日本の従業員エンゲージメントは低く、ギャラップの2025年調査で「熱意ある社員」はわずか8%でした。向上施策は「対話・承認・成長・健康・つながり」の5つの型から目的に合わせて選ぶのが基本で、スポーツ庁の調査では、運動・スポーツの取組がある職場ほど週1回以上の運動実施率が23.8ポイント高く出ています。
サーベイのスコアは去年と横ばい。1on1も表彰も始めたのに、会議室の空気はあまり変わらない。そんな手応えのなさを感じている人事・経営の方は少なくないはずです。原因の多くは、施策の量ではなく「何を狙う施策なのか」が整理されないまま増えていくことにあります。
この記事では、日本の現在地を数字で確認したうえで、施策を5つの型に分け、スポーツを使った施策が他の型とどう違うのかを公的調査の数字で読み解きます。最後に、中小企業でも回せる3ステップの導入手順までまとめます。
日本の従業員エンゲージメントは8%|数字の読み方と施策が必要な理由
結論から言うと、日本は「熱意ある社員」の割合が国際比較で低い水準にあり、施策で底上げする余地が大きい国です。米国の調査会社ギャラップが2025年の1〜12月に集めたデータでは、日本の従業員のうち「エンゲージ(熱意ある)」は8%、「エンゲージしていない」は71%、「積極的に不熱心」は21%でした。東アジア平均は18%、世界平均は20%です。
数字の見方で押さえたいのは、「71%が不満を持っている」わけではない点です。「エンゲージしていない」は、大きな不満はないものの仕事に心が向いていない状態を指します。つまり、辞める人を減らす対策だけでは足りず、「普通に働いている人」の意欲をどう動かすかが論点になります。
ストレス面では、ギャラップの同調査で「前日にストレスを多く感じた」と答えた日本の従業員は39%で、世界平均40%、東アジア平均46%とほぼ同水準でした。日本の課題は、ストレスの強さよりも「仕事への熱意の低さ」にあると読めます。
なお、ここで使う「従業員エンゲージメント」は、会社や組織に対する愛着と貢献意欲を指します。個人が仕事に没頭する状態を指す「ワークエンゲージメント」とは測る対象が違うため、施策を考えるときは分けて見ると打ち手がぶれません。ウェルビーイング全体の枠組みはウェルビーイングの考え方で、ギャラップ流の捉え方はギャラップのウェルビーイング5要素で整理しています。
(参考)State of the Global Workplace 2025|Japan(国別データ) – Gallup
Q. 従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントは何が違いますか?
従業員エンゲージメントは会社や組織への愛着と貢献意欲を指し、ワークエンゲージメントは仕事そのものへの活力・熱意・没頭を指すのが一般的です。前者は組織単位、後者は個人の仕事単位で測ります。施策を考えるときは両方を分けて見ると、打ち手を選びやすくなります。
施策は5つの型で選ぶ|目的別の使い分け
施策は「何を動かしたいか」で5つの型に分けると選びやすくなります。ここで示す分類は、現場でよく使われる施策を目的別に整理したHuman Soarの整理であり、特定の調査結果ではありません。型ごとに狙いと始めやすさが違うため、課題が見えていない段階では、準備が軽い型から1つだけ試すのが現実的です。
| 型 | 動かしたいもの | 代表的な施策 | 中小企業での始めやすさ |
|---|---|---|---|
| ①対話型 | 上司との信頼・納得感 | 1on1、サーベイ後の面談 | 高い(費用はほぼ時間のみ) |
| ②承認型 | 「見られている」実感 | 感謝カード、表彰、ピアボーナス | 高い |
| ③成長型 | 仕事の意味・伸びしろ | 研修、挑戦的な配属、副業の許可 | 中(設計に手間) |
| ④健康型 | 体調・活力・集中力 | 運動の時間内実施、歩数企画、健康経営 | 中(参加率の設計が要) |
| ⑤つながり型 | 部署を越えた関係 | 社内部活動、運動会、チーム対抗企画 | 中(運営担当が要) |
出典:Human Soarによる整理(施策を目的別に分類したもの。効果の大きさを比較した調査結果ではありません)
①対話型|上司との信頼と納得感を動かす
1on1やサーベイ後の面談は、費用がほぼかからず、すぐに始められる型です。ただし、頻度だけを決めて中身を決めないと、業務の進捗確認で終わってしまいます。「仕事で気になっていること」「次に挑戦したいこと」の2点を毎回必ず聞くなど、問いの型を決めておくと機能しやすくなります。
②承認型|「見られている」実感を動かす
感謝カードや表彰、同僚同士で少額のポイントを送り合うピアボーナスは、日々の貢献を可視化する型です。評価制度と違って即時性があるのが強みです。一方で、表彰が一部の目立つ人に偏ると逆効果になるため、全員が対象になる観点(支援・改善・挑戦など)を複数用意するのが安全です。
③成長型|仕事の意味と伸びしろを動かす
研修や挑戦的な配属は、効果が出るまで時間がかかる分、仕事の意味づけに直結します。研修を人的資本への投資としてどう位置づけるかは、人的資本投資とはで詳しく整理しています。まず「誰の、どのスキルを、いつまでに」を言語化してから研修を選ぶと、受けっぱなしを防げます。
④健康型|体調と活力を動かす
運動を就業時間内に取り入れる、歩数企画を行うといった施策は、体調と集中力を支える型です。次の章で扱う公的調査では、運動の取組がある職場で運動習慣とウェルビーイングが高い傾向が示されています。運動とワークエンゲージメントの関係は、別の記事でも掘り下げています。
あわせて読みたいスポーツでワークエンゲージメントを高める方法›
⑤つながり型|部署を越えた関係を動かす
社内部活動やチーム対抗企画は、普段接点のない人同士が同じ目標に向かう機会をつくる型です。会議の場より役職の壁が低くなり、相談しやすい関係が生まれやすくなります。運営担当と予算の線引きを最初に決めておくと、数年続く制度になりやすいです。
あわせて読みたい社内部活動制度の導入方法|従業員エンゲージメントと採用に効く›
Q. 中小企業は従業員エンゲージメント向上施策を何から始めればよいですか?
まず現状を測ることから始めます。数問のパルスサーベイと面談で課題を1つに絞り、1on1や就業時間内の短い運動企画など、準備の軽い型を1つだけ試すのが現実的です。複数の施策を同時に始めると、どれが効いたのか分からなくなります。
運動の取組がある職場は実施率が23.8ポイント高い|スポーツ庁調査の読み方
健康型・つながり型の根拠として使えるのが、スポーツ庁の世論調査です。令和6年度の調査(20歳以上39,076人・2025年3月公表)では、勤務先に「運動・スポーツを活用した取組」がある人の週1日以上のスポーツ実施率は70.1%、ない人は46.3%でした。差は23.8ポイントで、取組がある職場の人は約1.5倍の割合で運動していることになります。
| 区分 | 取組あり | 取組なし | 差(ポイント) | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 70.1% | 46.3% | 23.8 | 約1.51倍 |
| 男性 | 73.2% | 48.9% | 24.3 | 約1.50倍 |
| 女性 | 62.7% | 43.3% | 19.4 | 約1.45倍 |
出典:スポーツ庁「令和6年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」の公表値をもとに、差と倍率をHuman Soarが算出(週1日以上のスポーツ実施率・有職者)
全体|差は23.8ポイントで取組ありの回答は少数派
全体の差は23.8ポイントでした。回答数を見ると、取組がある側は4,509人、ない側は20,764人で、約4.6倍の開きがあります。多くの職場にはまだ、運動を促す仕組みがない状態です。施策としては、伸びしろがそれだけ大きいと言えます。
充実感・幸福感の10点満点のスコアでも、取組がある人は7.3点で、取組がない人(6点台)を上回りました。ただしこれは職場に取組があることと、運動やウェルビーイングが高いことの関連を示すもので、取組が原因とは断定できません。運動好きの人が多い会社ほど取組を作りやすい、という逆の流れも考えられます。
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(参考)令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します – スポーツ庁
(参考)令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」結果概要 – スポーツ庁
男性|取組ありで73.2%で差は最大の24.3ポイント
男性は取組がある職場で73.2%、ない職場で48.9%と、差が3区分で最も大きく出ました。取組が運動習慣を後押ししやすい層だと読めます。
女性|取組があっても男性より10.5ポイント低い
女性は取組がある職場でも62.7%で、同じ条件の男性(73.2%)より10.5ポイント低くなっています。取組の有無だけでなく、女性が参加しやすい時間帯や種目になっているかが設計の分かれ目になります。昼休みの短いストレッチや、更衣やシャワーを前提にしない歩数企画など、参加の負担が小さい形が選択肢になります。
Q. スポーツが苦手な社員がいても、運動の施策は意味がありますか?
意味はあります。競技ではなく、歩数や就業時間内のストレッチなど、参加のハードルが低い形にすれば、運動が苦手な社員も参加できます。強制せず、任意参加で楽しめる設計にすることが大切です。
取組の種類数と経営のコミットが分かれ目|令和7年度のスポーツ庁調査
施策を始めた後に差がつくのは、取組の種類の多さと経営の関与です。スポーツ庁が令和7年度に行った「職場における運動・スポーツの取組がもたらす影響に関する調査研究」では、「Sport in Lifeコンソーシアム」の会員3,279社を対象に2025年11〜12月に事業者調査を実施し、497社(有効回答率15.2%)と従業員10,062人から回答を得ています。
報告書は、職場での取組の種類が多いほど、スポーツ実施率や運動の習慣化と関連していると整理しています。取組を利用している従業員は、週1日以上運動する確率や今後取り組みたい確率が高く、利用する種類が多いほどその傾向が強まります。
もう一つの結果は、経営者の関与です。経営者の課題認識やコミットメント、とくに人員・予算の割り当てと成果評価がしっかりしている事業者ほど、実施率や習慣化の割合が高い傾向でした。定量評価をしている事業者でも同じ傾向が出ています。単発のイベントで終わらせず、数字で追い、見直す体制をつくる会社ほど定着しています。
同じ調査のチラシには、事例も載っています。歩数アプリの競争に写真コンテストを組み合わせて、交流と一体感を生んだ企業や、不規則勤務のドライバーに就業時間内のヨガ・ストレッチを提供して、傷病による欠勤の減少や定着につながったとされる企業の取り組みです。いずれも、担当部署と経営層の後押しを置き、参加は任意で楽しめる形にしている点が共通しています。
制度面では、スポーツ庁が従業員のスポーツ活動を促進する企業を認定する「スポーツエールカンパニー」があります。2025年3月12日時点の認定は1,498社で、従業員の週1回以上のスポーツ実施率が70%以上の企業には「+(プラス)」の呼称が付きます。健康経営の評価とどう結びつけるかは、健康経営度調査スコアを上げる方法が参考になります。
(参考)職場における運動・スポーツの取組がもたらす影響に関する調査研究(令和7年度) – スポーツ庁
(参考)職場における運動・スポーツの取組がもたらす影響に関する調査研究 報告書(令和7年度) – スポーツ庁
(参考)スポーツエールカンパニー2025の認定について(追加認定) – スポーツ庁
中小企業でも回せる導入3ステップ|測る・試す・見直す

導入は「測る・試す・見直す」の3ステップで進めます。前の章の調査で見たとおり、続く会社は経営の関与と定量評価をセットにしているので、この3つを小さく回すだけでも差が出ます。
ステップ1|課題を1つに絞って現状を測る
最初にやるのは、サーベイと面談で課題を1つに絞ることです。「上司と話せていない」が最多なら対話型、「他部署の顔が分からない」ならつながり型といったように、課題から型を選びます。同時に、施策前の数値として、サーベイのスコアと、運動施策を使うなら週1回以上運動している社員の割合を記録しておきます。
ステップ2|準備の軽い施策を1つだけ小さく試す
選んだ型の施策を、1チームか1か月の範囲で試します。運動施策なら、昼休みに10分のストレッチ、歩数企画の月1回開催など、運営担当1人で回せる規模から始めます。参加は任意にして、続けやすさを優先します。担当者と経営層の窓口を最初に決めておくと、予算と時間の確保で止まりません。
ステップ3|同じ指標で比べて残す施策を決める
試した後は、ステップ1で測った指標を同じ方法で測り直し、参加率とあわせて確認します。数値が動いた施策は拡大し、動かなかった施策は設計を直すか止めます。結果は経営層に定期的に共有し、人的資本開示でウェルビーイングをどう示すかの指標にも使えるよう、同じ形式で蓄積しておくと後で役立ちます。
Q. エンゲージメント向上施策の効果は何で測ればよいですか?
施策の前後で同じ指標を比べます。サーベイのスコアに加えて、参加率、週1回以上の運動実施率、離職率、欠勤の件数など、施策の目的に合う数値を1〜3個決めて、同じ方法で追い続けます。スポーツ庁の調査でも、定量評価を行う事業者ほど実施率が高い傾向でした。
まとめ|施策は型で選び運動施策は数字で追う
ここまでの内容を、人事・経営の現場で使える形に絞って振り返ります。
- 日本の「熱意ある社員」は8%(ギャラップ2025)。辞める人を減らすだけでなく、普通に働いている71%の意欲をどう動かすかが論点です。
- 施策は対話・承認・成長・健康・つながりの5つの型に分け、課題から選びます。最初は準備の軽い型を1つだけ試します。
- 運動・スポーツの取組がある職場は、週1回以上の運動実施率が70.1%と、ない職場の46.3%を23.8ポイント上回ります。ただし因果関係までは断定できません。
- 取組の種類の多さと、経営の人員・予算の関与、定量評価が定着の分かれ目です。
- 導入は「測る・試す・見直す」の3ステップ。同じ指標で前後を比べ、残す施策を決めます。
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