計画が形骸化する原因は、3年分の目標を同じ強度で追い続ける設計にあります。スポーツの期分け(ピリオダイゼーション)を借りて、期ごとに目的を切り替える運用へ変えれば、中期経営計画は止まりにくくなります。
期末の会議で、第2年度の進捗表が画面に映ります。数字は計画比で少しずつ下振れしているのに、誰も理由を口にしません。3年前に置いた前提が、いまの市場とずれていることを、全員が薄々感じているからです。
タナベコンサルティングが2023年9月4日〜22日に、全国の経営者・役員・経営企画担当者468人へ行った調査では、中期経営計画(3〜5年)を策定している企業は81.2%でした。ところが推進上の課題には、「目標数値は掲げているが具体的な戦略が不足している」が54.5%、「計画・ビジョンは策定済みだが推進できていない」が34.8%、「定期的な見直しの仕組みがない」が27.1%と並びます。
中小企業庁の2025年版中小企業白書でも、経営計画を策定している事業者は約5割で、計画期間は3年以内が過半数、5年超は1割程度です。策定しない理由では「時間的余裕がない」に次いで「事業環境変化が激しく、先が見通せない」が挙がり、運用面では計画の進捗管理や見直しに「取り組んでいる」割合が、達成に向けた行動より比較的低いと整理されています。
ここで参考になるのがスポーツです。アスリートは1年中同じ強度で練習せず、年間計画を「期」に分け、目標とする試合から逆算して量と強度を変えます。本記事では、この考え方を中期経営計画の運用へ移す「期分け年度設計」を、提案書の形でご紹介します。
(参考)2023年度 長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査 – 株式会社タナベコンサルティング
(参考)2025年版 中小企業白書 第2部第1章第1節 経営戦略 – 中小企業庁
- プランの概要|期分け年度設計で中期経営計画を四半期ごとの運用に変える
- 課題解決の流れ|3年先の数字を追い続けて計画が止まる構造から期ごとの運用へ
- 期分けが計画の形骸化を防ぐ3つの理由|ピリオダイゼーションの設計思想
- プランの具体的な内容|仕込み期・勝負期・切り替え期の3期で年度を設計する
- 導入ロードマップ|0〜3か月で期の地図を描いて12か月で年度運用に定着させる
- 効果・KPI・リスク|計画の進み具合を期ごとの先行指標で確かめる
- 料金モデルという選択肢|期の切り替えごとに伴走するサブスク・月額提携型
- 対象となる組織・読者|期分けがすぐ効く3つの組織像
- まとめ|期を分ければ計画は止まらない|まず次の四半期を仕込み期にする
プランの概要|期分け年度設計で中期経営計画を四半期ごとの運用に変える

このプランは、3年の中期経営計画を残したまま、年度を「仕込み期」「勝負期」「切り替え期」の3つの期に分けて運用する仕組みです。スポーツビジネス全体の構造はスポーツビジネスの全体像で整理していますが、本プランはその中でも、年間計画を期で分けるトレーニング科学に絞っています。
- 対象:従業員50〜300名規模で、中期経営計画はあるものの四半期の動きと結びついていない経営者・経営企画の担当者
- 課題:3年先の数字だけが先行し、見直しの仕組みがないまま、計画が会議資料として固定されている
- 導入期間(目安):試行まで3か月、全社の年度運用への定着まで12か月
ポイントは、計画の数字を書き換えるのではなく、期ごとに「いま何を優先し、何を後回しにするか」を決め直すことです。計画の大枠を守りながら、運用だけを柔らかくします。
課題解決の流れ|3年先の数字を追い続けて計画が止まる構造から期ごとの運用へ
このセクションでは、計画が止まる原因を、現状の課題・問題の要因・解決策の順に整理します。
現状の課題|数字だけが先行して推進も見直しも止まっている
現場で起きている課題は、次の3点に集約されます。
- 【戦略のない数字目標】目標数値は掲げているのに具体的な戦略が足りない企業が54.5%に上り、数字が現場の行動に落ちていません。
- 【推進の停止】計画を策定済みなのに推進できていない企業が34.8%あり、会議が進捗の確認だけで終わっています。
- 【見直しの仕組みの不在】定期的な見直しの仕組みがない企業が27.1%で、前提が古くなっても計画を更新する場がありません。
問題の要因|3年を同じ強度で走り切る前提が環境変化と合わなくなっている
課題の根っこには、次の3つの構造があります。
- 【同じ強度という前提】3年間を一本の線で追うため、攻める時期と立て直す時期の区別がなく、現場は常に全力を求められます。
- 【先が見通せない環境】中小企業白書が示すとおり、事業環境の変化が激しく、3年先の数字の確度は年々下がっています。
- 【振り返りの時間の欠落】進捗管理や計画見直しの実施割合が行動より低いのは、振り返りが業務として計画に組み込まれていないためです。
解決策|年度を期に分けて期ごとに目的と指標を切り替える
スポーツの年間計画にならい、次の3点を順に進めます。
- 【期に分ける】年度を仕込み期・勝負期・切り替え期に分け、期ごとに目的を1つだけ置きます。
- 【勝負の期を先に決める】年度のなかで最も成果を取りに行く四半期を先に決め、そこから逆算して他の期の役割を決めます。
- 【切り替えを会議にする】期の終わりに、振り返りと次の期の目標の書き換えを行う会議を定例にします。
期分けが計画の形骸化を防ぐ3つの理由|ピリオダイゼーションの設計思想
期分けは、計画を細かく管理するための仕組みではなく、計画を動かし続けるための仕組みです。3つの理由で見ていきます。
目的を期ごとに変える|同じ強度で走り続けない設計
日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナー専門科目検定試験(令和6年度)の理論試験は、ピリオダイゼーションを、トレーニング計画を目的別に期分けして量などを変えること、そしてマクロ・メゾ・ミクロの3つのサイクルに分けて考えることとして出題しています。期の区分としては、試合期・移行期・鍛錬期(準備期)が挙げられています。
経営に置き換えると、鍛錬期は新しい打ち手を試す時期、試合期は成果を取りに行く時期、移行期は振り返って立て直す時期です。全期間で売上を追うと、試す時間も振り返る時間も生まれず、計画は更新されないまま固定されます。
(参考)令和6年度 公認アスレティックトレーナー専門科目検定試験 理論試験(基礎) – 公益財団法人日本スポーツ協会
勝負の期から逆算する|年度の全部を均等に頑張らない
アスリートは、目標とする試合の日から逆算して、練習の山と谷を決めます。経営でも、年度のなかで最も成果を取りに行く四半期を先に決めると、その前の期は仕込みに、後の期は回収と見直しに役割が定まります。
勝負の期を決めると、「今期は新規開拓は控え、既存顧客の深耕に集中する」といった捨てる判断もしやすくなります。全部を同じ熱量で追う計画は、結局どれも中途半端になります。何を止めるかの線引きは、先に決めておくほど現場は迷いません。
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提供主体の強み|スポーツの計画運用と経営課題の両方を見ている立場
Human Soarは、スポーツ組織の年間計画やコンディション管理の事例と、企業の経営課題の両方を日常的に調べています。期分けは、スポーツでは当たり前でも、経営の現場には持ち込まれていない考え方です。
計画を3つの期に分けるだけなら誰でもできますが、期ごとに何を捨て、何を指標にするかの設計には、運用の失敗の型を知っていることが効きます。この設計の細部が、運用が続く提案とすぐ止まる提案を分けます。
Q. 中期経営計画が形骸化する主な原因は何ですか
数字の目標だけが先行し、具体的な戦略と見直しの仕組みが伴っていないことが主な原因です。タナベコンサルティングの2023年度調査(有効回答468件)では、戦略不足が54.5%、見直しの仕組みがないが27.1%でした。
プランの具体的な内容|仕込み期・勝負期・切り替え期の3期で年度を設計する

年度は四半期(メゾサイクル)を基本の単位にします。3年の大枠(マクロ)の方向と、月次の点検(ミクロ)を、四半期ごとの期でつなぐ設計です。3つの期ごとに、目的・指標・やらないことを決めます。
仕込み期(準備期)|結果より試行の数を指標にする
仕込み期の目的は、次の勝負期に使う打ち手を試すことです。売上の達成率ではなく、試した施策の数や顧客から得た反応の件数を指標に置きます。この期に売上を厳しく問うと、現場は確実な既存施策へ逃げ、試行が止まります。
若手や新しい担当者に試行の場を割り振る設計は、AI導入で若手が育たない課題に向けた出場機会の設計とも相性がよく、仕込み期を育成の期間として使えます。
勝負期(試合期)|新しい施策を止めて勝ち筋に集中する
勝負期の目的は、仕込み期に確かめた勝ち筋へ資源を集中することです。この期は新しい施策の追加を原則止め、売上や粗利といった結果指標を厳しく見ます。やらないことを先に決めておくので、会議が増える割に動きが増えない、という状態を避けられます。
切り替え期(移行期)|振り返りを会議にして次の期の目標を書き換える
切り替え期の目的は、直前の期の結果を振り返り、次の期の目標を書き換えることです。アスリートが移行期に疲労を抜いて次の周期へ備えるように、組織も立ち止まる時間を計画に入れます。管理職の回復を計画に含める発想は、管理職バーンアウト予防のアスリート式回復設計でも扱っています。
この会議では、数字の差異の説明よりも、前提が変わったかどうかの確認を先に行います。前提が変わっていれば、計画の数字ではなく次の期の優先順位を書き換えます。
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Q. 中期経営計画は何年で作るのが適切ですか
年数に正解はなく、2025年版中小企業白書では計画期間が3年以内の事業者が過半数を占め、5年超は1割程度です。期分け年度設計では、3年の大枠は残したまま、四半期ごとに期の目的を決め直して運用します。
導入ロードマップ|0〜3か月で期の地図を描いて12か月で年度運用に定着させる
期分けは、全社へ一気に広げるほど「また新しい管理手法か」と受け取られて止まります。1部門・1四半期から始め、3つのフェーズで広げます。
0〜3ヶ月|1部門・1四半期で期の地図を描いて試す
最初の四半期は、1つの部門で3つの期の目的と指標を描き、試行します。検証するのは、現場が自部門の期を説明できるかと、仕込み期の試行件数です。標準化するのは、期ごとの目的・指標・やらないことを1枚に書く「期の地図」の様式で、収益化は行わず設計費のみとします。
3〜6ヶ月|全社の四半期へ広げて切り替え会議を定例にする
1部門で手応えが出たら、全社の四半期へ広げ、切り替え会議を定例にします。検証するのは、会議が毎期実施されているかと、目標が実際に書き換わっているかです。標準化するのは会議の進め方と資料の様式で、この段階から四半期ごとの伴走を月額で始める準備に入ります。
6〜12ヶ月|年度計画に期分けを組み込んで伴走を月額へ移す
全社で2回転ほどしたら、期分けを翌年度の計画づくりそのものに組み込みます。検証するのは、勝負期の重点指標の改善と、計画見直しにかかる日数です。標準化するのは、年度初めに期の地図を描き直す手順で、収益化は四半期ごとの伴走を月額契約に移すことです。
Q. 計画の見直しはどのくらいの頻度で行えばよいですか
四半期ごとの見直しが現実的です。月次は点検にとどめ、四半期の切り替え期に目標や優先順位を書き換えると、見直しが業務として定着しやすくなります。
効果・KPI・リスク|計画の進み具合を期ごとの先行指標で確かめる
期分けの効果は、導入した瞬間ではなく、切り替え会議が回り始めてから出ます。そのため、結果指標より先に動く「先行指標」を、時期ごとに見ます。
| 時期 | 見る指標 | 目安(仮説) |
|---|---|---|
| 0〜3ヶ月 | 期の地図の完成度、仕込み期の試行件数 | 試行部門の全員が自部門の期を説明でき、試行件数が前四半期を上回る |
| 3〜6ヶ月 | 切り替え会議の実施率、目標の書き換え件数 | 会議が毎期実施され、毎回1件以上の目標・優先順位が書き換わる |
| 6〜12ヶ月 | 勝負期の重点指標の達成率、計画見直しの所要日数 | 重点指標が導入前より改善傾向で、見直しが2週間以内に終わる |
出典:Human Soarによる設計上の仮説であり、実績値ではありません。
ここに書いた目安は、自社のベースライン把握が前提です。導入前に、直近の計画見直しにかかった日数や、四半期ごとの施策の件数を測っておかないと、期分けの効果なのか季節要因なのか区別できません。なかでも「目標の書き換え件数」は、数字の達成度より先に、計画が生きているかを示す最も正直な指標になります。
期待できる効果|計画の更新が止まらず現場の動きが期ごとにそろう
効果は3つの経路で、時間差をもって現れます。
- 経営の経路:前提の変化を四半期ごとに確認できるため、計画と実態のずれが大きくなる前に直せます。
- 現場の経路:期ごとの目的とやらないことが明確になり、全員が同じ優先順位で動けます。
- 対外の経路:金融機関や親会社に、計画の進捗だけでなく「いま何の期で、次に何を変えるか」を説明でき、計画への信頼が高まります。
リスクと対応策|細かく刻みすぎる・数字を置き去りにする・形だけで終わる
想定されるリスクは次の3つで、いずれも運用の設計で先に手当てできます。
- 【期を細かく刻みすぎる】期が短すぎると切り替えの負担が成果を上回るため、四半期を基本単位に固定し、月次は点検にとどめます。
- 【数字を置き去りにする】期の目的を優先するあまり、3年の数字を見失わないよう、切り替え会議で必ず中期経営計画の進捗を1枚で確認します。
- 【形だけで終わる】会議が報告会になると効果が出ないため、毎回、書き換える目標を最低1件決めることを会議の終了条件にします。
続行・撤退の判断基準|2期たっても見直しが動かなければ設計を見直す
2つの期を回しても、目標の書き換えが1件も起きない、または見直しに1か月以上かかる状態が続く場合は、期の長さや会議の参加者を見直します。それでも4期たって重点指標が改善しないなら、期分けは自社に合わないと判断し、従来の年度計画へ戻します。撤退の条件を先に決めておくことは、導入に踏み出しやすくするための安全装置です。
料金モデルという選択肢|期の切り替えごとに伴走するサブスク・月額提携型

期分けの価値は計画書を納めた瞬間ではなく、期が切り替わるたびに計画が更新されて初めて出ます。そのため、初期の設計費と四半期ごとの伴走を月額で組み合わせる、サブスク・月額提携型を提案します。
買い切り型の限界|計画書の納品時点が価値のピークになる
計画書を納めて終わる買い切り型は、納品の時点が満足の頂点になります。その後の期の切り替えで運用が止まっても、提供側には関与する理由がなく、導入側も「作ったのに動かない」まま費用だけが残ります。
新モデルの仕組み|初期の期分け設計費と四半期ごとの月額伴走
最初に期の地図づくりを設計費として行い、その後は四半期ごとの切り替え会議への同席と資料の見直しを月額で提供します。導入側は運用が回る間だけ費用を払えばよく、提供側は運用が続くほど関与の価値を示せるため、双方の利害が揃います。
導入時の注意点|月額の範囲と卒業の条件を最初に決める
このモデルは、伴走の範囲があいまいだと費用だけが続く印象になります。会議の同席回数と成果物を契約に書き、自社だけで切り替え会議を回せるようになった時点で伴走を終える「卒業の条件」も先に決めてください。まず1部門の試行を設計費のみで行う段階的な移行が、現実的です。
対象となる組織・読者|期分けがすぐ効く3つの組織像
期分けは、計画はあるのに運用が止まっている組織ほど、効果が見えやすくなります。次の3タイプが典型です。
3年計画はあるが四半期の動きと結びついていない成長企業
従業員50〜300名規模で、中期経営計画を掲げたものの、四半期の施策や予算とは別々に動いている企業です。期分けで3年の大枠と四半期の運用をつなぐと、計画が現場の言葉に降りてきます。評価の物差しを整える場合は、スポーツ審判式の人事評価の考え方も合わせて使えます。
新規事業と既存事業を並行して回す事業責任者
既存事業で稼ぎながら新規事業を育てる責任者は、攻める時期と守る時期が混ざりがちです。期分けで新規事業は仕込み期に、既存事業は勝負期に資源を寄せると、判断の迷いが減ります。
金融機関や親会社へ計画の進捗を説明する経営企画
計画の進捗を定期的に説明する立場では、数字の差異の釈明に時間を取られがちです。期ごとの目的と指標があると、「今期は仕込みの期なので試行件数を見ています」と文脈をそろえて説明できます。
まとめ|期を分ければ計画は止まらない|まず次の四半期を仕込み期にする
この記事のポイントを振り返ります。
- 中期経営計画の策定率は81.2%でも、戦略不足が54.5%、見直しの仕組みなしが27.1%と、運用段階で止まる企業が多くなっています。
- ピリオダイゼーションは、計画を目的別に期分けして量や強度を変える考え方で、計画を動かし続ける設計に移せます。
- 年度は四半期を基本に、仕込み期・勝負期・切り替え期の3期で運用し、期ごとに目的と指標とやらないことを決めます。
- 1部門・1四半期の試行から12か月で年度計画に組み込み、設計費と四半期伴走の月額型で費用を設計します。
- 2期たっても目標の書き換えが起きなければ設計を見直す、という撤退の基準を最初に決めておきます。
「計画はあるのに、会議で誰も数字の理由を話さない」と感じた時点が、期分けを相談するタイミングです。
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