ロンドン、リオ、東京、パリと4大会連続でオリンピックに出場している飯塚翔太選手。リオ五輪では男子4×100mリレーで銀メダルを獲得し、34歳となった現在も自己ベスト(20秒11)の更新を目指す短距離ランナーは、どのような食事管理でコンディションを支えてきたのか。筆者は本人のインタビューを基に、子ども時代から現在までの食への向き合い方を追う。
親の教育で身についた好き嫌いのない食生活
飯塚選手は中学生の頃には身長が180cm近くあったというが、子どもの頃は親が食事に厳しく、「嫌い」「美味しくない」と言えないような雰囲気だったという。頑張って食べているうちに、好き嫌いなく食べられるようになったそうだ。小学1〜2年生の頃は給食に慣れず、こっそり持ち帰った記憶もあるというが、3年生くらいからは2割増しくらいの量を食べるようになったと振り返っている。小学3年時に出場した競技会の100mで優勝したことがきっかけで陸上を始めた飯塚選手にとって、この時期に食べる量と習慣を身につけられたことは、その後の体格づくりの土台になったとみられる。
色の違う食材とタンパク質を意識した現在の食事
現在、食事に求めていることとして飯塚選手は「ちゃんとバランス良く食べること」を挙げ、いろんな色の食材を摂ることを意識しているという。タンパク質は不足しがちなため、多めに摂る意識をしているそうだ。
食べるタイミングにも気を配っており、お腹が空いている時間ができるだけ少なくなるように補食でカバーしているという。朝食は起きてすぐではなく30分ほどしてから食べ、練習後はできるだけ早めに食べる。夜は消化を考えて、寝る2時間半くらい前までに食べ終えるようにしているそうだ。基本的な栄養講習はジュニア時代から強化合宿などで受けてきたといい、個人的に知り合いに聞いたり自分で調べたりもしているという。
練習後すぐの補食が持つ意味
スポーツ栄養の分野では、運動直後はタンパク質の分解が高まる一方で合成もそれ以上に活発になり、筋肉へのアミノ酸の取り込みが増えるとされている。運動の30分後と就寝1〜3時間後は「筋肉づくりのゴールデンタイム」とも呼ばれ、成長ホルモンの分泌が盛んになって筋肉の修復が進むという。国際スポーツ栄養学会は、筋力向上を目指すアスリートに体重1kgあたり1日1.4〜2.0gのタンパク質摂取を推奨しており、摂取タイミングを等分に配分することも重要とされる。飯塚選手が語る「練習後はできるだけ早めに食べる」という習慣は、こうした知見とも整合的だ。
(参考)タンパク質の摂取タイミングと筋力などへの影響を調査 – スポーツ栄養Web(日本スポーツ栄養協会)

疲労回復のためのきのこ活用
飯塚選手は子どもの頃からきのこをよく食べており、好きだったという。食べ方はソテーなどシンプルなものが多かったそうだ。きのこは疲労回復に使える食材のイメージがあるため摂取するようにしており、代表合宿などの研修でもきのこを摂るようによく言われるという。
お気に入りの料理としては、今もエリンギと舞茸のソテーを挙げている。炊き込みご飯やパスタにもきのこをよく入れており、炊き込みご飯にきのこを使うと多く食べられる点が気に入っているそうだ。カルシウムを効率よく摂るために、クリームパスタにきのこを使うこともあるという。
(参考)プロアスリートを支える食事に迫る。第57回 陸上競技・飯塚翔太選手インタビュー – きのこらぼ
試行錯誤とデータ管理が支えた4大会連続出場
飯塚選手は「走り」には正解がなく、自己ベストが出ても翌年はその走りが通用しなくなることがあると語る。そのため自身の走りや練習内容は毎年変えており、それが向上を続けられた要因だという。試行錯誤を続けて「引き出し」の数を増やしておくことで、不調からの脱出も早くなると考えている。
その土台になっているのが、日々の練習メニューと感想をスマホのエクセルに書き込む習慣だ。試合時にはより細かい情報も記録しており、体調を崩したときに対処法のヒントになるという。食事についても、こうした自己管理の姿勢が土台にあるからこそ、色の違う食材やタンパク質摂取のタイミングといった具体的な工夫を継続できているとみられる。
高校時代に故障が多く、リハビリ期間が長かったという飯塚選手は、その時間でトレーナーから体の動きを学べたことがプラスになったと語る。顧問から「本気で走るな」と教わり、力むと逆にタイムが落ちることを知ったことで、8割の力感を大切にする「リラックスした走り」を原点としてきた。リオ五輪の4×100mリレーでは、バトンパスのミスがありながらも山縣亮太選手と息を合わせて受け取り、桐生祥秀選手からケンブリッジ飛鳥選手へとつないで銀メダルを獲得している。長いキャリアのなかで技術と体調管理の両面を磨き続けてきたことが、34歳になった今も一線で走り続けられている要因といえるだろう。

初出場のロンドン五輪で学んだ準備の大切さ
2012年のロンドン五輪、初めてのオリンピックで飯塚選手は200m予選敗退という悔しい結果に終わっている。当時の強化委員長から「1回目はこんなもんだよ」と声をかけられたことを覚えているといい、有名選手を観客のような気持ちで眺めてしまい、勝負する気持ちを十分に出せなかったことを敗因として振り返っている。
この経験は、その後の4×100mリレーでの好走や、リオ五輪での銀メダル獲得にもつながる転機になった。試合直前まで平常心を保ち、普段の準備をそのまま発揮できるかどうかが結果を左右するという学びは、食事のタイミングや補食の管理といった日常的な準備を徹底する姿勢にも重なるものだ。国際大会という特別な舞台でこそ、練習と同じ生活リズムを保つ準備の積み重ねが問われることを、飯塚選手は身をもって経験してきたといえる。
ジュニア世代・大人ランナーへの食事アドバイス
競技を長く続けるためのアドバイスとして、飯塚選手はまず試行錯誤を大事にしてほしいと語る。あわせて自分のデータを取ることも勧めており、体調を崩したときの対処法のヒントになるという。周囲の若い選手が自身の記録に迫るパフォーマンスを見せることに悔しさを感じつつも、同世代の多くが引退するなかで「彼らの分も自分が頑張りたい」と語っており、闘争心を燃やし続ける姿勢が長い競技人生を支えている。
食事面では、食生活は子ども時代の環境で作られるとして、ジュニア世代から食事に気をつける習慣を身につけた方がよいとアドバイスする。本人は苦手なものを細かく砕いて食べるスタンスだといい、大人に対しても苦手な食材を工夫して食べ、バランスの良い食事を心がけてほしいと伝えている。
よくある質問
飯塚翔太選手はどんな食事を心がけているのか
色の違う食材を意識してバランス良く食べることに加え、不足しがちなタンパク質を多めに摂り、補食で空腹の時間を減らす工夫をしているという。
きのこはどのように取り入れているのか
疲労回復に使える食材のイメージから、エリンギや舞茸のソテー、炊き込みご飯、クリームパスタなど普段の料理に幅広く取り入れている。
食べるタイミングで気をつけていることは
朝食は起床後30分ほどしてから、練習後はできるだけ早めに、夜は消化を考えて就寝2時間半前までに食べ終えるようにしているという。
タンパク質はいつ摂るのが効果的なのか
運動直後や就寝前後は筋肉の修復が進みやすい「ゴールデンタイム」とされ、摂取タイミングを等分に配分することが推奨されている。
長く競技を続けるために大切にしていることは
走りに正解はないとして毎年練習内容を変える試行錯誤を重ね、練習メニューと感想を記録するデータ管理を体調管理のヒントにしているという。
まとめ
- 子どもの頃の食事教育により、好き嫌いのない食生活が土台として身についた
- 色の違う食材とタンパク質を意識し、補食で空腹の時間を減らす工夫をしている
- 運動直後や就寝前後は筋肉の修復が進みやすい時間帯とされ、タンパク質摂取のタイミングが重視される
- きのこは疲労回復に使える食材として、ソテーや炊き込みご飯、パスタで積極的に摂取している
- 練習内容と感想を記録するデータ管理の習慣が、試行錯誤と自己管理を支えている
- ジュニア世代へは「食生活は子ども時代に作られる」という視点でのアドバイスを送っている
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