「フィットネスバンドとスマートウォッチ、結局どれを選べばいいのか分からない」——健康経営の担当者からも、個人の利用者からも、こんな声をよく聞きます。ウェアラブルデバイス市場には、GPS計測に強い専業メーカーから、リカバリー特化のサブスク型、フィンランド発の老舗心拍計メーカーまで多様なプレーヤーが存在します。本記事では国内外10社の特徴を一覧で比較し、企業が導入を検討する際に見るべき視点まで解説します。
ウェアラブル市場を押し上げる2つの潮流|健康経営とスポーツテックの合流点
ウェアラブルデバイス市場は、アスリート向けの計測機器として始まり、いまや一般消費者と企業の健康管理施策の両方を巻き込む市場へと広がっています。この拡大を後押ししているのが、次の2つの潮流です。
健康経営の評価軸拡大で法人需要が広がっている
経済産業省の健康経営優良法人認定制度では、運動習慣の定着支援が評価項目のひとつとして位置づけられており、従業員の活動量や睡眠データを可視化できるウェアラブル端末への関心が企業の人事・健康管理部門で高まっています。認定基準が「取り組みの数」から「取り組みの質」へと重心を移すなかで、データに基づいた施策の裏付けを求める企業が増えている点も追い風です。
実際に、大手電機メーカーとヘルスケアスタートアップが連携してデータプラットフォームを構築する動きも進んでおり、法人向け需要は個人消費とは別の軸で拡大しています。
アスリート発の技術が一般ユーザーへ波及している
GPSトラッカーや心拍センサーは、もともとプロスポーツの現場で選手のコンディション管理のために発達してきた技術です。近年はセンサーの小型化・低価格化が進み、数年前まで一部のトップチームでしか使えなかった精度の技術が、市民ランナーや一般社員向けの製品にも搭載されるようになりました。
スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画のなかで、スポーツ市場規模を2025年までに15兆円へ拡大する政策目標を掲げ、スポーツオープンイノベーションの推進を支援策のひとつに位置づけています。ウェアラブル分野の技術移転も、この官民連携の追い風のなかで進んでいます。
(参考)スポーツの成長産業化(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
Q. ウェアラブル端末とスマートウォッチは何が違いますか?
明確な線引きはありませんが、ウェアラブル端末は活動量・心拍・睡眠などの生体データ計測を主目的とする総称です。スマートウォッチはそこに通知確認や決済など時計以外の日常機能を加えた製品を指すことが多く、本記事で扱う10社の製品もこの両方の性格を併せ持っています。
国内外のウェアラブルデバイス企業10社を徹底比較
企業公式サイトで事業内容を確認できた国内外のウェアラブルデバイスメーカーのうち、スポーツ・健康計測を主軸とする10社を選び、事業内容と特徴を整理しました。GPSスポーツウォッチの専業メーカーから、リカバリー特化のサブスク型、老舗の時計・電機メーカーまで幅広く含めています。
| 企業名 | 主な領域 | 拠点・資本 |
|---|---|---|
| Garmin | GPSスポーツウォッチ・マルチスポーツ | 米国・1989年設立 |
| WHOOP | 画面なしリカバリートラッカー | 米国ボストン・2012年設立 |
| Oura | スマートリング・睡眠計測 | フィンランド・2013年設立 |
| Suunto | アウトドア・ダイビングウォッチ | フィンランド・1936年設立 |
| Polar | 心拍計測・トレーニングコンピュータ | フィンランド・1977年設立 |
| COROS | 軽量GPSスポーツウォッチ | 米国・2014年設立 |
| Withings | 体組成計・ヘルスケア家電 | フランス・2008年設立 |
| カシオ計算機(PRO TREK) | トリプルセンサー搭載アウトドアウォッチ | 日本・1995年ブランド開始 |
| Zepp Health(Amazfit) | スマートウェアラブル全般 | 中国・2013年設立 |
| Google(Fitbit) | 活動量計・ヘルスケアプラットフォーム | 米国・2007年設立、2021年Google傘下 |
表:本記事で紹介するウェアラブルデバイス企業10社の概要(各社公式サイトをもとにHuman Soarが作成)
Garmin|GPS技術由来の垂直統合型スポーツウォッチ最大手
Garminは1989年、航空業界向けのGPSナビゲーション製品からスタートし、現在では航空・海洋・自動車・アウトドア・フィットネスの各市場でトップブランドの一つに数えられています。設計から製造、マーケティングまでを社内で一気通貫して行う「垂直統合」を強みとし、世界に100拠点、約2万3,000人の従業員を抱えています。2025年にはスポーツ計時大手MYLAPSを買収し、ボストンマラソンなど大規模大会の計時領域にも事業を広げました。
WHOOP|画面なしのサブスク型リカバリートラッカー
WHOOPは2012年に米国ボストンで設立された企業で、画面を持たないリストバンド型デバイスと月額サブスクリプションを組み合わせたビジネスモデルが特徴です。時刻表示や通知機能を持たせない代わりに、睡眠・回復・活動負荷(ストレイン)の計測に特化し、24時間装着による継続的な生体データ収集で「今日どれだけ追い込んでよいか」を提示します。本社はボストンのフェンウェイ地区にあり、球団やマラソン大会と提携したブランディングにも力を入れています。
(参考)Partnering with the Boston Red Sox – WHOOP
Oura|フィンランド発のスマートリングで睡眠と回復を可視化
Ouraはフィンランドで2013年に設立された企業で、指輪型デバイス「Oura Ring」による睡眠・活動計測を主力製品としています。2024年12月時点で累計販売数は550万個を超え、150以上の国と地域で展開されています。社内に50人を超える博士号取得者を抱える科学チームを持ち、医療系アドバイザリーボードと連携しながら製品開発を進めている点も特徴です。
(参考)Oura Ring About Us – Oura Health
Suunto|コンパスから発展したアウトドア・ダイビングウォッチ
Suuntoは1936年、フィンランドのオリエンテーリング選手が液体封入コンパスの量産方法を発明したことに始まる老舗ブランドです。1987年には世界初のダイビングコンピュータを発売するなど、アウトドア・ダイビング領域で技術を蓄積してきました。2022年には中国のLiesheng(立昇科技)がAmer Sportsから同社を買収し、資本関係が変わりましたが、本社と工場は現在もフィンランドに置かれています。
Polar|世界初のワイヤレス心拍計を生んだ老舗ブランド
Polarは1977年にフィンランドで設立され、1982年に世界初のワイヤレス心拍計「Sport Tester PE 2000」を発売した心拍計測分野の草分けです。従業員約1,200人、26の子会社を通じて80カ国以上・3万5,000以上の販売網を持つ一方、近年は世界的な競争激化を背景に業績が伸び悩んでおり、2023年には自社技術のライセンス供与も開始しています。最初のライセンス提携先はカシオ計算機です。
COROS|軽量設計にこだわる新興GPSスポーツウォッチ
COROSは2014年に設立された比較的新しいスポーツテクノロジー企業で、米カリフォルニア州アーバインに拠点を置きます。2018年に発売した初のGPSウォッチ「PACE」以降、軽量化とバッテリー持続時間の両立を強みに、トレイルランニングや登山向けの製品ラインを拡充してきました。2023年発売の心拍センサーは米タイム誌の「発明オブザイヤー」に選出されるなど、技術面での評価も高まっています。GPSセンサーがスポーツ科学の現場でどう使われているかは、ウェアラブル×スポーツ科学の最前線|2026年トレンドで詳しく解説しています。
Withings|フランス発のヘルスケア家電ブランド
Withingsは2008年にフランスで設立され、体組成計・血圧計・スリープトラッカーなど医療的な精度を重視したヘルスケア家電を展開しています。2016年に一度ノキアに買収されましたが、2018年に創業メンバーが事業を買い戻し、現在は独立企業として運営されています。心電図(ECG)計測や医師によるレビューサービスなど、医療領域との連携を前面に打ち出している点が他社と異なります。
カシオ計算機|トリプルセンサー搭載のPRO TREKシリーズ
カシオ計算機は1995年に腕時計ブランド「PRO TREK」を立ち上げ、方位・高度・気圧を計測するトリプルセンサーを搭載したアウトドアウォッチとして日本国内で独自の地位を築いてきました。登山家のニーズを取り入れた開発体制と、電波受信・タフソーラーなど時計メーカーとしての技術蓄積を融合させている点が強みです。2023年からはPolar Electroとの技術ライセンス提携も始まっています。
Zepp Health|Amazfitブランドで90カ国以上に展開
Zepp Health Corporationは2013年に中国で設立され(旧社名Huami)、2015年からスマートウェアラブルブランド「Amazfit」を展開しています。独自開発のチップ・センサー・OS・アプリを一貫して手がける垂直統合型の開発体制を強みとし、現在は90カ国以上、数百万人規模のアクティブユーザーを抱えています。国際フィットネスレース「HYROX」の公式ウェアラブルパートナーを務めるなど、スポーツイベントとの連携も進めています。
Google|Fitbit買収でヘルスケア領域を強化
Fitbitは2007年に米国で「Healthy Metrics Research」として設立され、その後活動量計市場の草分けとして成長しました。2019年にAlphabet(Google親会社)による買収が発表され、2021年に完了。取得した健康データを広告目的に利用しないことを明言したうえで、Googleのヘルスケア戦略の中核に位置づけられています。2026年にはアプリ名称が「Google Health」へ刷新され、Google Pixel Watchとのエコシステム統合が進んでいます。
(参考)Fitbit公式サイト – Google Store
Q. 日本国内で使われているウェアラブルメーカーはどこが多いですか?
個人向けではGarmin・Apple・Fitbit(Google)が広く使われている一方、法人の健康経営施策ではカシオのPRO TREKのように電波受信・長時間駆動を強みとする国産機種が選ばれるケースもあります。用途がスポーツ計測か日常的な健康管理かで、選ばれやすいメーカーの傾向は変わります。
独立系か大手グループ傘下か|10社の系列で見る勢力図
10社を並べると、単体の専業ブランドとして運営されている企業と、大手グループの傘下・資本提携下で運営されている企業が混在していることが分かります。ここでは資本構造の観点から3つのグループに整理し、系列の違いが製品戦略にどう表れているかを見ていきます。
図:10社を資本構造で分類した勢力図(各社公式情報をもとにHuman Soarが独自に分類)
大手グループ傘下型|GoogleとSuuntoの資本構造
Google(Fitbit)は2021年にAlphabet傘下となり、Google Pixelシリーズとのエコシステム統合を進めています。Suuntoも2022年に中国Liesheng傘下となりましたが、開発拠点はフィンランドに残されています。いずれも親会社の資本力を背景に、単独ブランドでは難しいプラットフォーム連携や量産投資がしやすい立場にあります。
独立系専業ブランド|WHOOP・Oura・Polar・COROS・Withings
5社のうち、WHOOP・Oura・COROSは2012年から2014年にかけて設立された比較的新しい企業で、特定の計測領域(リカバリー・睡眠・軽量GPS)に絞った製品戦略で差別化を図っています。Polarは1977年設立の老舗でありながら独立を保ち、近年は技術ライセンス供与という新たな収益源の開拓に動いています。Withingsは一度ノキア傘下に入った後、創業者が買い戻して独立を回復した経緯を持ちます。
自社完結の大手専業メーカー|Garmin・カシオ・Zepp Health
Garminは設計から製造・販売までを社内で一貫して行う垂直統合モデルを採用し、大手でありながら他社の傘下に入らず単独で事業を拡大してきました。カシオ計算機はPRO TREKを時計メーカーとしての一事業として展開し、独自の技術蓄積を活かしています。Zepp Healthは中国発ながら独立して上場しており、自社開発のチップ・OSまで含めて垂直統合を志向している点でGarminと共通する部分があります。データを個人の負荷管理にどう活かすかという視点は、GPSセンサーで実現するリアルタイム負荷管理の最前線でも紹介しています。
Q. 系列によって修理・サポート体制は変わりますか?
はい、傾向として異なります。大手グループ傘下の製品はアプリやアカウントが親会社のプラットフォームに統合され、サポート窓口も親会社経由になることがあります。独立系・自社完結型は自社ブランドのサポート体制を維持しているため、問い合わせ先が分かりやすいという声もあります。
企業がウェアラブル端末を選ぶときに見るべき3つの視点
個人が好みで選ぶ場合と異なり、企業が健康経営施策として導入する場合は確認すべき観点が増えます。ここでは法人導入を検討する際に見ておきたい3つの視点を整理します。
データ精度とAPI連携のしやすさ
心拍数や活動量の計測精度はメーカー・機種によって差があり、医療機関との連携を視野に入れる場合はWithingsのように医療機器としての認証を取得している製品が選択肢になります。また、社内の健康管理システムや人事データと連携させたい場合は、Garmin HealthやGoogle Health APIのように法人向けAPIを公開しているメーカーかどうかも確認が必要です。
サブスクリプション課金の有無とコスト構造
WHOOPのように本体価格を抑えて月額課金で収益化するモデルと、Garminやカシオのように端末購入で完結するモデルでは、複数名に配布する際の総コストが大きく変わります。導入人数が多い企業ほど、初期費用だけでなくランニングコストを含めた比較が欠かせません。
健康経営優良法人の認定活用にどう使えるか
健康経営優良法人の認定申請では、運動機会の提供や運動習慣定着の取り組みとして、ウェアラブル端末を使った活動量計測の実績を記載できます。データを個人の評価に使わないなど運用ルールを事前に明文化したうえで、あくまで従業員支援のためのツールとして位置づけることが、社内の理解を得るうえでも重要です。
健康経営とスポーツの関係を広くとらえたい場合は、あわせてスポーツウェルビーイングとは?データから読み解く企業・個人の実践設計も参考になります。
Q. 健康経営優良法人の認定にウェアラブル端末の導入は必須ですか?
必須ではありません。運動機会の提供方法は複数あり、ウェアラブル端末はそのうちの一つの手段です。ただし活動量や睡眠データを客観的に示せる点で、取り組みの効果を申請書類に記載しやすくなるメリットがあります。
まとめ|まずは自社の目的に合った1社から検証を始める
- ウェアラブル市場は、健康経営の評価軸拡大とアスリート発技術の一般波及という2つの潮流で拡大している
- Garmin・WHOOP・Oura・Suunto・Polar・COROS・Withings・カシオ・Zepp Health・Googleの10社は、それぞれ異なる計測領域と資本構造を持つ
- 資本構造で見ると「大手グループ傘下型」「独立系専業ブランド」「自社完結の大手専業メーカー」の3タイプに整理できる
- 企業導入では、データ精度・API連携、サブスク課金の有無、健康経営優良法人の認定活用という3つの視点で比較するとよい
- 全社一斉導入ではなく、目的を絞った1社・小規模な試験導入から始めることが定着への近道になる
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