四半期に一度のサーベイ結果を開くと、去年より2ポイント下がっている。理由を聞かれても、その期にやった施策と数字の動きが結びつかない。従業員エンゲージメントスコアは、測る前に「何と並べて見るか」を決めたときだけ、施策の効果検証に使えます。
この記事では、厚生労働省・経済産業省・内閣官房・スポーツ庁という4つの公的資料がエンゲージメントをどう扱っているかを整理したうえで、測る・つなぐ・動かすの3段階に分けて、社内のスポーツ施策の効果をスコアで検証する手順をまとめます。
従業員エンゲージメントスコアとは|活力・熱意・没頭を数値にした指標
従業員エンゲージメントスコアとは、仕事に向かうエネルギーの強さを、活力・熱意・没頭という3つの下位尺度で数値にした指標です。「会社をどう評価しているか」を聞く満足度調査とは、質問の向きがそもそも違います。
厚生労働省は令和元年版の労働経済の分析で、この概念を「ワーク・エンゲイジメント」として正面から取り上げ、第Ⅱ部第3章をまるごと「働きがい」の分析に充てました。国の白書が章を割いて扱った時点で、これは一時的な流行語ではなく、労働政策の土俵に乗った指標になっています。
スコアの中身は3つの下位尺度でできている
活力は仕事中に高い水準のエネルギーを保てている状態、熱意は仕事に誇りとやりがいを感じている状態、没頭は仕事に集中して時間が早く過ぎる状態を指します。測定にはユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)が国際的に広く使われ、17項目の版と、設問を絞った短縮版があります。
3要素に分かれていることには実務上の意味があります。総合点が同じ60点でも、熱意だけが低い組織と没頭だけが低い組織では、打つべき手がまったく変わるからです。
満足度調査と併用すると打ち手の精度が上がる
満足度は「与えられたものへの評価」を測るので、待遇改善には反応しますが、仕事そのものへの向き合い方は見えません。一方でエンゲージメントスコアは、業務設計や上司との関係といった日々の仕事の中身を映します。ウェルビーイング施策の全体設計を考えるときも、この2つを分けて持っておくと、どの施策がどの数字に効いたのかを後から追えます。
(参考)令和元年版 労働経済の分析 第Ⅱ部第3章第1節 ワーク・エンゲイジメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について – 厚生労働省
Q. 従業員エンゲージメントスコアと従業員満足度はどう違いますか?
満足度は会社や待遇への評価を聞く指標で、エンゲージメントスコアは仕事に向かうエネルギーの強さを聞く指標です。待遇に満足していても仕事への熱意は低い、という状態は普通に起こります。施策の効果検証では、この2つを分けて持っておくほうが原因を特定しやすくなります。
公的資料はエンゲージメントをどう扱っているか|4つの物差し
エンゲージメントは、いまや民間のサーベイ会社だけのものではありません。厚生労働省・経済産業省・内閣官房・スポーツ庁の4者が、それぞれ別の角度からこの指標を制度に組み込んでいます。自社のスコアをどの文脈に置くかは、この4つを見比べてから決めると迷いません。
| 資料・制度 | 発行元 | エンゲージメントの扱い方 |
|---|---|---|
| 令和元年版 労働経済の分析 | 厚生労働省 | ワーク・エンゲイジメント(活力・熱意・没頭)を白書の分析軸に据えた |
| 人材版伊藤レポート2.0(2022年5月) | 経済産業省 | 従業員エンゲージメントを人材戦略の5つの共通要素の1つに位置づけた |
| 人的資本可視化指針(改訂版・2026年3月23日) | 内閣官房・金融庁・経済産業省 | エンゲージメントを含む人的資本情報を投資家に開示する考え方を整理 |
| スポーツエールカンパニー2026(2026年1月30日) | スポーツ庁 | 従業員のスポーツ実施率70%以上を「+認定」の条件として外部基準にした |
出典:厚生労働省・経済産業省・内閣官房/金融庁/経済産業省・スポーツ庁の各公表資料をもとに、Human Soar編集部が2026年9月に整理。
厚生労働省|白書が章を割いて扱った働きがいの指標
労働経済の分析は、人手不足の下でどう働くかという問題意識から「働きがい」を取り上げ、ワーク・エンゲイジメントと定着率や離職率との関係を扱いました。国が概念の定義と測り方の出発点を示した資料なので、社内提案の前提づくりに使いやすい1本です。
経済産業省|人材戦略の5つの共通要素の1つに置いた
人材版伊藤レポート2.0は、人的資本経営を実践するための枠組みとして3つの視点と5つの共通要素を示しました。従業員エンゲージメントはその共通要素の1つで、動的な人材ポートフォリオやリスキルと同列に並んでいます。エンゲージメントを「福利厚生の満足度」ではなく「経営戦略に連動する変数」として扱う根拠になります。
内閣官房|2026年の改訂で開示の考え方が整理し直された
人的資本可視化指針は2022年8月に公表され、2026年3月23日に改訂版が出ました。改訂版では、経営戦略と人材戦略の連動をどう指標で示すかという点が整理され、開示事例も付録として公表されています。上場していない企業でも、採用広報や金融機関との対話で同じ整理が使えます。
スポーツ庁|スポーツ実施率70%という外から見える基準がある
スポーツエールカンパニーは、従業員のスポーツ活動の促進に取り組む団体を認定する制度で、2026年は過去最多の1,635団体が認定されました。7回以上の認定でシルバー、5回以上でブロンズという区分もあり、継続性まで見える形になっています。エンゲージメントスコアが社内でしか通用しない数字なのに対し、こちらは社外と比べられる数字だという点が実務では効きます。
あわせて読みたいスポーツで高める従業員エンゲージメント実践法›
(参考)人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0) – 経済産業省
(参考)「人的資本可視化指針」の改訂について(令和8年3月23日) – 内閣官房
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定(令和8年1月30日) – スポーツ庁
Q. 従業員エンゲージメントスコアの平均値は公表されていますか?
企業がそのまま横並びで比べられる全国平均は、公的機関からは公表されていません。代わりに使えるのが、スポーツ庁がスポーツエールカンパニーの「+(プラス)認定」の条件にしている従業員のスポーツ実施率70%以上のような、外から見える明確な基準です。自社の前回値と、この種の公開基準の2つを比較対象にします。
第1段階|測る|設問と頻度と比較単位を先に決める
測る段階でやることは、設問・頻度・比較単位の3つを先に固定することです。ここを決めずにサーベイを回すと、数字は集まるのに「前回と比べられない」「部署ごとに割れない」という壁に必ずぶつかります。
設問は既存尺度から選んで自作しない
設問を自社で一から作ると、その年の言い回しに引っ張られて、翌年に同じ質問が使えなくなります。UWESのような確立した尺度から必要な項目を選び、文言は動かさないのが基本です。独自の設問を足したい場合は、既存尺度の項目とは別ブロックに分けて、集計も分けます。
頻度は年1〜2回に抑えて回答率を守る
月次で聞けば精度が上がるわけではありません。回答する側の負担が増えると、深く考えずに真ん中を選ぶ回答が増え、かえって差が見えなくなります。年1〜2回を本調査とし、設問を絞ったパルスサーベイを補助的に置く形が運用しやすい構成です。
比較単位は部署と勤務形態まで割っておく
全社平均だけを見ていると、打ち手を当てる場所が決まりません。集計の段階で部署×勤務形態まで割っておくと、たとえば同じ部署でも正社員とパートタイム労働者でスコアが割れている、といった構造が見えます。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査でも、強いストレスを感じる労働者の割合は正社員74.6%に対してパートタイム労働者43.5%と、就業形態で大きく開いています。
チームビルディング研修の効果測定を設計するときも、この比較単位の決め方がそのまま使えます。
(参考)令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
Q. 測定方法として、サーベイはどのくらいの頻度で回すのが現実的ですか?
年1〜2回が現実的です。頻度を上げるほど回答率が落ち、施策を打ってから結果が出るまでの時間も足りなくなります。月次のパルスサーベイを併用する場合は、設問項目を3〜5問に絞り、本調査とは役割を分けて運用します。
第2段階|つなぐ|スポーツ施策の参加率をスコアと同じ単位で並べる
つなぐ段階の目的は、スコアの隣に置く「行動の数字」を用意することです。スコアだけでは、上がった下がったの理由がどこにもありません。社内のスポーツ施策は、参加率という形で行動を数えられるので、スコアと突き合わせる相手として扱いやすい施策です。
ポイントは、参加率をスコアとまったく同じ部署単位・同じ時点で集計することです。全社の参加率と部署別のスコアを並べても、対応がとれません。
3段階を1枚にすると抜けている工程が見える

多くの組織でつまずくのは、測る段階から動かす段階へ一気に飛ぼうとするところです。つなぐ工程がないまま「スコアが低いので研修をやります」と決めてしまうと、研修後にスコアが動いても、研修のおかげなのか別の要因なのかを説明できません。
真ん中の工程は、難しい分析ではありません。部署ごとに参加率とスコアを並べた一覧を作るだけでも、相関が強い部署と弱い部署の差が見えてきます。
スポーツ実施率を使うと社外の基準と比べられる
社内の参加率に加えて、スポーツ実施率を同時に取っておくと比較の幅が広がります。スポーツ庁の認定制度が70%以上を1つの区切りにしているため、自社の数字がどのあたりに位置するのかを社外基準で語れるからです。認定団体へのアンケートでは、職場のコミュニケーションが良くなったという回答のほか、休職率が減った、採用の志望者数が増えたという回答も挙がっています。
実施率を上げる打ち手として使いやすいのが、参加者名簿がそのまま残る形式の施策です。社内部活動制度のように継続参加が記録される仕組みなら、単発イベントより参加率の精度が上がります。
あわせて読みたいスポーツでワークエンゲージメントを高める方法›
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定(令和8年1月30日) – スポーツ庁
第3段階|動かす|スコアが低い部署から打ち手を当てる
動かす段階では、全社一律の施策をやめて、スコアが低い部署から順に打ち手を当てます。全社研修は「やった」という記録は残りますが、どこに効いたのかが分からないまま終わりがちだからです。
打ち手を選ぶときの材料として、すでに社内にあるデータをもう1つ足せます。ストレスチェックの集団分析です。
ストレスチェックの集団分析と同じ単位で重ねる
厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は63.2%で、ストレスチェックを実施した事業所のうち結果を部や課ごとに分析したのは75.4%にのぼります。多くの組織には、部署単位の職場環境データがすでに存在しているわけです。
ところが同じ調査では、分析結果を活用した事業所のうち、管理監督者向けまたは労働者向けの研修の実施につなげたのは22.6%にとどまります。集計までは終わっているのに、そこから打ち手に変換する工程が落ちている組織が多いという状態です。エンゲージメントスコアと同じ部署単位で重ねれば、この眠っているデータがそのまま打ち手の根拠になります。
打ち手は1部署1施策に絞って効果を切り分ける
同じ部署に研修と制度変更と面談強化を同時に投入すると、次回スコアが上がっても、どれが効いたのか分かりません。1部署につき主となる施策を1つに絞り、次の測定までは変えないのが、効果検証としては素直な進め方です。
もう1つ決めておきたいのが、何をもって成功とするかの線です。人事のKPIと評価フレームの考え方と同じで、目標値を先に置いてから施策を始めると、途中で基準がぶれません。
(参考)令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省
Q. スコアが下がった部署には、まず何をすればよいですか?
設問項目ごとの内訳を見て、どの項目が下がったのかを特定するところから始めます。ストレスチェックの集団分析と同じ部署単位で並べると、業務量の問題なのか職場の関係性の問題なのかを切り分けやすくなります。
まとめ|従業員エンゲージメントスコアを効果検証に使うための要点
従業員エンゲージメントスコアは、単体では「上がった・下がった」しか言えない数字です。並べる相手を決めて初めて、施策の良し悪しを語れる指標に変わります。この記事の要点を整理します。
- スコアは活力・熱意・没頭の3要素に分けて保持し、総合点だけで判断しない
- 設問は既存尺度から選び、頻度は年1〜2回、比較単位は部署×勤務形態まで割っておく
- スポーツ施策の参加率やスポーツ実施率を、スコアと同じ部署単位・同じ時点で並べる
- ストレスチェックの集団分析を同じ単位で重ね、打ち手は1部署1施策に絞る
- 社外と比べたいときは、スポーツ実施率70%という公開基準を物差しとして使う
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