パリ2024オリンピックのクライミング男子複合で日本人初の銀メダルを獲得した安楽宙斗選手は、力任せの登り方を捨て、自分の動作特性を客観的に分析することで苦手パートを克服してきました。強さの土台は才能ではなく、週4回6時間、テーマを決めて自分の動きを検証し続けるという地味な自己分析の習慣にあります。この記事では、その具体的な方法を解説します。
パリ五輪で成し遂げた日本男子クライミング初の銀メダル
2024年のパリ・オリンピック、クライミング男子複合の決勝で、安楽宙斗選手は得意のボルダーで1位となり、最終種目のリードへとコマを進めました。ボルダーの成績が下位の選手からスタートするリードでは、安楽選手が最終競技者となる緊張の展開でしたが、見事に日本男子クライミング史上初となる銀メダルを獲得しました。
本人は試合後に「いろんなことが完璧に調整できているわけじゃなくて、中途半端で終わってしまった」と振り返っていますが、17歳という若さでの快挙は、その後のキャリアの大きな土台になりました。
力に頼らない登り方が生んだ、大きな舞台での苦手パート
安楽選手は小学校2年生でクライミングを始めましたが、当時は体力がなかったため、力を使う登り方を最初から避けてきました。この感覚が体に染みついた結果、大きな動きや腕の力だけで体を支える必要があるパートを苦手とするようになりました。パリ五輪のリードにはそうしたパートが多く、迷いや行きつ戻りつが生まれ、体力を消耗してしまったといいます。
重要なのは、安楽選手がこの弱点を「才能の限界」ではなく「分析すれば直せる技術的な課題」として捉え直した点です。オリンピックの2か月ほど前から、本番直前にもかかわらず自分のスタイルを改善しようと試みたことが、その後の成長曲線を大きく変えました。
安楽宙斗のパリ五輪複合で分かれた「ボルダー」と「リード」の明暗
クライミングの複合種目は、性質の異なる複数種目を同じ選手がこなす競技だ。国内トップクライマーには楢崎智亜選手のパワー型や森秋彩選手の次世代型など様々なスタイルがあるが、ここではパリ五輪本番で安楽選手自身の成績・特徴が種目によってどう分かれたかを整理する。
| 種目 | 安楽宙斗選手の成績・特徴 |
|---|---|
| ボルダー | 決勝で1位。力に頼らず動作特性を分析して弱点を埋めるスタイルの強みが最大限に発揮された |
| リード | 大きな動きや腕力を要するパートを苦手とし、本番の2か月ほど前から技術改善に着手した |
表:パリ2024オリンピックの結果・本人の発言をもとに筆者が種目別に整理
ボルダー|力に頼らない登り方の強みが最大限に出た種目
決勝のボルダーで1位となった安楽選手は、小学校2年生でクライミングを始めて以来、力を使う登り方を避けてきた経験を強みに変えている。感覚的な強さよりも、自分の動作特性を分析して弱点を埋めるスタイルが最も機能した種目といえる。
リード|苦手パートを本番直前に立て直した種目
一方のリードでは、大きな動きや腕の力だけで体を支える必要があるパートを苦手としており、迷いや行きつ戻りつから体力を消耗してしまった。それでも安楽選手は、この弱点を「才能の限界」ではなく「分析すれば直せる技術的な課題」として捉え直し、オリンピックの2か月ほど前から本番直前にもかかわらずスタイルの改善に踏み切った。
週4回6時間の練習に込められた「量より密度」の設計
安楽選手の練習は、ただ長時間登り込むものではありません。毎回「今日はこのテーマをやる」と決めてから練習に入り、疲労が抜けるまでではなく、集中力が保てる範囲で区切るという設計になっています。
テーマを決めて集中するというトレーニング哲学
「一回一回を集中することが大事」と語る安楽選手は、週4回、5〜6時間という練習時間の中で、常に自分でテーマを設定しています。これは、なんとなく体を動かす練習と、狙いを持った練習とでは、同じ時間でも得られる気づきの量がまったく違うという考え方に基づいています。
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体幹・脚の瞬発力・肩を補う筋力トレーニングの中身
クライミングの練習と並行して、週1〜2回の筋力トレーニングも行っています。特に重視しているのは体幹・脚の瞬発力・肩の3部位で、プランクやバックランジ、加重した懸垂などを組み合わせ、自分に足りない部分だけを補う設計にしています。
(参考)安楽宙斗(クライミング)「自分が納得する登りで1番。それが本当の強さだと思う」 – Tarzan Web
Q. クライミングの練習で最も重要なのはどんなことですか?
安楽選手の例では、練習量そのものより「今日は何を確認するか」というテーマ設定が重要です。漠然と登るのではなく、苦手動作を狙って検証することで、同じ練習時間でも成長速度が変わります。
動作の自己分析サイクル|安楽選手の思考プロセスを図解する
安楽選手のコメントを整理すると、その改善プロセスには一定の型があることが見えてきます。感覚だけに頼らず、気づき・測定・原因特定・修正・検証という5段階を繰り返す独自のサイクルです。

図:違和感に気づいてから練習で検証するまでの自己分析サイクル
このサイクルの起点は「違和感に気づく」ことです。安楽選手の場合、リードの特定パートで感じた「行きつ戻りつ」という感覚がその入口でした。次に、その動きを動画などで客観的に確認し、苦手な動作を絞り込みます。原因が特定できれば、意識的に動きを変えて練習し、最後に試合や別の練習でその修正が機能するかを検証します。このサイクルを回し続けることが、感覚だけに頼る選手との差を生んでいます。
Q. 自己分析はクライミング以外の競技にも応用できますか?
はい。気づく・測る・特定する・修正する・検証するという5段階のサイクルは、動作の再現性が問われる競技であれば種目を問わず応用できる考え方です。
企業のトレーニング・人材育成にも応用できる自己分析の視点
安楽選手の自己分析のプロセスは、スポーツの現場に限った話ではありません。企業の人材育成や研修設計を担当する立場から見ても、参考にできる要素が多く含まれています。
「感覚」を「言語化」して検証可能にする
安楽選手が「力を使う登り方は苦手」と明確に言語化していたように、ビジネスの現場でも「なんとなく苦手」を放置せず、具体的な言葉に落とし込むことで初めて改善の対象になります。研修担当者が現場社員の課題をヒアリングする際も、抽象的な感想で終わらせず、具体的な行動レベルまで掘り下げる姿勢が重要です。
卓球でもデータを言語化して戦術に落とし込む選手がいます。及川瑞基の思考する卓球|データ分析で掴んだ初優勝の記事でも、感覚を数値・言葉に変換する重要性が語られています。
苦手を隠さず対象化するマネジメントへの応用
安楽選手は本番直前にもかかわらずスタイル改善に踏み切りましたが、これは「今のままでは勝てない」という課題を先送りしなかったからこそできた決断です。組織のマネジメントにおいても、目先の成果を優先して課題を先送りするのではなく、早い段階で対象化し、修正のサイクルに乗せることが長期的な成果につながります。
集中力のマネジメントという観点では五十嵐カノアのメンタル集中法|本番で崩れない考え方も、本番でのパフォーマンスを支える考え方として参考になります。また、長期的なキャリア形成という視点では陸上界のレジェンド為末大に学ぶ、諦める力とキャリア選択の哲学も示唆に富みます。
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Q. 企業研修に安楽選手の自己分析法を取り入れるにはどうすればよいですか?
「何が苦手か」を具体的な行動レベルまで言語化する時間を研修に組み込むことがポイントです。抽象的な反省ではなく、動画やログなど客観的な材料をもとに検証する仕組みを作ると再現性が高まります。
まとめ|自分の動作を知ることが最速の成長ルート
- 安楽宙斗選手はパリ五輪男子複合で日本人初の銀メダルを獲得した
- 力に頼らない登り方が染みついていたことで苦手パートが生まれたが、本番直前でもスタイル改善に挑んだ
- 週4回6時間の練習は「量より密度」を重視し、毎回テーマを決めて集中している
- 気づく・測る・特定する・修正する・検証するという自己分析サイクルが成長を支えている
- この視点は企業の人材育成やマネジメントにも応用できる
Q. 安楽宙斗選手の次の目標は何ですか?
リードジャパンカップや世界選手権のボルダーでの優勝、そして次のオリンピックでの金メダルを目標に掲げています。明確な目標を持つようになった変化も、自己分析による成長の一つです。
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