研修は毎年やっている。アンケートの満足度も悪くない。それでも、翌年の休職者は去年と同じくらい出ている。メンタルヘルス研修が職場を変えるかどうかは、ストレスチェックの集団分析とつながっているかどうかで決まります。
この記事では、厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査から企業の実施状況を読み解いたうえで、スポーツを使った研修の4類型と、集団分析を起点にした3ステップの導入手順をまとめます。
メンタルヘルス研修が必要とされる背景|対策に取り組む事業所は63.2%
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は全体の63.2%で、前年の63.8%からほぼ横ばいです。ただしこの数字は、事業所の規模で大きく割れます。ストレスチェックが義務づけられている労働者50人以上の事業所では94.3%が取り組んでいるのに対し、10〜29人の事業所では55.3%にとどまります。
もう一段踏み込むと、実態はさらにはっきりします。下の表の右端は、公表されている2つの割合を掛け合わせて「全事業所のうち、実際にストレスチェックまで実施している割合」を出したものです。
| 事業所規模 | メンタルヘルス対策に取り組んでいる | うちストレスチェックを実施 | 全事業所に占める実施割合(掛け合わせ) |
|---|---|---|---|
| 50人以上 | 94.3% | 89.8% | 約84.7% |
| 30〜49人 | 69.1% | 57.8% | 約39.9% |
| 10〜29人 | 55.3% | 58.1% | 約32.1% |
出典:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」第2表の公表値をもとに、右端の列はHuman Soar編集部が2つの割合を掛け合わせて算出(2026年9月時点)。小数第2位を四捨五入しているため、公表値との間にわずかな誤差が出ます。
50人以上|義務の対象で約85%まで実施が進んでいる
労働者50人以上の事業所はストレスチェックの実施が義務です。全事業所ベースに直しても約84.7%が実施しており、ここでの論点は「やるかどうか」ではなく「結果をどう使うか」に移っています。研修も同じで、実施の有無ではなく設計の中身が問われる段階にいます。
30〜49人|取り組みはあるが実施は約4割で止まる
30〜49人の事業所は、69.1%が何らかのメンタルヘルス対策に取り組んでいます。ところがストレスチェックまで進むのは、全事業所ベースで約39.9%です。取り組む意思はあるのに、実務に落とす段階で止まっている層がここに集中しています。研修から入って、その延長でチェックの運用を組み立てるほうが現実的な規模帯です。
10〜29人|全事業所ベースでは約3社に1社にとどまる
10〜29人の事業所では、全事業所ベースの実施割合は約32.1%です。3社に1社という水準で、専任の担当者を置けないことが背景にあります。この規模では自前の研修より、産業保健総合支援センターの地域窓口など外部資源を前提に組み立てるほうが続きます。
(参考)令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要 事業所調査 – 厚生労働省
Q. メンタルヘルス研修の内容は、管理職向けと一般社員向けで分けるべきですか?
分けたほうが定着します。管理職に必要なのは不調のサインに気づいて相談につなぐ役割の理解で、一般社員に必要なのは自分の状態を把握するセルフケアの方法です。求められる行動が違うので、同じ資料を一斉に配ると、どちらにとっても自分ごとになりにくくなります。
研修がやりっぱなしになる理由|集団分析を研修につないでいるのは22.6%
研修が翌年に同じ内容へ戻ってしまう最大の原因は、テーマを決める材料を社内のデータから取っていないことです。同じ令和6年労働安全衛生調査を見ると、その材料はすでに多くの組織にあります。
ストレスチェックを実施した事業所のうち、結果を部や課ごとに分析したのは75.4%で、前年の69.2%から6.2ポイント伸びています。さらに、分析した事業所の76.8%が結果を何らかの形で活用しています。ここまでは順調です。
集団分析は75.4%で実施されているのに研修には届いていない

活用の中身を見ると、内訳が見えてきます。分析結果を活用した事業所のうち、相談窓口の設置は41.2%、上司や同僚に支援を求めやすい環境の整備は36.7%で、ここは進んでいます。一方で、管理監督者向けまたは労働者向けの研修の実施につなげたのは22.6%です。
つまり、分析はしている。活用もしている。けれども研修という打ち手にだけ、データが流れ込んでいない状態です。研修の企画が人材開発の担当、集団分析が産業保健の担当と、部署が分かれていることも多く、接続が構造的に抜け落ちます。
テーマを講師まかせにすると翌年も同じ内容になる
接続が抜けると、テーマの決め方は外部講師の標準メニューに寄ります。標準メニューそのものは悪くないのですが、自社のどの部署のどの課題に当てるのかが決まっていないため、受講後に何が変わったのかを測る手がかりが残りません。
研修を人的資本投資として位置づけるなら、投入した時間に対して何が動いたかを説明できる形にしておく必要があります。その説明の土台になるのが、部署単位の集団分析データです。
あわせて読みたいストレスチェック法改正のポイント|50人未満の義務化›
(参考)令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
Q. ストレスチェックの集団分析は、研修にどう使えばよいですか?
高ストレスと判定された部署の要因を見て、研修のテーマと対象をそこから決めます。業務量が要因なら業務配分の見直しが先で、研修は補助になります。関係性が要因なら、管理監督者向けの対話研修が効きやすい打ち手になります。
スポーツを使うメンタルヘルス研修の4類型
スポーツをメンタルヘルス研修に組み込む方法は、大きく4つに分かれます。どれを選ぶかは、集団分析で見えた課題が「体調」なのか「関係性」なのか「マネジメント」なのかで決まります。まず全体像を見てから、個別に見ていきます。
図:スポーツを取り入れたメンタルヘルス研修の4類型(Human Soar作成)
①動かしながら対話する型|発言のハードルを下げる
会議室で向かい合って「最近どうですか」と聞いても、本音は出にくいものです。歩きながら、あるいは軽く体を動かしながら話すと、視線が正面からずれて発言のハードルが下がります。対人関係が課題として出た部署に向いている型です。
関係性そのものを扱う設計にしたい場合は、心理的安全性をスポーツで高める職場づくりの考え方と組み合わせると、研修の目的が明確になります。
②観戦を共通体験にする型|部署をまたぐ話題をつくる
試合観戦は、運動が苦手な人も参加できる点が強みです。役職や年次に関係なく同じ場面を見ているので、翌日から共通の話題が生まれます。リモート勤務が多く雑談が減っている部署では、この型の効果が出やすくなります。
③セルフケアを学ぶ型|睡眠と運動から体調を整える
メンタルの不調は、睡眠や活動量の変化として先に表れることがよくあります。アスリートが日常的に行っているコンディション管理の考え方を、一般社員向けに落として伝える型です。自分の状態を数字やチェック項目で把握する習慣をつくることが目的になります。
④競技現場から学ぶ型|管理職のマネジメント研修に使う
選手の不調に気づいて声をかけ、休ませる判断をするという指導者の仕事は、管理職の役割とほぼ同じ構造をしています。競技現場の判断事例を題材にすると、「部下の様子がおかしいときにどう動くか」を自分の業務に置き換えて考えやすくなります。
実際に企業でスポーツを取り入れる動きは広がっており、スポーツ庁のスポーツエールカンパニー2026では過去最多の1,635団体が認定されました。7回以上の認定でシルバー、5回以上でブロンズという区分もあり、継続して取り組む団体が500団体を超えています。スポーツ体験を使った研修設計の実例も、この一覧から業種を絞って探せます。
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定(令和8年1月30日) – スポーツ庁
導入手順|集団分析を起点に3ステップで設計する
研修の設計は、対象と課題を決める、プログラムを分ける、測る指標を決める、という3ステップで進めます。順番を入れ替えると、プログラムの中身から入ってしまい、対象が全社一律に戻ります。
ステップ1|集団分析から対象と課題を決める
最初にやることは、集団分析の結果を部署単位で並べ、高ストレスの部署がどこで、その要因が何かを特定することです。要因が業務量なら、研修より先に業務配分の見直しが必要になります。研修が最適な打ち手になるのは、要因が関係性やマネジメントにあるときです。
ステップ2|管理職向けと一般社員向けにプログラムを分ける
管理職に求めるのは、部下の変化に気づいて相談につなぐ行動です。一般社員に求めるのは、自分の状態を把握して早めに手を打つ行動です。求める行動が違う以上、同じ内容を一斉に配ると、どちらも自分ごとになりません。上の4類型でいえば、管理職には④、一般社員には③が接続しやすい組み合わせになります。
ステップ3|効果を測る指標を研修の前に決める
研修後のアンケート満足度だけを見ていると、翌年も同じ内容が続きます。次回の集団分析で改善を確認したい項目を、研修を企画する時点で1つか2つ決めておきます。メンタルヘルス施策のKPI設計と同じで、測る対象を先に決めておくと、途中で基準がぶれません。
Q. スポーツを取り入れた研修の事例はどこで探せますか?
スポーツ庁のスポーツエールカンパニー認定団体一覧が出発点として使えます。2026年は1,635団体が認定され、認定団体へのアンケートでは職場のコミュニケーションが良くなったという回答のほか、休職率が減ったという回答も挙がっています。認定は毎年更新されるため、同業種の団体を探して取組内容をたどる使い方ができます。
実施後のフォロー体制|相談できる相手を先に用意する
研修そのものより、研修のあとに相談できる窓口があるかどうかが定着を左右します。令和6年労働安全衛生調査では、ストレスについて相談できる人がいる労働者は94.6%にのぼります。数字だけ見ると、窓口は足りているように見えます。
相談先があることと実際に相談することは別
同じ調査で、相談できる人がいる労働者のうち、実際に相談したことがある労働者は74.7%です。約4人に1人は、相談相手がいると答えながら実際には相談していません。研修の設計では、この「相談しない層」をどう動かすかが論点になります。
相談相手の内訳も示唆的です。家族・友人が68.6%で最も多く、次いで上司が65.7%となっています。社外の相談先が一定の役割を果たしている一方、職場の上司も同じくらい選ばれています。管理職向け研修の価値は、ここにあります。
フォローは研修直後ではなく1〜3か月後に置く
研修直後は意識が高まっているので、わざわざ相談する必要を感じません。問題が表面化するのは、日常業務に戻って数週間から数か月たった頃です。研修の案内と同時に、1〜3か月後の面談や簡易サーベイを日程として押さえておくと、フォローが形式で終わりません。
あわせて読みたいスポーツがメンタルヘルスに与える効果|科学的根拠と企業事例›
(参考)令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要 個人調査 – 厚生労働省
Q. 研修を実施したあと、どのくらいでフォローを入れるべきですか?
研修の直後ではなく、1〜3か月後に相談の入り口を用意しておくと機能します。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査では、ストレスについて相談できる人がいる労働者は94.6%いる一方、実際に相談したことがある労働者は74.7%にとどまります。相談先があることと、実際に相談することの間には差があります。
まとめ|メンタルヘルス研修を職場の変化につなげる要点
研修の質は、当日のプログラムより前の段階でほとんど決まります。集団分析という社内データを起点にできているかどうかが分かれ目です。この記事の要点を整理します。
- メンタルヘルス対策に取り組む事業所は63.2%で、全事業所ベースのストレスチェック実施は10〜29人規模で約32.1%にとどまる
- 集団分析は75.4%で実施されているのに、研修につないでいるのは活用企業の22.6%だけ
- スポーツを使う研修は、動かしながら対話する・観戦を共有する・セルフケアを学ぶ・競技現場から学ぶの4類型で選ぶ
- 設計は対象と課題を決める、管理職と一般社員でプログラムを分ける、測る指標を先に決めるの3ステップ
- フォローは研修直後ではなく1〜3か月後に置き、相談窓口の存在を行動に変える
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