ユニクロのエアリズムやスポーツブランドの高機能ウェアの多くは、実はアパレルメーカー自身ではなく「素材メーカー」が開発した繊維技術によって支えられています。東レ・帝人フロンティア・旭化成という3社は、この分野でスポーツ用品の裏側から機能性を提供し続けている代表格です。
本記事では、この「素材・OEM・繊維」業種で活動する3社を、各社の公式サイトの一次情報にもとづいて比較しながら、素材が製品になるまでの工程や、ブランドとの関わり方まで解説します。
素材・OEM・繊維業とは何か|スポーツ用品を陰で支える企業群
「素材・OEM・繊維」業とは、スポーツウェアやシューズ、用具に使われる機能性繊維・原材料を開発し、ブランドや製造工場に供給する企業群を指します。ナイキやアシックスといった完成品ブランドの名前は表に出やすい一方、その製品の吸湿速乾性やストレッチ性、防寒性を実現しているのは、多くの場合こうした素材メーカーの技術です。
スポーツ用品メーカーやアパレルブランドが「企画・デザイン・販売」を担うのに対し、素材メーカーは「原糸・繊維の開発」「機能加工」「生地の製造」という川上の工程を担当します。同じ業界内でも役割がまったく異なるため、スポーツビジネス全体を理解するうえで見落とされがちな存在といえます。
Q. スポーツ用の機能性素材とは何ですか?
汗を素早く発散させる吸湿速乾性や、伸縮性・接触冷感・防風性など、運動時の快適性を高めるために開発された繊維・生地のことです。東レや帝人フロンティア、旭化成といった素材メーカーが研究開発し、スポーツブランドの製品に供給しています。
素材が製品になるまでの4つの工程|原糸開発からブランド供給まで
スポーツ用の機能性素材は、原糸の開発からブランドの店頭に並ぶまでに複数の工程を経ています。この工程を分解すると、素材メーカーがどこで付加価値を生み出しているかが見えてきます。
①原糸・繊維の開発|すべての機能性はここから生まれる
スポーツ用素材の出発点は、ポリエステルやポリウレタン(スパンデックス)といった高分子素材の設計です。この段階での分子構造の工夫が、後工程で加えられる機能性の土台になります。たとえば旭化成の「ロイカ」は、ポリマーサイエンスをベースにした伸縮性繊維で、糸そのものの設計段階から高いストレッチ性と回復性を作り込んでいます。
②機能加工|吸湿速乾・接触冷感・UVカットを糸や生地に付与する
原糸ができた後は、汗を素早く発散させる吸湿速乾加工や、触れたときにひんやり感じる接触冷感加工、紫外線をカットするUVカット加工など、用途に応じた機能を追加していきます。ランニングウェアには通気性、ゴルフウェアにはUVカット、といったように競技特性に応じて加工の組み合わせが変わります。
③生地化とOEM縫製|糸から製品の形に仕立てる
機能加工を終えた糸は、織物や編み物として生地になり、縫製工場でウェアや用具の形に仕立てられます。この段階をOEM(相手先ブランドによる生産)として一括で請け負う企業も多く、ブランド側は企画・デザインに専念し、製造は素材メーカー・OEM企業に委ねるという分業体制が一般的です。
④ブランドとの共同開発・供給契約|継続的な取引関係を築く
素材メーカーは単発の売り切りではなく、スポーツブランドと共同でウェアの機能を開発したり、シーズンごとに継続して素材を供給する契約を結ぶことが多いのが特徴です。ブランド側にとっては差別化技術の獲得、素材メーカー側にとっては安定した販路の確保という、双方にメリットのある関係が築かれています。
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スポーツ機能性素材で存在感を放つ3社|東レ・帝人フロンティア・旭化成
数ある素材メーカーの中でも、スポーツ分野で特に存在感が大きいのが東レ・帝人フロンティア・旭化成の3社です。いずれも公式サイトで事業内容を確認できる大手素材メーカーで、それぞれ異なる強みを持っています。
| 企業名 | 主なスポーツ関連事業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 東レ | 高機能テキスタイル・炭素繊維 | 4つのコア技術を持つ総合素材メーカー。ユニクロ「エアリズム」等の共同開発実績 |
| 帝人フロンティア | 衣料用繊維・産業資材の販売・輸出入 | 帝人グループの繊維・製品事業を担う専門商社型企業。国内外に幅広い拠点網 |
| 旭化成(ロイカ) | プレミアムストレッチファイバーの開発・製造 | ポリマーサイエンスに基づく伸縮性繊維に特化。日本・台湾・中国など5拠点で生産 |
各社公式サイトの公開情報をもとにHuman Soarが作成(2026年8月時点)
東レ|4つのコア技術から生まれる高機能テキスタイル
東レは1926年にレーヨン糸の生産会社として創業し、「有機合成化学」「高分子化学」「バイオテクノロジー」「ナノテクノロジー」という4つのコア技術を軸に、繊維・フィルム・炭素繊維複合材料など幅広い先端材料を手がけています。炭素繊維の世界シェアはNo.1で、国内で三大合成繊維(ナイロン・ポリエステル・アクリル)をすべて生産できる唯一のメーカーでもあります。
スポーツ分野では、ランニングやヨガ、水泳、ゴルフ、サイクリングといった「ライフスタイルスポーツ」向けに、ストレッチ性に優れた「Primeflex」や超軽量な「Airtastic」などの機能性テキスタイルを展開しています。ユニクロの「ヒートテック」「エアリズム」の共同開発実績があるように、ブランドと組んで新素材を世に出すコラボレーション型の開発が強みです。
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帝人フロンティア|衣料繊維から産業資材まで手がける総合機能素材商社
帝人フロンティアは2012年、NI帝人商事と帝人ファイバーのアパレル事業が統合して発足した企業です。資本金20億円、従業員852名(2026年3月31日現在、単体)で、大阪市北区に本社を置き、東京・名古屋など国内拠点に加え、ニューヨークや上海、バンコクなど世界20都市以上に海外拠点を持っています。
事業内容は衣料製品や繊維原料の販売から、産業資材・車輌資材・人工皮革まで多岐にわたり、ポリエステル繊維「テトロン」やアラミド繊維「テクノーラ」といった素材をスポーツ用品や自動車内装材など幅広い分野に供給しています。単に素材を作るだけでなく、商社機能を持って国内外の取引を仲介している点が、製造に特化した東レとの違いです。
旭化成(ロイカ)|プレミアムストレッチファイバーでフィット感を追求
旭化成が展開する「ロイカ」は、ポリマーサイエンスをベースにした伸縮性繊維(スパンデックス)のブランドです。しなやかな伸びと回復性に優れ、インナーウェアやレッグウェアに加え、スポーツウェアの伸縮素材として広く使われています。日本・台湾・中国・タイ・ドイツの5拠点で製造・販売する体制を持ち、リサイクル素材を使った「ロイカ EF」など、サステナビリティを軸にした製品開発も進めています。
東レや帝人フロンティアが繊維全般を幅広く手がけるのに対し、旭化成はストレッチ性という機能に特化して深掘りしている点が特徴です。動きの多いスポーツウェアでは、生地の伸縮性・回復性が着心地を大きく左右するため、ロイカのような専門素材の存在感は大きくなっています。
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(参考)ロイカ® プレミアムストレッチファイバー – 旭化成株式会社
Q. 東レと帝人フロンティアの違いは何ですか?
東レは自社で高機能繊維や炭素繊維を研究・製造するメーカーであるのに対し、帝人フロンティアは帝人グループの繊維原料や製品を国内外で販売・輸出入する商社型の企業です。素材の「作り手」と「流通の担い手」という役割の違いがあります。
Q. 旭化成のロイカはどんな用途に使われていますか?
インナーウェアやレッグウェア、衛生材料に加え、スポーツウェアの伸縮素材として使われています。伸びと回復性の高さから、動きの多い競技用ウェアの着心地を左右する素材として採用されています。
国内スポーツ用品市場は1兆7,000億円規模|素材需要を支える成長の背景
素材メーカーの活動を理解するには、その先にあるスポーツ用品市場全体の規模感を押さえておく必要があります。矢野経済研究所の調査によれば、2025年の国内スポーツ用品市場規模(国内出荷金額ベース)は前年比104.2%の1兆7,442億4,000万円と予測されています。2024年実績は前年比101.3%の1兆6,734億6,000万円で、市場は緩やかな拡大基調にあります。
この市場規模の裏側には、ウェアやシューズといった完成品だけでなく、その素材を供給する東レ・帝人フロンティア・旭化成のような企業の存在があります。完成品市場が拡大すればするほど、機能性素材への需要も連動して伸びる構造になっているため、素材メーカーの動向はスポーツ用品業界全体の先行指標としても注目に値します。
(参考)2025年版 スポーツ産業白書 – 株式会社矢野経済研究所
Q. スポーツ用品市場の中で素材メーカーの規模はどのくらいですか?
素材メーカー単体の市場規模を切り出した公的な統計は現時点では確認できていません。ただし国内スポーツ用品市場が2025年に1兆7,442億円規模と予測されており、この完成品市場の拡大に連動して素材需要も伸びる構造になっています。
素材メーカーとブランドの関係性|OEM供給と共同開発は何が違うか
素材メーカーとスポーツブランドの取引には、大きく分けて「OEM供給」と「共同開発」という2つの関係性があります。どちらの形を取るかによって、ブランド側が得られるものと、素材メーカー側が担う役割が変わってきます。
OEM供給|素材から製品まで一括で任せる方式
OEM供給は、ブランドが企画・デザインを行い、素材の選定から縫製までの製造工程を素材メーカーやOEM企業に一括で委託する方式です。ブランド側は製造設備を持たずに商品を展開できるため、企画・マーケティングに経営資源を集中できます。ウェアラブルデバイスのようにハードウェア開発が絡む商品でも、OEMを活用して量産体制を確保するケースが増えています。
共同開発|ブランドと素材メーカーが機能を共創する方式
共同開発は、ブランドと素材メーカーが企画段階から協力し、新しい機能性素材そのものを一緒に作り上げる方式です。東レとユニクロの「エアリズム」のように、ブランド独自の差別化技術として市場に打ち出されることが多く、素材メーカー側にとっては大口の長期契約につながりやすいというメリットがあります。近年はスポーツグッズのEC販売やファン向けグッズ展開でも、素材の機能性がブランド価値の一部として訴求されるようになっています。
Q. スポーツブランドと素材メーカーはどう提携しますか?
大きく分けて、製造を一括で委託する「OEM供給」と、企画段階から機能を共同で作り上げる「共同開発」の2つの方式があります。差別化技術を打ち出したいブランドは共同開発を、生産効率を優先したいブランドはOEM供給を選ぶ傾向があります。
企業が素材業界を知ることの意味|調達・提携・採用の視点
素材・OEM・繊維業は消費者から見えにくい業界ですが、企業の視点で見ると調達先や提携先としての価値があります。たとえば健康経営やスポーツ研修を実施する企業がオリジナルウェアを企画する場合、どの素材メーカーがどんな機能を得意としているかを知っておくことで、目的に合った素材選定がしやすくなります。動きやすさを重視するなら旭化成のようなストレッチ素材に強い企業、耐久性や幅広い機能を求めるなら東レのような総合素材メーカー、というように選択肢を持てるようになります。
また、スポーツ栄養・サプリメント業界と同様に、素材業界も「一般消費者には見えにくいが、パフォーマンスや快適性を支える基盤産業」という位置づけです。スポーツビジネス全体を俯瞰する際には、ブランドや興行だけでなく、こうした川上の企業群まで視野に入れることで、業界構造への理解がより立体的になります。
まとめ|3社の強みを踏まえた素材選定・協業のポイント
- 「素材・OEM・繊維」業は、スポーツウェアの機能性を川上で支える企業群で、東レ・帝人フロンティア・旭化成が代表的な存在
- 素材は「原糸開発→機能加工→生地化・OEM縫製→ブランド供給」という4つの工程を経て製品になる
- 東レは総合素材メーカーとしての幅広さ、帝人フロンティアは商社機能を持つ供給網、旭化成(ロイカ)はストレッチ性への特化が強み
- ブランドとの関係は「OEM供給」と「共同開発」の2方式があり、目的に応じて使い分けられている
- 国内スポーツ用品市場は2025年に1兆7,442億円規模と予測されており、素材需要も市場拡大に連動して伸びる見通し
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