教える人によって言うことが違う。教えすぎて新人が自分で考えない。何度教えても一人ではできない。新人の教え方は、コツを共有するだけではそろいません。運動学習学(体の動きを身につける仕組みを調べるスポーツ科学の分野)の比べ方を使い、合格基準・指示の型・手助けの減らし方を決めて、御社の業務で確かめながら整えます。
対象となるお客さま
- 新人のOJTを現場に任せたまま、質をそろえられずにいる人事・人材開発の担当者
- 新人を受け入れる部署の管理職・事業責任者
- 初めて新人を教えることになった先輩社員を支えたい教育担当者
よくあるお悩み
- 教える人によって、指示も仕事の進め方も違う
- 細かく教えるほど、新人が指示を待つようになる
- 何度教えても、一人になるとできない
課題|教える側の悩みで最も多いのは「人によって教える内容が違う」
パーソル総合研究所の「OJTに関する定量調査」(2024年10月調査、過去3年以内にOJTを経験した正社員4,000人が回答)で、OJTの課題を複数回答で聞いています。「人によって指示や教える内容が異なっている」と答えた人は、新卒に教える側で38.7%、中途に教える側で39.8%で、教える側ではどちらも最多でした。
教わる側でも、新卒で35.6%(最多)、中途で37.5%(2番目)です。つまり、教わる人だけでなく教える人自身も、内容のばらつきを問題だと感じています。
計画的に進めている職場ばかりでもありません。厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」では、正社員の新入社員に計画的なOJTを実施した事業所は54.7%でした。計画的なOJTを正社員にも正社員以外にも実施していない事業所は35.1%あります。
原因|何をどこまでできれば任せるのかを決めないまま、現場に預けている
教える人の熱意やセンスだけの問題ではありません。3つの悩みには、それぞれ仕組みの側に原因があります。
- 内容がばらつく:何をどこまでできれば一人で任せるのかが決まっていないと、教える人が自分のやり方を基準にします。
- 自分で考えなくなる:手順を細かく指示し続けると、新人が自分で判断する機会が減ります。同じ調査では、既存の社員のまねをさせるような指示や厳しい指導が、新人の個性や主体性を奪う傾向(没個性化)に影響していました。
- 一人で再現できない:教える人がそばにいる場面でしか確かめていないと、手助けなしでできるかが分かりません。
教える側には余裕もありません。新卒に教える側が挙げた課題は、内容のばらつきに続いて「教える・教わるための時間が取れない」が35.0%、「マニュアルや書類・業務ツールがそろっていない」が32.5%、「教えたことが社内で評価されない」が31.5%でした。
教える人を1人に絞れば解決するわけでもありません。同じ調査では、複数の人から教わる新人ほど個人のパフォーマンスが高い傾向が見られた一方、教わる人が5人を超えると内容のばらつきを感じやすくなっていました。教える人の数を減らすより、基準をそろえるほうが筋の通った対応です。
スポーツ知見|運動学習学では、教え方の通説も条件を分けて確かめ直している
運動学習学は、スポーツの技術などの体の動きを人がどう身につけるかを調べる分野です。指導者の経験談ではなく、教え方を条件に分け、条件ごとに学習者の結果を比べてきました。新人の教え方に関わる条件には、次の3つがあります。
- 注意の向け先:体の動きではなく、動きの結果に注意を向けさせる指示です。ゴルフなら、腕ではなくクラブに注意を向けさせます。Chuaらのメタ分析(複数の研究の結果を統計的にまとめる方法。Psychological Bulletin、2021年)は、学習を調べた40研究・1,274人を分析し、効果の大きさ(g)を、時間をおいたテストで0.583、条件を変えたテストで0.584と報告しました。
- 助言の回数:毎回助言するより回数を減らすほうが身につくという、教科書にも載る考え方です。McKayらは61本の論文(2,228人)をまとめ、どの時点でも有意な効果はなく、確かな証拠が足りないと結論づけました(Psychology of Sport and Exercise、2022年)。
- 学習者の選択:練習の一部を学習者自身に選ばせる方法です。McKayらは52の実験・2,061人を分析し(Meta-Psychology、2022年)、単純にまとめるとg=0.44でした。しかし、はっきりした結果ほど発表されやすい偏りを補正すると0.107になり、効果は小さく、ゼロと区別できないとしています。
注意の向け先も、同じ補正で評価が変わりました。McKayらはChuaらのデータを分析し直し(Psychological Bulletin、2024年)、時間をおいたテストでg=0.15、条件を変えたテストでg=0.09と推定しています。gは一般に0.2で小さい、0.5で中程度とされる目安です。ただし著者らは、効果がないと確定したわけではなく、場面によって結果が大きく違い、その理由もまだ分からないと述べています。
ここから言えるのは、どの場面でも効く教え方のコツは、まだ確かめられていないということです。そして企業が使えるのは、この分野の確かめ方です。学習者が一人で取り組むテストの結果を、条件を1つずつ変えて比べます。
ただし、試合と仕事は同じではありません。これらの研究の対象者は運動の技能を学ぶ人で、新入社員が仕事の知識や判断を学ぶ場面を調べたものではありません。また、研究のように多くの人を集めて統計で比べることも、1つの職場ではできません。そこで、3つの条件を必ず効く方法としては扱わず、試す候補として使います。統計的な証明は目指さず、同じ業務の合格基準で結果を見て、続けるかどうかを判断します。
解決策|合格基準をそろえ、指示と手助けの型を決めて試す
教える人のセンスに頼らず、次の4つの手順で教え方をそろえます。そろえるのは合格基準で、教える人の話し方や人柄まで同じにする必要はありません。
- 合格基準を決める:業務ごとに「何がどこまでできれば一人で任せるか」を1行で書きます。教える人が集まって決めるので、教える人が複数いても言うことがずれにくくなります。
- 指示の型を決める:目的、できあがりの状態、守る決まりの順に伝え、細かな手順は新人に聞かれてから答えます。たとえば「お客さまが内訳を1回で確かめられる見積書にする。割引の上限だけは守る」のように伝えます。
- 手助けを4段階で減らす:一緒にやる、横で見る、終わってから確認する、報告だけ受ける、の順に減らします。次の段階へ進むのは、合格基準を満たしたときです。各段階で、いつ相談するかは新人が選べるようにします。
- 1つずつ変えて比べる:同じ業務で、指示の伝え方や助言の回数を1つだけ変えます。教える人が手を貸さずに新人が取り組んだ結果を、合格基準で確かめます。
どれも新しい道具は要りません。ただし2つ目と3つ目は、効果が約束された方法ではありません。だからこそ4つ目で、御社の業務に合うかどうかを確かめます。
進め方|1つの業務で教え方をそろえ、3か月試してから広げる
すべての業務の基準を一度に作ると、書類づくりで終わりやすくなります。最初は、教え方の違いが問題になっている1つの業務に絞ります。
診断では、教える人と新人に聞き取りをして、言うことが違っている業務と場面を洗い出します。設計・試行では、合格基準と指示の型、手助けの段階を決め、3か月のあいだ実際の新人指導で使います。定着では、ほかの業務に広げ、毎月のレビューを社内の予定に組み込みます。
期間は目安です。診断だけ、1つの業務だけといった始め方もご提案します。Human Soarは聞き取り・様式の用意・文書化・月次レビューの進行を担い、御社には対象業務の決定、教える人の参加、新人指導の記録をお願いします。
成果物|教える人が替わっても使える4つの仕組み
成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の実際の業務をもとに、教える人と一緒に作ります。
土台になるのが「合格基準表」です。業務ごとに一人で任せる条件を書いたもので、教える人どうしの認識合わせと、新人への最初の説明に使います。これをもとに、教える人が指示を出す前に見る「指示の型シート」を作ります。目的、できあがりの状態、守る決まりの書き方を、御社の業務の言い換え例とともにまとめます。
「手助けの段階表」は、新人ごとに今どの段階かを記録するものです。手を出しすぎていないか、任せるのが早すぎないかを、教える人と管理職が同じ表で話せます。最後に「OJT担当者の手順書」を整えます。教え方のチェックシートと、条件を変えて比べる手順、月次レビューの進め方を入れるので、初めて教える人にも引き継げます。
期待できる効果|経営・人事・教える人の3つが変わる
経営にとっては、新人の育ち具合を部署ごとの感覚ではなく、同じ基準で確かめられるようになります。人事の担当者は、どの業務で教え方がずれているかを具体的に把握でき、OJTの改善を現場と話し合えます。教える人は、何をどこまで教えればよいかが明確になり、自分のやり方が正しいかを一人で悩まずに済みます。
見る数字は「一人で任せられるまでの週数」です。あわせて「手助けなしで合格基準を満たした業務の割合」を見ると、教えた内容が新人の力になっているかが分かります。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、新人の教え方を見直す時期です。
Human Soarからのコメント
教え方のコツは、広く信じられているものほど疑われにくいものです。運動学習学では、教科書に載るような考え方でも、データを集め直して評価を改めてきました。新人の教え方にも、同じ姿勢が役立ちます。誰かの経験を正解として広めるのではなく、合格基準をそろえ、御社の業務で試しながら、続ける教え方を一緒に選びます。
よくあるご質問
Q. 新人の教え方のコツは、使わないほうがよいですか?
使って構いません。ただし、どの職場でも効くものとして扱わず、試す候補として使います。同じ業務で1つずつ変えて、新人が一人で取り組んだ結果を合格基準で確かめれば、続けるかどうかを判断できます。
Q. 手助けを減らすと、新人を放置することになりませんか?
なりません。手助けを減らすのは合格基準を満たしたときだけで、満たさなければ前の段階に戻します。どの段階でも、新人はいつでも相談できるようにします。
Q. 新人の業務が部署ごとに違っても使えますか?
使えます。合格基準は業務ごとに作るので、部署が違えば中身も変わります。全社でそろえるのは、基準の書き方、指示の型、手助けの段階といった枠組みです。
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