ストレスチェック実施者の要件|企業が選ぶ6職種とチーム分析

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ストレスチェックの実施者になれるのは、医師・保健師、そして厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師の6職種だけです。そのうえで、対象となる従業員の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ人は、実施の事務に関わることができません。誰を選ぶかと同時に、誰を関わらせないかを決める作業になります。

「産業医に任せればいいのか、外部に委託するべきか」「人事部の担当者に集計を手伝わせて問題ないのか」。このあたりは条文を一度読めば判断できるのですが、条文と実施マニュアルが別の場所にあるため迷いやすいところです。この記事では選任の要件を職種ごとに整理し、社内選任と外部委託の分かれ目、そして2028年4月に控える50人未満の事業場への義務化まで順に確認していきます。

実施者になれるのは6職種|医師と保健師以外は研修が必要

労働安全衛生規則第52条の10は、実施者を6職種に限定しています。まず全体像を押さえておきましょう。

ストレスチェックの実施者になれる6職種を研修の要否で分けた体系図

条文の書き方が少し独特で、「医師」「保健師」は無条件に挙げられているのに対し、残りの4職種には「検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した」という条件が前に付いています。つまり同じ列に並んでいるように見えて、要件がひとつ多いわけです。

研修が不要な2職種|医師と保健師

医師と保健師は、資格を持っていればそのまま実施者になれます。実務上もっとも自然なのは、その事業場で選任されている産業医を実施者に置く形です。厚生労働省の実施マニュアルも、事業場の状況を日頃から把握している産業保健スタッフが実施者となることが望ましいとしています。

産業医以外でも、その事業場の産業保健活動に関わっている精神科医や心療内科医、保健師であれば候補になります。社内に保健師がいる企業なら、産業医を実施代表者、保健師を共同実施者とする2名体制が扱いやすい組み合わせです。

研修の修了が必要な4職種|歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師

歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師は、厚生労働大臣が定める研修を修了していることが条件になります。研修の科目や講師の要件は実施マニュアルの巻末資料に示されています。社内の看護師に頼む場合は、資格の有無ではなく研修修了の有無を確認してください。

ひとつ経過措置があります。制度の施行前日である2015年11月30日の時点で、労働者の健康管理等の業務に3年以上従事した経験がある看護師と精神保健福祉士は、研修の受講が免除されています。長く産業保健に関わってきた社内スタッフであれば、この規定に当たる可能性があるので確認する価値があります。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル(令和3年2月改訂) – 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室

Q. 社内の看護師をストレスチェックの実施者にできますか?

厚生労働大臣が定める研修を修了していれば実施者にできます。看護師の資格だけでは要件を満たしません。ただし2015年11月30日時点で労働者の健康管理等の業務に3年以上従事した経験がある看護師は、研修の受講が免除されています。

人事権を持つ人は実施の事務に関われない

規則第52条の10第2項は、対象となる従業員の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位にある人が、検査の実施の事務に従事してはならないと定めています。判断の境目は部署ではなく権限です。従事できる業務と、できない業務を整理しました。

区分 主な業務 人事権を持つ人
実施の事務
(健康情報を取り扱う)
調査票の回収と内容確認、データ入力、評価点の算出、結果の封入、本人への結果通知、面接指導の申出勧奨、集団ごとの集計 従事できない
その他の事務
(健康情報を取り扱わない)
実施計画の策定、実施日時や場所の調整、外部機関との契約に関する連絡、労働者への実施予告、調査票の配布、未受検者への受検勧奨 従事できる

出典:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル」(令和3年2月改訂)の記載をもとにHuman Soarが整理

人事権の有無は所属部署では決まらない

ここを取り違えている企業がよくあります。「人事部の人間だから関われない」わけではありません。条文がいう「解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ」とは、その従業員の人事を決定する権限、または人事について一定の判断を行う権限を持つことを指します。

実施マニュアルは、人事を担当する部署に所属していてもこうした権限を持たない人は該当しないと明記しています。したがって人事部の一般担当者が実施事務従事者になることは可能で、逆に人事部以外の部長職でも自部署の部下について人事権を持つなら、その部下の実施の事務には関われません。判断するのは肩書ではなく、対象者に対する権限の有無です。

制度の担当者は人事権があっても置ける

もうひとつ押さえておきたいのが、ストレスチェック制度担当者という役割です。実施計画を作り、実施者や委託先との調整を行い、進捗を管理する実務担当者で、衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましいとされています。

この担当者は健康情報を取り扱わないため、人事課長のように人事権を持つ人を指名することもできます。「実施者」「実施事務従事者」「制度担当者」の3つを混同すると、置ける人を無用に狭めてしまいます。制度の設計と情報の取り扱いを分けて考えるのが正解です。

Q. 人事部の担当者が集計を手伝うことはできますか?

対象となる従業員の解雇・昇進・異動に直接の権限を持たない担当者であれば、実施事務従事者として集計を手伝えます。人事部に所属しているかどうかではなく、その従業員に対する人事権の有無で決まります。ただし実施事務従事者には守秘義務がかかり、違反すると刑罰の対象になります。

社内で選任するか外部に委託するかの分かれ目

実施者を社内に置くか外部機関に委託するかで、結果の活かしやすさとコストが変わります。3つの形を比べておきましょう。

社内選任|産業医を実施者に置く

その事業場の産業医を実施者にする形です。日頃から職場の状況を知っているため、高ストレス者の選定基準を自社の実態に合わせやすく、面接指導までひと続きで動けます。50人以上の事業場で産業医を選任している企業なら、まずこの形を検討してください。

制約は産業医の稼働です。勤務日数が月1回程度の嘱託産業医だと、集計や通知まで含めた業務量に収まらない場合があります。その場合は実施事務従事者を社内に置いて補助体制を作るか、次の外部委託と組み合わせます。

外部委託|実施の全部または一部を任せる

健康診断機関やメンタルヘルスサービス機関などに委託する形です。実施マニュアルは、委託契約のなかで委託先の実施者、共同実施者、実施代表者、その他の実施事務従事者を明示させることを求めています。集計業務など補助的な業務だけを委託する場合も、実施事務従事者を明示させます。

費用や選び方の比較は下の記事で整理しています。契約前に「誰が実施者になるのか」を書面で確認しておくと、後から体制を組み直す手間がなくなります。

あわせて読みたいストレスチェック外部委託の比較|選び方と費用›

共同実施|外部に委託しても産業医を実施者に加える

実務でいちばん取りこぼされているのがこれです。実施マニュアルは、外部機関に委託する場合でも産業医などの事業場内の産業保健スタッフが共同実施者として関与することを望ましいとしています。

理由がはっきりしています。産業医が共同実施者でない場合、個人の結果は本人の個別の同意がなければ産業医が把握できません。つまり高ストレス者が社内に存在していても、産業医には見えない状態になります。委託契約を結ぶときに産業医を共同実施者として明示しておくだけで、この穴はふさげます。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度 実施マニュアル(令和3年2月改訂) – 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室

2028年4月から50人未満の事業場も義務化される

ストレスチェックは2015年から労働者数50人以上の事業場に義務づけられ、50人未満は当分の間の努力義務とされてきました。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場にも実施が義務化され、厚生労働省は令和10年(2028年)4月1日から施行すると案内しています。

対象と施行日|事業場ごとに人数を数える

人数は企業全体ではなく事業場ごとに数えます。本社と支店で別に判断するため、これまで対象外だった小さな拠点が新たに義務の対象に入ります。改正は労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)によるもので、施行までに十分な準備期間を確保するという方針が示されていました。

準備の全体像はストレスチェック50人未満義務化の準備ステップとストレスチェック義務化で何が変わるかで扱っています。この記事では、そのなかで実施者の選任にあたる部分を見ておきます。

小規模事業場向けのマニュアルが出ている

厚生労働省は2026年2月25日、「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しました。ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会が、50人未満の事業場に即した実施体制と実施方法を整理したものです。

あわせて、医師による面接指導の受け皿となる地域産業保健センターの体制拡充も支援策として挙げられています。産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、実施者を社内に置けないことが多いため、外部委託と地域産業保健センターの併用が現実的な出発点になります。国会の附帯決議でも、実施者等の秘密保持義務違反への適切な対処と、産業医・産業保健スタッフの育成が求められました。

(参考)ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策 – 厚生労働省

(参考)「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表します – 厚生労働省

(参考)労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について(報告) – 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課

Q. 50人未満の事業場はいつから実施者を決めておく必要がありますか?

厚生労働省は令和10年(2028年)4月1日からの施行を案内しているため、それまでに実施体制を整えておく必要があります。産業医の選任義務がない規模では社内に実施者を置けないことが多いので、外部委託先の選定と地域産業保健センターの活用を早めに確認しておくと安全です。

2027年4月からチーム単位の集団分析にルールが加わる

実施者に何をさせるかも変わります。労働安全衛生規則が改正され、集団分析を特定の個人を識別することができない方法で実施することが明文化されました。令和8年6月30日公布の改正省令(令和8年厚生労働省令第112号)によるもので、施行期日は令和9年(2027年)4月1日です。

「個人を識別できない方法で」が条文に入った

改正後の規則第52条の14第1項は、事業者が実施者に対し、検査の結果を一定規模の集団ごとに、特定の個人を識別することができない方法で集計・分析させるよう努めなければならないと定めています。通達は、これが従来の解釈を明文化した趣旨であり、運用に変更を加えるものではないと説明しています。

とはいえ明文化された以上、個人が識別できる方法で集団分析を行うことは努力義務を履行したことにならず、プライバシー保護の観点からも許容されないと通達に書かれました。委託先の分析仕様を確認しておく理由が、ここで一段強くなったわけです。

10人未満のチームは原則として分析しない

集計・分析の単位が10人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあるため原則として実施してはいけません。小さな課やチームは、同じ部門の他の課と合算して10人以上の集団を構成してから分析します。

厚生労働省のリーフレットは、10人を下回る場合でも個人が特定されない方法として、57項目の合計点の集団平均値を求める方法や「仕事のストレス判定図」を用いる方法を示しています。ただし極端に少人数の場合はこれらでも不適切とされているため、まずは集団の作り方を工夫するのが先です。

(参考)ストレスチェックの「集団分析」を適切に実施しましょう! – 厚生労働省

(参考)労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について(令和8年6月30日付け基発0630第2号) – 厚生労働省

Q. 10人未満の部署は集団分析をしなくてよいのでしょうか?

10人を下回る単位での集団分析は、個人が特定されるおそれがあるため原則として行いません。同じ部門の他の課と合算して10人以上の集団を作ってから分析します。合算が難しい場合は、57項目の合計点の集団平均値を求める方法などが示されていますが、極端に少人数の場合はこれらも不適切とされています。

集団分析をチームの動きに変える|スポーツ現場のコンディション管理との共通点

ここまでが制度の話です。最後に、選任した実施者と事業者側でどう役割を分けると結果が使われるのかを考えます。ストレスチェックは構造としては、スポーツチームが毎週行っているコンディション管理とよく似ています。

測る人と動かす人を分けたまま同じ表を見る

競技の現場では、選手が主観的な疲労感や睡眠を毎日記録し、それを読み解くのはトレーナーやフィジカルコーチです。そして練習メニューを変える判断は監督が下します。記録する人、解釈する人、動かす人が分かれているのに、同じ一覧を見ているから話が噛み合います。

ストレスチェックも同じ形です。個人の結果を見るのは実施者だけで、事業者は個人が識別できない集団の結果を受け取ります。役割は分かれていても、集団分析の結果という同じ表を見て職場環境の改善を決める。ここが噛み合わないと、集計して終わりになります。衛生委員会で「この課の数字に対して何を変えるか」まで議題に載せておくと、表が動き出します。

打ち手の側にスポーツ由来の選択肢を持っておく

集団分析で仕事の負担や周囲のサポートに課題が出たとき、制度の話だけでは打ち手が業務量の調整に偏ります。身体を動かす機会や対話の機会を増やす施策は、負担そのものを減らすわけではありませんが、サポートの体感を変える方向で効きます。

スポーツ庁がスポーツエールカンパニー2026の認定1,635団体に行ったアンケートでは、多くの団体が「職場のコミュニケーションがよくなった」と回答し、「休職率が減った」という回答もあったと報告されています。高ストレス者へのフォロー面談の進め方はストレスチェックにスポーツ心理学を活かすフォロー面談の視点で整理しています。

あわせて読みたいウェルビーイングとは?9割の企業が失敗する理由と成果につながる設計›

(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁

まとめ

選任と体制づくりで押さえておきたい点を5つにまとめます。

  • 実施者になれるのは医師・保健師と、厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師の6職種です。
  • 対象者の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ人は実施の事務に従事できません。判断するのは所属部署ではなく権限の有無です。
  • 外部委託する場合も産業医を共同実施者に加えます。加えないと個人の結果を産業医が把握できません。
  • 50人未満の事業場は令和10年(2028年)4月1日から義務化されます。人数は事業場ごとに数えます。
  • 令和9年(2027年)4月1日から、集団分析は特定の個人を識別できない方法で行うことが条文に明記されます。10人未満の単位では原則実施しません。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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