従業員エンゲージメントの取り組みは、施策の種類で差がつくのではなく、「効果を測れるか」と「続けるコストが低いか」で選んだときにいちばん定着します。まず記録が残る低コストの施策から始め、数字が動いてから予算のかかる制度に広げる、という順番です。
「社内アンケートのスコアは出したものの、そこから何をすればいいのか分からない」「運動会もウォーキングイベントもやったのに、翌年には誰も言い出さなくなった」。そんな状態から抜け出すために、この記事では取り組みを4つの類型に整理し、どれを最初に置くべきか、効果をどの指標で見るか、そして止まらせないための仕組みまでを順に見ていきます。
エンゲージメントの取り組みは「測れるか」と「続くか」で選ぶ
取り組みを選ぶ軸は2つで足ります。ひとつは効果を数字で説明できるか、もうひとつは来年も同じことを続けられるコストで収まっているかです。この2軸で並べると、世の中で紹介されている施策はきれいに4つの類型に分かれます。

多くの企業がつまずくのは、左下の「イベント型」から手をつけてしまうことなんですよね。運動会やスポーツ大会は当日の盛り上がりが大きく、写真も残るので成果に見えます。ところが準備工数と費用が大きいぶん、担当者が異動したり予算が削られたりした時点で、そのまま消えてしまいます。
おすすめは右上の「記録型」から始める形です。歩数や運動習慣の記録、部署ごとの参加率の集計は、費用がほとんどかからないうえに、数字が自動で積み上がっていきます。数字が積み上がると「どの部署で参加率が低いか」が見え、次の打ち手を決める材料になります。
そのうえで、記録型で反応がよかったテーマだけを右下の「制度型」へ格上げしていきます。社内部活動の制度化やスポーツ関連の手当は、いきなり作ると使われないまま形骸化しますが、参加実績という裏づけを持ってから設計すれば利用率が読めます。
左上の「雰囲気づくり型」は、効果の説明がしにくいので単独の柱にはしにくい一方、コストがほぼゼロなので他の類型と並走させる分には向いています。朝のひと声や競技の話題を共有する程度のことでも、記録型の参加率を押し上げる下支えになります。
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Q. エンゲージメントの取り組みは何から始めればいいですか?
費用がかからず記録が残る施策から始めるのが確実です。歩数や運動習慣の記録、部署別の参加率集計のように数字が自動で積み上がるものを先に置くと、次にどこへ予算を使うかを実績から判断できます。運動会のような大きなイベントを最初の柱にすると、担当者や予算が変わった時点で途切れやすくなります。
続いている企業は3割|スポーツ庁と経済産業省の認定データが示す実態
「取り組みが続かない」のは自社だけの問題ではありません。国の認定制度の数字を並べると、参加する企業は急増しているのに、長く続けている企業はその一部にとどまっていることが見えてきます。エンゲージメントに関わる3つの制度が、企業に何を求めているのかを整理しました。
| 制度(所管) | エンゲージメント関連で求められること | 2026年の規模 |
|---|---|---|
| 健康経営優良法人(経済産業省) | 従業員の健康課題の把握と、取組を社内へ浸透させる仕組み | 大規模法人部門3,765法人/中小規模法人部門23,085法人 |
| スポーツエールカンパニー(スポーツ庁) | 従業員のスポーツ実施を促す取組。実施率70%以上で「+認定」 | 1,635団体(うち通算5回以上の継続認定が500団体超) |
| 人的資本可視化指針(内閣官房) | 「エンゲージメント」を、投資家へ開示することが望ましい項目に含める | 2022年8月策定、2026年3月23日に改訂版を公表 |
出典:経済産業省・スポーツ庁・内閣官房の各公表資料をもとにHuman Soarが集計(2026年9月時点)
健康経営優良法人は1年で3,654法人増えた
経済産業省の発表によると、健康経営優良法人2026の認定数は大規模法人部門3,765法人、中小規模法人部門23,085法人でした。前年の健康経営優良法人2025は大規模3,400法人、中小規模19,796法人だったので、合計では23,196法人から26,850法人へと3,654法人増えた計算になります。伸び率は15.8%です。
数だけを見れば、健康経営に手を挙げる企業はもう珍しくありません。だからこそ、認定を取ること自体が社内の関心を集める効果は年々小さくなっています。認定の有無ではなく、認定の中身として何をやっているかを説明できるかどうかが分かれ目になってきました。
スポーツを使った取り組みで継続認定を得ているのは全体の3割
スポーツ庁は2026年1月30日、スポーツエールカンパニー2026として過去最多の1,635団体を認定したと発表しました。このうち通算5回以上の認定を受ける「シルバー・ブロンズ認定」が500団体を超えて過去最多になっています。単純に割ると、1,635団体のうち継続認定に届いているのは30.6%ほど。逆に言えば7割は、5年続く前に止まっているか、まだ始めて数年という段階にあるわけです。
スポーツ庁が認定団体に行ったアンケートでは、多くの団体が「従業員が自分の身体を意識するようになった」「職場のコミュニケーションがよくなった」と回答し、「休職率が減った」「採用の志望者数が増えた」という回答もあったと報告されています。効果が出ないから続かないのではなく、続く形になっていないから効果にたどり着けていない、という順序で捉えたほうが実態に近そうです。
人的資本の開示がエンゲージメントを「説明する対象」に変えた
内閣官房は2026年3月23日に人的資本可視化指針の改訂版を公表しました。この指針は人材への投資と成果をどう整理して外部に示すかを扱ったもので、開示することが望ましい項目のなかにエンゲージメントが含まれています。
ここが実務に効いてきます。社内向けの福利厚生だった取り組みが、投資家や求職者に対して説明する対象へ変わったからです。説明する相手がいるなら、必要なのは「やりました」という記録ではなく、何をどれだけやって、どう変わったかという数字になります。冒頭の4類型で「測れるか」を軸に置いた理由はここにあります。
(参考)「健康経営優良法人2026」認定法人が決定しました – 経済産業省
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁
Q. 健康経営優良法人の認定はエンゲージメント向上に役立ちますか?
申請の過程で自社の健康課題を洗い出せる点は役立ちますが、認定そのものが社員の意識を変えるわけではありません。健康経営優良法人2026は中小規模法人部門だけで23,085法人が認定されており、取得している企業はすでに珍しくないためです。認定を目的にせず、認定の要件を社内の取り組みを棚卸しするチェックリストとして使うのが現実的です。
4類型ごとの取り組み例と社内で回すときの勘所
ここからは4つの類型を順に見ていきます。自社でいまやっていることがどこに入るかを当てはめながら読むと、次に足すべき類型が見えてきます。
記録型|歩数と参加率を数字で残す
いちばん最初に置きたいのがこの類型です。全社での歩数チャレンジ、階段利用の記録、部署ごとの参加率の集計といったものが該当します。スマートフォンのアプリや表計算ソフトで足りるので、追加の予算はほとんど必要ありません。
回すときの勘所は、数字を個人の成績としてではなく部署の参加率として見せることです。個人ランキングにすると運動が得意な人だけが盛り上がり、苦手な人が離れます。参加率なら「ひとまず参加する」という行動自体が貢献になるので、裾野が広がります。スポーツでワークエンゲージメントを高める方法でも触れているとおり、ここで狙うのは体力の向上より、仕事への前向きさにつながる小さな成功体験です。
雰囲気づくり型|勝敗ではなく話題を共有する
朝礼でのひと声、休憩時間の軽いストレッチ、前夜の試合の話題を共有するといった、ほぼコストゼロの取り組みです。効果を単独で測るのは難しいので、これだけを施策として報告するのは避けたほうがいいでしょう。
とはいえ、記録型の参加率を押し上げる効果は無視できません。上司が自分から参加している部署は参加率が上がりやすく、逆に「好きな人だけどうぞ」という空気の部署は下がります。管理職に対して、成果ではなく参加を歓迎する声かけを具体的に依頼しておくのが実務上のコツです。
イベント型|年1回で終わらせず記録型の入口に使う
運動会、スポーツ大会、社内リーグ戦などです。単発で終わると翌年に消えるので、イベントを記録型の入口として設計します。たとえば大会の前後8週間を練習期間として歩数記録とつなげると、イベントが終わったあとも記録だけは残ります。
費用と工数が大きい類型なので、開催頻度を落として構いません。年1回でも、その前後に記録型がぶら下がっていれば、実質的には年間の取り組みとして機能します。
制度型|参加実績が読めてから作る
社内部活動制度、スポーツ関連の補助、外部プログラムの導入など、規程や予算を伴うものです。この類型は効果を測りやすく説明もしやすい反面、利用されないまま残ると「形だけの制度」として社内の信頼を削ります。
だからこそ、記録型で参加者の顔ぶれと人数が見えたあとに作るのが安全です。社内部活動制度の導入方法のように制度化のかたちが決まっているものでも、先に非公式の集まりで人数を確かめてから規程に落とすほうが定着します。運動が苦手な層を取り込みたい場合は、eスポーツと従業員エンゲージメントのようにデジタル寄りの選択肢を同時に用意しておくと参加の幅が広がります。
効果測定は意識調査より先に行動の数字を置く
エンゲージメントの効果測定というと、サーベイのスコアを思い浮かべる方が多いと思います。ただ、スコアだけを追うと打ち手に結びつきません。行動の数字を先に置いて、スコアはその後ろに置く順番をおすすめします。
行動指標|参加率と継続率を月ごとに見る
最初に見るのは参加率と継続率です。全社の参加率、部署別の参加率、そして初回参加者のうち3か月後も続いている人の割合。この3つを月ごとに並べるだけで、どこで人が抜けているかが分かります。
行動指標のよいところは、翌月の打ち手に直結する点です。参加率が低い部署が特定できれば、その部署の管理職に声かけを依頼するという具体的な次の手が出てきます。スコアが3ポイント下がった、という情報からは次の手が出てきません。
意識指標|サーベイは行動指標と重ねて読む
サーベイのスコアは、行動指標と重ねたときに意味を持ちます。参加率が上がった部署でスコアも上がっているなら、取り組みと意識が連動している裏づけになります。参加率だけ上がってスコアが動かないなら、参加が義務になっていないかを確認したほうがいいでしょう。
開示を意識する場合も、順番は同じです。人的資本の開示では数値の定義と集計期間をそろえて示すことが求められるため、参加率のように定義がはっきりした行動指標を持っておくと説明が楽になります。設計全体の考え方はスポーツウェルビーイングとはで整理しています。
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Q. エンゲージメントの効果測定はどの指標で見ればいいですか?
全社と部署別の参加率、そして初回参加者の3か月後の継続率という行動指標を先に置きます。サーベイのスコアはその後ろに置き、参加率が上がった部署でスコアも動いているかという形で重ねて読みます。スコアだけを追うと、次に何をするかが決まりません。
取り組みが止まる3つの理由と止めない仕組み
継続認定に届いている企業が3割ほどという数字の裏側には、止まり方のパターンがあります。ここでは3つに整理し、それぞれへの手当てをセットで見ていきます。
担当者が異動すると誰も引き継げない
最も多い止まり方です。企画から運営まで一人の熱量で回っていると、その人がいなくなった瞬間に止まります。手当ては、運営の手順を1ページに落として共有フォルダに置くこと。参加者への告知文、集計用のシート、当日の段取りを雛形として残しておけば、次の担当者は判断ではなく作業として引き継げます。
予算がつかない年に丸ごと消える
費用のかかるイベント型だけで組んでいると、予算が削られた年にゼロになります。手当ては、記録型と雰囲気づくり型で「予算ゼロでも動く最低ライン」を先に確保しておくこと。予算がある年はイベント型を足す、という積み方にしておけば、悪い年でも取り組み自体は途切れません。
運動が得意な人だけの活動になる
参加者が固定化すると、社内では「あの人たちの趣味」と見なされます。手当ては、勝敗のつく企画と勝敗のつかない企画を必ず両方用意すること。歩数記録やストレッチのように運動経験を問わないものを常設し、大会形式のものは選択肢の一つに置きます。
Q. 取り組みへの参加率が上がらないときはどうすればいいですか?
全社の平均ではなく部署別の参加率を見て、低い部署に絞って手を打ちます。参加率の差は本人のやる気より、その部署の管理職が参加しているかどうかで生まれやすいためです。あわせて、勝敗のつかない企画を常設し、運動経験を問わない入口をつくります。
今期から回す進め方
最後に、来月から動かすための順番を3ステップに落とします。どれも新しい予算を前提にしていません。
ステップ1|いまの取り組みを4類型に振り分ける
過去2年でやったことを全部書き出し、4類型のどこに入るかを振り分けます。このとき、右上の記録型が空欄になっている企業がかなり多いはずです。空欄が見つかったら、それが最初に埋める場所です。
ステップ2|記録型を1つだけ立てて3か月回す
いきなり複数を走らせず、記録型を1つだけ立てます。歩数でも階段利用でもかまいません。3か月回して、全社参加率と部署別参加率、初回参加者の継続率を集計します。ここで数字が取れれば、次の予算の根拠になります。
ステップ3|数字が動いた領域だけ制度に格上げする
3か月分の数字を見て、参加率が高かったテーマだけを制度型へ上げます。参加者が集まらなかったテーマは制度化しません。順番を守るだけで、使われない規程が増えるのを避けられます。この段階まで来ると、健康経営優良法人の申請書や人的資本の開示に書ける材料が、そのまま手元にそろっている状態になります。
まとめ
ここまでの内容を、持ち帰れる形で5点に絞ります。
- エンゲージメントの取り組みは「効果を測れるか」「続けるコストが低いか」の2軸で4類型に分かれ、最初に置くべきは記録型です。
- スポーツエールカンパニー2026は1,635団体が認定され、うち通算5回以上の継続認定は500団体超(約30.6%)。7割は継続に届いていません。
- 健康経営優良法人2026は合計26,850法人で前年比15.8%増。認定の有無より中身を説明できるかが分かれ目になっています。
- 効果測定は参加率と継続率という行動指標を先に置き、サーベイのスコアは行動指標と重ねて読みます。
- 止まる原因は担当者の異動、予算の消滅、参加者の固定化。手順の雛形化、予算ゼロの最低ライン確保、勝敗のつかない企画の常設で防げます。
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