公営競技場や競技団体の公式サイトを眺めていると、「運営:〇〇株式会社」「投票システム提供:△△株式会社」というクレジットを目にすることがあります。totoやBIGを筆頭とするスポーツくじ、そして競馬・競輪・オートレース・ボートレースといった公営競技は、法律に基づく制度と、その現場を支える民間企業の分業によって成り立っています。
本記事では、この業界の3層構造を整理したうえで、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が公表している売上データを独自に再集計し、投票システム・総合運営を担う民間企業3社の事業内容を比較します。企業がこの業界とどう関わり得るかまで、business視点で解説します。
スポーツくじ・公営競技業界とは|制度と企業が担う3層構造
この業界は「制度を所管する公的機関」「現場の投票システムや運営を受託する民間企業」「販売チャネル」という3つの層が積み重なって成立しています。totoであれば独立行政法人日本スポーツ振興センターが実施主体、競馬・競輪・オートレース・ボートレースであれば国や地方公共団体が実施主体となり、そこから先の実務の多くを専門の民間企業が担っています。
スポーツくじ・公営競技業界の3層構造(Human Soar作成)
制度所管|法律に基づき実施主体が定められている
totoの根拠法である「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」は、スポーツ振興のための資金確保を目的として、独立行政法人日本スポーツ振興センターを実施主体に位置づけています。競馬・競輪・オートレース・ボートレースについても、それぞれ競馬法・自転車競技法・小型自動車競走法・モーターボート競走法という個別の法律に基づき、国や地方公共団体が実施主体になっています。制度の目的が「スポーツ振興」や「地方財政への貢献」に明確に紐づいている点が、一般的な民間ビジネスとの大きな違いです。
委託運営企業|投票システムと競技場運営を専門企業が支える
実施主体である公的機関は、投票券の発券・集計を行うシステムの開発や、競技場での警備・清掃・宣伝広報までを含む「総合運営(包括民間委託)」を、専門の民間企業に委託しています。この領域は長年の実務ノウハウと大規模システムの安定運用が求められるため、参入障壁が高く、限られた企業が全国の競技場を横断してサービスを提供する構造になっています。次のセクションで、この領域を担う代表的な3社を比較します。プロクラブ経営|3球団の運営会社モデル比較で扱ったプロクラブの運営会社と同様、公営競技の運営企業も「施設を持つ側」と「運営を担う側」が分かれているのが特徴です。
販売チャネル|インターネット投票が主力チャネルに成長
かつては競技場や場外発売所の窓口が販売の中心でしたが、現在はパソコン・スマートフォンからのインターネット投票が売上の大半を占めるようになっています。この変化により、投票システムを提供する企業の役割は「場内の集計機器を作る会社」から「オンライン決済・会員管理まで含めたプラットフォーム事業者」へと広がっています。
(参考)スポーツ振興投票の実施等に関する法律 – e-Gov法令検索
totoの売上高が2年間で20%伸びた理由|JSC公表データの独自再集計
独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、毎年度のスポーツくじ売上を報道発表しています。令和元年度の約938億円から令和6年度の約1,336億円まで、6年間でおよそ1.4倍に拡大したことが公表資料から読み取れますが、JSCの発表は単年度の実績を伝えるものであり、年度ごとの伸び率までは示していません。そこでHuman Soarでは、直近3カ年の売上高をもとに前年比の伸び率を独自に算出し、下表に整理しました。
| 年度 | 売上高 | 前年比(独自算出) |
|---|---|---|
| 令和4年度 | 約1,114億円 | ▲1.5% |
| 令和5年度 | 約1,204億円 | +8.0% |
| 令和6年度 | 約1,336億円 | +11.0% |
JSC報道発表資料の売上高からHuman Soarが前年比を独自算出(令和4〜6年度)
令和4年度は微減も基幹商品BIGが下支え
令和4年度は約1,114億円と、前年度の約1,131億円からわずかに減少しました。それでも「BIG」「MEGA BIG」といった非予想系の商品が売上の大半を占め続け、大きな落ち込みを防いでいます。コロナ禍で一時停止していたリーグ戦の日程が徐々に平常化に向かった時期でもあり、翌年度以降の回復の土台になりました。
令和5年度はワールドカップ関連の1試合予想くじが牽引
令和5年度は約1,204億円と、前年度比で8.0%増加し過去最高を更新しました。JSCは、1等最高当せん金12億円の「MEGA BIG」や基幹商品「BIG」の好調に加え、1試合予想くじ「WINNER」がバスケットボールワールドカップやサッカーアジアカップの日本代表戦を中心に販売を伸ばしたことを要因として挙げています。日本のスポーツ産業市場規模の推移と展望2026で見たスポーツ産業全体の拡大トレンドとも重なる動きです。
令和6年度はサッカー日本代表戦の集客がさらに売上を押し上げた
令和6年度は約1,336億円と、前年度比で11.0%増加し、2年連続で過去最高を更新しました。JSCはサッカーワールドカップアジア予選の日本代表戦を中心とした「WINNER」の販売好調に加え、J.LEAGUEやB.LEAGUEの試合が安定的に開催されたことを要因に挙げています。令和4年度から令和6年度の2年間で見ると、売上は約19.9%増加した計算になります。
(参考)スポーツくじ 令和6年度売上は、過去最高となる約1,336億円 – 独立行政法人日本スポーツ振興センター
(参考)スポーツくじ 令和5年度売上は、過去最高となる約1,203億円 – 独立行政法人日本スポーツ振興センター
公営競技を支える民間企業3社を徹底比較|投票システムから総合運営まで
投票システムの提供や競技場の総合運営を担う民間企業は、それぞれ得意領域が異なります。Human Soarで公式サイトを確認できた代表的な3社を、事業内容の切り口で一覧に整理しました。
| 会社名 | 設立 | 主な事業内容 |
|---|---|---|
| 日本トーター株式会社 | 1982年4月 | 投票システムの開発・保守、競技場の総合運営(包括民間委託) |
| オッズ・パーク株式会社 | ソフトバンクグループ系(SBプレイヤーズ子会社) | 地方競馬・競輪・オートレースのインターネット投票サービス |
| 楽天グループ株式会社 | 1997年2月(グループ創業) | スポーツくじ「楽天toto」販売サイトの運営 |
各社公式サイトをもとにHuman Soarが作成
日本トーター株式会社|投票システムから場内運営まで一気通貫で担う
日本トーター株式会社は1982年設立、公営競技場向けの投票業務システムの販売・保守から、宣伝広報・警備・清掃・施設管理まで含めた総合運営(包括民間委託)、さらにインターネット投票までを一気通貫で提供しています。従業員数は2,933人(2025年4月現在)と公営競技分野では大規模な体制を持ち、レースを開催する地方公共団体や場外発売場の施設オーナーを主な顧客としています。近年は人材サービスや障がい者雇用事業など、公営競技以外の新規事業にも領域を広げています。
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オッズ・パーク株式会社|地方競馬と競輪・オートレースを1つのサービスで横断
オッズ・パーク株式会社は、ソフトバンクグループに属するSBプレイヤーズの子会社で、公営競技総合サービスサイト「オッズパーク」を運営しています。地方公共団体から正式に委託を受け、インターネットおよび電話を通じて地方競馬・競輪・オートレースの投票券販売、払戻、返還金の交付業務を行っており、1つのサービスで競馬と競輪・オートレースの両方を購入できる点が特徴です。入会金・年会費が無料という利用のしやすさも、インターネット投票の普及を後押ししてきた要因といえます。
楽天グループ株式会社|スポーツくじの民間販売窓口として実績を積む
楽天グループ株式会社は「楽天toto」を通じて、独立行政法人日本スポーツ振興センターが実施するスポーツくじ「toto」「BIG」の販売サイトを運営しています。総合ECサイト「楽天市場」で培った会員基盤や決済インフラを活かし、スポーツくじの販売チャネルとしての存在感を高めてきた企業です。スポーツくじの収益は、選手・指導者の育成やグラウンドの芝生化など、日本のスポーツ振興のための助成金として活用されています。
(参考)スポーツ振興への取り組み – 楽天toto(楽天グループ株式会社)
スポーツくじ業界で企業が押さえておきたい法規制とコンプライアンス
公営競技・スポーツくじ業界は、法律に基づく制度である以上、一般的な物販・サービス業とは異なる規制やコンプライアンス上の配慮が必要になります。企業としてこの業界に関わる際に、最低限押さえておきたい2つの視点を整理します。
根拠法「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」が定める枠組み
toto・BIGは、平成10年に公布された「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」に基づき実施されています。この法律は、スポーツ振興のための資金確保を目的として、独立行政法人日本スポーツ振興センターを実施主体に定め、売上から払戻金・経費を除いた収益の3分の2をスポーツ振興事業への助成に、3分の1を国庫へ納付する仕組みを規定しています。プロクラブ経営|3球団の運営会社モデル比較で見た球団経営とは異なり、収益の使いみちそのものが法律で枠づけられている点が、この業界特有のガバナンス構造です。
(参考)スポーツ振興投票の実施等に関する法律 – e-Gov法令検索
ギャンブル等依存症対策として企業に求められる対応
公営競技・スポーツくじに関わる企業には、健全なサービス提供者としての責務も求められます。消費者庁は、ギャンブル等依存症対策推進基本計画に基づき、競技施行者・事業者に対してアクセス制限の取り組みなどを求めており、依存症が疑われる利用者やその家族が抱える多重債務・生活への支障といった問題を、社会的な課題として位置づけています。この業界に関わる企業がマーケティングや商品設計を行う際は、売上拡大だけでなく、こうした利用者保護の観点をあわせて検討する姿勢が欠かせません。
スポーツくじ・公営競技業界と他のスポーツビジネス領域との接点
公営競技・スポーツくじ業界は独立した制度ですが、企業がスポーツビジネス全体を捉えるうえでは無視できない規模を持つ領域です。ここでは、他のスポーツビジネス領域との接続点を2つの切り口で整理します。
スポーツ市場全体における位置づけ
totoだけで年間約1,336億円、公営競技全体を含めればさらに大きな市場規模を持つこの業界は、スポーツ市場全体の中でも無視できない存在感を持っています。日本のスポーツ産業市場規模の推移と展望2026で扱った市場全体の成長トレンドの中に、この業界の拡大も含まれていることを押さえておくと、スポーツビジネス市場を俯瞰する解像度が上がります。
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スポンサーシップ・マーケティング領域との接続
スポーツくじはJ.LEAGUEやB.LEAGUEの試合日程・注目カードと売上が連動する構造を持っており、リーグやクラブにとっては露出機会の一つにもなり得ます。企業がこの業界と接点を持つ方法は、投票システムの受託だけではなく、スポーツ全体の広告・マーケティング領域からのアプローチも考えられます。スポーツ広告市場の規模と最新トレンドもあわせて確認すると、この業界を含むスポーツビジネス全体での事業機会を検討しやすくなります。
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よくある質問
totoやBIGは誰が運営していますか?
独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が実施主体です。ただし、投票システムの開発・保守や、インターネット販売サイトの運営といった実務の多くは、楽天グループをはじめとする民間企業に委託されています。
公営競技の投票システムはどんな会社が担っていますか?
日本トーター株式会社のように、投票券の発券・集計システムの開発から競技場の総合運営までを一括で受託する専門企業が中心です。地方競馬・競輪・オートレースのインターネット投票については、オッズ・パーク株式会社のような企業がサービスを提供しています。
企業はこの業界にどう関わることができますか?
投票システムや競技場運営の受託だけでなく、リーグ・クラブへのスポンサーシップやマーケティング領域からの接点、あるいは決済・会員管理プラットフォームとしての参入など、複数のアプローチが考えられます。参入にあたっては、根拠法に基づく制度的な枠組みと、ギャンブル等依存症対策としての利用者保護の両方を理解しておくことが前提になります。
まとめ
- スポーツくじ・公営競技業界は「制度所管」「委託運営企業」「販売チャネル」の3層構造で成り立っている
- totoの売上高はJSC公表データによれば令和4年度から令和6年度の2年間で約19.9%増加した
- 投票システムや総合運営は日本トーター株式会社、インターネット投票はオッズ・パーク株式会社や楽天グループ株式会社といった民間企業が担っている
- この業界は法律に基づく収益配分の枠組みと、ギャンブル等依存症対策への対応が求められる特有のガバナンス構造を持つ
- 投票システムの受託だけでなく、スポンサーシップやマーケティング領域からもこの業界と接点を持つことができる
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