ウェアラブルで代謝・水分補給を管理する法

ウェアラブル機器で代謝・水分補給を管理するアスリートのイメージ スポーツ栄養学

「暑熱対策をもっと個別最適化したい」。トレーナーや栄養士がそう考えるとき、鍵になるのがウェアラブル機器による代謝・水分補給のモニタリングです。汗の量には個人差が大きく、一律の水分補給指導では対応しきれない場面が増えています。

ウェアラブルで測れる代謝・水分補給指標

近年のウェアラブル機器は、心拍数や体表温度に加え、発汗量の推定値や消費エネルギー量まで測定できるようになっています。これにより、選手一人ひとりの代謝特性に応じた水分補給・栄養補給の設計が可能になりつつあります。

厚生労働省も熱中症予防の観点から、個人の発汗量に応じた水分補給の重要性を呼びかけており、ウェアラブルによる個別データの活用は、この指針を現場で実践する手段として位置づけられます。

現場での3つの活用方法

取得したデータは、そのまま眺めるだけでは意味がありません。現場での具体的な活用方法を押さえることで、初めて効果を発揮します。

活用方法 使用データ 目的
個別水分補給計画 推定発汗量 脱水・熱中症の予防
エネルギー補給設計 消費エネルギー量 パフォーマンス維持
コンディション早期検知 代謝の変化傾向 疲労・不調の早期把握

表:ウェアラブルデータの現場での3つの活用方法

個別水分補給計画|発汗量に応じた量とタイミングを設計する

推定発汗量をもとに、選手ごとに必要な水分量と補給タイミングを設計します。特に暑熱環境での練習・試合では、一律の給水指示ではカバーしきれない個人差が大きく、データに基づく個別対応が熱中症リスクの低減につながります。

エネルギー補給設計|消費量に見合った栄養補給を行う

消費エネルギー量のデータを使えば、練習強度に応じた食事・補食のタイミングを調整できます。オーバートレーニングによる代謝の乱れを防ぐうえでも、実測データに基づく設計は感覚的な指導より再現性が高くなります。

コンディション早期検知|代謝の変化から不調の兆候を捉える

日々の代謝データを継続的に記録すると、普段との違いから疲労蓄積や体調不良の兆候を早期に検知できる場合があります。数値の異常値だけでなく、個人内での変化トレンドを見る視点が重要です。

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導入までの3ステップ

ウェアラブルによる代謝モニタリングは、機器を配るだけでは定着しません。段階を踏んで運用体制を整えることが成功の分かれ目です。

1目的の設定:熱中症予防か、パフォーマンス最適化か、優先目的を決める
2試験導入:一部選手で数週間試し、精度と運用の手間を確認する
3運用ルール化:異常値発生時の対応フローを明文化し全体に展開する

①目的の設定|熱中症予防かパフォーマンス最適化か決める

目的によって重視すべき指標や機種選定の基準が変わります。熱中症予防が主目的であれば発汗量・体表温度の精度を、パフォーマンス最適化が主目的であれば消費エネルギーの精度を重視して機種を選定します。

②試験導入|一部選手で運用の手間を確認する

全選手に一斉導入する前に、一部の選手で数週間試し、データの見やすさや充電・装着の手間など運用面の課題を洗い出します。ここで見つかった課題を解消してから全体展開することで、離脱を防げます。

③運用ルール化|異常値発生時の対応フローを明文化する

誰がどの数値を見て、どう判断し、誰が選手に声をかけるのかを事前にフロー化しておきます。ルールが曖昧なままだと、異常値が出ても対応が遅れ、モニタリングの意味が薄れてしまいます。

導入時に気をつけたい3つのポイント

効果的な運用のためには、機器選定だけでなく運用体制の設計も重要です。以下の3点を事前に検討しておきましょう。

①測定精度の確認|自社の競技環境で検証する

発汗量の推定値は機種によって精度に差があります。導入前に自チームの競技特性・環境下で実測値との誤差を確認し、指導判断に使えるレベルの精度かどうかを見極める必要があります。

②データ運用担当の明確化|誰が異常値を判断するか決める

データを取得しても、誰が異常値を判断し、誰が選手に声をかけるかが決まっていなければ活用は形骸化します。トレーナー・栄養士・指導者の役割分担を事前に決めておくことが運用の鍵です。

③選手への説明|データ活用の目的を丁寧に伝える

体調管理データは選手にとって機微な情報です。監視目的ではなくパフォーマンス向上・怪我予防のためのデータであることを丁寧に説明し、選手自身が納得して装着できる状態を作ることが継続利用の前提になります。

(参考)身体活動・運動の推進(身体活動・運動ガイド2023) – 厚生労働省

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職場の熱中症死傷者は3年で2倍以上|2025年6月に義務化された対策

厚生労働省の統計によると、職場における熱中症による死傷者数は2021年の561件から2024年には1,257件、2025年には速報値で1,803件へと急増しています。これを受けて2025年6月、労働安全衛生規則の改正により、企業に熱中症対策の体制整備が法的に義務付けられました。

職場における熱中症の死傷者数
2021年 561件
2024年 1,257件
2025年(速報値) 1,803件

職場における熱中症による死傷者数の推移(厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」)

「声かけ」から「数値管理」へ、義務化が現場に求めるもの

厚生労働省が求めているのは、暑さ指数(WBGT)の把握とその値に応じた対応、そして熱中症のおそれがある作業者を早期に発見する体制です。従来の「こまめに水分補給しましょう」という声かけベースの対策では、法改正が求める「早期発見」の水準を満たすのが難しくなっています。ウェアラブル端末による代謝・水分状態のモニタリングは、努力目標ではなく法令順守の観点からも導入を検討すべき段階に入ったと言えます。

(参考)2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(令和7年12月末速報値) – 厚生労働省

よくある質問

一般的な体育会系部活でもウェアラブル導入は現実的ですか

近年は比較的安価な機種も増えており、まずは主将・主力選手など一部から試験導入する形で始められます。全員導入を最初から目指す必要はありません。

水分補給量はデータ通りに従えばよいのですか

データはあくまで目安です。気候条件や体調の変化もあるため、データと選手本人の自覚症状の両方を踏まえて最終判断することが望ましいとされています。

まとめ

  • ウェアラブル機器で推定発汗量・消費エネルギー量などの代謝データを測定できる
  • 個別水分補給計画・エネルギー補給設計・コンディション早期検知に活用できる
  • 導入時は測定精度の確認と運用担当の明確化が欠かせない
  • 選手への説明を丁寧に行い、納得したうえで装着してもらうことが継続の鍵

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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