「今年の全社会は、アスリートに講演してもらおう」。役員のひと言で担当になったものの、誰に頼めばいいのか、いくら払うのか、契約書は要るのか。検索しても講師の一覧ばかりで、社内で説明できる材料が見つからない。そんな場面は少なくありません。
企業がアスリートの講演を開くときに決めることは3つです。1つ目は、料金が公表されている研修型にするか、講師本人と直接調整する講師紹介型にするか。2つ目は、講演料の源泉徴収と交通費の払い方。3つ目は、個人に依頼するときの条件の示し方と支払いの期日です。
この記事では、企業が申し込める窓口の料金と実績、講演料の税務、依頼するときの法律上の決まりを、公的な一次情報をもとに整理します。
アスリート講演の入口は2つ|研修型と講師紹介型
企業がアスリートの講演会を開く入口は、プログラムと料金が決まっている研修型と、講師を紹介してもらい本人と直接調整する講師紹介型の2つに分かれます。日本財団パラスポーツサポートセンターが運営する「あすチャレ!」は、この両方を公開しているので、違いを比べやすい例です。
| 型 | プログラムの例 | 料金 | 支払先 | 実績(2026年3月31日現在) |
|---|---|---|---|---|
| 研修型 | あすチャレ!Academy | 5万円〜25万円(税込・公表) | 運営団体の法人口座 | 762回・34,846人 |
| 講師紹介型 | あすチャレ!メッセンジャー | 講師本人が判断(一律ではない) | 講師本人に直接 | 504回・100,863人 |
日本財団パラスポーツサポートセンターの公式ページとプラン一覧表(2026年7月〜)をもとにHuman Soar編集部が作成。研修型の料金は企業・自治体・団体向けの基本プログラムとカスタム対応の範囲。実績の人数は学校での実施を含む
研修型|料金が公表されていて稟議に乗せやすい
研修型のよさは、費用が最初から分かることです。あすチャレ!Academyは、パラアスリートが講師を務める企業・団体・自治体・大学向けの研修で、プラン一覧表に料金が載っています。コミュニケーション編は、オンライン90分(15〜100人)が50,000円、対面120分(30〜70人)が100,000円。内容を自社向けに調整するカスタム対応は、初回がオンライン・対面で200,000円です(いずれも税込)。
対面の場合、講師とスタッフの旅費交通費は料金に含まれています。対面120分を30人で受ければ1人あたり約3,300円、70人なら約1,400円という計算になります(編集部の算出)。支払いは講師個人ではなく、運営団体の法人口座への振り込みです。
公式ページは満足度を96.7%と公表しています。ただし設問や回答者数は書かれていないので、社内資料に引くときは「主催者の公表値」と添えておくと安心です。
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(参考)あすチャレ!Academy|パラアスリートから学ぶ共感力・DEI研修 – 日本財団パラスポーツサポートセンター
(参考)「あすチャレ!Academy」プラン一覧表(2026年7月〜) – 日本財団パラスポーツサポートセンター
(参考)実績・事例|あすチャレ!Academy – 日本財団パラスポーツサポートセンター
講師紹介型|テーマに合う講師と直接調整する
講師紹介型は、話してほしいテーマが先に決まっているときに向いています。あすチャレ!メッセンジャーは、スピーチのトレーニングを受けたパラリンピアンやパラアスリートを、企業・自治体・団体・大学などの講演やDEI研修の講師として紹介する仕組みです。「夢・目標」「DEI(多様性と包摂)」「人権」「メンタルタフネス」といったテーマに対応しています。
費用の決まり方は研修型と違います。公式のFAQによると、講演料はテーマや対象、時間などを踏まえて「講師本人が判断」し、一律ではありません。申込フォームには、金額の記載がない依頼は引き受けられないこと、講演料と交通費は講師本人へ直接支払うことが書かれています。予算を決めてから申し込む、という順番になります。
なお、公的な派遣事業の多くは学校や自治体が対象です。たとえば日本オリンピック委員会の「オリンピック教室」は中学2年生向けの授業で、2025年度は49校141クラス、4,697名が受けました。企業の研修で使える窓口は限られるので、上の2つの型から探すのが近道です。
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(参考)あすチャレ!メッセンジャー|パラアスリート・指導者の講師紹介プログラム – 日本財団パラスポーツサポートセンター
(参考)お申し込み|あすチャレ!メッセンジャー – 日本財団パラスポーツサポートセンター
(参考)FAQ|あすチャレ! – 日本財団パラスポーツサポートセンター
Q. アスリートの講演会を企業が開くには、どこに申し込めばよいですか?
料金が公表されている研修型のプログラムか、講師を紹介してもらう講師紹介型の窓口に申し込みます。日本財団パラスポーツサポートセンターの「あすチャレ!Academy」は税込5万円から、「あすチャレ!メッセンジャー」は講師本人が講演料を判断する仕組みです。
アスリート講演会のテーマは研修の階層から決める

テーマは「誰に聞かせる研修か」から決めると、講師選びがぶれません。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」によると、事業所が実施したOFF-JT(仕事を離れて行う研修)の内容は、新規採用者など初任層向けが75.7%、新たに中堅社員となった人向けが49.3%、マネジメントが46.9%でした(複数回答)。
この3つの階層に、講師紹介型の窓口が挙げているテーマを重ねてみます。初任層には「夢・目標」、中堅層には「メンタルタフネス」、管理職には「DEI」や「人権」。こう置くと、同じアスリートの講演でも、階層ごとに頼むテーマが変わることが分かります。年に1回の全社会で全員に同じ話を聞いてもらうより、どの階層の研修に組み込むのかを先に決めるほうが、依頼の内容が具体的になります。
外部の力を借りること自体は、珍しい選択ではありません。同じ調査で、正社員にOFF-JTを実施した事業所は70.9%。教えた機関は「自社」が76.4%で最も多く、次が民間の教育訓練機関の41.4%でした。人材育成に問題があると答えた事業所では、「指導する人材が不足している」が59.5%で最多です。
費用の目安も同じ調査にあります。OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は2.0万円(令和6年度の実績)でした。先ほどの研修型の1人あたり約1,400〜3,300円は、この年間の平均額の約7〜17%にあたります(編集部の算出)。研修全体の投資の考え方は、人的資本投資の解説でまとめています。
(参考)令和7年度「能力開発基本調査」の結果を公表します(令和8年7月31日) – 厚生労働省
(参考)令和7年度 能力開発基本調査 調査結果の概要 – 厚生労働省
アスリートへの講演料は源泉徴収の対象|払い方で税額が変わる
個人のアスリートに講演料を支払うとき、会社は所得税などを源泉徴収します。国税庁によると、税額は支払金額が100万円以下なら10.21%です。徴収した税金は、支払った月の翌月10日までに納めます。この納付には、半年分をまとめて納める「納期の特例」は使えません。税率ごとの早見表と依頼書の文例は、講演依頼の進め方に載せています。ここでは、見落としやすい2点に絞ります。
交通費と宿泊費は会社が直接手配する
交通費や宿泊費も、講師に現金で渡すと原則として報酬に含まれ、源泉徴収の対象になります。国税庁は、謝礼や車代といった名目で支払っても、実態が報酬と同じであれば対象になると説明しています。
一方で、会社が交通機関やホテルに直接支払った場合は、通常必要な範囲であれば報酬に含めなくてよいとされています。新幹線の切符や宿泊先は会社側で手配する。これだけで、経理の処理も講師の手取りも分かりやすくなります。
(参考)No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(令和8年4月1日現在法令等) – 国税庁
請求書で講演料と消費税を分けてもらう
源泉徴収の対象は、原則として消費税を含めた金額です。ただし国税庁は、請求書などで報酬の額と消費税の額がはっきり分かれていれば、報酬の額だけを対象にしてよいとしています。インボイス制度が始まった後も、この扱いは変わっていません。
たとえば税込110,000円とだけ書かれた請求書なら、源泉徴収する額は11,231円。講演料100,000円、消費税10,000円と分けて書かれていれば10,210円です(110,000円×10.21%、100,000円×10.21%で編集部が計算。1円未満は切り捨て)。依頼の時点で、請求書の書き方をお願いしておきましょう。
(参考)No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき(令和8年4月1日現在法令等) – 国税庁
Q. アスリートの講演料に源泉徴収は必要ですか?
個人に講演料を支払う場合は必要です。国税庁によると、支払金額が100万円以下なら税額は10.21%で、支払った月の翌月10日までに納めます。車代などの名目で渡したお金も、実態が報酬であれば対象になります。
個人のアスリートに講演を依頼するときは条件を書面で示す

個人で活動するアスリートに仕事を頼むときは、条件を書面かメールで示し、期日までに支払う決まりがあります。2024年(令和6年)11月1日に施行された、いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化等法です。従業員を使っていない個人などに業務を委託する事業者が対象で、法律のいう「役務の提供」には、自社のために受けるサービスも含まれます。
※講演や講師を名指しした記述は、公正取引委員会と厚生労働省が公開している資料では確認できませんでした。自社の依頼がこの法律の対象になるかどうかは、契約の内容によります。迷うときは弁護士などの専門家に確かめてください。対象外であっても、以下の2つは依頼の基本として役に立ちます。
依頼が決まったらすぐに9項目をメールで送る
法律は、業務を委託したら「直ちに」取引条件を書面か電磁的方法で明示するよう定めています。公正取引委員会の特設サイトは、口頭での明示は認められないとはっきり書いています。
明示する項目は9つです。給付の内容、報酬の額、支払期日、双方の名称、委託した日、役務の提供を受ける日、その場所、検査をする場合の完了日、現金以外で支払う場合の方法。講演に置き換えると、テーマと時間、講演料、支払日、開催の日時と会場、にあたります。電話で日程が決まったら、その日のうちにメールで送る習慣にしておくと漏れません。
(参考)2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト – 公正取引委員会
(参考)フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ – 厚生労働省
支払期日は講演の日から60日以内に置く
支払いの期日にも決まりがあります。従業員を使っている会社などが発注する場合、報酬の支払期日は、役務の提供を受けた日から数えて60日以内の、できるだけ短い期間内に定めなければなりません。
「月末締めの翌々月末払い」のような社内ルールだと、講演の日によっては60日を超えます。講演の日が決まった時点で、経理に支払日を確かめておきましょう。なお、報酬の減額など7つの禁止行為は、1か月以上の業務を委託した場合が対象です。1日で終わる講演に当然にかかるものではありません。
(参考)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号) – e-Gov法令検索
(参考)2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト – 公正取引委員会
Q. アスリートに講演を依頼するとき、口頭の約束だけでも問題ありませんか?
書面かメールで条件を残してください。フリーランス・事業者間取引適正化等法は、従業員を使っていない個人などに業務を委託した場合、直ちに取引条件を書面か電磁的方法で明示するよう定めており、公正取引委員会は口頭での明示を認めていません。対象になるかどうかは契約の内容によるため、迷うときは専門家に確かめます。
アスリート講演会の前に決めておく3つの運営ルール
窓口と契約が決まったら、当日までに人数、記録、候補の順番を決めます。どれも、公開されている窓口の決まりから読み取れる実務です。
人数|最低人数を先に確かめる
研修型には最低人数があります。あすチャレ!Academyの場合、オンラインは15名以上、対面は30名以上の参加が条件です。部署単位で開くつもりが人数に届かない、ということが起きるので、対象者の数を先に数えておきます。
記録|撮影と録音は講師の了承を取る
写真や動画の撮影、音声の録音ができるかどうかは、講師によって違います。あすチャレ!メッセンジャーのFAQも、紹介が決まった後に講師へ直接相談するよう案内しています。欠席者向けに録画を配りたい、社内報に写真を載せたい、という希望は、依頼の段階で伝えておきます。
候補|希望の順番を決めてから申し込む
候補の講師が複数いるときは、順番を決めてから申し込みます。あすチャレ!メッセンジャーでは、複数の講師へ同時に見積もりや日程を確かめることには対応しておらず、2名以上を希望する場合は希望順に書くよう求めています。社内で第1希望から第3希望まで合意しておくと、やり取りが1回で済みます。
講演をきっかけに、競技経験のある人材の採用に関心が広がることもあります。その場合はアスリートのセカンドキャリア採用もあわせて読んでみてください。
(参考)FAQ|あすチャレ! – 日本財団パラスポーツサポートセンター
(参考)お申し込み|あすチャレ!メッセンジャー – 日本財団パラスポーツサポートセンター
Q. アスリートの講演会は何人から開けますか?
窓口によって違います。研修型の「あすチャレ!Academy」は、オンラインで15名以上、対面で30名以上の参加が条件です。講師紹介型は講師と直接調整するため、人数も依頼の時点で伝えて相談します。
まとめ|アスリート講演は窓口と支払いと書面の3点で決まる
アスリートの講演を企業で開くときに確かめることを振り返ります。
- 入口は、料金が公表されている研修型と、講師本人と直接調整する講師紹介型の2つ
- 研修型の例では税込5万円〜25万円。対面は講師の旅費交通費を含む
- 講演料は源泉徴収の対象。交通費は会社が直接手配し、請求書では消費税を分けてもらう
- 個人への依頼は、決まったらすぐに条件をメールで示し、支払期日は講演の日から60日以内に置く
- 人数、撮影と録音、候補の順番は申し込みの前に社内で決める
まずは、今年の研修のうちどの階層の回に講演を入れるかを1つ決め、対象者の人数を数えてみてください。人数と予算が分かれば、2つの入口のどちらが合うかが見えてきます。
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