「長野 実業団」で探すと、企業名を冠したチームの一覧はなかなか出てきません。長野県で企業とアスリートをつなぐ仕組みは、チームを丸ごと抱える形ではなく、県が間に入って個人を採用につなげる形で整備されているからです。
この記事では、長野県が運営するアスリート就職支援事業の中身、実際に採用した企業とアスリート、その背景にある2028年の国民スポーツ大会まで、県の公開資料で確認して整理します。
長野県はアスリートと企業のマッチングを県の事業としてやっている

長野県には「長野県アスリート就職支援事業」があります。アスリートが県内企業へ就職して競技を続けられるように、県がアスリートと企業のマッチングを支援する事業です。所管は観光スポーツ部の国スポ・全障スポ大会局競技力向上対策課です。
県は事業の趣旨をこう説明しています。県民がスポーツを身近なものと捉えるためには、県内を拠点に活躍するアスリートの存在とその積極的な活用が効果的である。地域の応援を受け活躍したアスリートが、引退後も引き続き指導者として地域に残り、技術や経験を地域に還元する好循環を生み出すことで、人口増に寄与し、スポーツによる元気な信州づくりへつなげていく——という組み立てです。
注目したいのは「引退後」と「人口増」が趣旨に明記されていることです。競技成績の向上そのものより、アスリートが県内に定着して指導者として残ることが目的に据えられています。企業から見れば、採用するのは選手であると同時に、将来の地域の指導者でもあるという位置づけになります。
企業側の手続きは電話または問い合わせフォームからの連絡で始まります。県が求人にかかわる情報を確認しながら企業情報シートを作成し、求職中のアスリートの情報を提供します。その後、日程を調整して面談や懇談会を行い、採用に至る流れです。
Q. 長野県アスリート就職支援事業とは何ですか?
アスリートが長野県内の企業へ就職して競技を続けられるよう、県がアスリートと企業のマッチングを支援する事業です。所管は観光スポーツ部国スポ・全障スポ大会局競技力向上対策課で、企業側は電話または問い合わせフォームから求人エントリーができます。
採用が決まった3人と、受け入れた3社
県は就職が決まったアスリートと就職先の企業を公開しています。掲載されているのは次の3人です。
| 競技 | 氏名 | 就職先 | 入社 |
|---|---|---|---|
| 陸上競技(400mハードル) | 川端 涼夏 | 松本土建株式会社 | 2018年4月 |
| ボート | 小島 広大 | RAKO華乃井ホテル | 2019年4月 |
| バレーボール | 石坂 ハスナヌ | シンコースポーツ株式会社 | 2020年4月 |
出典:長野県「就職決定アスリート情報」
3社のうち2社は、公共のスポーツ施設の指定管理を担う企業です。松本土建は指定管理コンソーシアムTOYBOXの代表企業として、2006年から長野県松本平広域公園など長野県・松本市・塩尻市の公園および体育施設を管理運営しています。シンコースポーツは南長野スポーツマネジメント共同事業体の代表企業として、2016年度から長野市の指定を受けて南長野運動公園のプール・体育館・野球場・球技場・テニスコートなどを運営しています。
これは偶然ではありません。施設運営は、競技経験がそのまま業務の中身になる数少ない仕事です。トレーニング指導、教室の講師、イベント運営といった業務は、現役選手の知識と時間の使い方に無理なく重なります。アスリート採用の受け皿として、この業種が成立しやすい理由がここにあります。
Q. どんな企業がアスリートを採用していますか?
県が公開している3件のうち、松本土建株式会社とシンコースポーツ株式会社は公共スポーツ施設の指定管理を担う企業です。もう1社はRAKO華乃井ホテルで、ボート選手が2019年4月に入社しています。
採用した選手は何をしているのか
県のリーフレットには、採用されたアスリート本人と受け入れ企業の双方のコメントが載っています。抽象論ではなく、具体的な業務が書かれているのが有用です。
陸上競技の川端涼夏さんは、松本土建の指定管理部に所属し、松本平広域公園の事業グループでイベント企画・運営やSNS発信などの広報活動を担当しています。あわせて総合型地域スポーツクラブ「skIpまつもと」の陸上教室で、週1回の講師も務めています。本人は「公園には老若男女、様々な人が来られますが、皆様が気持ちよく、楽しく過ごせる公園にしていきたい」と書いています。
バレーボールの石坂ハスナヌさんは、シンコースポーツの南長野運動公園でジムトレーナーとして施設利用案内やトレーニング指導を担当しています。2021-2022シーズン終了で現役を引退した後は、育成普及スタッフとして長野ガロンズの活動を支え、長野市の小学生にバレーボールを指導しています。
企業側のコメントも具体的です。松本土建からは「穏やかな接客で利用者からの評判も高く、感謝しています。仕事と陸上の両立は大変だと思いますが、両面で活躍してもらいたい」。シンコースポーツからは「地域の元バレーボールチームの選手ということで、お客様からも注目されております」との記載があります。
ここで見えるのは、競技実績そのものより、選手という肩書きが接客や指導の現場で機能しているという評価です。企業が採用で得ているのは、広告的な露出ではなく、現場の戦力と顧客からの注目の両方ということになります。
Q. 採用されたアスリートはどんな仕事をしていますか?
公開されている例では、公園の事業グループでのイベント企画・運営やSNS発信、地域スポーツクラブでの陸上教室の講師、運動公園でのジムトレーナーとしての利用案内・トレーニング指導などです。いずれも競技経験が業務内容と重なる職種です。
(参考)長野県アスリート就職支援事業リーフレット – 長野県
2028年の国民スポーツ大会が期限になっている

この事業には明確な期限があります。長野県で開催される第82回国民スポーツ大会・第27回全国障害者スポーツ大会、通称「信州やまなみ国スポ・全障スポ」です。
県のリーフレットは事業の狙いをこう書いています。2028年の長野国スポに向けて、県内の企業や事業所において仕事と競技活動の両立を目指すトップアスリートや指導者と、採用することで社員の一体感の醸成を期待する企業とをマッチングし、大会の成功と、その後のスポーツ振興を推進する——。
企業側のメリットとして県が挙げているのが「社員の一体感の醸成」である点は見逃せません。露出や広告効果ではなく、社内に向けた効果が先に書かれています。1人のアスリートを雇うことと、競技部を丸ごと抱えることの違いがここに出ています。
所管部署の名前も事情を物語っています。この事業を担当しているのは「国スポ・全障スポ大会局競技力向上対策課」で、大会準備の組織の中にアスリート就職支援が置かれています。県内企業に選手が就職することが、そのまま県の競技力向上策として扱われているということです。
企業スポーツへの関わり方は地域によって形が違います。神奈川県では企業が競技部をそのまま保有し、自治体が認定する形が中心ですが、長野では県が個人の就職を仲介する形になっています。
Q. なぜ長野県がアスリートの就職を支援しているのですか?
2028年の信州やまなみ国スポ・全障スポに向けた競技力向上と、大会後のスポーツ振興が目的です。アスリートが県内に定着し、引退後も指導者として地域に残る好循環をつくることが、県の趣旨として明記されています。
冬季競技は小学生から発掘するSWANプロジェクトがある

長野県はもうひとつ、冬季競技に特化した育成事業を持っています。「SWANプロジェクト」です。未来の冬季オリンピックメダリストを見出し、育成することを目的として、長野県・長野県教育委員会・長野県スポーツ協会などによる実行委員会が主催しています。
対象は小学校4・5・6年生で、種目経験の有無は問いません。募集種目はスピードスケート、スキー(アルペン・クロスカントリー・モーグル・スノーボード)、リュージュ、スケルトン、カーリングです。共通プログラムは長野市を中心会場として原則火曜日の19時から21時に行われ、参加料は無料です。
成果も公開されています。全国中学校体育大会での優勝者、世界ジュニア選手権での優勝者、ワールドカップ入賞者を出しており、北京オリンピック(2022年)とミラノ・コルティナオリンピック(2026年)にはそれぞれ修了生が出場しています。
企業にとって直接の接点は少ない事業ですが、長野県の冬季競技の選手層がどこから供給されているかを示す情報です。将来この層から、県内企業に就職して競技を続けるアスリートが出てくることになります。
Q. SWANプロジェクトとは何ですか?
未来の冬季オリンピックメダリストを発掘・育成する長野県の事業です。小学4〜6年生を対象に、スピードスケート、スキー各種目、リュージュ、スケルトン、カーリングを募集しており、参加料は無料です。修了生から北京2022とミラノ・コルティナ2026のオリンピック出場者が出ています。
県のスポーツ推進計画が示している数字
これらの事業の背景にあるのが「第3次長野県スポーツ推進計画」です。計画期間は2023年度から2027年度で、2025年3月に中間的な見直しとして改定されています。国スポ開催の前年度までがちょうど計画期間にあたります。
| 指標 | 実績 | 比較 |
|---|---|---|
| 成人の週1日以上のスポーツ実施率 | 60.8%(令和3年度) | 全国平均 56.4% |
| ジュニア選手の全中・インターハイ・国体少年の入賞数 | 254人・団体(令和4年度) | 目標 250人・団体以上 |
| 体育授業以外の週の運動時間が60分未満の中学生女子 | 18.2%(令和4年度) | 目標 20%以下 |
出典:長野県「第3次長野県スポーツ推進計画」
スポーツ実施率は令和3年度に初めて6割を超え、同年の全国平均を上回りました。ジュニアの入賞数も目標を達成しています。数字の上では、県のスポーツ振興は前進しています。
一方で、計画は課題も明記しています。県全体として人口が200万人を下回り、人口減少・少子高齢化が顕著化してきていること。少子化の進展や専門性のある指導者不足が加速していること。中学校の部活動を地域クラブ活動へ移行する必要があること——です。
アスリート就職支援事業の趣旨に「人口増に寄与する」と書かれている理由が、ここではっきりします。競技を続けたい若い人材が県外へ出ていかないようにすることが、人口政策としても位置づけられているということです。
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Q. 長野県のスポーツ実施率はどのくらいですか?
成人の週1日以上のスポーツ実施率は令和3年度で60.8%です。同年度の全国平均56.4%を上回り、県として初めて6割を超えました。
長野でアスリート採用を検討するときの3つの論点
1つめは、競技部を持つ形と個人を雇う形のどちらを取るかです。競技部を丸ごと抱えれば、チーム名に社名が入り対外的な露出が生まれます。個人を雇う形では露出は小さくなりますが、負担は比べものになりません。長野県の事業が想定しているのは後者で、企業側のメリットとして挙げられているのも「社員の一体感の醸成」という社内向けの効果です。
2つめは、業務の設計です。公開されている事例では、施設運営、教室の講師、イベント運営、広報といった、競技経験が業務にそのまま乗る職種が選ばれています。事務職や製造職に配属して練習時間だけ配慮する形と比べ、本人にも企業にも説明のつく組み立てになっています。採用を検討するなら、まず社内のどの業務が競技経験と重なるかを洗い出すことが出発点になります。
3つめは、引退後をどう扱うかです。県の趣旨には「引退後も引き続き指導者として地域に残り、技術や経験を地域に還元する」と書かれています。実際、公開事例の1人はすでに現役を引退し、同じ企業で育成普及スタッフとして働いています。採用時点で引退後の役割まで見通せていれば、選手生活の終わりが退職理由にならずに済みます。
問い合わせ先は長野県観光スポーツ部国スポ・全障スポ大会局競技力向上対策課です。求人エントリーは電話または県のサイトの問い合わせフォームから行えます。
チームへの協賛という関わり方を検討する場合は、協賛の目的を地域に置くか全国に置くかで選ぶ相手が変わります。埼玉県のように1社で複数の競技部を持つ企業がある地域とは、検討の前提が異なります。
Q. アスリートを採用したい企業はどこに問い合わせればよいですか?
長野県観光スポーツ部国スポ・全障スポ大会局競技力向上対策課が窓口です。県のサイトの「企業関係者のみなさんへ」のページから、電話または問い合わせフォームで求人エントリーができます。
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