | 205,710 | 0.226% | +21.1% |
| 小売業 | 960 | 527,138 | 0.182% | — |
| 不動産業・物品賃貸業 | 506 | 324,197 | 0.156% | +21.7% |
| 生活関連サービス業・娯楽業 | 336 | 330,461 | 0.102% | +22.6% |
| 教育・学習支援業 | 96 | 94,060 | 0.102% | +9.1% |
| 宿泊業・飲食サービス業 | 223 | 424,543 | 0.053% | +14.4% |
※ACTION!健康経営ポータル公式Excel「業種別認定数」(2026年5月12日時点)と中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数」(2021年6月時点)を、Human Soarが業種ごとに突合し認定率・前年比を独自算出。分子・分母の時点差があるため、水準の絶対値ではなく業種間の比較指標として扱う。
認定率トップ3は規制産業が占める
認定率が最も高いのは電気・ガス・熱供給・水道業の3.53%、次いで金融業・保険業3.21%、運輸業・郵便業2.54%でした。いずれも許認可・監督官庁の存在が事業継続の前提になっている業種です。労働災害リスクの高さよりも、第三者からの評価が事業条件に直結することが、取得の動機として強く働いていると考えられます。
認定率が最も低いのは宿泊業・飲食サービス業の0.053%
一方、宿泊業・飲食サービス業は0.053%と、トップの電気・ガス・水道業の66分の1にとどまります。小売業(0.182%)、教育・学習支援業(0.102%)も低水準です。この3業種は同業のほとんどが未取得のため、取得すれば業界内で際立ちやすい状況にあります。
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自社の業界は4象限のどこにいるか
認定率(浸透度)と前年比(成長率)を掛け合わせると、業種ごとに取るべき対応は変わります。全業種平均の前年比+16.4%を基準に、Human Soarが4つの象限に整理しました。
※前掲データの認定率と前年比を軸に、Human Soarが独自に4象限へ分類。
必達|高率×高成長の業種は取得が前提条件になりつつある
電気・ガス・水道、情報通信、運輸業は、同業の多くがすでに取得したうえで、さらに増加を続けています。未取得の場合、採用や取引先評価の場面で「なぜ取っていないのか」を問われる段階に入っていると考えられます。
追随|高率×低成長の業種は取得後の中身が問われる
金融業・保険業は前年比+0.7%とほぼ頭打ちで、新規取得の伸びしろは小さくなっています。この業種ではすでに取得している企業が大半のため、取得の有無よりも、取得後にどんな取り組みを積み上げているかが差別化要因になります。
好機|低率×高成長の業種はいま動けば先行できる
生活関連サービス業・娯楽業(+22.6%)、医療・福祉(+21.1%)、不動産業(+21.7%)は、認定率こそ低いものの伸び率は全業種平均を上回ります。この勢いが続けば、数年で「取得していない側」が少数派になる可能性があります。
先駆|低率×低成長の業種は取得そのものが差別化になる
宿泊・飲食、小売、教育は認定率・伸び率ともに低く、同業のほとんどが未取得の状態です。取得すれば業界内でかなり目立ちますが、社内で優先度を上げる説明は必要になります。助成金や自治体の支援制度と組み合わせて、コストを抑えた提案にするのが現実的です。
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都道府県別の分布|最多は東京ではない
本社所在地ベースの認定法人数を見ると、企業数では全国最多の東京都が、実は認定数では3位にとどまるという結果が出ています。
大阪府・愛知県が東京都を上回る
認定法人数は大阪府2,659社、愛知県2,385社が、東京都1,737社を大きく上回りました。健康経営の取得は大都市圏そのものよりも、製造業や地場企業が集積する地域で進んでいる傾向がうかがえます。
県内企業数に対して突出して進む地方県がある
長野県756社、静岡県815社、岐阜県575社、島根県257社は、県内の企業数を考えると突出した水準です。地域の商工会議所や金融機関が取得を後押ししている可能性があり、地域単位での面展開が効きやすい市場だと考えられます。
社内で説明するときの使い方
このデータを社内提案・稟議の根拠として使う場合は、次の手順が実践的です。
ステップ1|自社の位置を確認する
前掲のランキング表と4象限の分類で、自社の業界の立ち位置を最初に特定します。ここが曖昧なままだと、以降の社内提案も説得力を欠きやすくなります。
ステップ2|同業の状況を調べる
ACTION!健康経営ポータルの認定法人一覧では、社名・所在地・業種まで公開されています。「取引先の◯社がすでに取得している」という具体的な事実は、抽象的な統計よりも社内で通りやすい根拠になります。
ステップ3|社内提案にまとめる
健康経営の効果を説明する際、健康面のメリットだけを強調すると経営層の関心を得にくいことがあります。採用力や取引先からの評価、金融機関の融資条件への影響という観点を軸にすると、投資判断の議論に乗せやすくなります。
ステップ4|不足している項目を洗い出す
健康経営度調査の設問には、運動機会の増進や食生活改善など具体的な取り組み項目が含まれています。自社に不足している項目を洗い出し、研修やイベントの形で満たせるものから着手するのが現実的な進め方です。
よくある質問
健康経営優良法人2026のデータはどこで確認できますか
ACTION!健康経営ポータルサイトの認定法人一覧ページで、業種別・都道府県別の内訳を含む公式Excelファイルが公開されています。社名・所在地・業種まで確認できます。
認定率の低い業種は取得しても意味がないのでしょうか
そうではありません。認定率が低い業種ほど、取得すれば同業内で際立ちやすく、採用広報などで使える期間も長くなります。むしろ前例が少ない今のうちに動く価値がある業種だと言えます。
まとめ
- 健康経営優良法人2026の中小規模法人部門は23,077社、前年比+16.4%、2年で+38.0%と普及が加速している
- 国内中小企業336万社に対する認定率は0.686%(146社に1社)で、市場全体としてはまだ開拓の初期段階
- 認定率トップ3は電気・ガス・水道、金融・保険、運輸業と、いずれも許認可・監督を受ける規制産業が占める
- 認定率と前年比を掛け合わせた4象限(必達・追随・好機・先駆)で、業種ごとに取るべき対応は異なる
- 都道府県別では、大阪・愛知が東京を上回り、健康経営の取得は大都市圏より地場企業の集積地で進んでいる
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