スフィーダ世田谷FCでプレーする下山田志帆は、女子サッカー選手でありながら株式会社Reboltの共同代表でもある。ドイツでの2年間で感じた「日本の普通」への違和感、性的マイノリティとしての生きづらさ。それらを社会に対する不満で終わらせず、事業という形に変えた発想はどこから来たのか。
ドイツでの2年間が教えてくれた自分は変じゃないという気づき
下山田はドイツ女子2部リーグのSVメッペンでプレーしていた頃、チームメイトから「男性と女性、どっちが好きなのかな」と自然な調子で尋ねられた。「女性だよ」と答えると、返ってきたのは「あ、そう」というあっさりした反応だった。同性のパートナーを公にしている選手が珍しくないドイツでは、パーティーにパートナーを連れて行っても異性か同性かは気にされない。「その感覚を味わえたことは、ドイツに行って本当に良かったなって思える理由のひとつ」と下山田は振り返る。日本では「自分が変だ、自分のせいだ」と感じ続けてきたが、ドイツでの経験を通じて「おかしな扱いを受けるのは私のせいじゃなかった」と気づいたことが、その後の行動を変える転機になった。
日本に帰るたびに感じた居心地の悪さの正体
一時帰国のたびに、親戚から「ドイツの男はどうだ」と冗談めかして聞かれる。パートナーとデート中に大学時代の友人と鉢合わせして気まずい思いをする。「日本だと、うってなる瞬間が多すぎます」と下山田は言う。ドイツでの居心地の良さと日本での息苦しさのギャップに悩んだ末に出した結論はシンプルだった。「もう全員に言っちゃえば、うってなる必要もない」。2019年2月、同性のパートナーと暮らしていることを公表し、隠すことをやめた。
なぜ下山田志帆は違和感を我慢せず言葉にしたのか
公表後も、下山田の中には別の不安が残っていた。「サッカー以外に、何か自分が成し遂げてる感覚が何もありませんでした」。女子サッカー選手としての価値とは何か、という問いに答えが見つからなかったという。この不安は、イタリアでプレーしていた同級生の内山穂南との電話で言葉になる。「自分たちはサッカーをここまでめちゃくちゃ頑張ってきて、仕事にまでしたけど、実は自分自身は何も価値がないんじゃないか」。個人の感情として抱えていた違和感を、二人で言語化したことが次の行動につながった。
違和感を事業に変換する思考モデルを構造化する
下山田の思考には明確な段階があお。第一に、違和感を「自分のせい」にせず社会や仕組みの問題として捉え直すこと。第二に、その違和感を一人で抱え込まず、同じ立場の相手と対話して共有可能な言葉に変えること。第三に、変えたい対象を「会社を通して社会全体のあり方を変える」ことと「一選手として身近な人をワクワクさせる」ことの二軸に分けて設計するこだ。
心理学では、漠然とした不満や違和感を具体的な言葉に変換する作業を「感情のラベリング」と呼び、行動につながる意思決定を後押しする効果があるとされる。下山田が内山との対話を通じて「価値がないと感じる理由」を突き止めたプロセスは、このラベリングの実践例と言える。
内山穂南との対話から生まれた共同創業という選択
2019年、下山田は内山とともに株式会社Reboltを設立し、D2Cブランド「OPT」を立ち上げた。第1弾商品として、生理時にも使用できる「吸収型ボクサーパンツ」を1500個販売している。「やりたい事業があって会社をつくったわけではなく、むしろ女子アスリートの価値を高めたいというノリと勢いで起業した」という経緯は、明確な事業計画から出発したわけはなく、共通の違和感を出発点にしていたことを示している。競技と経営という二つの立場を同時に持つことについて下山田は「サッカーをするこだけが自分の目的ではないんだと、自分がサッカーをやる意味を、会社を通して改めて今見つけ始めている感覚がある」と語る。
一般人が違和感を行動に変えるために応用できる視点
下山田の思考法は、職場や社会で漠然とした違和感を抱える人にも応用できる。重要なのは、違和感を「自分の性格や我慢が足りないせい」で片づけず、まず言葉にしてみることだ。一人で抱えるのではなく、同じ違和感を持つ同僚や友人と話すことが、個人の感情が組織や仕組みの課題として見え直すことがある。
そのうえで、変えたい対象を「大きな仕組み」と「身近な関係性」の二段階に分けて考えると、行動の解像度が上がる。下山田が会社という大きな仕組みづくりと、一人のアスリートとして周囲を巻き込む活動を並行させているように、規模の異なるアプローチを同時に持つことが、違和感を諦めずに行動へつなげる鍵になる。
AIを使って自分のモヤモヤを言語化するという新戦略
下山田が内山との対話を通じて違和感を言葉にしたように、対話相手がすぐに見つからない場合はAIを思考の壁打ち相手にする方法がある。ChatGPTやClaudeに「最近感じているモヤモヤ」を箇条書きで入力し、「これは個人の性格の問題か、それとも仕組みの問題か整理して」と問いかけると、感情と構造を切り分けた言語化がしやすくなる。
さらに「この違和感を解消するために、今すぐできる小さな行動を3つ提案して」と続けることで、漠然とした不満を具体的な次の一歩に変換できる。下山田のケースのように、違和感の正体が見えた瞬間に人は動き出しやすくなる。AIとの対話は、そのきっかけを一人でも作れる手段になる。
競技を武器にする他のアスリート起業家との共通点
現役アスリートが競技と並行して事業を起こす例は、下山田に限らない。共通しているのは、競技生活の中で得た当事者としての課題意識を、そのまま事業のテーマにしている点だ。健康問題や環境課題など、自身が競技の現場で直接感じた不便や不満を出発点にする起業家は、市場調査だけでは見えない切実なニーズを掴みやすい。
下山田の場合も、女子アスリートとして生理や体調管理に向き合ってきた経験と、性的マイノリティとして感じてきた社会の視線の両方が、フェムテック事業の企画に直接反映されている。一般的な起業と違うのは、当事者自身が最初のユーザーであり、最初の検証者でもあるという点だ。この「自分ごと」から始まる事業設計は、机上の分析だけでは得られない説得力を持つ。
まとめ
下山田志帆が起業に至った原点は、才能や機会に恵まれたからではなく、違和感を我慢せず言葉にし、同じ違和感を持つ相手と共有し、行動可能な単位に分解したことにある。性的マイノリティとしての生きづらさも、女子アスリートとしての将来への不安も、下山田にとっては解決すべき個人の悩みではなく、事業という形で社会に問いかける対象になった。この思考の順番は、違和感を抱えながらも動き出せずにいるすべての人にとって、行動を始めるための手がかりになる。
よくある質問
下山田志帆はなぜサッカー選手をしながら起業したのですか
女子アスリートとしての将来への不安と、性的マイノリティとしての生きづらさという二つの違和感を、事業を通じて社会に問いかける形に変えたためです。
下山田志帆が起業のきっかけにした違和感とは何ですか
ドイツでの経験を通じて「自分が変ではなく、社会の普通のほうを変えるべきだ」と気づいたことと、同級生の内山穂南との対話で「サッカーを頑張っても自分に価値がないのではないか」という不安を言語化したことです。
違和感を行動に変えるために必要な考え方はありますか
違和感を自分のせいにせず、まず言葉にすること。そして一人で抱え込まず、同じ違和感を持つ相手と共有することです。
この思考法はビジネスパーソンにも応用できますか
応用できます。職場での違和感を「大きな仕組みの課題」と「身近な関係性の課題」に分けて考えることで、行動の解像度が上がります。
ご質問・ご相談はお気軽にどうぞ
お問い合わせはこちら →


コメント