疲労回復テクノロジー導入企業の実践事例|健康経営の視点

疲労回復テクノロジーを導入し従業員のコンディションを可視化する企業のイメージ スポーツ科学

健康経営の年次報告に「ウェアラブル端末を配布しました」という一文だけが並び、その先の効果が見えない。そんな担当者は少なくない。結論から言うと、疲労回復テクノロジーが成果を出す企業は「計測して終わり」にせず、データを個別フィードバックし、行動変容まで設計している。本記事では実際の企業事例をもとに、導入の型を整理する。

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疲労回復テクノロジー、企業はどう活用しているか

健康経営における疲労回復テクノロジーとは、心電図・睡眠・活動量などのウェアラブルデータを使って、従業員のコンディションを可視化する取り組みを指す。経済産業省は健康経営優良法人の認定制度のなかで睡眠に関する取り組みを評価項目の一つに位置づけており、2026年度調査では睡眠関連の設問が新設されるなど、企業の関心は年々高まっている。

一方で、多くの企業は端末を配布した時点で満足してしまい、そこから先の分析・活用まで手が回っていないのが実情だ。次の章で紹介する企業は、その先まで踏み込んでいる点で参考になる。

Q. 疲労回復テクノロジーとはどのような取り組みですか?

心電図・睡眠・活動量などをウェアラブル端末で計測し、従業員のコンディションを可視化して健康経営に活かす取り組みです。経済産業省の健康経営優良法人認定でも評価項目の一つになっています。

日清食品グループの実践に見る3つのテクノロジー活用

日清食品ホールディングスは2018年に「健康経営宣言」を策定して以降、複数のウェアラブル技術を段階的に導入してきた。それぞれ目的が異なり、単なる端末配布ではなく明確な仮説検証として設計されている点が特徴だ。

技術 目的 分かったこと
Apple Watch(心電図) プレゼンティーイズムの可視化アルゴリズム開発(慶應義塾大学と共同研究) 自律神経活動指標とプレゼンティーイズム値に関連があると実証
マットレス下センサー 睡眠データに基づく専門家の個別フィードバック プログラム終了後、不眠症・うつ・精神疾患リスクの軽減傾向
OuraRing 睡眠改善プログラム(2025年3月開始) 睡眠充足者比率62.8%→64.0%、高ストレス者率13.9%→12.8%(2023→2024年度)

日清食品グループ「健康経営」開示情報(2024年度実績)をもとにHuman Soarが作成

①Apple Watch|研究機関との共同検証で仮説を証明する

日清食品籍の社員約700名にApple Watchを貸与し、毎朝の心電図データと歩数・睡眠時間を6カ月間収集した。慶應義塾大学医学部との共同研究として実施し、自律神経活動の指標とプレゼンティーイズム(心身の不調を抱えたまま働き生産性が落ちている状態)の関連を統計的に実証している。単に端末を配るだけでなく、大学と組んで仮説検証まで行った点が他社との違いだ。

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②マットレス下センサー|生活に負担をかけずに計測する

ウェアラブル端末を身に着けたくない従業員にも対応できるよう、マットレスの下に置くタイプのセンサーで睡眠データを収集するプログラムも実施した。専門家が一人ひとりに課題をフィードバックし、従業員自身が生活習慣を見直す形を取った結果、不眠症・うつ・精神疾患リスクの軽減、高ストレス者数の減少という傾向が見られている。

③OuraRing|指輪型で継続率を高める

2025年3月からは指輪型デバイスのOuraRingを活用した睡眠改善プログラムを新たに開始した。時計型よりも装着の負担が少なく、継続的な計測がしやすいのが特徴だ。同社の2024年度実績では睡眠充足者比率が64.0%、高ストレス者率が12.8%まで改善しており、複数の技術を併用しながら効果を積み上げている。

Q. どのウェアラブル端末を選べばよいですか?

目的で選ぶのが基本です。仮説検証を重視するなら心電図が測れる時計型、装着負担を減らして継続率を高めたいなら指輪型、端末装着自体を避けたい従業員がいるならマットレス下センサーのように非接触型を組み合わせると、対象者を広げやすくなります。

導入企業に共通する3ステップ|可視化から行動変容まで

複数のテクノロジーを使い分けている企業に共通するのは、「可視化」で終わらせず「個別フィードバック」を挟み、最終的に「行動変容」につなげる3段階の設計だ。この順番を飛ばすと、データを集めただけで効果測定ができない状態に陥りやすい。

1可視化:ウェアラブル端末やセンサーで心電図・睡眠・活動量のデータを継続収集する
2個別フィードバック:専門家や産業医が一人ひとりのデータを解釈して本人に伝える
3行動変容:本人が生活習慣を見直し、その効果を再計測して検証する

①可視化|まず何を測るかを決める

心電図・睡眠・活動量のどれを測るかによって、必要な端末も、集められるデータの粒度も変わる。プレゼンティーイズムのような主観指標を補強したいのか、睡眠の質そのものを改善したいのかで、最初に測る対象を絞り込む必要がある。

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②個別フィードバック|数字を渡すだけでは変わらない

日清食品グループの睡眠改善プログラムでは、専門家が従業員一人ひとりに課題をフィードバックする工程を挟んでいる。データをダッシュボードで見せるだけでは行動は変わりにくく、産業医や保健師など専門知識を持つ人が解釈を添えることで初めて納得感のある改善提案になる。

③行動変容|再計測して効果を確認する

プログラム実施前後でデータを比較し、改善傾向を確認する工程まで設計しておくと、翌年度の予算確保や施策継続の説得材料になる。日清食品グループが睡眠充足者比率やプレゼンティーイズム値といった指標を経年で開示しているのはこのためだ。

Q. 導入効果はどのくらいの期間で見えますか?

数週間の計測だけでは傾向をつかみにくく、公開されている事例では4〜6カ月単位でデータを収集し、前後比較しています。単発の計測イベントではなく、半年程度を目安に継続する設計にすると効果を検証しやすくなります。

睡眠データが示す効果と、行き過ぎた活用への注意点

厚生労働省は「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のなかで、成人の睡眠時間は6時間以上を目安に確保することや、睡眠で休養が取れている感覚(睡眠休養感)の向上を重視する方針を示している。企業が睡眠データを取得する際も、単純な睡眠時間だけでなく、この「休養感」を指標に含めると、より実態に近い評価ができる。

一方で、データ計測にこだわりすぎると逆効果になる場合もある。睡眠トラッカーの数値を気にしすぎるあまり、かえって不眠が悪化する「オルソソムニア」という現象も報告されており、導入時には計測を目的化させない配慮が欠かせない。

睡眠トラッカーが招く不眠と健康経営の注意点についても、あわせて確認しておきたい。

(参考)健康経営関連資料・データ – 経済産業省

自社導入の進め方|対象範囲の決め方

疲労回復テクノロジーの導入は、いきなり全社展開する必要はない。対象範囲を絞り、専門家によるフィードバック体制を先に用意してから広げるのが失敗しにくい進め方だ。

大企業|産業保健体制と連動させる

産業医・保健師が常駐している場合は、ウェアラブルで得たデータを面談や保健指導に組み込みやすい。日清食品グループのように、大学など外部の研究機関と連携すれば、社内だけでは検証しづらい仮説にも踏み込める。

中小企業|まずは希望者限定のトライアルから

産業医が非常勤の企業では、全社一斉導入よりも、希望者を募った小規模トライアルから始める方が運用しやすい。外部の健康経営支援サービスと連携し、データ解釈の部分だけを専門家に委託する形も現実的な選択肢になる。

Q. 中小企業でも疲労回復テクノロジーを導入できますか?

できます。全社員への一斉導入ではなく、希望者を募った小規模トライアルから始め、データ解釈の部分は外部の健康経営支援サービスに委託する形であれば、専任の産業保健スタッフがいなくても運用できます。

Q. 従業員のプライバシーへの配慮はどうすればよいですか?

個人が特定できない形での集計・分析を基本とし、個別フィードバックが必要な場合も産業医・保健師など守秘義務のある専門職が担当する体制にすることが望ましいです。データ取得の目的と利用範囲を事前に従業員へ説明し、任意参加とする企業が一般的です。

まとめ

  • 疲労回復テクノロジーは「可視化→個別フィードバック→行動変容」の3段階で設計すると効果が出やすい
  • 日清食品グループはApple Watch・マットレス下センサー・OuraRingを目的別に使い分けている
  • 厚労省の睡眠ガイド2023は「睡眠時間」だけでなく「睡眠休養感」も重視している
  • 計測にこだわりすぎるとオルソソムニアのような逆効果を招くこともある
  • 中小企業は希望者限定のトライアルから始め、データ解釈を外部専門家に委託するのが現実的

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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