山本篤の義足|競技用の費用100万円超と企業の支援策

山本篤の義足|競技用の費用100万円超と企業の支援策のアイキャッチ スポーツアスリート

助走の最後の1歩で、板バネに全体重をかけて沈み込む。次の瞬間、たわんだカーボンが体を前へ押し出す。パラ陸上の走り幅跳びで日本記録を持つ山本篤さんは、この義足側での踏み切りで世界と戦ってきました。

結論から言うと、山本篤さんは高校2年の春休みのバイク事故で左足の大腿部を切断し、ソケット・膝継手・板バネからなる競技用の大腿義足で6m75の日本記録を出しました。競技用の義足は公的な補装具費の支給を使えず、大腿義足では合計100万円以上かかるとされています。この記事では、義足になった経緯、義足のしくみ、記録の歩み、費用と支援の実情を、本人の発言と公的な資料から整理します。

山本篤が義足になったのは高校2年のバイク事故

山本篤さんが義足になったのは、2000年3月、高校2年の春休みに起こしたバイク事故がきっかけです。左足の大腿部を切断しました。本人の公式サイトによると、小学校では野球、中学と高校ではバレー部に所属していました。

義足になって最初に始めたのはスノーボードでした。夏にできるスポーツを探していたとき、義肢装具士を養成する専門学校で陸上用の義足と出合います。日本スポーツ振興センター(JSC)のインタビューでは、その義足を見て「かっこいいな」と感じたと振り返っています。

最初の競技用義足は、自分で買ったものではありません。義足開発企業Xiborgの対談(2020年8月公開)で、義肢製作所の人から使わせてもらっていたと話しています。日常用はほとんど跳ねないのに対し、競技用は力を入れるとたわんで跳ねる感覚があった、とも語りました。

その後、義肢装具士の国家資格を取り、2004年にスポーツ推薦で大阪体育大学へ進みます。義足をつくる側の知識を持ったまま、競技者としての道を選んだわけです。JSCのインタビューでは、義足になったおかげで良い方向に変われたと思う、と述べています。

(参考)PROFILE – 山本篤オフィシャルウェブサイト

(参考)山本篤選手(陸上競技[パラリンピック])インタビュー – 独立行政法人日本スポーツ振興センター Athlete Pathway

(参考)義足で楽しく走るために(1) xXiborg Talk vol.3(2020年8月11日) – 株式会社Xiborg

Q. 山本篤さんはなぜ義足になったのですか?

2000年3月、高校2年の春休みに起こしたバイク事故で、左足の大腿部を切断したためです。本人の公式サイトに記載があります。その後、義肢装具士を養成する専門学校で陸上用の義足と出合い、競技を始めました。

山本篤の義足はソケット・膝継手・板バネの3つでできている

山本篤さんが使う大腿義足の3つの部品(ソケット・膝継手・板バネ)の図

太ももで切断した選手が使う大腿義足は、体を受けるソケット、膝の代わりになる膝継手、地面を押す板バネの3つの部品でできています。山本さんが競技で使ってきた義足を、部品ごとに見ていきます。

ソケット|体重が2キロ変わると合わなくなる

ソケットは、切断した足を収めて義足とつなぐ部品です。山本さんは日本財団パラスポーツサポートセンターのインタビューで、ソケットは熟練した義肢装具士でなければ絶対に作れないと話しています。

合い具合は体重に左右されます。味の素のインタビューでは、体重が2キロ増減すると練習に支障が出ると語りました。山本さん自身が義肢装具士の資格を持っており、義足を作ったり手入れしたりできることを選手としての強みに挙げています。

膝継手|いちばん進化したと本人が語る部品

膝継手は、膝関節の役割を果たす人工の関節です。スポーツ用品メーカーのミズノの担当者は、膝関節がない場合は膝継手を使い、その下に板バネがくると説明しています。

山本さんが競技を始めたころの膝継手は、ドイツの義肢メーカーOttobockの「3R55」という日常用で強度の高い製品でした(Xiborgの対談での本人発言)。味の素のインタビューでは、義足のなかで膝の部分がいちばん進化し、軽くなってスムーズに動くようになったと評価しています。

板バネ|幅跳び用は重いが大きく跳ね返る

板バネは、地面を蹴る力を跳ね返すカーボン製の部品です。山本さんによると、走り幅跳びで使うものは短距離用より少し重く、大きな力を加えればそれだけ大きな反発が返ってきます。

使用が確認できる製品は、2008年の北京パラリンピックで銀メダルを取ったときの、今仙技術研究所の「LAPOC SPORTS 侍」です。同社は2002年から板バネの開発を始め、山本さんの協力のもとで改良を重ねました。2016年にミズノと今仙技術研究所が発表した試作品にも、山本さんが助言しています。リオ大会以降に使った製品の名称は、公表された情報では確認できませんでした。

板バネは消耗品でもあります。Xiborgの対談では、1年に1本ずつくらい消耗すると話していました。

(参考)GO Journal ISSUE 01 INTERVIEW 02 山本 篤 – 日本財団パラスポーツサポートセンター

(参考)山本篤選手インタビュー|ベストを食せ! VICTORY TALK – 味の素株式会社

(参考)MIZUNO パラリンピックは通過点 超高齢化社会を見据える義足技術 – SPAIA

(参考)ミズノが今仙と共同開発── 陸上選手向けの“義足板バネ”が完成(2016年7月8日) – Sports Business Magazine

(参考)義足で楽しく走るために(1) xXiborg Talk vol.3(2020年8月11日) – 株式会社Xiborg

山本篤の記録は義足の使い方とともに伸びた

山本さんの走り幅跳びの記録は、義足側で踏み切る技術を磨くことで伸びていきました。パラリンピックの3大会を軸に、結果と取り組みを並べます。

大会 走り幅跳びの結果 この時期の取り組み
2008年 北京 銀メダル 義足側での踏み切りを軸にする
2016年 リオ 6m62で銀メダル 助走のスピード練習に絞る
2021年 東京 6m75で4位(日本記録) 義足の使い方を磨く

山本篤さんのパラリンピック走り幅跳びの結果と取り組み(出典:パラサポWEB 選手ページ、日本パラ陸上競技連盟のリオ大会結果・日本記録表、JSC・味の素・月陸Onlineの各インタビューでの本人発言。Human Soarが整理。クラスはリオ大会当時T42、東京大会はT63)

2008年 北京|義足側の踏み切りで銀メダル

義足側で踏み切る跳び方は、偶然から生まれました。味の素のインタビューによると、もともとは健常な足で踏み切っており、記録は4m40ほどでした。大学1年の記録会の助走中、このままではファールになると分かって仕方なく義足で踏み切ったところ、5m20ほど跳べたそうです。

大学では、スポーツバイオメカニクスを専門とする指導者が、1年生のときから山本さんのデータを取り続けました。義足を鍛えるべきか、健常な足を鍛えるべきかを、数値を見て決めていったとJSCのインタビューで語っています。2008年の北京大会では銀メダルを獲得し、大阪体育大学によれば日本の義足の陸上選手として初めてのメダルでした。

2016年 リオ|6m62で2つ目の銀メダル

2016年は記録が大きく動いた年です。5月の日本パラ陸上競技選手権で6m56を跳び、当時の世界記録を更新しました。9月のリオ大会では6m62で銀メダルを取っています。

練習の組み立ても独特でした。普段は跳ぶ練習をせず、スピード練習だけを行い、そこでつくった速さを試合の跳躍につなげていたといいます。JSCのインタビューでは「僕自身は意味のない練習はしたくないんです」と話しています。

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2021年 東京|39歳で6m75の日本記録

東京大会では39歳で自己ベストを更新しました。記録は6m75で4位。日本パラ陸上競技連盟の日本記録表(2026年8月12日更新)には、現在もT63クラスの日本記録として載っています。

年齢を重ねても伸びた理由を、本人は義足の使い方に求めています。月陸Onlineのインタビュー(2021年9月)で、義足の使い方がうまくなるほど記録を伸ばせると述べました。義足は踏み切りで助走の速さがほとんど落ちず、板バネが曲がって伸びるときに加速する、という説明です。

(参考)山本 篤|リオパラリンピック走り幅跳び銀メダリスト – パラサポWEB(日本財団パラスポーツサポートセンター)

(参考)リオパラリンピック特設サイト-リザルト一覧 – 一般社団法人日本パラ陸上競技連盟

(参考)パラ陸上競技 日本記録 男子フィールド競技(2026年8月12日更新) – 一般社団法人日本パラ陸上競技連盟

(参考)山本篤選手インタビュー|ベストを食せ! VICTORY TALK – 味の素株式会社

(参考)山本篤選手(陸上競技[パラリンピック])インタビュー – 独立行政法人日本スポーツ振興センター Athlete Pathway

(参考)インタビュー/パラアスリート・山本篤が明かす「走幅跳の世界」(2021年9月13日) – 月陸Online

(参考)本学客員教授・山本篤選手が現役引退会見「すごくいい陸上人生を歩んでこられた」(2024年5月27日) – 大阪体育大学

Q. 山本篤さんの走り幅跳びの記録は何mですか?

自己ベストは6m75です。2021年8月28日の東京パラリンピックで出した記録で、日本パラ陸上競技連盟の日本記録表(2026年8月12日更新)にT63クラスの日本記録として掲載されています。パラリンピックでは2008年の北京と2016年のリオで銀メダルを獲得しました。

競技用義足の費用は大腿義足で100万円を超える

競技用の義足は、日常用と違って公的な補装具費の支給を使えず、大腿義足では合計100万円以上かかるとされています。費用が、義足で走り始める人にとって最初の壁になっています。

厚生労働省の補装具費支給制度は、日常生活や就労、就学のために長く使う用具を対象にしています。利用者の負担は原則1割で、月の上限は課税世帯で37,200円です。一方、スポーツ庁の委託調査(令和3年3月)は、スポーツ用の義足はこの制度を利用できないことが普及の妨げになっている、と報告しています。

同じ報告書のヒアリングでは、走るための部品の購入費が、ソケットを除いて膝下で20万〜50万円、膝上で70万〜100万円ほどとされました。大腿義足では合計で100万円以上かかるという声も載っています。国が定めた価格ではなく、関係者への聞き取りの結果です。

山本さんも同じ壁を経験しています。Xiborgの対談では、一番苦労したのは義足を購入するところだったと振り返りました。月陸Onlineのインタビューでは、競技用義足は高価なので、レンタルなどで使える機会を増やしたいと話しています。

費用を抑える手立ては2つあります。ひとつは自治体の補助で、たとえば名古屋市は競技用の補装具の購入費を90%以内、上限25万円まで補助しています。もうひとつは入門者向けの製品で、ミズノが2021年に発表した板バネ「KATANAα」は、想定価格が20万〜25万円(税別)でした。お住まいの自治体に同様の制度があるかは、障害福祉やスポーツの担当窓口で確認できます。

(参考)補装具費支給制度の概要 – 厚生労働省

(参考)令和2年度スポーツ庁委託調査「廉価な普及用の障害者スポーツ用具・補助具等の開発に係る調査研究事業」調査報告書(令和3年3月) – スポーツ庁

(参考)障害者スポーツ競技用補装具等購入費補助事業のご案内 – 名古屋市

(参考)スポーツエントリー層向け義足板バネ「KATANAα」(2021年9月1日) – ミズノ株式会社

(参考)義足で楽しく走るために(1) xXiborg Talk vol.3(2020年8月11日) – 株式会社Xiborg

(参考)インタビュー/パラアスリート・山本篤が明かす「走幅跳の世界」(2021年9月13日) – 月陸Online

Q. 競技用の義足に公的な補助は出ますか?

国の補装具費支給制度は日常生活や就労・就学のための用具が対象で、スポーツ庁の委託調査(令和3年3月)はスポーツ用の義足はこの制度を利用できないと報告しています。ただし、名古屋市のように競技用の補装具の購入費を独自に補助する自治体があります。

引退後の山本篤は義足で走る人を増やす側に回った

山本さんは2024年5月26日に現役引退を表明し、現在は義足で走る人を増やす活動に力を入れています。引退の翌日に神戸市内で開いた会見では、7メートルという目標が見えなくなったことを理由に挙げました。

引退後に力を入れているのが、ランニングクリニックです。就職情報サイトのマイナビの取材で、6歳から60歳まで幅広い年齢の障害のある人が集まってトレーニングしていると紹介しています。義足を使う自分だからこそできる教え方があるとして、今後もコーチ業に力を入れたいと語りました。

走ること自体もやめていません。2024年10月12日には国立競技場で開かれた大会の800mに出場し、2分44秒05で自身が持っていた当時の世界記録を更新しました。現役時代の体づくりや体調管理の考え方は、一流アスリートのコンディショニング完全ガイドでも紹介しています。

(参考)本学客員教授・山本篤選手が現役引退会見「すごくいい陸上人生を歩んでこられた」(2024年5月27日) – 大阪体育大学

(参考)教えて!「仕事」と「スポーツ」の関係 山本 篤 – マイナビ2027 体育会系ナビ

(参考)陸上800mで世界新、現役引退の山本がチャレンジ(2024年10月13日) – パラスポ!

Q. 山本篤さんは現在何をしていますか?

2024年5月に現役を引退し、障害のある人を対象にしたランニングクリニックやコーチの活動に力を入れています。引退後の2024年10月には800mで2分44秒05を記録し、自身が持っていた当時の世界記録を更新しました。

企業が義足のアスリートを支える3つの方法

企業が義足のアスリートを支える3つの方法の図

義足のアスリートを企業が支える方法は、雇用、用具の費用、走る機会の3つに整理できます。上の図は、山本さんの歩みと公的な資料をもとに、Human Soarがまとめたものです。

雇用して競技と仕事を両立できる形をつくる

山本さんは2008年にスズキへ入社し、会社員の選手として9年間競技を続けました。マイナビの取材によると、入社のときに、科学的なトレーニングで記録を伸ばしたいので練習拠点は母校にしたいと会社へ伝え、了承を得ています。

働く場所や時間を先に話し合っておくことが、両立の土台になります。厚生労働省の集計では、民間企業で働く障害のある人は704,610.0人(令和7年6月1日現在)で過去最高でした。実雇用率は2.41%、法定雇用率を達成した企業は46.0%です。法定雇用率は令和8年7月から2.7%に上がり、従業員37.5人以上の企業が対象になりました。採用の進め方はアスリート採用企業13社の実績が参考になります。

用具と遠征の費用を負担する

費用の支援は、選手にとって最も直接的な助けになります。板バネは年に1本ほど消耗し、山本さんは遠征に国内で1回10数万円、海外で30万円ほどかかると話していました。

日本パラリンピアンズ協会の調査の要旨(2021年8月公表)によると、選手個人の年間の費用負担は平均で約112万円(推計値)でした。山本さんは2017年にプロへ転向しました。本人の公式サイトには、所属先のほかに個人スポンサーとして2社の名前が載っています。協賛の形を検討するときは、スポーツ協賛12社の事例も見比べてみてください。

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障害のある人が走れる機会をつくる

3つ目は、競技の入口を広げる支援です。山本さんは現役のころから、義足の子どもたちも体育でみんなと同じように走れるよう制度化してほしいと訴えてきました。

スポーツ庁の令和7年度の調査では、障害のある人(20歳以上)の週1日以上のスポーツ実施率は35.0%でした。別の調査ですが、20歳以上全体の実施率は51.7%です。会場の提供や体験会への協賛、社員のボランティア参加など、費用の小さい関わり方から始められます。

(参考)令和7年 障害者雇用状況の集計結果(令和7年12月19日) – 厚生労働省

(参考)令和8年7月1日から障害者の法定雇用率が引上げになりました – 厚生労働省 栃木労働局

(参考)第4回 パラリンピック選手・コーチ・スタッフの競技環境 その意識と実態調査(2021年8月23日) – 一般社団法人日本パラリンピアンズ協会

(参考)令和7年度「障害児・者のスポーツライフに関する調査研究」の調査結果について(令和8年3月11日) – スポーツ庁

(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します(令和8年3月11日) – スポーツ庁

(参考)教えて!「仕事」と「スポーツ」の関係 山本 篤 – マイナビ2027 体育会系ナビ

(参考)義足で楽しく走るために(1) xXiborg Talk vol.3(2020年8月11日) – 株式会社Xiborg

まとめ|山本篤の義足は技術と支援の両方で成り立っている

山本篤さんの記録は、義足という道具を使いこなす技術と、それを支える環境の両方から生まれました。要点を振り返ります。

  • 2000年3月、高校2年の春休みのバイク事故で左足の大腿部を切断した
  • 大腿義足はソケット・膝継手・板バネの3つの部品でできている
  • 義足側での踏み切りを磨き、2021年の東京大会で6m75の日本記録を出した
  • 競技用の義足は補装具費の支給を使えず、大腿義足では合計100万円以上かかるとされる
  • 引退後はランニングクリニックやコーチの活動に力を入れている

企業として関わるなら、まずは自社で働く人や地域の選手が何に困っているかを聞くところから始めてみてください。雇用、費用、機会のどこを支えるかが見えれば、無理のない形が決まります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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