スポーツ庁の令和6年度実態調査によると、総合型地域スポーツクラブの77.6%が「クラブ運営を担う人材の世代交代・後継者確保」を課題に挙げています。一方で企業側の連携は53.7%が「特に行っていない」状態です。つまり地域スポーツクラブとの連携は、企業にとってまだほとんど手つかずの領域だといえます。本記事では最新の実態調査データから経営課題を整理し、企業が関わる際の3つの連携モデルと注意点を解説します。
総合型地域スポーツクラブの育成数が拡大期から踊り場へ
総合型地域スポーツクラブは、一つのクラブで複数のスポーツ種目に、子どもから高齢者まで幅広い世代が参加できる会員制のスポーツクラブです。平成14年度以降、行政の後押しを受けて右肩上がりで増え続けてきましたが、令和に入ってから育成クラブ数は横ばい、直近では微減に転じています。
平成14年度からの拡大期|クラブ数は541から3,604まで増加
スポーツ庁の育成状況調査によると、平成14年度に541だった育成クラブ数(創設準備中を含む)は、行政による設置支援を背景に一貫して増加し、令和元年度には3,604クラブに達しました。この間、クラブ育成率(クラブが存在する市区町村の割合)も13.1%から80%超まで急上昇しています。
令和以降の踊り場|3年連続で微減し3,581クラブに
ところが令和元年度の3,604クラブをピークに、令和2年度3,594、令和3・4年度3,583、令和5年度3,551と、緩やかな減少が続いています。令和6年度は3,581クラブとやや持ち直したものの、平成期のような右肩上がりの局面は終わり、既存クラブの経営の持続可能性そのものが問われる段階に入ったといえます。
| 年度 | 育成クラブ数 | クラブ育成率 |
|---|---|---|
| 平成14年度 | 541 | 13.1% |
| 平成22年度 | 3,114 | 71.4% |
| 令和元年度(ピーク) | 3,604 | 80.9% |
| 令和5年度 | 3,551 | 80.2% |
| 令和6年度 | 3,581 | 79.8% |
スポーツ庁「総合型地域スポーツクラブ育成状況調査」(各年度)の公表データをもとにHuman Soarが年度を抽出し再構成。育成率は各年度7月1日時点。
(参考)令和6年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果 概要 – スポーツ庁
クラブの現在の課題|実態調査が示す3つの壁
令和6年度調査では、クラブに現在の課題を複数回答で尋ねています。上位に並ぶのは資金よりもむしろ「人」に関する課題で、財源確保は3番目という結果でした。
人材の壁|後継者確保77.6%・指導者確保59.3%が突出
「クラブ運営を担う人材の世代交代・後継者確保」を課題に挙げたクラブは77.6%(令和5年度72.3%から上昇)、「指導者の確保(養成)」は59.3%でした。ボランティア中心で成り立ってきた運営体制が、担い手の高齢化によって限界に近づいている実態がうかがえます。
財源の壁|自己財源への依存と伸び悩む会費収入
「会費・参加費など受益者負担による財源確保」を課題とするクラブは58.9%(令和5年度44.0%から急上昇)。実際、クラブの収入に占める自己財源率は「91〜100%」が34.1%と最多で、多くのクラブが会費収入だけで運営を賄っている状況です。会費の全体平均額は月額1,494円にとどまり、大幅な値上げも現実的ではありません。
連携体制の壁|企業との連携は53.7%が「特に行っていない」
スポーツによる地域活性化・企業や大学との連携に関する設問では、「特に行っていない」が53.7%と過半数を占めました。「プロチームやトップアスリートを有する企業と連携した取組」は6.5%、「企業や大学の施設を活用したスポーツ教室等の開催」は3.8%にとどまります。人材・財源の課題が深刻化する一方で、企業との接点はほとんど開拓されていないというギャップが、そのまま連携の余地になっています。
| 課題 | 回答率(複数回答) |
|---|---|
| 運営人材の世代交代・後継者確保 | 77.6% |
| 指導者の確保(養成) | 59.3% |
| 会費・参加費による財源確保 | 58.9% |
| 会員の世代の拡大 | 44.6% |
| 行政(スポーツ担当部局)との連携 | 41.3% |
| スポーツ以外の組織・企業との連携 | 22.0% |
スポーツ庁「令和6年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(N=1,502〜1,567クラブ、複数回答)をもとにHuman Soarが主要項目を抽出・再構成。
Q. 総合型地域スポーツクラブの一番の経営課題は何ですか?
スポーツ庁の令和6年度実態調査では、「クラブ運営を担う人材の世代交代・後継者確保」が77.6%で最も高く、次いで「指導者の確保(養成)」が59.3%でした。財源よりも人材面の課題が優先度の高いテーマになっています。
(参考)令和6年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果 概要 – スポーツ庁
企業がクラブ経営に関わるメリットと連携モデル
人材・財源の担い手が不足する一方、企業側にとって地域スポーツクラブは、コストを抑えながら地域との接点を作れる数少ない場でもあります。クラブと企業、双方に生まれるメリットを整理したうえで、実際の連携パターンを見ていきます。
クラブ側が得るもの|人材・資金・専門ノウハウ
クラブが企業から受け取れるものは、寄付金や協賛金といった資金だけではありません。総務・経理・広報など企業内で当たり前に行われている業務ノウハウは、事務局員の確保に苦しむクラブにとって大きな価値があります。クラブの広報課題でも「広報を担当する人材確保」が49.2%で最多であり、企業側の人材が兼業・副業として関わるだけでも解決に近づく課題は少なくありません。
企業側が得るもの|地域ブランディングとCSR・ESGへの接続
企業側から見ると、地域スポーツクラブとの連携は地域住民との継続的な接点を作る手段になります。単発の協賛と異なり、クラブという「場」に継続的に関わることで、CSR・ESG活動としての一貫したストーリーを持たせやすくなる点が特徴です。社員の地域参加や健康経営施策と組み合わせれば、社内向けの効果も期待できます。
Q. 企業がスポーツクラブと連携する主なメリットは何ですか?
地域住民との継続的な接点を通じたブランディングやCSR・ESGへの接続に加え、社員の地域参加や健康経営施策と組み合わせられる点です。人材・資金・専門ノウハウを提供することで、地域の実施主体としての信頼も得られます。
企業がクラブ経営に関わる3つの連携モデル
企業とクラブの関わり方は一様ではありません。予算規模や本業との近さによって、現実的に選べるモデルは変わってきます。ここではHuman Soarが実態調査の結果をもとに整理した3つのモデルを紹介します。
| 連携モデル | 主な内容 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| 協賛・寄付型 | 大会・イベントへの協賛金、用具や施設利用料の負担 | 初めて連携する企業、地域密着型の中小企業 |
| 人材派遣型 | 社員の兼業・副業や出向による事務局・広報支援 | 専門人材を抱える企業、健康経営に注力する企業 |
| 施設・機能提供型 | 自社施設の開放、社内システムやノウハウの提供 | 遊休施設を持つ企業、スポーツ関連事業を営む企業 |
スポーツ庁の実態調査結果をもとに、Human Soarが企業連携の実務パターンとして独自に分類・整理。
協賛・寄付型|まず始めやすい入り口
最も始めやすいのが、大会やイベントへの協賛、用具・施設利用料の負担といった協賛・寄付型です。実態調査でも「プロチームやトップアスリートを有する企業と連携した取組」は6.5%にとどまっており、まだ多くのクラブにとって協賛企業自体が珍しい存在です。まずは単発の協賛から始め、クラブ側の反応を見ながら関係を深めていくのが現実的です。
人材派遣型|指導者・事務局人材を出向で支える
事務局員の確保に苦しむクラブに対し、企業が社員を兼業・副業や出向という形で送り出すモデルです。クラブの広報課題の1位が「広報を担当する人材確保」(49.2%)であることからも分かる通り、専門スキルを持つ人材のスポット的な支援は、クラブにとって資金以上に価値のある支援になり得ます。
施設・機能提供型|企業資産をクラブに開放する
スポーツ関連事業を営む企業や、遊休施設を持つ企業であれば、自社の施設やノウハウをクラブに開放するモデルも選択肢になります。実態調査では「企業や大学の施設を活用したスポーツ教室等の開催」はわずか3.8%であり、施設提供型で連携している企業はまだ少数派です。差別化しやすい関わり方だといえます。
Q. 連携モデルはどれから始めるのが現実的ですか?
予算や体制に制約がある場合は、まず協賛・寄付型から始めるのが現実的です。クラブとの関係が深まった段階で、人材派遣型や施設提供型へ段階的に移行する企業が多くみられます。
持続可能な運営を実現する資金・人材戦略
企業連携は魅力的な選択肢ですが、それだけでクラブの経営課題がすべて解決するわけではありません。クラブ自身も財源と人材の複線化に取り組む必要があります。
財源の複線化|会費依存から抜け出す設計
自己財源率が「91〜100%」というクラブが34.1%を占める現状は、会費以外の収入源をほとんど持たないクラブが多いことを意味します。スポーツ振興くじ(toto)助成についても52.5%が「受けたことがない」と回答しており、その理由の42.2%は「必要性を感じない」でした。制度を知らない、あるいは申請の手間を負担に感じているケースも多く、外部の資金メニューを活用しきれていない実態が見えます。
人材の複線化|プロボノ・兼業人材の受け入れ体制づくり
持続可能な運営に向けた取り組みとして「クラブ運営を担う人材の世代交代・後継者確保のための取組を行っている」クラブは41.6%にとどまり、36.3%は「特に行っていない」と回答しています。企業からの兼業・副業人材やプロボノ人材を受け入れる体制を整えることは、後継者不足への現実的な処方箋の一つになります。
(参考)令和6年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果 概要 – スポーツ庁
企業連携を始める際の注意点|地域住民本位を崩さない
企業連携を進めるうえで最も注意したいのは、クラブの主役はあくまで地域住民であり、企業側の都合を優先しすぎないことです。クラブ設立の効果として「地域住民のスポーツ参加機会が増えた」が68.2%と最も高く評価されている点からも、地域住民の参加機会を広げる文脈で連携を設計することが重要です。
また、行政への理解や連携体制がすでに一定程度整っている点(「市区町村行政は総合型クラブに対する理解がある」54.9%)を踏まえ、企業単独で動くのではなく、行政・クラブ・企業の三者で役割分担を確認してから動き出すことをおすすめします。
Q. 総合型地域スポーツクラブとは何ですか?
一つのクラブで複数のスポーツ種目を、子どもから高齢者まで年齢や技術レベルに応じて継続的に参加できる会員制のスポーツクラブです。令和6年7月時点で全国3,581クラブが育成されています。
まとめ
- 総合型地域スポーツクラブの育成数は令和以降踊り場に入り、令和6年度は3,581クラブ
- 現在の課題は人材の世代交代・後継者確保(77.6%)が最多で、財源確保(58.9%)を上回る
- 企業との連携は53.7%が「特に行っていない」状態で、まだ大きな余地が残る
- 連携モデルは協賛・寄付型/人材派遣型/施設・機能提供型の3つに整理できる
- 連携は地域住民の参加機会拡大を軸に、行政・クラブ・企業の三者で設計するのが望ましい
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